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原状回復によるトラブルを防ぐには?入退去時に注意すべき点と揉めないためのポイント

原状回復は入居者が退去する際に、不動産事業者が必ず行う作業の一つです。原状回復の調査では契約者と揉めやすく、入居時にきちんとした取り決めをしておかないと円滑に退去が進まない可能性があります。

そうならないためにも、『原状回復で揉めないためのポイント』を当記事で確認して、現在の規約に改正を加える必要がないか検討してみてください。

ちなみに、『現状回復』とは書かずに『原状回復』と書くのは、『原状』という漢字の意味が『初めにあった状態。もとのままの形態。』を意味するからです。

目次

    不動産業界における原状回復とは

    不動産業界における原状回復とはの写真①

    不動産業界における原状回復とは、賃貸契約が終了した際にその物件を契約開始時の状態に戻すことを言います。

    とはいっても、実際は契約時の状態にそっくりそのまま戻す必要はなく、『本来存在したであろう状態』に戻せば良いとされており、一般的な生活で発生する汚れをクリーニング業者に依頼して清掃をしてもらい、その時点で落ち切った汚れまでで原状回復を完了させる場合がほとんどです。

    しかし、一般的な生活で発生する汚れではなく、物件の利用者の故意・過失、その他通常の使用を超えるような損耗・毀損(きそん)に関しては、すべて修理・復旧する必要があり、契約時の状態にきっちり戻さなくてはなりません。そして、その際に発生する費用は、不動産事業者ではなく契約者が全額負担しなくてはなりません。

    この『契約者が全額負担』という点において、原状回復では、どこまでの損壊・汚れを契約者が負担するのかが原因で揉めることが多いです。そこで、トラブル回避のために国土交通省は『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』というものを発行して、契約者がどの範囲まで負担しなくてはならないのかを提示しました。

    不動産事業者は基本的に『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を基に、原状回復の査定を行ったり、特約を追加したりします。

    原状回復のガイドラインとは

    原状回復のガイドラインとは、国土交通省が発行している『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』のことを示しています。

    今まで、原状回復において『原状に戻す』という概念の線引きが曖昧であったため、敷金の返還をめぐってトラブルが多発していました。その状況に対して、国土交通省は原状に戻す範囲を明確にするために、1998年に『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を発行しました。

    ガイドラインの内容では以下のように、原状回復範囲を定めています。

    部位 一般的な劣化(大家負担) 通常の仕様で発生しない劣化・汚れ(入居者負担)
    壁・天井(クロスなど) テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ) タバコ等のヤニ・臭い
    壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの) 壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替が必要な程度のもの)
    壁に貼ったポスターや絵画の跡 台所の油汚れ
    エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡 クーラー(賃借人所有)から水漏れし、放置したため壁が腐食
    建具(襖・柱など) 網戸の張替え(破損等はしていないが次の入居者確保のために行うもの) 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
    地震で破損したガラス 落書き等の故意による毀損
    網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
    設備・その他(鍵など) 全体のハウスクリーニング(専門業者による) ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
    エアコンの内部洗浄 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等
    浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のため行うもの) 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
    鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合) 鍵の紛失、破損による取替え
    設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの) 戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

    表の内容をもとに、線引きを行い原状回復費用の請求額を査定してみてください。また、曖昧で心配がある部分は、不動産事業者側で特約を作成して、契約時に行う重説で取り決めの説明を行いましょう。

    原状回復にかかる費用相場

    原状回復にかかる費用相場①

    原状回復にかかる費用の相場を把握しておくことで、敷金の設定が立てやすくなったり、業者へクリーニング・補修を依頼する際に大まかな予算を立てやすくなったりします。また、費用について契約者と揉めても適正な価格で請求していれば自信を持って説明ができます。

    以下は、原状回復にかかる相場表です。

    相場確認対象 相場・詳細
    間取り 相場→およそ平均30,000~40,000円
    ワンルーム・1K→15,000~30,000円
    1DK・1LDK→20,000~40,000円
    2DK・2LDK→30,000~50,000円
    3DK・3LDK→50,000~80,000円
    4DK・4LDK→70,000円~
    壁・天井の壁紙張り替え 相場→30,000~60,000円
    1㎡あたりの張り替え費用は1,000~1,500円
    基本的には壁紙のみだが、タバコなどのヤニで黄ばんでいる場合は天井も張り替え
    壁・天井のボード交換 相場→15,000~25,000円
    壁紙だけでなく、その下のボードまで破損してしまった場合のみ交換
    床のクリーニング 相場→5,000円~20,000円
    洗剤・薬品で落とせる範囲の汚れであれば、概ね相場通りに清掃できますが、過度に汚れてしまっている場合は追加費用が掛かります
    水垢・カビのクリーニング 相場→15,000円~25,000円
    コゲや油の付着がひどい場合は追加で費用が掛かります

    表の相場は、原状回復が必要だが清掃・修理の程度が低くて済む場合の価格です(上記の表はあくまで目安です)。そのため、汚れがひどい場合や、損壊度合いが大きかったりすると、さらに追加で費用が掛かってしまいます。

    参考記事:退去時の原状回復費用は貸主・借主どっちが払う?相場や起きやすいトラブルと対策も紹介

    原状回復でトラブルを避けるためのポイント

    原状回復で揉めないためのポイントの写真①

    国土交通省により『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』が発行されたことで契約者と揉めるケースは減りましたが、それでもゼロになったわけではありません。

    契約者によっては、費用に関する取り決めに理解は示すものの、入居時に説明を受けてないなどの理由で支払いを拒む人もいます。他にも、床材の耐用年数を過ぎていることから、『契約者側の負担はゼロ』として支払いを拒まれる場合もあります。

    上記のような、契約者からの『支払い拒否』の申し出は基本的に受け付ける必要はありません。しかし、「支払い拒否は受付けません」という一言で済ませてしまっても、契約者側が納得できないまま終了してしまうので、良好な関係で退去していただくためにも契約者が納得する形で説明をしてから退去してもらうことが大切です。

    契約者に納得してもらい、揉めないためには以下のようなポイントを意識してみてください。

    • 入居時の状態を記録として残しておく(マスト)
    • 敷金の設定を相場よりやや高くする
    • 特約を記載して契約者に伝える
    • 「耐用年数越え=入居者負担ゼロ」ではないことを伝える
    • オーナーとの連絡をこまめに取り内容を決める

    入居時の状態を記録として残しておく

    入居時の状態を記録として残しておくことで、退去時に修理・クリーニングを行う箇所の責任の所在を明確にできます。また、記録として残しておけば、原状回復をする際に業者に対して『原状がどうなっていたのか?』を説明できるので、修理・クリーニングを依頼する時に作業が円滑に進みます。

    入居時の記録の残し方としては、以下の方法がおすすめです。

    • 国土交通省が提供する原状回復確認リストを使って記録
    • 動画・写真・イラストなどにより記録

    オンラインで内見を済ませる方も増えてきている中で、動画による記録は効果的です。オンライン内見の映像をそのまま記録しておけば、実際に入居者が見た映像をそのまま記録として残せるので、退去時に『見た・見てない』で揉めるリスクが下がります。

    入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト

    『入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト』とは、国土交通省が提供しており、入居時と退去時の物件の程度差を明確にすることができるリストです。

    このまま使うのも良いですし、各不動産事業者の原状回復の規定に合わせて変更しても問題ありません。

    記入する際は綺麗な部分と汚い部分を明確に記しておくことで、退去時に発見した汚れやキズが入居時からあったものなのかすぐにわかるようになります。

    また、記入したリストは入居後に不動産事業者と契約者(必要であればオーナーも)で1部ずつ保管しておけば、改ざんの心配がなくなるので、個人情報が記入されていないことを確認して、お互いに保管しておくのがおすすめです。

    動画・写真などで記録を残しておく

    動画・写真で残しておくことで、視覚的に記録を残せることから、退去時に揉めたとしても説得力のある資料として提示することが可能です。

    もし、記録の質を上げたい場合は、『入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト』と『動画・写真の記録』を合わせて保管しておけば、細かい部分まで記録として残せるので、退去時に細かい指摘が契約者からあっても対応することが可能です。

    敷金の設定を相場よりやや高く設定する

    敷金とは、賃料の不払いや未払いに対する担保、または入居中に発生した汚損・毀損(きそん)の修繕にかかる費用の補填金として、オーナーが入居者から預かるお金のことを言います。

    敷金を物件にかかると予想される原状回復費用の相場と照らし合わせて高めに設定しておくことで、最終的にかかる費用を敷金で賄える割合が上がります。そうすれば、契約者は最後に追加で費用を出さずに済むので、損をした気持ちにならず揉める可能性も下がるかもしれません。

    とはいえ、敷金は退去時にある程度返ってくるものと認識している入居者もいるので、トラブルを避けるためにも修繕費の見積書や敷金の使用明細は誠意をもって入居者に提示することが大切です。

    参考記事:管理費は何に使う?管理費の相場と決め方について詳しく解説

    特約を記載して契約者に伝える

    賃貸契約書に『特約』を加えることで、オーナーが負担する修繕費用を減額できます。

    特約に関しては、オーナーの負担額を減らせるメリットがありますが、入居者側からしたら『通常であれば払う必要のない分まで払う』ことになるので不満に感じてしまい、そこから揉め事に発生する可能性も忘れてはいけません。

    そのため、最初の契約時に担当者は必ず特約があること説明して、承諾してもらうようにしましょう。また、可能であれば保険として説明時に動画を撮って記録に残したり、別添えで特約事項をまとめた書類を入居者に渡したりしておくことで、揉め事を防げる可能性が高まります。

    「耐用年数超え=入居者負担ゼロ」ではないことを伝える

    耐用年数を過ぎた家具や設備の残存価値は基本的に1円とされています。しかし、原状回復の際に耐用年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担を入居者に請求する場合があります。

    例えば、経過年数を超えていたとしても、物件の設備として使用継続が可能な場合、入居者が故意・過失により使用可能な設備を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備として本来機能していた状態まで戻さなくてはなりません。

    その際にかかる費用は入居者へ請求することが多く、それを知らない入居者は「耐用年数を過ぎているのだから支払いを拒否する」といった理由で揉めてしまうことがあります。

    そのため、退去時に耐用年数について揉めないように、あらかじめ『耐用年数越え=入居者負担ゼロ』ではないことを伝えておいた方が良いでしょう。

    オーナーとの連絡をこまめに取り内容を決める

    原状回復費用を支払うのは、仲介業者ではなくオーナーです。そのため、もし入居者側が原状回復費用に不服があり、減額を求めてきた場合、オーナーと話し合いをする必要があります。もし、入居者の要望が通らなかったとしても、オーナーと連絡をしっかり取ったうえで交渉したができなかった旨を伝えれば、入居者も納得せざるを得ません。

    ここで重要なのは、オーナーとの交渉をスムーズに行える環境が整っているかです。例えば、入居者が要望を出してきたとしても、オーナーとのやり取りがスムーズに進まずに時間がかかってしまっては、入居者の機嫌を損ねてしまう可能性があります。

    ですので、普段からオーナーとの連絡をこまめに取りコミュニケーションをとっておけば、『普段何時ごろなら連絡が取れやすい』『この曜日は連絡がつかない可能性が高い』といった判断ができます。そうすれば、入居者とオーナーの間に入っても円滑に話し合いを進めることができるようになります。

    ちなみに、『GMO賃貸DX』のオーナー向けアプリを使用すれば、オーナーとの情報伝達をスムーズ、且つ正確に行うことができるので、各オーナーとの連絡手段を統一したいと考えている場合にはおすすめのアプリです。こちらの資料も参考にしてみてください。

    【参考資料】
    オーナーアプリ活用術とDX化における役割とは?
    マンガでわかる!GMO賃貸DXオーナーアプリ

    ペットを飼育していた場合の原状回復

    ペットを飼育していた場合の原状回復の写真①

    ペットを飼育している物件の原状回復を行う際に、ペットがつけてしまった傷や汚れに対する修繕費の負担割合はどうなるのでしょうか?

    国土交通省が提供する『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に基づいて解釈すると、ペットによってついた傷・臭い・汚れは、通常の使用によって発生するものではないため、その原状回復にかかる費用は入居者が負担するのが妥当であるとされています。ただし、一般的なクリーニングで除去できる程度の汚れや臭いであれば、通常損耗や経年劣化の範囲と捉えられるのが一般的です

    以下は、ガイドラインに記載されているペットがつけた傷や汚れに関する考え方です。

    【飼育ペットによるキズ・臭いの考え方】

    共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合は賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件でのペットの飼育が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。

    引用:『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の20ページから引用

    この考えに基づき、不動産事業者は原状回復にかかる費用を算出します。

    ペット禁止なのに飼育していた場合

    ペットの飼育が特約で禁止されているにもかかわらず、入居者がペットを飼育していた場合は、当然のことながら契約違反です。この場合は、ペットを原因として発生した損耗は大小問わず全ての箇所がガイドラインでいうところの『賃借人の使い方次第で発生したりしなかったりするもの(明らか通常の使用による結果とはいえないもの)』にあたるので、借主負担で請求することが可能です。

    ただし、ペットが原因で発生した消臭費用や清掃費用は全額借主に負担してもらえるのに対し、カーペットや壁のクロスなどの耐用年数を考慮しなくてはならないものに関しては補修費用を全額請求できる可能性が低いです。そのため、耐用年数を考慮するものもきっちり請求したい場合は、特約で『ペット禁止を守らなかった場合について』の項目として、負担金額も明記しておいた方がいいでしょう。

    まとめ

    原状回復は契約者が退去するときに、物件を元の状態に戻すために必ず行う作業です。

    基本的に、原状回復にかかる費用は、国土交通省の定めるガイドラインで『一般的な生活で発生する汚れやキズ』がオーナー負担、『契約者の使い方次第で発生したりしなかったりするもの』が契約者負担とされています。しかし、ガイドラインで原状回復費用の負担範囲を明記しているにもかかわらず、契約者と揉めることもしばしば…。

    そこで不動産事業者は契約者と揉めないため、あらかじめ『原状回復確認リスト』や『動画・写真』で記録を残して保険をかけておく必要があります。常に、入居者の動向を監視して通常でついた傷か、そうでないかを確認できないので、退去時に揉めないためにも『原状回復で揉めないためのポイント』を参考に対策できることはあらかじめ行っておくことをおすすめします。

    退去時にトラブルとならないためにも、オーナー側はいかに事前に準備して丁寧な説明が必要です。

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