キュービック不動産 池田圭治社長|「増やす経営」から「残る経営」へ――管理戸数拡大だけを追わない組織づくり
不動産業界の変化と将来性について、業界全体を幅広い視点で捉え、明確な方向性を持って業界を牽引するトップリーダーたちが、今後の不動産業界の進路を語る特別企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、北海道旭川市を拠点に賃貸仲介・管理事業を展開する株式会社キュービック不動産の代表取締役・池田圭治氏です。元警察官という異色の経歴を持ち、飲食業での勤務経験を経て不動産業界へ転身。2014年に独立後は、「満室革命」をはじめとする独自のブランディング戦略や、SNSを活用した採用・組織づくりなど、地方不動産会社の新たな在り方に挑戦し続けています。今回は、創業の背景から組織づくりへの想い、そして将来見据えるホールディングス構想まで、幅広くお話を伺いました。
未経験から不動産業界へ――警察官・飲食業経験を経たキャリア転身
まずは不動産業界に入られた経緯と、不動産業界でのキャリアについてお聞かせください。
▲株式会社キュービック不動産 代表取締役 池田 圭治 氏
高校卒業後、最初は警視庁に入庁しました。ただ、当時から強く警察官を志していたわけではなく、進学よりも早く社会に出て働きたいという気持ちがありました。公務員試験をいくつか受験する中で、ご縁があったのが警視庁でした。
その後、2年ほど勤めたタイミングで地元の旭川へ戻りました。当時は体調面の事情もあり、焼肉店や回転寿司店でアルバイトをしながら過ごしていました。結果的には、その時期に接客や現場対応を経験できたことが、今の仕事にもつながっていると感じています。
23歳頃になると、自分の将来を見据えて本格的に就職活動を始めました。その中で意識したのが「衣食住」です。飲食業を経験したからこそ、次は“住”に関わる仕事に携わってみたいと考えたことが、不動産業界に入るきっかけになりました。
未経験から不動産業界に入って、どのように感じましたか?
不動産業界に入ってからは、仕事に大きなやりがいを感じていました。賃貸営業は反響営業が中心で、ニーズのないお客様に無理に売り込む営業ではありません。そのスタイルが自分には合っていたのだと思います。当時は独立することなどまったく考えていませんでしたが、「この仕事を長く続けていきたい」という気持ちは強く持っていました。宅地建物取引士の資格取得を目指したのも、その頃でした。
ただ、当時の自分は今とは全然違いました。正直、「結果を出した人がすごい」という考え方が強くて、とにかく数字を追いかけていたんです。でも、会社を経営するようになってからは、少しずつ考え方が変わりました。今は、社員がどれだけ幸せに働けるかを考えることが、経営者としてとても大切だと思っています。
独立・創業を決意されたきっかけについて教えてください。
最初に勤めた会社で感じたのは、不動産業界にはまだアナログな慣習が多く残っているということでした。当時はまだ紙媒体中心の集客が主流でしたし、時代の変化に対して現場と経営側の感覚にギャップを感じることもありました。
もちろん、自分はまだ若く、周囲からは「独立するにはまだ早い」と言われることも多かったです。そのため二社目に転職し、さらに経験を積みました。ただ、その頃から「こうした方がいい」「こういう会社にしたい」というアイディアが次々と浮かぶようになりました。その思いが強くなるにつれて、自分で挑戦してみたいという気持ちが大きくなり、独立を決めました。
「満室革命」で変える地方不動産経営――管理拡大と独自ブランディング戦略
創業当初、管理事業の立ち上げで苦労されたことはありましたか?

賃貸仲介事業は、比較的順調でした。これまでの経験がそのまま活きましたし、良い物件をしっかり発信すれば反響も得られたので、想定に近い形で進めることができました。ただ、管理事業は思ったほど簡単ではありませんでした。「このオーナー様なら任せていただけるだろう」と考えていた方々からも、期待していたほどご依頼をいただけなかったんです。
今振り返ると、前職時代に築いた実績や信頼を、自分自身の力だけによるものだと考えていた部分もあったのかもしれません。そこから考え方を改め、新たな人脈づくりや新規開拓に力を入れました。結果として、それまで接点のなかったオーナー様とのつながりが増え、それが会社の成長につながったと感じています。
御社ならではの取り組みについて教えてください。
旭川では、以前まで鍵交換を行わない賃貸物件も珍しくありませんでしたが、当社は10年以上前から鍵交換を必須にしています。これは入居者様を守るためでもありますし、結果としてオーナー様を守ることにもつながると考えているからです。今でこそ当たり前になっていますが、当時は地域や会社によって考え方や運用に違いがありました。その中でも入居者様に安心して住んでいただける環境づくりを大切にしてきました。
もう一つ力を入れているのが、「満室革命」というブランドです。初期費用を抑え、月額制で利用できるサブスク型の仕組みですが、これも地域の市場環境やオーナー様の課題に合わせて、新しい選択肢を提供したいという思いから始めました。現在はさらに「バージョン2」の構想も進めています。業界全体が変化していく中で、自分たちも変わり続けなければならない。その意識は今も変わっていません。
管理戸数を追う経営から転換――SNS採用で進めた会社づくり
管理戸数拡大について、考え方が変わったそうですね。

以前はDMやセミナーを積極的に実施し、管理戸数を増やすことに注力していました。しかし、管理戸数が増える一方で、管理解約も増え、新規対応やクレーム対応、退去対応などに追われるようになり、現場への負荷が大きくなっていったんです。
そこで数年前に、「既存オーナー様からのご紹介や買い増し案件を中心に伸ばしていこう」と方針を転換しました。すると、管理戸数の純増は大きく変わらない一方で、解約率が下がり、現場の運営も安定してきたんです。今は“数を追う”こと以上に、“長くお付き合いいただける関係を築く”ことを大切にしています。
採用や組織づくりにつながるSNS活用にも、力を入れていますね。
当初は集客や認知向上も目的の一つでしたが、現在は採用を主な目的として運用しています。求人媒体に何百万円とかけて採用しても、短期間で退職してしまっては意味がありません。それよりも、SNSを通じて会社の雰囲気や価値観を継続的に発信し、共感してくれる人と出会う方が、長期的には会社にとって大きな財産になると考えたんです。
現在は広報専任スタッフが毎日情報を発信しています。「どんな人が働いているのか」「どんな会社なのか」を継続的に伝えることで、少しずつ共感してくれる人が増えてきました。実際、この1年間は離職者がゼロです。以前は職場環境への不満などを理由とした退職もありましたが、最近は結婚や地元へのUターンなど、前向きな理由によるものが中心になっています。会社として、少しずつ良い循環が生まれてきていると感じています。
次世代へ経営をつなぐ――ホールディングス化を見据えた未来像
事業承継や次世代育成を見据えた、今後の展望について教えてください。

これからは、次の世代をどう育てるかが大きなテーマだと考えています。現在の管理職層は長年会社を支えてくれていますし、その次の世代も少しずつ育ってきています。将来的には、仲介部門や管理部門を分社化し、ホールディングス体制へ移行していくことも視野にいれています。それぞれの事業を任せられるような経営人材を育て、主体的に経営できる組織にしていきたいんです。
会社が大きくなるほど、経営者が担う責任も大きくなります。しかし、いつまでも自分一人が引っ張り続ける組織ではなく、次の世代へバトンを渡せる会社にしていきたい。そのためにも今は、将来を見据えた組織づくりの土台を整える時期だと思っています。
まとめ

実務未経験から不動産業界へ飛び込み、警察官、飲食業、不動産営業という異色のキャリアを経て、株式会社キュービック不動産を率いてきた池田圭治社長。地方都市・旭川を拠点としながらも、業界の慣習にとらわれず、「変化し続けること」を大切にした経営を実践してきました。
とくに印象的だったのは、「増やす経営」から「残る経営」へと舵を切った判断です。管理戸数の拡大だけを追うのではなく、社員が長く働ける環境づくりや、既存オーナーとの関係性強化を重視することで、持続的な成長を目指しています。SNSを活用した採用戦略や、「満室革命」に代表される独自の取り組みにも、その考え方が色濃く表れていました。
現在は、ホールディングス化も視野に入れながら、次世代を担う人材育成にも力を注いでいます。「変化できるものが生き残る」という池田社長の言葉の通り、変化を前向きに受け入れながら組織づくりを進める姿勢は多くの不動産会社にとって示唆に富むものではないでしょうか。
なお、池田社長は2026年7月に幻冬舎より『価格競争決別宣言』を出版予定です。同書では、自身の経験や創業からの苦難・葛藤を振り返るとともに、その先でたどり着いた人生理念や経営理念について語られています。本インタビューで語られた組織づくりや経営に対する考え方にも通じる内容として、多くの経営者や不動産業界関係者にとって参考になる一冊となりそうです。
本記事取材のインタビュイー様

株式会社キュービック不動産
代表取締役社長
池田圭治 様
1982年旭川市生まれ。北海道立旭川南高等学校卒業後、警視庁に入庁。警察学校で約10か月にわたり厳しい規律のもとで人間力を磨く。その後、21歳で旭川へ戻り、飲食業界を経験。23歳で不動産業界へ転身し、「お客様の信頼を得ること」を信念に、賃貸営業として初年度からトップクラスの成績を収める。インターネットの普及によって不動産業界が大きく変化する中、旧来型の業界体質に課題意識を持ち、「最良のサービスを提供したい」という想いから2014年に株式会社キュービック不動産を創業。現在は旭川市を拠点に、独自ブランド「満室革命」やSNS戦略、人材育成を軸に、地域密着型の不動産経営を展開している。
会社紹介
株式会社キュービック不動産
https://www.i-cubic.net/
北海道旭川市を拠点に、賃貸仲介・賃貸管理・売買仲介を展開する地域密着型の不動産会社。管理戸数約3,500戸、入居率90%超を維持し、地域特性を踏まえた賃貸経営支援を強みとしている。「満室革命」をはじめとする独自ブランドを展開し、初期費用を抑えたサブスク型サービスなど、新たな賃貸モデルにも積極的に挑戦。SNSを活用した採用・広報戦略にも力を入れており、若手人材の育成や組織づくりを推進している。近年は道央圏進出や関連事業展開も視野に入れ、地域不動産会社の新たな在り方を模索している。
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