家賃の値上げ交渉をスムーズに進める方法|拒否されたときの対処法も解説
賃貸用不動産では収益を改善するため、家賃の値上げをすることがあります。しかし入居者からすれば家賃は安いに越したことはないので、実際に交渉するとなると少し気が重く感じられるかもしれません。できるだけ退去者を出さず、スムーズに値上げ交渉を進めるにはどうすればよいのでしょうか? ご紹介していきます。
(更新日:2023/04/06)
家賃の値上げ・値下げは法律で認められた権利
家賃の値上げや値下げは、「借地借家法」という法律で定められたオーナーの権利です。ただしどんな状況でも自由に家賃を値上げ下げできるわけではなく、正当な理由がある場合に限られます。しかも実際に値上げを適用するには、入居者の合意が得られなければなりません。
オーナーや入居者には「一度入居したら家賃は変更できない」と勘違いしている人がいますが、中には10年以上住み続ける入居者もいます。その間に物価や経済状況、周辺環境は変動するため、変更を認めなければ環境に合わない不自然な値段がいつまでも適用されることになるかもしれません。そのため、オーナーには家賃を変更する権利が認められています。
家賃を値上げできる正当な条件
オーナーが家賃を値上げできる正当な理由とされるのは、主に次の3つです。このほかに、物価が上昇したという理由も考えられます。
家賃が相場を下回っていた
賃貸物件の家賃相場は、エリアや駅からの距離によって異なります。周辺の家賃相場より安い家賃を設定していた場合は、値上げをしてもよいでしょう。
売買契約でオーナーチェンジ物件を手に入れた場合や、相続税対策用の物件を相続した場合などは、家賃が相場より安く設定されている可能性もあります。周辺エリアの相場を調査し、それに合わせて交渉しましょう。
家賃相場が上がった
物件の周辺で再開発が進んだり新しく駅ができたり、学校や会社などの人が集まる場所ができたりすると、周辺の家賃相場が上がることがあります。その場合も家賃を上げる交渉が可能です。
固定資産税などが増額された
同じく再開発が進んだなどの理由で周辺の地価が上がると、固定資産税評価額も上がります。それに基づく固定資産税や都市計画税の課税額が上がり、もちろん納税額が大きくなります。この場合もオーナーの負担が増えるため、家賃値上げの理由になります。
固定資産税は毎年1月1日時点の土地の評価額に応じて課税され、評価額自体は3年に1回見直しが行われます。この時期には、固定資産税課税通知書をしっかりとチェックしておきましょう。
家賃値上げのリスク
家賃を値上げするのは確かにオーナーの正当な権利ですが、入居者にとっては毎月の負担が増えることなので歓迎されません。値上げ交渉をすると、次のようなリスクにつながる場合があります。
退去者が出る可能性
不動産投資家にとって、空室は最大のリスクです。家賃を上げると入居者にとって負担が増えるので、退去者が出てしまう可能性があります。「家賃が上がるなら、その家賃でもっと新しいところに住めるかも」「これまでの家賃と同じような金額で住めるところを探そう」と思う人がいるためです。
退去者が出ると次の入居者が見つかるまで空室期間が発生し、その間は家賃収入が入ってきません。一気に家賃を上げると退去に繋がりやすいので、慎重さが求められます。
関連記事:外国人入居者が家賃滞納したまま帰国してしまったときの対処方法〜トラブルを未然に防ぐためにできること〜
賃収入の減少でキャッシュフローが悪化する可能性
値上げによって退去者が出ると家賃収入が減少し、キャッシュフロー(現金の収支)が悪化する可能性があります。特に不動産投資ローンで物件を購入している場合、空室が続くと毎月の返済により負担増に繋がることも。
帳簿上の収支はどうあれ、不動産投資を継続するにはキャッシュフローが何より大切。手元に現金がなくならないよう、ある程度資金をストックしてから値上げ交渉に踏み切ることも視野に入れておきましょう。
家賃を値上げする際の入居者への通知の注意点
家賃を値上げする際、少しでも退去を防ぎたいなら次のような点に注意しましょう。
通知の時期は早め
実際に値上げを決めたら、とにかく早めに入居者に通知しましょう。退去通知のように「1か月以上前に知らせる」といった法律上の告知時期の規定はありませんが、入居者にも住み続けるか検討する時間が必要です。考えたのちに退去する可能性もありますが、退去の意思も早めに伝えてもらえば次の入居者も見つけやすくなります。
書面で事前に告知
値上げの通知は口頭で行えますが、書面で告知しましょう。大切な契約内容に関する告知なので、「言った言わない」というトラブルを避けるために明文化しておくことが大切です。
配達証明付きの内容証明郵便(※)を使うと、「(実際は知っているのに)読んでいない」としらを切られるリスクも避けられるでしょう。判例では値上げの通知が相手に届いた日から、家賃増額の効果が生じることになっています(値上げの金額は協議による)。
(※)郵便を出した内容や発送日、受け取った日付など書留郵便物を配達した事実が証明できます。
口頭の通達で誠意を示すが感情的な言い合いになる可能性も
「誠意を伝えるため、まずは口頭で値上げの意思を伝えよう」という方もいるかもしれませんが、あまりおすすめできません。入居者からすると値上げはプラスな事象ではないので、顔を合わせて話しているとつい感情的になってしまう可能性があるためです。そうなるとトラブルに発展しかねません。
関連記事:家賃滞納には時効がある!トラブルに発展しないために知っておくべき消滅時効成立の条件と中断方法
家賃の値上げ交渉のコツ
家賃の値上げは入居者にとって極力避けたいできごとです。そのため折り合いがつかず、トラブルに発展する可能性も否めません。値上げの交渉を少しでもうまく進めたいなら、次のようなコツを試してみましょう。
入居者にもメリットがある条件を付ける
家賃の値上げは、入居者に少しでもメリットがある条件をつけるとうまくいきやすくなります。「値上げに応じたくない」という交渉を受けたら、次回の更新料を無料にするなどの具体的な優遇措置を提示してみましょう。更新料の支払い時には一度にまとまった費用がかかるので、その負担が減ると喜ばれます。
家賃が値上げされると引っ越しを検討する入居者が多いと思いますが、ほかの物件を改めて借りる…となると敷金も礼金もかかりますし、引っ越し費用も勘案する必要があります。そこで値上げに応じるよりも結果的に負担が大きくなるため、歩み寄る姿勢を見せれば同意してくれることがあります。
家賃の値上げが妥当と思える根拠を収集
家賃の値上げが正当であるという根拠を提示することも大切です。不動産会社に尋ねたりネットで検索したりして、近隣の家賃相場を調べてみましょう。エリアや駅からの距離、物件の間取りや広さ、築年数ができるだけ近い物件を選んでデータを集めます。
これまでの家賃が相場よりも安いということが伝わるよう資料を充実させるといいです。
適正な値上げ額を設定する
周辺の家賃相場が把握できたら、それと対象物件のこれまでの家賃を照らし合わせ、無理のない範囲の値上げ額を設定しましょう。
例えばそれまで周辺の相場より3万円程度安い家賃だった場合、いきなり3万円家賃を上げるとそれまでの入居者はほとんどいなくなってしまう危険性が高いです。判例でもそのような大きな値上げが認められた記録はほとんどありません。
リノベーションや共有部分の設備改善
例えば外壁をスタイリッシュにリニューアルしたり、共有部分に新しく屋根付きの駐輪場や便利な宅配ボックスを設置したりと、設備改善をすることで家賃の値上げ交渉がしやすくなるケースもあります。物件の資産価値を上げておくと売却という出口戦略でも有利に働きます。
普段から入居者の不満が無いように気を配る
入居者が普段から管理会社にいい印象を持っていると、交渉がうまくいきやすくなります。物件周辺の清掃や植栽の手入れなどの管理をきちんと行い、入居者からの連絡にはこまめに返すのがベターです。当たり前ですがトラブル対応などで顔を合わせたときは、誠意のあるコミュニケーションを図るのが大切です。
当たり前のことですが、これらができていると値上げ交渉をした際の反応も違ってきます。不動産管理会社様向けオーナーアプリ「GMO賃貸DX」の「メッセージ機能」を利用すれば、入居者とのコミュニケーションも取りやすくなるため、自然と不満がたまりにくくなり大きなトラブルの予防にもつながります。こちらの資料も参考にしてみてください。
家賃の値上げを申し出るタイミング「賃貸借契約の更新時」はNG
「家賃の値上げ交渉を申し出るなら、賃貸契約の更新のタイミングに合わせないといけない」と思っている人が多いのですが、それは違います。値上げのタイミング自体はいつでもよい上に、むしろ更新のタイミングはできるだけ避けたほうが無難です。
賃貸借契約の更新時がNGな理由
更新のタイミングで値上げ交渉をすると、交渉がうまくいかない場合に入居者が正規の更新手続きをしてくれないかもしれません。そうした入居者は「法廷更新」という手続きをとることがあり、値上げができない上に更新料がもらえなくなる可能性があるためです。
値上げを行うと3割は引っ越しを考えるので告知は早め
前項でご紹介した「値上げ交渉のコツ」をすべて守っていても、値上げ交渉があった時点でおよそ3割の入居者は引っ越しを検討するといわれています。3割も空室の状態が続くと、キャッシュフローが悪化してしまいます。
入居者自身が次の物件を見つけるためにも、退去された場合に新たな入居者を募集するためにも、早めの告知を心がけましょう。
家賃の値上げ交渉で拒否された時の対処方法
家賃の値上げを拒否された場合、次のような対処方法が考えられます。
根拠をもった丁寧な説明
まずは根拠となる周辺の家賃相場などの資料を改めて見せ、「一部屋だけでなく同じ物件内の入居者全員に協力してもらっている」ことを伝えましょう。「特定の入居者だけ家賃を安くすることはできないから」ということもきちんと伝え、協力を丁寧にお願いします。
真摯に話し合いを行う
書類を送ればそれで終わりにするのではなく、入居者の同意を得るためには真摯に話し合うことも大切です。納得がいかないという入居者がいる場合は、意見を聞いてみましょう。
簡易裁判所・調停で争う
丁寧に交渉を続けても値上げに対して同意が得られない場合は、法的な手続きに入ります。まずは裁判所に申し出て、調停を行いましょう。調停は法律の専門家を交えた話し合いの場です。当事者同士だけが直接話し合ってうまく合意できない場合でも、調停員などを交えることでスムーズに交渉が進むケースもあります。
調停でも合意が得られない場合は、訴訟を起こすことになります。最終的な値上げ家賃の妥当性は、裁判所が選定した不動産鑑定士による家賃鑑定によって判断されることが多いです。家賃鑑定では周辺の家賃相場もきちんと調査されるので、値上げの根拠がしっかりしていれば、いきなり多額の値上げでなければ認められるケースが多いでしょう。
実際には訴訟費用の負担が大きいことから、家賃の値上げ交渉で訴える人はほとんどいません。場合によっては弁護士にも相談し、できるだけ話し合いで解決を目指しましょう。
家賃の値上げは貸主と借主の同意が必要なので慎重に行うこと
オーナーには家賃を値上げする権利がありますが、入居者すなわち借主の同意が必要です。勝手に貸主であるオーナー側だけの意思で家賃を値上げすることはできません。
「家賃の増額に納得がいかない」ことを理由に、借主が家賃の支払いを拒否している場合には、特に注意が必要です。
値上げ前の家賃を貸主に受け取ってもらえない場合、借主は法務局に値上げ前の家賃相当額を「供託」することが可能です。供託により家賃を預けることで、借主は家賃を支払ったのと同じ効果が得られます。
家賃値上げのための調停または訴訟により増額が認められなければ、値上げした家賃を請求できません。
そうすると、入居者とオーナーの関係性が悪化することは目に見えています。
毎月の家賃額が変わると、入居者にとって負担が増えるということは想像できます。できるだけ納得してもらえるよう、慎重に交渉を進めましょう。
家賃の値上げはオーナーと管理会社との綿密なやり取りも必要
家賃の値上げ交渉は管理会社が代行することも多いのですが、家賃を受け取るのは不動産オーナーですから、主体はやはりオーナーです。値上げ交渉では、オーナーとの連絡を密に取りましょう。
不動産管理会社様向けオーナーアプリ「GMO賃貸DX」を利用すれば、オーナーとの連絡がよりスムーズになります。家賃の月次収支報告や日常的な管理業務の報告が簡単にできる機能が備わっており、メッセージのやり取りもスムーズです。また、チャット機能を利用すれば、言った言わないなどのトラブルも避けられます。
こうしたデータをアプリでやり取りすることで、オーナー自身にも当事者意識が芽生えるはずです。連絡をこまめに取り合い、一緒に交渉を進めていきましょう。
まとめ
賃貸物件の家賃は一度決めると変えられないと思われがちですが、値上げ交渉は可能です。実際に値上げするには入居者の同意が必要なので、しっかりと周辺エリアの家賃情報を集め、データをもとに慎重に交渉を進めましょう。