<34コツ目>サブリースはなぜこれだけ日本で普及したのか?

賃貸管理業の実務について、様々なテーマを取り扱ってきましたが、今回はサブリースについて考えてみたいと思います。
最近の新築の賃貸住宅の管理受託形態は、その多くがサブリースになっているように感じます。
また、中古の賃貸住宅も一般の管理受託から、サブリースに切り替わるケースも多く見られます。そういった意味で、今後、そのシェアをさらに広めていくものと思われます。
契約形態
まずは基本事項として、サブリースの契約形態を確認したいと思います。
サブリースは賃貸住宅の所有者(オーナー)様からサブリースを行う賃貸管理会社 (サブリース会社)に、通常は1棟まるごと賃貸します。そして、サブリース会社が これを戸別に入居者に賃貸する形態です。
このため、オーナー様から賃貸管理会社を通じて、入居者に「又貸し(転貸)」することになります。この又貸し(転貸)は、一般の賃貸借契約では禁止されています。オーナー様の想定していない人が勝手に住んでしまって、問題を起こすことを避けるためです。 私も40年近く前にサブリース会社に入社し、社員としてオーナー様にサブリース の説明を行う際、このことを良く指摘され、説明に苦労したことを覚えています。つまり、又貸しを専門にする怪しい会社だと思われたからです。
現在ではサブリースという管理形態の認知も広がり、オーナー様へのご説明も以前ほど苦労しなくなりました。さらに、オーナー様と賃貸管理会社との賃貸借契約をマスターリース、賃貸管理会社と転借人(入居者)との賃貸借契約をサブリースと呼ぶのが正しい呼び方になります。法律(賃貸住宅管理業法)上は、このマスターリース契約を特定賃貸借契約と呼んで、 トラブルが起きないように規制されています。
一般の管理受託との違い
このサブリースが一般の管理受託と異なる最大の要素はサブリースが実質的な経営代行であるという点です。管理受託もサブリースも、両者とも入居者の募集や家賃の集金を行い、クレームの受付や対応を実行し、建物の管理をする点では変わりありません。
しかし、管理受託は原則としてすべてオーナー様の判断を仰ぎながら、これらを進めていくのに対して、サブリースは賃貸管理会社自身の判断で進めます。この点が経営代行と言われる所以(ゆえん)です。 サブリースは、サブリース会社が自身の判断で賃貸住宅経営の様々な判断を行うことが できる自由(権利)を保有していることとセットで、空室や家賃滞納のリスク、あるいは入居者とのトラブルに対する直接的な責任(義務)を持ち、賃貸住宅経営にあたります。
メリットとデメリット
次にサブリースのメリットやデメリットについて、考えてみましょう。
オーナー様にとって
メリット
・実際の空室の有無や入居者の家賃の滞納に関係なく、一定の家賃が入ってくる・賃貸住宅の経営に関する知識がそれほどなくても賃貸住宅経営が可能
・入居者と直接対峙しなくてもよいので、精神的な苦労が少なくて済む
・オーナー様にとっての会計上の収支はマスターリースの部分だけとなる ため、確定申告等、比較的手続きが簡単で内容も理解しやすい
デメリット
・基本的に賃貸住宅の経営のほとんどを賃貸管理会社に委ねているため、賃貸管理会社の経営の巧拙(こうせつ)によって、オーナー様自身の収益 に大きな影響が出る
・賃貸管理会社にどのくらいの利益が取られているか分かりにくい
・仮に入居者や建物に大きなトラブルが内包されていた場合、賃貸管理会社 からの報告がなければ直前までこれを把握できない可能性がある
賃貸管理会社にとって
メリット
・賃貸住宅の経営上の様々な判断について、その都度、オーナー様の確認を しなくてもよいため、スピーディーな管理を実現できる (これが収支の改善や入居者からのクレーム軽減につながる)
・管理受託という機能に加え、空室や家賃の保証的な要素も加わり、利益確保がしやすい
・一般の管理受託の場合、取得できる手数料の中で入居者入替時の手数料の占める割合が大きい。このため、賃貸管理会社として単純に収益から見れば、入居者が多く入れ替わってもらった方の収益が多くなるこれに対してオーナー様から見れば、入居者には出来るだけ長く住んでもらった方の収益の方が大きいサブリースの場合は、この利益相反が発生しないため、オーナー様の収益の最大化に貢献しやすい土壌がある
・多くの管理戸数を保有する賃貸管理会社にサブリースという管理形態を組み合わせると「巨大な大家」が誕生することになるこれにより巨大な大家にしかできない賃貸経営手法を取ることができる
例1)大企業を相手に、社宅として入居者をまとめて確保できる
例2)巨大な大家として広告を効果的に配信できる
例3)一定のエリアにサブリースの賃貸住宅をまとめて保有できればそのエリアの家賃相場をコントロールすることができる
デメリット
・空室対策の失敗等で、大量の空室が発生すると会社そのものの経営リスクとなる
・地域の家賃相場そのものが下落した場合等により、オーナー様との間で マスターリース賃料の減額交渉が必要になった場合、それまで賃貸住宅の経営そのものに携わっていなかったオーナー様への説得に苦労する可能性がある
・入居者との大きなトラブルが発生して裁判になった場合、当事者として、 その裁判費用や賠償リスクが生じる可能性がある ・管理している部屋が、いわゆる「事故物件」になった場合、そのリスクを 被る可能性がある
サブリースはなぜ、日本に多く普及し世界的には普及しないのか
サブリースは日本では多く普及していますが、世界的にはそれほど多くは普及していません。というより、海外でもサブリース(実際にはマスターリースのこと)は、ケースとしてある程度あると思いますが、日本のサブリースと少し意味が異なっているといった方が正確かもしれません。
日本のマスターリースは、オーナー様に毎月定額の家賃をお支払いすることを主眼としていると思います。 これに対して海外のマスターリースは、賃貸住宅の所有者が直接入居者と契約に関わらないようにするという目的でサブリース会社を挟むケースが多いと思います。 従って、マスターリースの家賃も入居者からの家賃収益をいったんそのまま全額受け取り、別途、管理会社に経費や手数料を支払うといったケースもあります。(この場合、家賃は毎月定額ではなくなり、日本とは異なります)
それではなぜ、この「日本式」サブリースが普及しているのでしょうか?
これには日本独特の事情があると思います。
良し悪しを別にして日本には強力な居住権が存在しているため、これが経営リスクとなり、多くの賃貸住宅を保有して自ら運営する「プロ賃貸経営者」が育ちにくい環境 だったのではないかと推測しています。
また、土地の区画も小さなものが多いことから大型の賃貸住宅が建てにくく、こういった事情も「プロ賃貸経営者」にとっては、参入障壁になったのではないかと思います。一方で、この小さな区画の土地を保有している地主さん達には、相続対策を行わなければならない事情もあり、保有している土地に対して何らかの有効活用が求められることになります。
高度成長期、人口集積地には賃貸住宅の需要が非常に高かったことから、多少の経営リスクはあっても、入居者を選別することや、礼金や更新料の収入を追加で得ることで対応しながら、地主さんたちが賃貸住宅を建てられたのではないかと思います。
その後、高度成長期は終焉を迎え、賃貸住宅の需要も以前ほどではなくなりましたが、 相続対策はなくなるわけではありません。地主さん達としては引き続き、土地の有効活用として賃貸住宅経営を選択したい気持ちがありました。
賃貸住宅経営は選択したいが、自分たちは賃貸住宅経営のプロではない。ここに登場したのが日本式サブリース会社ではないかと思います。 サブリースという手法によって、賃貸住宅のリスクを丸ごと引き受けることが可能になり、結果として地主さん達も安心して、土地の有効活用の手段の一つとして賃貸住 宅を建てられたのではないかと思います。
つまり、賃貸住宅経営が分からない地主さん達が取り組める土地の有効活用の手段として、経営のリスクごと引き受ける賃貸住宅のサブリースが最適だったのではないでしょうか?
サブリースは中古で本領発揮
さて、サブリースは新築からスタートするケースがほとんどですが、サブリースが本領を発揮できるのは、建物が古くなってからではないかと思います。
新築後、しばらくは入居者の募集にもそれほど困りませんし、設備の故障もほとんどありません。
サブリースが本領を発揮できるのは、賃貸住宅経営の難易度が増す築20年以降ではないかと思います。
理由は以下の通りです。
築20年を超えると築古を敬遠する入居者が出始め、設備も故障の頻度が高くなります。また、間取りや設備が陳腐化してきたり、外観や内観のデザインも古めかしく見え始めます。
これらの中古物件に対して、一般の管理受託をしている管理会社でもアドバイスはしますが、これらのアドバイスを受けて判断した結果責任はオーナー様が追わなければなりません。これに対して、サブリースの場合は、アドバイス云々よりもサブリース会社が提示したマスターリース家賃により、実質的にサブリース会社が責任を負う事になるからです。
まとめ
今回はサブリースについて考えてきました。サブリースは私が経験した管理会社で主力の事業だった事もあり、多少熱が入り、意見が偏ってしまったかもしれません。
最後になりますが、サブリースを長年ご契約頂いているオーナー様と家賃の見直しで交渉する際に重要なポイントがあります。
よくサブリースの同業者と情報交換する際、転借人に貸している家賃が過去にいくらだったから、これに合わせていくらにしてほしいと言う交渉をする話をお聞きしますが、私は少し違った話をします。その時の交渉によって見直す家賃は、そこから先の期間のオーナー様との家賃の取り決めになります。
従って、未来の転借人とのサブリース家賃を予測し、これに応じたオーナー様への家賃を取り決める作業だと思うのです。
つまり、転借人との家賃が過去にいくらだったから、いくらにしたいと決めるのではなく、転借人との家賃がこれからいくらになりそうだから、いくらにしたいと決める作業なのではないでしょうか。サブリース家賃の取り決めは、オーナー様と未来の家賃のお約束をする事だと思うからです。