マンション管理士とは|管理業務主任者との違いと試験概要&難易度
管理会社の業務の一つとして「マンション管理士」によるサポート業務を取り入れることで組合とのつながりを強くしようという動きも一部企業には見られます。そのため、マンション管理士の資格は就職や転職に役立つ資格としても注目されています。
そんなマンション管理士についての詳細と試験内容について詳しく解説しているので、これから試験を受けようとしている、もしくは受けるべきか悩んでいる人はぜひ参考にして検討してください。
マンション管理士とは
マンション管理士とは、管理組合の運営やマンションの管理についての専門的な知識を有しており、その知識を使って区分所有者の相談や援助を行う人のことを指します。マンション管理士の資格は国家資格で、試験に合格した人が各地方自治体でマンション管理士としての登録を済ませた場合のみ、『マンション管理士』としての仕事をすることができます。
また、マンション管理士の資格は「管理業務主任者」の資格とセットで取得する方が多いのですが、その理由として以下が挙げられます。
- 試験内容に重複する部分が多い
- 片方を取得していると、次に受ける一方の試験では5問免除が受けられるメリットがある
- 両方持ち合わせると、業務委託の締結や管理組合からの相談まで全て一人で完結できる
特に最後の、業務を一人で完結できるという点においては市場価値を高めることにも繋がるので、不動産管理に従事している方も、これから検討している方もぜひ把握しておいてほしい内容です。
管理業務主任者との違い
通信講座などでセットとして扱われることが多く、さらには試験範囲も重複するところが多い「マンション管理士」と「管理業務主任者」ですが、具体的にどんな違いがあるのでしょうか。
まず、一番大きな違いとしては、不動産管理会社と管理組合のどちらと接する機会があるか…という点です。
例えば、マンション管理士は管理組合からの相談を受けるのが業務なので管理組合から必要とされます。一方で管理業務主任者の場合は、不動産管理会社が組合と業務委託を結ぶ際に必要な資格なので管理会社に必要とされます。
他にも以下の表のようにそれぞれ業務内容に違いがあります。
 
マンション管理士 | 管理業務主任者 |
---|---|
マンションの管理規約および使用細則の作成。 大規模修繕計画の策定。 区分所有者間のトラブル解決へ向けた予備交渉。 マンション管理に関する住民相談受付。 |
管理組合などに対して行う管理事務の報告。 管理委託業務に関する重要事項の説明。 マンションの設備や組合運営に関するマネージメント。 |
基本的にマンション管理士は『相談窓口』で、管理業務主任者は『事務処理係』のような役割を持ち合わせています。
「管理業務主任者」について細かく記載している記事もありますので、気になる方は下記からチェックしてみてください。
参考:管理業務主任者とは|マンション管理士との違いと試験概要&難易度
マンション管理士の年収
マンション管理士は、国家資格でマンション管理の専門家であり、マンションの管理・維持に対して提案や改善指導を行うコンサルのような立場です。
そのため、個人で活動もできるので独立開業して業務を行う人もいます。自身の努力次第で収入は伸ばし続けることができますが、正社員で働くとなった場合はどれくらいになるのでしょうか?
正社員で企業に勤めているマンション管理士の年収は約400万円と言われています。あくまでも400万円は平均の金額で、実際のところはそれ以上に稼いでいる人もたくさんいます。
もし、資格取得によって給与が上がる企業システムがあれば、本記事ではマンション管理士以外に複数の資格を取得することを推奨します。
例えば、『管理業務主任者』や『簿記』などです。
管理業務主任者を取得していれば業務委託契約から相談窓口まで管理組合とのやり取りを全て行うことができますし、簿記を持っていれば管理組合の帳簿からどのように運営すべきかお金の部分まで詳しくアドバイスができるようになります。
上記のようにマンション管理士+αで業務の幅を広げることができれば、年収UPへ繋がる可能性も高まります。
マンション管理士の業務内容
マンション管理士の業務は管理組合へのサポートがメインですが、具体的にはどのような業務があるのか見ていきましょう。
【マンション管理士の業務】
- 相談業務
管理組合からのマンション管理に関する相談に対して回答や必要な助言を行う。
- 運営診断業務
管理規約や運営状況と照らし合わせて管理組合の運営の適法性及び適正性を診断し、問題点や改善の提案など行う。
- 立会い業務
マンションの修繕や建て替えなどに関する会議に参加し、説明や質疑を組合に代わって行う。
- 顧問業務
理事会が行う業務のトータル的な助言・指導、その他の援助を行う。
- 管理規約に関する業務
管理規約の内容を診断し、見直しや新規の規約案の作成を行う場合は改定案の作成、新規に設定する場合は規約案の作成などを行う。
- 管理委託契約に関する業務
管理委託契約及び管理業務仕様の妥当性を診断して問題点の改善や提案を行う。
このほかにも経理に関する相談事項の解決や提案など、マンションの管理に関する内容であれば基本的にほとんどの内容の相談を受けるのがマンション管理士の業務です。
マンション管理士試験の概要
マンション管理士試験の概要を把握しておくことで、これから受験を検討している人は試験の準備がしやすくなるので参考にしてください。
冒頭でも少し触れましたが、マンション管理士の試験内容は『管理業務主任者』の試験内容と範囲が重複する部分が多いので、もし管理業務主任者の資格を持っている場合は試験の難易度が大幅に優しくなります。
そのため、キャリアアップを目的としているのであれば、管理業務主任者とマンション管理士の同時受験をすると効率が良いので、その点も踏まえて試験概要を確認してみてください。
【マンション管理士の概要】
項目 | 詳細 |
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試験日 |
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受験申請期間 |
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受験料 |
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合格発表日 |
公益財団法人マンション管理センターから各受験者へ合否通知書を送付。 益財団法人マンション管理センターのホームページ(https://www.mankan.or.jp/)においても確認可能。 |
試験地 |
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受験資格 |
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試験方法 |
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試験科目 |
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合格基準点 |
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試験実施機関 |
マンション管理士試験の合格率(年度別)
以下の表はマンション管理士試験の平成27年度〜令和3年度までの合格率をまとめました。直近7年で見てみると、令和3年が一番合格率が高いですが、8〜10%付近と主に1桁代です。
受験申込者数 | 受験者数 | 受験率 | 合格者数 | 合格率 | |
平成27年度 | 16,466人 | 14,092人 | 85.6% | 1,158人 | 8.2% |
平成28年度 | 16,006人 | 13,737人 | 85.8% | 1,101人 | 8.0% |
平成29年度 | 15,102人 | 13,037人 | 86.3% | 1,168人 | 9.0% |
平成30年度 | 14,227人 | 12,389人 | 87.1% | 975人 | 7.9% |
令和元年度 | 13,961人 | 12,021人 | 86.1% | 991人 | 8.2% |
令和2年度 | 14,486人 | 12,198人 | 84.2% | 1,045人 | 8.6% |
令和3年度 | 14,562人 | 12,520人 | 86.0% | 1,238人 | 9.9% |
参考:マンション管理士試験について|公益財団法人 マンション管理センター
マンション管理士の合格率は、宅建士(約15~17%)や管理業務主任者(約21~23%)と比べるとやや低い傾向にありますが、試験内容自体は基礎的な部分もあるので、合格率が低いからと言って一概に「難しい試験」と断定してはいけません。一般的に、宅建よりは少し高い難易度であると言われています。
また、マンション管理士の試験内容は法律関係の科目が多いのですが、宅建士や管理業務主任者の資格を持っている、もしくは勉強している人にとっては、勉強範囲が重複する点が多いので勉強の効率が大幅アップします。
参考:宅地建物取引士(宅建士)とは|就職・転職に有利?宅建士になるとできる業務内容を分かりやすく解説。
出題科目
マンション管理士試験の出題科目は法律に関する内容がほとんどです。そのため、範囲自体はかなり広くなってしまうので、しっかり予定を立てて半年〜1年くらい前から勉強をスタートするのがいいでしょう。
【マンション管理士試験の出題科目】
- 法令に関する科目
- 民法など・管理組合の運営に関する科目
- 建築基準法等・建築設備に関する科目
- マンション管理適正化法に関する科目
大まかな配点として、法令に関する内容が7割、建築設備に関する内容が3割とされているので、基本的には法令に関する内容を重点的に試験対策するのがポイントです。
不動産業界において法令の試験範囲を覚えておくことは、不動産に関する他の試験をもし受けることになった場合に覚えた内容がかなり有利に働くので、マンション管理士の試験対策で終わりにする知識と思わず、一生使うつもりで知識を習得しましょう。
法令に関する科目
マンション管理士の試験において配点が7割近くあるのがこの『法令に関する科目』です。
法令に関する科目は4つに分類することができます。
- 民法・その他法令
- 区分所有法等
- 標準管理規約
- マンション管理適正化法
特にこの中でも『民法・その他法令』『区分所有法』『標準管理規約』で7割を占めるので、この3つの内容から試験対策をしていくのが合格への近道となるとも言えます。
ただし、上記の7割に入っていない『マンション管理適正化法』についての知識は、マンション管理士として活動していくには最も必要な知識なので、将来的な視点でみれば学んでおくことは必須と言えます。そのため、まずは試験対策をある程度こなした上で、時間に余裕ができた段階でマンション管理適正化法の勉強をすると効率的です。
建築基準法等・建築設備に関する科目
建築基準法や建築設備に関する科目では、建築材料・建築方法をはじめ、給水や換気、電気などのマンションの設備やその維持のための知識を問われる問題が出題されます。これらの出題範囲は法令関係までとはいかないもののとても広く、かなりの労力を要するので、試験対策をする際は法令関係に余裕ができてから開始するのがおすすめです。
「法令関係に余裕が出てからでは遅いのでは?」と心配になるかもしれませんが、法令関係の配点が7割近く、合格基準点が毎年約7割というのを踏まえると、法令関係だけでも9割近く取ってしまえば、あとは建築関係の科目で約2〜3割取れば合格なので、法令関係に絞って勉強した方が合格率は高まります。
マンション管理士試験の勉強方法
マンション管理士試験の範囲は法律を含むためかなり広いので、400〜500時間ほどの勉強時間は確保すると合格に近づくと言われています。そのため、自身の生活に合わせて予定を組んでいつから勉強を開始するべきか計画を立てなくてはなりません。
その際に、『独学』『通信講座』どちらを選択するかで計画の立て方が大きく変わるので、以下で説明する内容を参考に、どちらの勉強方法を選択するか検討してください。また、検討するにあたり、時間の余裕・効率・費用・性格の4点にポイントを置きましょう。
独学のポイント
独学で勉強をする際は、勉強方法・勉強内容を教えてくれる先生がいないので、何から勉強すればいいか分からなくなりがちです。そんな時は以下の順番で勉強することを意識するようにしてください。
- テキスト(参考書)を複数回読み込む
- 過去問を解いて試験の形式になれる
テキストを選ぶ際は、内容は大切ですが自身が読みやすいかも重視して選択することを推奨します。厚ければ内容が充実しているというわけではないので、試しに読んでみて抵抗がないことが勉強を続ける上で重要なポイントです。もし、内容を重視したい場合は法令関係を重点的に学習できるテキストを選んだほうが効率よく勉強できます。
そして、テキストで勉強する際は1周で終わりにするのではなく最低でも3周するようにしましょう。この時のポイントとして、1周目ですべて理解しようとしなくていいです。
例えば、1周目は見出しと太字を流し読み、2週目でも熟読はいらないレベルで読み進める、3回目に細かい気になるポイントがないか確認しながら読む。知識を薄く何回にも分けて塗り重ねていくようなイメージで知識を吸収します。基本的に人間は忘れる生き物なので繰り返すことで理解を生むことを念頭に置いて勉強するようにしましょう。
そして最後に、ある程度テキストを周回したら試験1か月前くらいから過去問を繰り返して実践になれていくようにしましょう。建築関係の勉強は、過去問を開始するこのタイミングでも遅くないです。
独学は試験への意識を持ち続けることが一番大変なので、テキストも勉強時間・方法も自分に適したやり方をいち早く見つけるのが独学で成功するための一番のポイントです。
通信講座
通信講座で勉強をする場合は、まず初めに受講する講座のサイトで学習完了までにかかるおおよその時間を把握しておきましょう。
なぜなら、試験日までの勉強予定が決めづらいのと、万が一、時間が足りない場合どのくらいペースを上げてやるべきかを判断する必要があるからです。
基本的に通信講座を受けるうえでの勉強のコツはありません。素直に通信講座の勉強システムに従うようにしましょう。通信講座は、その試験に対するプロが考えた効率的に試験に受かるための最善の対策です。
ただし、注意点として通信講座は独学に比べて講座費用が4〜8万円とそれなりにかかるので、ご自身の金銭状況を鑑みて検討してください。
まとめ
マンション管理士は管理組合から相談・依頼を受けて管理・運営のサポートをする職業のことを言います。
マンション管理士は勉強範囲が重複する箇所が多いことから管理業務主任者とセットで受験をすすめられことが多いです。業務内容としては全然違うものの、セットで資格を取得しておくと、管理組合の業務委託から相談まで一連の流れで受けることができるので、不動産管理会社内での存在価値を高めることが期待できます。
また、マンション管理士は会社内だけにとどまらず、独立開業して個人でビジネスをしていくこともできるので、更なる収入UPを目指している方は独立も視野に入れて資格取得を目指すのも一つの方法です。
不動産業界で携わり続けるのであれば、マンション管理士の資格勉強は宅建士・管理業務主任者などに通ずる点が多いので、資格取得するかどうか悩んでいるようであれば前向きに検討することをおすすめします。