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取材記事Interview

朝日レジデンシャル 熊谷剛社長|人口減少に向き合う経験を、地域の強みに。秋田発のプロパティマネジメントとまちづくり

不動産業界の変化と将来性について、業界全体を幅広い視点で捉え、明確な方向性を持って業界を牽引するトップリーダーたちが、今後の不動産業界の進路を語る特別企画「リーダーインタビュー」。

今回お話を伺ったのは、秋田県を拠点に賃貸管理を手がける朝日レジデンシャル株式会社の代表取締役社長であり、朝日綜合株式会社 専務取締役も務める熊谷剛氏です。医療職である作業療法士としてキャリアをスタートし、東日本大震災での支援活動をきっかけに、自身の仕事や地域との関わり方を見つめ直し、不動産業を通じたまちづくりに携わる道を選びました。人口減少が進む秋田県を「課題先進地」としてだけではなく、「全国に先駆けて未来の管理モデルをつくれる地域」と捉える熊谷氏に、医療と不動産に共通する視点、グループ経営の強み、オーナー様との関係づくり、そして秋田の未来について伺いました。

目次

    医療から不動産へ。人と地域に向き合う仕事の原点

    まずはこれまでのご経歴と、不動産業界に入られた経緯を教えてください。

    ▲朝日レジデンシャル株式会社 代表取締役社長/朝日綜合株式会社 専務取締役 熊谷 剛 氏

    もともとは医療業界に進み、作業療法士として働いていました。私自身、幼い頃から入退院を繰り返していたこともあり、医療は身近な存在でした。理学療法と作業療法のうち、私は人の心理や精神面に関心があり、「なぜ人は笑ったり、苦しんだりするのか」ということに興味を持って、作業療法士の道を選びました。

    不動産業界へ転じた大きなきっかけは、2011年の東日本大震災です。当時は病院に勤務していましたが、岩手県釜石市での支援活動に参加する機会がありました。そこで目にした光景は、今でも忘れられません。自分は何のために働くのか、自分の仕事は誰の役に立っているのかを深く考えさせられました。

    ちょうど同じ時期に、家業では宮城県多賀城市にリフォームや修繕、クリーニングを行う会社を立ち上げ、復興支援に携わる動きがありました。当時の代表は、赤字になっても復興支援に取り組む考えで、秋田で得た利益を被災された方々のために役立てようと考えていました。不動産業を通じてまちづくりに関われることは、自分に与えられたチャンスでもあると考え、転職を決意しました。

    医療と不動産には、どのような共通点があると感じていますか。

    不動産業界に入ったばかりの頃、ある経営者の方から「医療と不動産は似ているから、よく見ておいた方がいい」と言われたことがあり、その言葉は今でも大切にしています。

    具体的に言うと、建物管理は体のメンテナンスに近いんです。人の体も、生活習慣や健康診断を軽視していると、自覚症状が出た時には重い病気になっていることがあります。建物も同じで、日々の点検や小さな修繕を怠ると、気づいた時には大規模修繕が必要になり、大きな費用がかかってしまいます。

    大規模修繕は、医療で言えば手術のようなものです。本来はその前に、日々の巡回やインスペクションを通じて、早めに手を打つことが大事です。オーナー様の資産価値を維持し、高めていくためには、建物の状態をきちんと見て、予防的に対応していく視点が欠かせません。

    グループでPMを実践する。多角経営が生む地域への対応力

    朝日レジデンシャルで大切にしている役割を教えてください。

    朝日レジデンシャルは、オーナー様向けのプロパティマネジメントを担う会社です。私自身が大事にしているのは、日々の業務が本当にオーナー様のお役に立っているのかどうかです。

    当社グループでは以前から、「全社でPMを行う」という考え方を大切にしています。これは、朝日レジデンシャルだけで完結する話ではありません。賃貸仲介、売買仲介、修繕、クリーニング、まちづくりに関わる事業まで、グループ全体でオーナー様の資産を支えていくという考え方です。

    PMは、オーナー様の代行者に近い立場だと思っています。資産を維持し、価値を高めていくために必要な情報や修繕を、きちんと提案できているのか。目の前の売上だけを追うのではなく、「それは本当にオーナー様の役に立っているのか」と常に問い続けることが重要だと考えています。

    グループ内で多様な事業を展開する強みは何でしょうか。

    朝日綜合グループには、賃貸管理を担う朝日レジデンシャルのほか、仲介を担う朝日綜合、修繕やクリーニングを行うホームクリニック、さらにまちづくりやホテル事業に関わるアクト・ライズなどがあります。こうした複数の事業があることで、地域やオーナー様の課題に対して、幅広く対応できることが大きな強みです。

    また、多角経営はリスクヘッジにもなります。一つの事業が厳しい時でも、別の事業が支えることで、グループ全体として経営の安定性を高めることにもつながります。地域の中で必要とされる事業を一つずつ形にしてきた結果、現在のような体制になっていると感じています。

    入居率の維持に向けて、どのような取り組みをされていますか。

    当社の管理物件の入居率は、95〜96%ほどで推移しています。秋田というエリアを考えると、一定の水準を維持できていると言えるのではないでしょうか。

    一つの要因として、「楽賃サポート」という独自の商品があります。管理物件であれば利用できる仕組みで、敷金・礼金を0円とするほか、保証料の割引や24時間駆けつけサービスなどを提供しています。入居時の費用負担を抑えるとともに、入居中の安心にもつなげることで、物件を選んでいただきやすい環境を整えています。

    もう一つ大きいのは、修繕やクリーニング、巡回、入居者対応を自社グループ内で行っていることです。24時間対応も含めて、建物の状態を把握し、必要な対応を早めに行えることは、入居率維持にもつながります。単に募集条件を整えるだけではなく、建物そのものの価値を守り続けることが重要です。

    デジタル化が進むほど、現場の情報価値が高まる

    DXや非来店契約の広がりを、どのように見ていますか。

    賃貸仲介では、非来店で申し込みや契約をされるお客様が増えています。当社でも、仲介部門では3割ほどが非来店での契約です。内見をせずに申し込み、鍵渡しの日に初めて来店されるというケースも増えてきています。この流れは、今後さらに広がっていくでしょうね。

    一方で、デジタル化すればするほど、現場の情報や現場の知識が差別化になると感じています。ウェブ上に載っている情報だけであれば、どうしても説明が似通ってしまいます。物件の細かな魅力や、周辺環境の雰囲気、部屋の明るさ、生活圏の細かな情報などは、実際に現場を知っているからこそ伝えられるものがあります。

    医療でも、検査データだけでなく、患者さんの表情や動き、顔色を見ることが大切です。不動産も同じで、エビデンスに基づく情報と、現場でしか分からない感覚の両方が必要ではないでしょうか。DXが進む時代だからこそ、地域に根ざした情報をどれだけ蓄積できるかが問われていると思います。

    オーナー様への情報発信では、どのような取り組みをされていますか。

    オーナー様向けには、紙媒体とデジタルの両方で情報発信を行っています。オーナー様向けの情報誌を発行しており、現在はデジタルでも見られるように切り替えています。相続や信託に関する情報など、地域のオーナー様が実際に抱えている課題や関心の高いテーマを定期的に発信しています。

    また、オーナー会も大切な取り組みです。当社では6市町村にまたがって6つのオーナー会があり、数多くのオーナー様がいらっしゃいます。セミナーを開催する際も、基本的には6会場で実施します。手間はかかりますが、それぞれの地域に根ざした関係づくりを大切にしたいと考えています。

    昔から、オーナー様同士の旅行企画も行っています。行き先は会社が一方的に決めるのではなく、オーナー様方に集まっていただき、飲食をしながら話し合って決めていただきます。昨年は島根、今年は京都、過去には北海道へ行ったこともあるんですよ。オーナー様同士のつながりが生まれることも、地域に根ざして賃貸管理を行う一つの価値だと感じています。

    理念の先に売上がある。地域に根ざす企業としての姿勢

    経営で大切にしている考え方を教えてください。

    私がよく社内で話しているのは、「経営理念で売上はつくれる」ということです。理念を追求することが、最終的には売上につながるはずです。

    現場では、理念と売上は相反するもののように捉えられることがあります。「地域のために」「お客様のために」と言っても、目の前の売上を考えると難しいのではないか、という感覚です。でも私は、そうではなく一直線上にあると思っています。目の前のお客様の役に立つこと、地域のためになることを続けるからこそ、企業価値が高まり、結果として売上にもつながっていくはずです。

    管理料は継続的に入ってくる収入ですが、ただ受け取っていればよいわけではありません。定期的にオーナー様と接点を持ち、資産価値を高めるために予防的な修繕や提案を行うことが本来の役割だと考えています。理念の延長線上に売上があるという考え方は、これからも変えずに大切にしていきたいですね。

    組織づくりでは、今後どのようなことに挑戦したいですか。

    これから挑戦しなければいけないのは、組織力を高めることです。これまでは、代表者の判断やトップダウンで組織が動く部分も大きかったと思います。もちろん、その力で成長してきた面もありますが、今後は社長や幹部の考えを組織が超えていくような状態をつくらなければいけません。

    社長が言ったから、役員が判断したから会社が動くのではなく、みんなで考え、「それは本当に正しいのか」「会社としてどこへ向かうべきなのか」を議論できる組織にしていきたいです。

    そのためには、人材育成も重要です。幹部を超えていくような人材が入ってきて、育っていく組織にしなければなりません。会議一つを取っても、全員が発言できる場をつくり、誰かの意見をすぐに否定しないようにしています。そうした小さなことを積み重ねながら、組織として考える力を高めていきたいと思っています。

    人口減少をマイナスだけに捉えない。秋田の経験と強みを新たな価値へ

    秋田県の不動産市場を、どのように捉えていますか。

    秋田県では人口減少が進み、賃貸市場でも空室が目立つようになっています。お部屋探しをする人が減り、新築物件も以前のようには入居者が決まりにくい状況です。これは秋田だけではなく、今後多くの地方都市が直面する課題だと捉えています。

    ただ、私は「人口が減っている」ことをマイナスだけに捉えていません。人口減少そのものが課題なのではなく、人口が減ることで経済や暮らしのニーズが変わることが課題です。高齢化も同じで、高齢者が増えることが課題なのではなく、その状況にどう対応するかが重要です。

    たとえば高齢者向け賃貸という分野は、今後ますます重要になります。しかし秋田では、高齢の方が賃貸住宅で暮らすことは、以前から当たり前のようにありました。つまり、私たちは他の地域に先んじて、こうした課題に向き合う経験を積んできたとも言えます。そこには、これからほかの地域にも活かせる知的財産があると思っています。

    秋田の強みを活かした構想を教えてください。

    秋田の強みの一つは、教育環境です。教育は地域の大きな強みであり、これを地域の新たな価値につなげていけるのではないかと考えています。

    一方で、秋田には空き家があり、人材不足に悩む中小企業もあります。そこで、たとえば「小学校の6年間、あるいは小中学校の9年間、秋田で暮らしてみませんか」という提案ができるのではないかと考えています。現在の教育環境に悩みを抱えている子どもやご家庭に対して、教育環境の良さと住まい、地域の仕事を組み合わせて提案するなど、そうしたアプローチには可能性があると思います。

    空き家を活用し、企業の雇用や移住支援と結びつけることができれば、地域循環にもつながります。さらに、秋田出身で県外に暮らす方々に投資していただく仕組みをつくれば、経済的なリターンだけでなく、地域や子どもの未来を支える価値も提供できるでしょう。これは秋田だからこそできる挑戦だと思っています。

    不動産業界に必要な変化は何だと感じていますか。

    不動産業界には、まだスタンダードが少ないと感じています。医療の世界では、学会のガイドラインや論文などを通じて、ある程度共通した評価や治療の基準があります。地域や医療機関が異なっても、一定のエビデンスに基づいて治療が進んでいきます。一方で、不動産業界では、賃貸借契約書や管理委託契約書一つを取っても、会社ごとに形式が大きく異なります。

    不動産管理会社が変わる時も、これまでの情報が十分に引き継がれないことがあります。オーナー様自身も、自分の建物や契約の情報をすべて把握できているとは限りません。もし、業界全体で情報を共有しやすい環境が整えば、不動産の適切な維持・管理にもつながり、結果として資産価値の維持・向上にも寄与すると思います。

    本来、不動産会社が力を注ぐべきなのは、確認作業に追われることではなく、入居率の維持・向上や、家賃、設備投資、ファイナンスなども含め、資産価値をどう高めるかを考えることです。そのためにも、業界としての標準化や情報の整備は、これから非常に重要になっていくと思います。

    ▲写真右:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木 明人

    作業療法士として医療の現場に立ち、東日本大震災での支援活動をきっかけに、不動産業を通じたまちづくりへと歩みを進めた熊谷剛社長。その言葉からは、医療現場で培った「予防」や「現場を見る」という視点が、現在の不動産管理にも息づいていることが伝わってきました。建物管理を体のメンテナンスになぞらえ、日々の点検や予防的な修繕を重視する考え方は、同社のプロパティマネジメントにも反映されています。

    とくに印象的だったのは、朝日綜合グループ全体でPMに取り組むという考え方です。賃貸管理、仲介、修繕、クリーニング、ホテル、まちづくり事業など、多様な事業をグループ内に持ち、グループ全体でオーナー様の資産を支える体制を築いています。6市町村にまたがるオーナー会や、オーナー様自身が行き先を決める旅行企画からも、地域に根ざしてオーナー様との関係を築いてきた同社の姿勢がうかがえます。

    熊谷氏は、秋田県の人口減少をマイナスだけには捉えていません。人口減少や高齢化が進む秋田で培った経験を、高齢者向け賃貸や空き家活用、教育環境を活かした移住支援など、新たな地域課題の解決につなげていく。こうした秋田での経験や知見は、今後、同様の課題に直面する地域にも活かせる可能性があります。「理念の延長線上に売上がある」という考えのもと、地域やオーナー様の課題に向き合いながら、新たな可能性を模索する熊谷氏。その取り組みが今後どのように広がっていくのか、注目されます。

    本記事取材のインタビュイー様

    朝日レジデンシャル株式会社
    代表取締役社長
    熊谷剛 様

    1984年生まれ、秋田県出身。大学卒業後、作業療法士として医療現場に携わる。2011年の東日本大震災で岩手県釜石市へ支援に赴いた経験をきっかけに、人の暮らしや地域を支える仕事として不動産業に関心を持つ。2014年に朝日綜合株式会社へ入社し、賃貸管理や賃貸仲介などを経験。2022年に代表取締役専務に就任し、2026年4月より朝日レジデンシャル株式会社代表取締役社長として、オーナーの資産価値向上を支えるプロパティマネジメントに取り組んでいる。

    会社紹介

    朝日レジデンシャル株式会社
    https://asahisogo.com/

    秋田県を拠点に、賃貸管理を中心としたプロパティマネジメントを展開する不動産会社。朝日綜合グループの一員として、賃貸・売買仲介、テナント管理、修繕・クリーニング、まちづくり、ホテル事業など多様な事業と連携しながら、オーナーの資産価値向上を支援している。管理物件の入居率は95〜96%を維持し、独自商品「楽賃サポート」や自社グループによる修繕や24時間対応を強みに、地域に根ざした賃貸管理を実践。6市町村にまたがるオーナー会や情報発信にも力を入れている。

    ■所在地
    〒013-0064
    秋田県横手市赤坂字館ノ下80-1 ベッチモントyokote3階

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