<27コツ目>賃貸管理業に関連する資格とは
賃貸住宅管理業の業務領域は他の様々な業種と比較しても、かなり広い方だと思います。
このため、必要な知識も、住まいに関連する法律、建物や不動産に関する知識、オーナー様向けには相続や税金、金融、投資の知識、さらに火災保険や様々な設備に関する知識もあった方が良いと思います。
個人的には心理学なんかも役に立つように思います。
こういった知識を得るための近道として資格の取得があります。
今回は賃貸管理業に関連する資格について、ご紹介したいと思います。
賃貸不動産経営管理士
まずは何と言っても、管理戸数が一定規模以上になる管理会社が取得しなければならない国家資格として、賃貸不動産経営管理士が挙げられます。
賃貸住宅の管理戸数が200戸以上になると、営業所には業務を管理・監督する業務管理者の設置が義務付けられます。
この業務管理者は賃貸不動産経営管理士(または、一定の要件を満たした宅地建物取引士)でなければなる事が出来ません。合格率はここ数年30%前後で推移しています。
内容としては、関連する法律や家賃等の金銭の管理、建物の維持保全、入居者の募集や入退去に関連する事項等、賃貸住宅の管理に関する事が一通り含まれているため、賃貸住宅の管理には必須の資格となります。
特に2021年6月に全面施行された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)で、賃貸管理業の登録制度と並んで定められたサブリース(法律では特定賃貸借)事業における業務の適正化を図る制度に関しては、サブリースを営んでいる事業者は200戸に満たなくてもしっかりと学んでおく必要があります。
宅地建物取引士
いわゆる「宅建士」の事ですが、こちらは不動産取引全般(売買も含む)における専門資格となります。賃借や売買の契約の場面で、重要事項の説明や記名・押印、また契約書への記名・押印が主な業務となります。国家資格で合格率は10数%となり、かなり難関です。
賃貸住宅の管理業として必須資格ではありませんが、入居者の募集をする場面において、宅地建物取引士の資格を取得して宅地建物取引業の免許を取得しておいた方が、賃貸仲介業務を実施できるため募集しやすくなります。
賃貸住宅メンテナンス主任者
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が認定する民間資格ですが、上に挙げた賃貸不動産経営管理士の維持保全のところで学ぶ知識をさらに詳しく、実務的にした資格で、賃貸住宅の管理実務を行う上ではぜひ取得しておきたい資格です。
試験はオンラインでいつでも何度でも受験する事が出来るため、資格の取得率はその分高くなっています。
相続支援コンサルタント
上記と同じく日管協が認定する民間資格ですが、2010年に始まったので、15年の歴史があります。
賃貸住宅のオーナーは不動産をはじめとして、金融資産を含む様々な資産を保有しておられる方が多く、相続税を支払わなければならない方も珍しくありません。
このため、実際の賃貸管理の場面でオーナー様とお会いした際、相続に関するご相談を受ける場合もあります。
こういったご相談を受ける事でオーナー様との信頼が深まるだけでなく、ここから新たなビジネスが生まれる可能性もあります。
税務や法務にも関わるため、税理士や弁護士の独占領域に踏み込まないレベルとなりますが、相続の知識を付けておく事は賃貸管理業において大きなメリットとなると思います。
CPM®(Certified Property Manager®)
CPM®は米国シカゴに本部をおくIREM(Institude of Real Estate Management)が、賃貸不動産管理において高い倫理観と高度な専門性を持つと認めた個人に与える資格です。その資格取得者は米国だけではなく、世界54カ国(2024年3月現在)に広がっています。
CPM®では、なかなか日本の資格では学ぶ機会が少ない知識を手に入れる事が出来ます。
①不動産投資分析
予算やキャッシュフロー、融資や不動産の価値などについて、金融電卓を使用したりしながら勉強します。私もCPM®資格を保有していますが、この授業は大変参考になりました。
②倫理
賃貸住宅の管理は、オーナー様から高額な不動産をお預かりして、それを代行して運用するものであるため、賃貸管理会社はしっかりとしたモラルを持ってオーナー様の信頼を裏切らない事が重要になります。
③マネジメントプラン
賃貸住宅のオーナー様に向け、どのように管理をすればご自身の賃貸住宅の収益が最大化出来るかの計画を作成するものです。
この授業はかなりのボリュームがあり、それまでに学んだ知識を総動員してプランを作成していきます。
この他CPM®の授業では、人材管理やマーケティング等、賃貸不動産経営管理士で勉強する領域と異なる部分も多く含まれるため、知識の幅が広がります。
建築物環境衛生技術者(ビル管理士)
建築物環境衛生技術者(ビル管理士)は建物の維持管理や衛生管理を監督する国家資格で、合格率はここ数年20%前後で推移する難易度の高い資格です。
デパートや図書館のような特定建築物では3,000㎡以上の建物について、建築物環境衛生技術者を置かなければなりません。
特定建築物を対象とするため、賃貸住宅には関係ないように感じますが、勉強する内容が建物の維持管理になるため、賃貸住宅の管理に非常に役に立ちます。
具体的に関連する項目を挙げると
①給水、給湯設備管理(貯水槽の維持管理を含む)
②排水設備管理(浄化槽の維持管理を含む)
③電気設備管理
④清掃及び廃棄物処理
⑤ねずみ、昆虫等の防除
と言った具合です。
その他の資格
①防火管理者
防火管理者は一定規模以上の建物に選任が必要になります。
賃貸の共同住宅では建物の収容人員が50人以上になると、選任しなければなりません。また、50人未満であっても、複合用途建物等、用途によっては選任が必要になります。
防火管理者資格はその規模によって甲種と乙種に分かれますが、難易度はそれほど高くありません。ただ、選任された建物について、防火管理者としての責務を果たさなければ、実際に火災が起こって大きな被害が出てしまうと責任を問われる可能性があります。こういった事もあるためか国家資格となっています。
②損害保険関連
一般に賃貸住宅の入居者には火災保険(損害保険の一種)の加入が入居の条件となっており、賃貸管理会社においても損害保険の代理店となっているケースが一般的になっています。
損害保険を取り扱うためには、資格を取得する必要があります。
損害保険の一般試験は基礎単位と商品単位(自動車保険単位・火災保険単位・傷害疾病保険単位)に分かれ、この中で必要な部分を選択する方式になります。
難易度はそれほど高くないですが、保険は金融商品に当たるため、業務を適切に行わなければ業務停止等の厳しい処分が下る可能性があります。
また、一般の火災保険と似ていますが、事業規模が少し小さい少額短期保険と言う商品を取り扱っている賃貸管理会社も多くあります。
少額短期保険は損害保険の一般試験の合格者では取り扱う事が出来ず、別の少額短期保険募集人試験に合格する必要があります。
③管理業務主任者
管理業務主任者は主に分譲マンションの管理会社の社員が取得する国家資格となります(業務としては管理委託契約に関する重要事項の説明、記名・押印、契約書への記名・押印、管理組合の総会サポート等)。
賃貸管理会社の管理物件の中には分譲マンションの管理(1室単位で賃貸物件として貸している)もあるため、この資格を取得しておくと、交渉では優位になるかもしれませんが、直接的に必要な資格ではありません。
④マンション管理士
マンション管理士も分譲マンションの管理に関する国家資格です。
この資格は管理組合の側に立って助言・指導を行う専門資格です。
上記同様、賃貸管理会社にとって直接的に必要な資格ではありませんが、一点だけ、共同住宅の長期修繕計画作成の知識が役に立つかと思います。
⑤消防設備点検資格者
賃貸住宅にも設置されている消防設備を点検する事が出来る国家資格で、第1種・第2種・特種に分かれます。
この業務は通常、賃貸管理会社から専門業者に依頼する分野ですが、現場業務の一環として位置づける事により、新たなビジネスチャンスとなります。
この他にも関連する多くの資格がありますが、その知識を実際に利用する場面と取得難易度とのバランスを考慮して、今回はご紹介を控えます。
まとめ
今回は賃貸住宅の管理に役立つ資格をご紹介してきました。
賃貸管理の中でトラブルを解決したり計画を立てたりする場面では、その経験に加え、資格の取得により知識を付ける事で、知恵が生まれ、質の高い管理につながるのではないでしょうか。
以上
【ご参考】
・賃貸不動産経営管理士
https://www.chintaikanrishi.jp/
・宅地建物取引士
https://www.retio.or.jp/
・賃貸住宅メンテナンス主任者
https://www.jpm.jp/maintenance/
・相続支援コンサルタント
https://www.jpm.jp/souzoku/
・CPM®(Certified Property Manager®)
https://irem-japan.org/cpm/
・建築物環境衛生技術者
https://www.jahmec.or.jp/kokka/