<28コツ目>空室率はどうやって算出する?戸数?面積?賃料?

これまでのコラムではリーシングや建物管理等についての事業運営上のポイントについて多くご紹介してきました。
今回から、これら賃貸管理業の運営に関する指標や数値について考えてみたいと思います。
賃貸管理業では様々な業務が発生しますが、それぞれの業務には収入と支出があり、最終的には利益が発生しないと事業を継続していく事は出来ません。
また、日本の場合、多くの賃貸住宅の所有者が賃貸管理のプロでは無いと言う実態があります。
賃貸住宅の所有者から管理を請け負っている私たち賃貸管理会社は、賃貸住宅管理のプロとして、オーナー様に代わって管理物件の収益の最大化を目指すと言う責務があるのではないかと思います。
これらを踏まえた上で、今回は空室に関連する指標や数値について考えてみたいと思います。
空室率
賃貸住宅が空室になると家賃が入ってきませんから、売上が上がりません。
空室は、賃貸住宅の運営にとって一番重要な指標であるため、賃貸管理会社も様々な角度で数値を把握する事になります。
また、賃貸住宅は戸建て賃貸や分譲マンションの賃貸等を除くと基本的には1棟単位の共同住宅が主体となります。
このため、棟全体の何%が空いているかと言う空室率を把握する事で期待売上の達成状況を計る事が出来ます。
ただ、空室率と一言で言っても、賃貸管理会社によって定義が異なります。
一番ベーシックなパターンは、全戸数のうち、当日に何室、即入居できる空室があるかと言う比率です。
即入戸数/全戸数
ただ、実はこれではすべての空室をカウント出来ていません。
実際には直前の入居者が住戸を明け渡した翌日から空室が始まっているので、上記では原状回復工事期間の空室が含まれていない事になります。
また、物件によっては募集準備に時間がかかったり、原状回復工事終了後に室内の写真撮りをしてから募集に取り掛かるケースもあるため、この募集準備期間も空室が発生する事になります。
このため、これらの空室期間までを把握する式は以下のとおりとなります。
直前の入居者の明け渡し日の翌日~次の入居者の契約開始日の前日/全戸数
上記で「次の入居者の入居日」としないで「契約開始日」としているのは、実際の入居日とは関係なく、次の入居者にはすでに鍵を引き渡しており、賃借権が発生しているからです。
リーシングの戦略上、即入居できる空室だけを把握するだけは、後手になるケース
もあるため、直前の入居者から解約通知の入った「空き予定の住戸」を把握して、即入居できる空室率と比較する場合もあります。
空き予定の住戸/全戸数
空き予定の住戸を先行募集する場合は以下の式となります。
空き予定の募集中住戸÷全戸数
以下のとおり面積(㎡や坪)で空室率を把握する指標は、オフィス等の事業用物件ではよく使用されますが、賃貸住宅ではあまり使用されていません。
空いている住居の合計㎡(坪)÷全住戸の合計㎡(坪)
ただ、この指標は、複数の間取りが含まれる賃貸住宅には有効です。
ある意味で一番空室をストレートに表現している指標は戸数ベースでは無く、賃料ベースです。
即入住戸の募集賃料÷満室賃料(全戸数の賃料合計)
または、
直前の入居者の明け渡し日の翌日~次の入居者の契約開始日の前日(募集賃料)÷満室賃料
ただし、この指標が100%正しく空室期間の賃料負担を表現しているかと言えばそうとも言えません。なぜなら、次の入居者が上記の募集賃料で入居するとは限らないからです。
さらに次の入居者に対して、フリーレント期間を設定している場合は、その期間の賃料は入りません。
このため、この期間の賃料負担を含めると以下の式になります。
直前の入居者の明け渡し日の翌日~次の入居者の賃料発生日の前日(賃料)÷満室賃料
入居者からの解約通知が賃貸借契約に定める期間(通常1ヶ月前通知が多い)を守れずに、短い期間で解約通知が来てしまった場合は通常違約金が発生します。
例えば、急な事情で解約通知が明け渡し日の1週間前となった場合は、1ヶ月分の賃料から1週間分の賃料を差し引いた残りの期間分を違約金として、貸主が徴収いたします。
賃貸管理会社によってはこの違約金も空室賃料に換算する場合もあるようです。
直前の入居者の明け渡し日の翌日(違約金が発生する場合はその期間を反映)~次の入居者の契約開始日の前日(賃料)/満室賃料
以上、様々な空室率をご紹介してきました。
業界として、単純に需給バランスを表現するには最初にご紹介したの「即入戸数÷全戸数」が一番分かりやすいかと思いますが、最終的な賃料売上に至るまでにいくつかの要素がある事をご理解いただけたのではないかと思います。
多くの賃貸管理会社は、これらを会社全体で把握するだけではなく、物件別・エリア別・期間別等で、それぞれ前月比較、前期同月比較、予算(計画)比較、相場(他社)比較しているようです。
理想的には
・即入居住戸の募集強化による成約
だけではなく、
・リフォーム期間の短縮
・募集準備期間の短縮
・フリーレントの減額
・空き予定物件の早期募集開始
等によって、空室期間が短縮され、賃料収入が増加する訳ですから、別々に把握して、指標とされる事をお勧めします。
長期空室
空室が発生しても、短い期間、あるいは想定した期間内に成約して、次の入居者に入って頂ければ問題ありませんが、想定外に長い期間、成約せずに長期空室が発生してしまった場合には別途これを把握する事が必要となります。
一般的には2~3ヶ月以上の長期空室について、別途一覧表等を作成して、何らかの対策を実施する賃貸管理会社が多いようです。
私の経験では空室期間が2ヶ月を超えてくると、そのまま同条件で募集を継続しているだけでは、成約する事は出来ないように思います。
特に春の繁忙期の終了した後では、需給バランスが崩れるため、早めの対策が必要になると思います。
また、意外に盲点なのが、募集していない長期空室物件です。
水漏れ事故や大きな原状回復工事が発生した住戸は、どうしても施工業者任せになりがちです。
この期間も賃料は入っていないため、別途リストアップして管理をした方が良いと思います。
新規管理物件の募集
新規管理物件は戸数がまとまっている場合が多く、全室成約するまでにはある程度時間がかかります。
このため、物件別に管理して、計画的に成約を進める必要があります。
また、ある地域に新規管理物件の募集が集中したり、より大型の新規管理物件の募集が始まったりすると、その地域の既存の管理物件の募集に大きな影響を与える場合があります。
このため、継続的に新規管理物件が発生するエリアはエリア管理をした方が良いと思います。
まとめ
賃貸管理業の運営に関する指標や数値についてご紹介してきました。
特に空室率は、賃貸管理会社によって、その把握方法が異なっています。
空室が発生すると、どうしても募集だけに目が行きがちですが、原状回復工事の期間をたった1日でも短縮する事でも、いくらかの利益に反映されます。
また、長期空室を1戸でも成約すると、予想以上に効果がある事が実際に数値を把握する事で気付かれるのではないかと思います。
これらの数値を把握するために、大きな時間を費やしてしまう事は本末転倒になりますが、IT化の進んでる今、効率的に数値を把握する事で、手間なく利益を上げる事が出来るのではないでしょうか?