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【5周年特別インタビュー】鈴木 明人社長|不動産業界の常識を知らなかったからこそできたDXという挑戦

GMO ReTechが設立から5周年を迎えた今、改めて原点を見つめ直すタイミングとして、代表取締役社長 鈴木 明人に話を聞いた。

学生時代にフランス雑貨の輸入業を立ち上げ、起業家精神を育んできた鈴木 明人社長。ファンド投資を通じて出会った地主系不動産オーナーとの交流や、車のオーナーズクラブで聞いた「減っていく人生は寂しい」という言葉が、不動産業界への挑戦の原点となった。

実際にオーナーとなって初めて直面したのは、FAXが主流で「メールアドレスがない」と言われるほど、アナログな業務が色濃く残る現実だった。業界の常識を知らない”素人”だからこそ見えた課題を、ITの力で解決する挑戦が始まった。

不動産業界の枠にとらわれず、IT企業ならではの視点で、業界に革新をもたらす鈴木社長に、起業の原点から今後のビジョンまでを聞いた。

目次

    学生時代から始まった起業家精神──フランス雑貨からのスタート

    学生時代に起業されていたそうですが、起業に至った経緯を教えてください。

    ▲GMO ReTech株式会社 鈴木 明人社長

    私の起業は、輸入業から始まりました。もともと物や車を集めることが好きだったので、最初は個人輸入から始め、それが次第に人から頼まれるようになり、量が増えていきました。

    車やミニカー、1950年代や60年代の骨董品のようなキーホルダーなど様々なものを輸入していくうちに、事業はどんどん広がっていき、フランス絵画、服、バッグなど、いろいろなものを扱うようになりました。

    ただし、一貫していたコンセプトは「フランス」です。フランスの車、フランスの絵画、ポスター、キーホルダー、服など、すべてフランスにこだわって事業を展開していました。

    他にはどのような事業を展開されていたのでしょうか?就職後のキャリアについてもお聞かせください。

    私の起業はフランス雑貨などの輸入業から始まりましたが、実はそれに先立ち、学生時代からインターネットを使ったEC事業やシステム構築の受託も個人で手がけていました。当時は、iモードの公式サイトでサービスを展開したり、新聞社の広告ネットワークを構築したりと、幅広いWebビジネスに取り組んでいたんです。

    大学卒業後は自動車メーカーに就職し、約8年間、マーケティング領域を中心に従事しましたが、個人事業としてのインターネット関連の活動は継続していました。その後、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)が展開していたカーセンサーに魅力を感じ入社し、1年半在籍しました。短い期間ではありましたが、ここで出会った仲間の中には、現在当社で共に働いているメンバーや、協業しているパートナーも多く、非常に大きな転機となっています。

    不動産投資との出会い──「減っていく人生は寂しい」という言葉から

    不動産に関心を持ったのはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

    私が不動産に関心を持ったきっかけは大きく二つあります。一つ目は、あるファンドの投資を通じて知り合った方との出会いでした。その方は地主系の不動産オーナーで、本当にすごい生活をされていました。

    まず、“会社に勤めたことがない”という点が印象的でしたね。日本にいるのは年の半分以内で、残りの半分はずっと海外で過ごし、常に海外旅行をしているような生活を30年から40年もの間続けていらっしゃいました。

    その方は恐らく1,000室単位で不動産を所有されていたと思います。そうでなければあのような生活は成り立たないでしょう。“そういう生活もあるんだ”ということを目の当たりにしたのは大きな衝撃でした。私はむしろ労働するのが好きで働いているタイプなので、ある意味正反対の生き方をされている方でした。

    もう一つのきっかけについてもお聞かせください。

    二つ目は、車のオーナーズクラブでの体験です。私は車が大好きで、学生時代にはフランス車に乗っていました。最近は高級車のオーナーズクラブにも参加するようになり、そこで定年を過ぎた後の人たちと知り合ったんです。

    そういった方々は自分の会社を保有されており、定年後も悠々自適な生活を送っていました。沖縄に住んでいたり、趣味で生活していたりする方が多く、いろいろな話を聞く中で、皆さん70歳になっても収入があることに気づきました。

    そのときに言われた、「減っていく人生は寂しいよ」という一言が非常に印象的でした。どんなに頑張っても、いつかは働くのをやめると、大抵は減っていく人生になってしまいます。最後まで増えていくということは、あまりないものです。

    “増えていく人生”にするためにどんな行動をとりましたか?

    それまでは個人の投資といえば株式や仮想通貨などを行っていました。投資自体は社会人一年目から始めて、ずっと続けていました。

    株にはボラティリティがあり、為替もプラスもマイナスもありますが、それらは割と短期的な話です。株には配当があるのでずっとプラスなのかもしれませんが、オーナーズクラブで出会った皆さんは大体不動産を持っており、その収益で生活が成り立っているのを見ました。

    一般的な事例から見ると、少し飛び抜けた人たちが多かったのかもしれませんが、これらの体験を通じて、いわゆるフロー型の投資から、ストック型の住宅・レジデンス投資に切り替えました。この転換は上場した後くらいのタイミングでしたね。

    この時の経験が現在のGMO ReTechのサービスに繋がっているのでしょうか?

    実は、この転機の背景にはもう一つ大きな出来事があります。2006年に、これまでの経験を活かして、株式会社イノベックスという会社を立ち上げました。これが現在のGMO TECH株式会社の前身です。その後、GMOインターネットグループのスケールとリソースを活かすことで、双方に大きなメリットが見込めたため、ジョインを決断。そして2009年には、マザーズ上場も果たしました。

    上場後、個人としての資産形成を意識するようになり、不動産に興味を持つようになりました。実際に物件を所有してみることで、不動産業界のデジタル化の遅れを肌で感じるようになったのです。

    そこで、「賃貸領域のDXをテーマに会社を創ろう」と思い立ち、「賃貸運営を楽にする」というミッションでGMO ReTech株式会社を2020年に設立しました。

    DXの発想は“業界素人”だったからこそ──オーナー体験から得た課題意識

    実際に不動産を所有してみて、どのように感じましたか?

    ファンド投資やオーナーズクラブでの出会いをきっかけに不動産に関心を持った私は、実際に自分で物件を所有してみた結果、想像以上に手間がかかることを実感しました。

    1棟目を購入した際、不動産投資について学びたいと思い、大規模修繕や減幅工事なども可能な限り自分で発注するようにしたんです。集金業務は不動産管理会社にお願いしていましたが、その他の業務については一旦自分でやらせてもらうという前提で管理契約を結びました。

    購入先の不動産管理会社ではなく、別途紹介してもらった不動産管理会社と契約し、大規模修繕や清掃系の業務など、通常であれば不動産管理会社が行うような業務の小さなレベルのことを、発注者として自分で一通り経験してみました。

    実際に管理業務を行ってみて、自分が考えるサービスを提供することでもっと「賃貸運営を楽にする」ことができると強く感じるようになりました。作業をしていただく業者の方々とのやり取りで、メールで送りますと言ったところ「メールアドレスがない」と言われたり、結局FAXでのやり取りが主流だったりと、想像以上にアナログな業界で、最終的に「LINEでいいですか」と提案して、LINEでのやり取りに変更することもありました。実際に作業していただく方と不動産管理会社の間のやり取り、そしてオーナーとのやり取りも、デジタル化が遅れていることを実感した瞬間でした。

    現在は忙しくなったため、物件の管理業務はほぼ不動産管理会社にお戻ししていますが、この一連の経験が現在の事業展開の基礎となっています。

    不動産業界の未来を変える、GMO ReTechの挑戦

    GMO ReTechのサービス全体について、改めて詳しく教えてください。

    現在、私たちは大きく分けて3つのサービスを展開しています。

    まず1つ目は、不動産オーナー様と不動産管理会社様をつなぐプラットフォームです。具体的には『GMO賃貸DX オーナーアプリ』と『GMO賃貸DX オーナーWEB』を提供しており、収支報告書の電子化や契約更新の電子契約など、これまで紙でやり取りされていた業務をデジタル化しています。

    『GMO賃貸DX オーナーアプリ』

    さらに、単なる機能提供だけでなく、「Executive Club by GMO賃貸DX」という特別なサービスも展開しています。これは、オーナー様に豊かで彩りある時間を過ごしていただきたいという思いから始めたもので、ヘリコプターやクルーザー、ミシュラン掲載店での食事や特別な体験など、ここでしか味わえない時間をオーナー様向けの特別価格でご提供しています。こうした取り組みは、不動産管理会社様のロイヤリティ向上にも貢献できると考えています。

    「Executive Club by GMO賃貸DX」

    2つ目は、不動産管理会社様向けのCRMツール『GMO賃貸DX オーナーCRM』です。私はこれを「オーナーカルテ」と呼んでいるのですが、オーナー様ごとの履歴や家系図、過去のやり取りなどを一元的にデータ化できる仕組みです。たとえば、担当者が異動しても、過去の情報をすぐに把握できるので、引き継ぎがスムーズになります。これまでメールや紙で管理していた情報を電子化することで、大きな効率化を図ることができます。

    『GMO賃貸DX オーナーCRM』

    そして3つ目が、『GMO賃貸DX 入居者アプリ』です。こちらは不動産管理会社様と入居者様の間のコミュニケーションや業務をデジタル化するもので、入居時のチェックや退去申請、設備トラブル時のFAQ対応など、さまざまな機能を備えています。これにより、不動産管理会社様の業務負担を減らし、業務効率化と入居者様からのロイヤリティ向上を目指しています。

    『GMO賃貸DX 入居者アプリ』

    『GMO賃貸DX オーナーCRM』の開発にはどのような経緯があったのでしょうか?

    『GMO賃貸DX オーナーCRM』の開発経緯は、実はとてもシンプルです。ある不動産管理会社様から「こういうのをやりたい」という話があり、最初はその会社との共同プロジェクトとして進める予定でした。

    当初は開発費折半、収益シェア折半という形で話を進めていました。しかし、先方から「どうやって集金するかが難しい」という課題が提起されました。私が紹介したオーナーから収益を得るという仕組みについて、不動産管理会社側から見ると微妙な話に感じられたようで、「100%そちらでやってほしい」という話になったのです。

    私としては、プロジェクトをやめるか、100%自社製品として開発して自社で全て持ち出してやるかの二択となりましたが、企画としては非常にニーズがあり、面白いと思ったので進めることにしました。また、現在当社の『GMO賃貸DX オーナーアプリ』も強化している中で、オーナーの情報を集めていくことは重要なことだと考えていたため、その連携も視野に入れた上で、オーナー管理ツールの『GMO賃貸DX オーナーCRM』という企画は非常に有効だと判断したのです。

    このように、現場のニーズから生まれた『GMO賃貸DX オーナーCRM』ですが、これまでの広告領域での開発とは違い、不動産業界特有の構造や課題にしっかりと向き合う必要がありました。

    過去に展開されていたIT広告サービスとはどのような点でギャップを感じましたか?

    ▲インタビュアー:株式会社Enpathy 代表取締役 髙栁 裕司

    私たちGMO ReTechの母体は、GMO TECHという広告会社です。広告の世界では、たとえば「1件送客したらいくら」といったように、数字で成果が明確に評価されることが多く、お客様ともそういった成果をもとにお付き合いが進みます。そのため、私自身が直接お客様のもとに伺うというよりも、営業メンバーが訪問して契約をいただくのが基本的なスタイルでした。

    一方で、不動産業界では全く異なる営業文化が根付いています。まず、営業活動は“訪問ありき”ですし、一度の訪問で終わることはほとんどなく、何度も足を運んで信頼関係を築いていくのが一般的です。この営業スタイルの違いには、かなり大きなギャップを感じましたね。業界によって、ここまでやり方が違うのかと実感したポイントでした。

    今では私自身が現場に出向いてお話しするのもすっかり日常になり、むしろさまざまな地域の方々と直接お会いできることが楽しみのひとつになっています。

    サービスを始めたときに特に苦労したことは何でしたか?

    駆け出しの時に一番困ったのは、やはり業界について“知らないことが多すぎる”ことでした。私自身は管理業の経験がありません。ただし、うちのメンバーには不動産管理会社出身の人もいたので、何も知らないというわけではありませんでした。それでも、実際に自分が管理業出身であるわけではないという点は大きなハンディキャップだったように思います。

    一方で、オーナーは経験があるので、オーナーの気持ちを理解できることは良かったですね。この経験は、サービス開発において重要な視点を提供してくれました。

    この業界に関しては人脈もコネクションも全くない状態から始まりましたが、苦労したというよりも「楽しい」と感じていました。日々、様々な新しい出会いがあったからです。

    例えば、「GMO賃貸DXWEBメディア」での活動や、2021年に開催したReTech Summit 2021 byGMO(リテックサミット)というイベント、そして継続的なメディア活動を通じて、業界の著名人にお会いする機会を数多く作ってきました。現在もその活動を続けています。

    業界のトップランナーのような方々に出会うことによって、知識はどんどん増えていきました。業界の現状や、どういったものが求められているのか、ということも理解できるようになりましたね。結果として、業界全体を盛り上げていけるような存在になれるといいなと思っています。

    不動産管理会社にサービスを提供する上で最も大切にされていることは何ですか?

    私たちのサービスの根本的なコンセプトは、「賃貸運営を楽にする」ことです。これは絶対に実現しなければならないと考えています。

    不動産管理会社の現在の実情を考えると、怒られやすい仕事であったり、作業的な業務が多かったりする仕事だと思います。また、日々のルーチンワークが比較的多い仕事でもあります。そういった業務をできるだけ減らすことができれば、オーナーへの訪問やAM(アセットマネジメント)的な仕事により集中していただけるでしょう。結果として高い生産性を実現し、収益が上がっていくことができればと考えています。

    この事業をスタートする前、実際に自分でオーナー業をやってみて、意外とローテクだなと感じました。これは創業する5年前、つまり6〜7年前の話です。

    現在では申し込みシステムや退去申請システム、様々な管理ソフトなども進化してきていますが、7年前と比べるともっとローテクな状況でした。だからこそ「賃貸運営を楽にする」というコンセプトを一番に掲げたいと思っています。

    今後のビジョン──“仲間づくり”を軸にしたホールディングス構想

    GMOインターネットグループとしての事業方針についてお聞かせください。

    私たちGMOインターネットグループは、基本的にインターネット関連事業のみを行うという方針を持っています。そのため、オーナー業や不動産賃貸管理といった実業は行いません。

    私たちはあくまでもインターネットを通じて、管理会社の皆様の業務効率化と収益向上をサポートすることに専念しています。

    創業から5年経過しましたが変化したことはありますか?

    多くの不動産管理会社様に当社ならびに当社製品を受け入れていただき、心より感謝しています。まだ駆け出しの頃は、GMOがまるで黒船来航のようにも言われましたが、業界のルールや人間模様を含め何も知らずに、この業界に参加させていただきました。

    多くの方とのつながりを持たせていただき、今はGMO ReTechが何をしている会社なのかを、この5年で知っていただけたと思っています。これからも、このご縁や関係を大切にしながら、引き続きこの業界でご一緒できればと思っています。

    今後、チャレンジしたいことがあれば教えてください。

    GMO TECHホールディングス株式会社の下に、さらに会社を増やしていきたいと考えています。仲間に加える会社については、上場会社レベルの企業を対象として考えています。仲間づくりの対象は不動産業界に限定していません。ただし、不動産テック事業があるため、不動産業界の会社も積極的に検討したいと考えています。

    また、当社の『GMO賃貸DX オーナーアプリ』に関しては、コンペティションにおいて連続して勝利を収めている状況です。市場において強いポジションを確立できていると感じています。

    これらの戦略を通じて、不動産テック業界におけるリーディングカンパニーとしての地位をさらに強固なものにし、業界全体の発展に貢献していきたいです。

    この先5年のビジョンについて教えてください。

    多くの不動産管理会社様とお知り合いになり、友人なども増えました。この業界をさらに良くすることに貢献したいという気持ちが強くあります。

    まず、不動産管理会社様はどうしても入居者様からのご意見・ご要望などマイナスな仕事が多く、悪い評価を受けてしまうことが増える仕事であることです。こうした部分も改善できるような仕組みを提供していきたいと思っています。

    不動産管理会社様の仕事は、オーナー様や入居者様と関係性を築きながら、長期的なパートナーとして寄り添うお付き合いができる魅力的な仕事だと感じています。一方でマイナスな仕事や、悪い評価を受けてしまうことも課題として直面しています。こうした部分も改善できるような仕組みを提供していきたいと思っています。

    また、なかなか難しいのですが、現在は管理料以外では付帯サービスが大きな収益源だと思いますが、他にも売上を上げられるような仕組みや商品を提供できればと考えています。

    不動産管理会社様の未来が明るいものであることが、私たちGMO ReTechの未来にも直結します。だからこそ、両者にとってプラスになるような製品開発を今後も続けていきたいと思っています。

    本記事のインタビュアー紹介

    株式会社Enpathy 代表取締役
    髙栁 裕司 様

    2008年に株式会社ネクスト(現 株式会社LIFULL)入社。LIFULL HOME’Sの賃貸営業部門に営業として配属され、営業マネージャーを経て2014年より賃貸事業部副部長 兼 株式会社レンターズ取締役、BtoB事業の立ち上げを担当。2017年に鈴木誠氏と一般社団法人日本賃貸仲介協会を設立(現在は日本賃貸住宅管理協会内の協議会へ活動を統合)。2020年にFreedraw株式会社を共同創業し、不動産業界への新規参入を検討する企業を中心に事業立案支援や中立的な立ち位置を活かしたアライアンス支援を実施。不動産業界に特化したサービスを提供するため、2023年2月に株式会社Enpathyを創業。同年8月に日本賃貸住宅管理協会内で発足された賃貸管理リーシング推進事業者協議会幹事 兼 事務局就任。

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