<31コツ目>家賃の査定職人、頑張れ!

ここ3回に渡って、賃貸管理業の運営に関する指標や数値について考えてきました。
→ 空室率はどうやって算出する? 戸数?面積?賃料?
→ 2種類の収支(オーナーと賃貸管理会社)を把握していますか?
→ 入居者から解約理由をお聞きするのは何のため?
今回は指標や数値の最終回として、家賃について考えてみたいと思います。
家賃に関わる指標
家賃は賃貸管理事業にとって、売上のほとんどを占める重要な要素です。この家賃は様々な要素で変化します。入居の際には、立地条件や設備、専有面積、礼金・敷金、築年数、etc…。さらに入居してからも、世の中の家賃相場の変化によって変わったりします。家賃を把握する目的は、賃貸住宅の経営において、需給バランスを見ながら適切な家賃で募集する事で出来るだけ短期間で成約に結び付け、その後、可能な限り長く住んで頂き、最終的には収益の最大化を図る事になるかと思います。
家賃推移
物件や部屋ごとの家賃推移を把握する事で、賃貸経営がうまくいっているかをつかむ事が出来ます。家賃が変化するタイミングは入居者の入れ替え時と契約更新時です。この時に家賃が上がったのか下がったのかによって、運営が上向いているか下向いているかと言う事をおおまかに把握出来ます。一般的には築年数の経過により、徐々に下がっていくのが通常です。ただ、その際注意しなければならないポイントがいくつかあります。
季節家賃
入居者の入れ替えが春の繁忙期に当たるとその他のシーズンより数千円程度高くなっている場合があります。春は需要が高いため、家賃が少し高くても成約できるからです。
長期入居者の退出
一般に、長く住んで頂いた入居者の場合、入居時の高い家賃のまま継続して住まわれている場合が多く、入れ替わった後、その時の家賃相場が下がっていると、次の入居家賃が大きく下がる場合があります。
新築プレミアム
乗用車を購入する時に新車に人気があるように、新築未入居の物件は特に人気があります。このため、新築未入居物件の家賃はまわりの相場と比較して数千円高い事が通常です。その後に入居する方の家賃がある程度下がるのは仕方がありません。
家賃以外の条件
例えば、同じ部屋が2つあり、片方は礼金敷金が無く、もう片方は礼金敷金が各2ヶ月である代わりに家賃が数千円ほど安い部屋であった場合にどちらが成約するでしょうか?これは、その部屋を探しているお客様の状況によって変わってくるのではないかと思います。
このため、このような場合は家賃の推移だけ見ても正確に把握できない場合があります。蛇足ですが、上記の礼敷無し物件対、礼敷有り+家賃安い物件のどちらの入居者が長く住んで頂けるのでしょうか?入居の際に礼敷と言う一時金を支払って、少しでも安く住もうと考えて入居されるため、礼敷有り+家賃安い物件の方が長く住んで頂けると思いますが、実際に調べてみるとほとんど変わりませんでした。これは将来部屋を解約する時の理由が「家賃が高いから」と言う理由があまりなく、その他の理由により解約するためではないかと思われます。ただし、1点だけはっきりと入居期間に差が出たのは、広告費を多くかけた物件は他の物件と比較して長く住んで頂けなかったと言う結果でした。
募集家賃と成約家賃
ある管理物件の家賃はいくら?と聞かれた場合、その意味は2通りあります。つまり、募集家賃と成約家賃です。募集家賃は文字通り、入居者を募集する際に募集図面やポータルサイトなどに掲載する家賃です。これに対して、成約家賃は実際に契約に至った契約家賃です。これらの家賃は、募集家賃より成約家賃の方が低い場合が通常です。
理由は大きく2つあります。
①お問い合わせ反響が少ないと募集家賃を徐々に下げるため
②申込時の条件交渉により、成約家賃を下げる場合があるため
いわゆる人気物件の場合はほとんど差がありませんが、不人気物件ほど募集家賃と成約家賃に差が付きます。また、繁忙期は需要が高いので差が付きませんが、それ以外の時期には差が付きやすくなります。
家賃査定
家賃の査定は賃貸管理会社にとって、重要な業務の一つです。賃貸経営を左右する家賃を査定する業務は、家賃の1,000円の差(家賃80,000円と79,000円の差!)が2年(契約期間)で24,000円も違ってきます。仮にオーナー様から20室のマンションをお預かりして、間違って家賃を3,000円/室安く設定してしまうと、2年で144万円もの差がついてしまいます。
それでは家賃査定のポイントはどういったところでしょうか?
募集条件
基本的には立地を含む募集の条件によって決まってきます。物件の存在する場所が、その町の商圏の中心部に近い駅ほど高く、また、駅から近いほど高くなります。築年数が経過していないほど高く、専有面積が広いほど高くなります。人気設備のある物件やデザイン性の高い物件ほど高く、日当たりの良い物件ほど高くなります。希少性の高い物件ほど高く、家賃以外の費用がかからない物件ほど高くなります。
相場の変動
①景気
家賃は景気の遅行指数と言われる事があります。世の中の景気が良くなってもすぐに家賃には反映されません。様々なものが値上げされて最後に家賃が上がるケースが多く見られます。このため、少し先に家賃を査定するのであれば、現在の景気が上がり傾向なのか下がり傾向なのかを読む事も参考になるかと思います。
②季節
すでに何度かご紹介した通り、春は1年で一番需要が高まります。従って、春に募集する物件かそれ以外かで家賃が変わります。
③周辺物件
ライバル物件の動向により、家賃が変化します。特に、査定している物件より駅近にライバル物件が募集される場合は要注意です。
まとめ
今回は家賃について、考えてきました。
家賃設定の難しさは、一度その家賃で契約すると容易に変更できないところにあります。よく賃貸管理会社には1人か2人、「査定職人」と呼ばれるような社員がいます。彼らは「〇〇駅、徒歩10分、25㎡」と言うだけで、「家賃は〇〇〇〇円」と二つ返事で返してくれます。私の勤めていた賃貸管理会社にもいました。あくまでも私の個人的見解ですが、査定職人の査定は、まだ、今のところ、AI査定には負けていないように思います。
その理由はAIが過去のデータだけを基に査定するため、「とがった査定」や「攻めた査定」を出すのが得意ではないからだと考えています。
無難な結果を求めるのであればAIで構わないと思いますが、同業他社との競争に勝つためには、まだまだ査定職人に活躍してもらわなければならないのではないでしょうか?そうは言っても、賃貸管理会社から年々査定職人が減っているようで、少し寂しさを感じています。