不動産鑑定評価とは|不動産鑑定の必要性と鑑定方法
不動産鑑定評価は不動産の経済価値を見定めて、価格として表示することをいいます。主に、不動産の『相続・売買・会計処理』などをする際に実施されることが多く、公正な取引を行うために不動産鑑定士が評価しなくてはなりません。
また、不動産鑑定評価がどのような方法で行われて、何を基準に評価しているのかを知っておくことで、不動産鑑定評価の信用性を認識できます。
これから不動産売却や相続を検討している場合は必ず鑑定評価をして、不動産の適切な価値を知ることが必要です。そこで、当記事を参考に不動産鑑定評価の『流れ・期間・相場』について確認しておくことで、鑑定評価とはどんなものなのかイメージできるようにしておきましょう。
不動産鑑定評価とは
不動産鑑定評価とは、土地や建物といった不動産の適正な価格を判断することを言います。
不動産鑑定評価は誰でもできるわけではなく、国家資格『不動産鑑定士』の所持者だけが行える業務です。また、鑑定評価は『不動産の鑑定評価に関する法律』に基づいて実施されます。
不動産鑑定評価の業務は個人・法人が所持する不動産のみならず、以下のような国や自治体が実施する不動産価値に関する価格の基準設定など公的な場面でも行われます。
- 地価公示・地価調査
- 相続税路線価評価
- 固定資産税評価
不動産鑑定士とは
不動産鑑定士とは、不動産の『相続・賃貸・売買』などで、不動産の適正な価格を知る必要があるときに、その時の情勢や経済状況を踏まえて不動産の価格を判断できる資格のことを指します。
基本的には不動産の鑑定評価を業務としていますが、不動産に関する専門的な知識を生かして、土地の有効活用についてなどのコンサルティングを行うことも可能です。
また、他にも不動産業界に限らず金融業界や国・都道府県の業務などを請け負って幅広く活躍できる国家資格となっています。
不動産鑑定と不動産査定の違い
不動産鑑定とは別に、不動産の価格を判断する業務として『不動産査定』というものがあります。
不動産査定とは不動産会社などが『対象物件が売却できそうな価格』を算出する業務のことです。不動産鑑定との違いとして、不動産鑑定は『不動産鑑定士』が判断・算出、不動産査定は『不動産会社』が独自に判断・算出するという違いがあります。
- 不動産鑑定:経済情勢・市場状況を踏まえて適正な価格を『不動産鑑定士』が価格の判断をします。
- 不動産査定:不動産会社が『対象物件の売却価格』を独自に判断します。あくまでも、査定価格は『その不動産会社内でのみ適応される売却価格』です。
なぜ不動産鑑定が必要なのか
不動産鑑定は、不動産査定と違い『適正な価格』を算出する際に必要とされ、『適正な価格』とは具体的に以下のような場面になります。
【不動産鑑定が必要とされる場面】
- 公示地価の調査時
- 固定資産税・都市計画税の算出時
- 金融機関が融資をする際に、不動産の担保価値を算出する時
- 複数人で遺産の不動産を均等に分けたい時
公示地価など全国の不動産会社が基準として判断する価格や、固定資産税など対象者によって税金の基準がずれてはいけないものなどの価格を算出する際に不動産鑑定が必要とされます。特に国や地方自治体においては、適正な価格を算出して基準を作ることが求められる場合が多いので、不動産鑑定が定期的に行われます。
不動産鑑定は『不動産鑑定評価基準』をもとに行われる
不動産鑑定評価は『不動産鑑定士』が行います。その際、判断基準が不動産鑑定士によってバラつきが出てしまっては適正な価格であると言えないので、鑑定評価を行う時は『不動産鑑定評価基準』に基づいて行われます。
不動産鑑定評価基準は主に以下の3つの手法を利用して、適正な評価額を算出します。
- 原価法
- 取引事例比較法
- 収益還元法
基本的に、適正な価格を算出するには1つの方法だけではなく複数の手法を適用すべきとされています。また、複数の手法の適用が困難な場合においては、なるべく手法についての考え方に基づいて算出するよう心がけるように努めなくてはなりません。
原価法
原価法は以下の式で不動産の価値を算出できる方法のことを言います。
『再調達原価』 - 『減価修正』 = 『試算価格』
- 再調達原価:算出時の不動産と全く同じものをその土地に作ったら、いくらかかるのかを算出した価格。
- 減価修正:算出時の不動産が傷んだり古くなっていたりした場合に差し引く必要のある価格。
原価法は『建物・造成地・埋立地』などの鑑定評価に用いられる手法で、既成市街地の土地の場合には用いることができません。なぜなら、既成市街地の土地だと『再調達原価』を求められないからです。
取引事例比較法
取引事例比較法は以下の方法で不動産の価値を算出できる方法のことを言います。
- ①対象物件と条件が類似した事例を多数集める
*投機的な不動産事例など適正を欠くものは採用しない - ②各事例に対して「特定の補正」が必要な場合は行う
- ③不動産周辺の地域要因(土壌汚染など)による補正がある場合は行う
- ④求めた各不動産の価格を比較することで対象物件の価格を算出
②における「特定の補正」は以下のような場合における補正を示します。
- 営業都合による場所的制限や特殊な使用方法を前提に取引されている場合
- 相続・転勤などにより売却を急がれたことにより適正な価格で取引されなかった場合
- 知人・親戚などの関係性によって恩恵的な不動産の取引が行われ適正な価格で取引されなかった場合
取引事例比較法においては、いかにして客観的で特殊条件を含まない類似物件を見つけて比較できるかが重要です。
収益還元法
収益還元法は『対象物件を賃貸した場合いくらで貸し出せるか』を求めて、そこから逆算することで対象物件の価格を算出する方法です。
収益還元法の場合、『貸し出した場合の収益予想』をもとに計算するので、学校や公園といった公共公益目的に建設されている不動産などを対象に適用することができません。
つまり、所有する不動産が仮に営利目的で運営していなかったとしても、営利目的で利用することが可能な不動産であれば計算することが可能ということになります。
不動産鑑定に影響する3つの要因
不動産鑑定評価は様々な要因をもとに適切な価格を算出してきます。複数ある要因は主に『一般的要因』『地域要因』『個別的要因』の3つに分類することができます。
- 一般的要因
一般的な経済社会で、不動産の使われ方や価格水準に影響を与える要因のことをいいます。
どんな立地か、気象条件や地盤はどうなっているのか、法的な規制はどうなっているかなどが影響する要因です。 - 地域要因
『宅地地域(住宅地域、商業地域)』『工業地域』『農地地域』『林地地域』に分けた地域に応じて発生する要因のことをいいます。 - 個別的要因
土地と建物それぞれにおいて個別性(地盤・築年数・耐震性能など)を伴う要因のことを言います。
【不動産の価格に影響する要因詳細】
一般的要因 |
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地域要因 |
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個別的要因 |
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不動産鑑定評価の流れ
不動産鑑定評価の流れは一般的に以下のような順序で進められます。
- 不動産鑑定士または不動産鑑定事務所に相談
- 費用の見積もりを依頼して納得のいく内容であった場合は委託契約を結ぶ
- 不動産鑑定士に不動産に関する資料を提出
- 不動産鑑定士が現地調査および法務局や市町村の関係官公庁において不動産の調査を開始
- 登記簿謄本・要因資料・取引事例などの資料から不動産鑑定基準に基づいて評価する
- 不動産鑑定評価書の説明を聞いて、問題がなければ受け取る
不動産鑑定評価の結果は、基本的に『不動産鑑定基準』に基づいて行われるため大きな差は生まれません。しかし、依頼料に関しては不動産鑑定士・事務所によって変わってくるので、事前に見積もりをとって自身の予算と照らし合わせて委託契約を結ぶかどうか判断しましょう。
不動産鑑定にかかる期間
不動産鑑定にかかる期間は『依頼先』『依頼件数』によって変わってきますが、一般的に委託契約完了から不動産鑑定評価書の納品まで1〜2週間かかります。
また、不動産鑑定には『簡易鑑定』と『一般鑑定』というものがあり、簡易鑑定の場合は最短で2〜3日で鑑定内容を知ることができます。
- 簡易鑑定:正式書類を必要とせず価格を知りたいだけの人向けの鑑定方法
- 一般鑑定:対外的に正式な書類が必要な人に向けて行われる鑑定方法です。
不動産鑑定の相場
不動産鑑定の相場は『鑑定評価額』『不動産の種類』によって変わります。具体的な内容は以下の通りです(あくまで目安にしてください)。
鑑定評価額が1,000万円以下 |
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鑑定評価額が5,000万円以下 |
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鑑定評価額が1億円以下 |
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鑑定評価額は評価が完了しないと算出できないので、事前にはっきりした金額を出してもらうことは難しいですが、前もって不動産鑑定士に相談すれば過去の経験から評価額が概ね算出できて鑑定費用を出してもらえる場合もあります。
また、『簡易鑑定』と『一般鑑定』でも費用に差があり、簡易鑑定であれば一般鑑定のおよそ半額程度で鑑定が可能です。自身の用途に合わせてまずは不動産鑑定士にどちらの鑑定方法で依頼するか相談するのがおすすめです。
まとめ
不動産鑑定評価は不動産鑑定士が、その時点での経済情勢などに合わせて不動産の経済的価値を見定める業務のことを言います。不動産査定と違って、不動産鑑定は国家資格である不動産鑑定士の資格を有する人しか行うことができず、その業務は不動産業界だけにとどまらず国や地方自治体などの公的な業務でも活用されています。
また、不動産鑑定は『原価法』『取引事例比較法』『収益還元法』の3つの方法を駆使して行われ、不動産に関する多くの要因を見定めながら適正な価格を算出します。
もし、自身の不動産の経済的価値を知りたい場合は、まず不動産鑑定士か不動産鑑定士事務所に相談をして依頼料の見積もりをするところから始めてみてください。
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