「仲介業務」「仲介業」をどう変える!?どう変わる!?
株式会社S-FITの代表取締役社長であり、賃貸管理リーシング推進事業者協議会の副会長でもある紫原 友規氏の連載、「徹底調査!賃貸仲介の『イマ』」では、賃貸仲介業界の現状と未来をみなさまにお届けいたします。
第五回目は「『仲介業務』『仲介業』をどう変える!?どう変わる!?」です。今回は法的枠組みの改善や世の中の期待にどう応えるかという、これからの賃貸仲介業界の在り方についてお話いただきました。どうぞ最後までご覧ください。
- 1賃貸仲介業界をより良くするために
- 1この連載を通じて、賃貸仲介業界の現状や将来について多くの洞察を共有していただきました。この業界をより良くするため、変革すべき最重要ポイントは何だと考えますか。
- 2「仲介業務」における改善点
- 2業務効率化の観点から見て、入居者の募集から契約に至るプロセスにおける「宅地建物取引業法」の規制について、改善が必要だと思う部分はありますか。
- 2業務効率化を進めるためには、業務のアウトソーシングやクラウドワーカーの活用も必要になってきますが、現状の「宅地建物取引業法」では、クラウドワーカーの方に依頼出来ない業務もあります。
- 2賃貸物件の空室確認やポータルサイトへの掲載に関連する業務が負担となっています。
- 2不動産賃貸業界全体として改善に向けた動きをするべきだということでしょうか。
- 3「仲介業」における改善点
- 3現在の法律では、入居者を守ることが重要視されています。以前、紫原氏からも「住居に関する保護」のバランスの見直しが必要との話がありました。
- 3デジタル化の進展を考慮した際に、「住居に関する保護」のバランスについての見直しは、将来的に必要とされると見ていますか。
- 3物価上昇の中でも、法定の「報酬額の上限」により仲介手数料の値上げができない現状について、どのような課題を感じますか。
- 3仲介手数料を無料にしてサービスを提供するビジネスモデルが存在しますが、このアプローチについてどのようにお考えですか。
- 4まとめ
賃貸仲介業界をより良くするために
この連載を通じて、賃貸仲介業界の現状や将来について多くの洞察を共有していただきました。この業界をより良くするため、変革すべき最重要ポイントは何だと考えますか。
業務を効率化するためにデジタル化を推し進め、現在のオペレーションを半分の人員で実行出来るよう変えていくことが求められています。端的に表現するならば「仕事を半分にする」ということです。なぜ、私がここまで「業務を効率化すべきだ」とお話をしているのかというと、私の一番大きなゴールは賃貸仲介業界に留まらず、不動産賃貸業界全体の賃金を引き上げることだからです。
現在のオペレーションのままでは賃金を引き上げることは難しく、100 人で完結している業務を50 人で完結出来るようにすることが出来れば、賃金を引き上げることが出来ると考えています。賃金の引き上げが出来ないと、不動産賃貸業界全体が世の中から取り残されてしまうという強い危機感を持っています。
「仲介業務」における改善点
業務効率化の観点から見て、入居者の募集から契約に至るプロセスにおける「宅地建物取引業法」の規制について、改善が必要だと思う部分はありますか。
「宅地建物取引業法」は、不動産取引の透明性と公正性を保ち、住生活の安定を確保するための法律で、それ自体に大きな課題はないと思っています。改善の余地があるとすれば、「売買契約と賃貸契約を同等の扱いにする必要性」についてです。
業務効率化を考慮すれば、賃貸借契約の手続きは簡略化できる余地はあると考えています。例えば、重要事項説明に関して、賃貸契約における重要なポイントを明確にし、その他のポイントを簡素化することで、プロセス全体の効率を高めることができます。このような見直しは、賃貸仲介業務をさらにスムーズに進めるための一歩となり、賃貸仲介業界にとってだけでなく、お客様にとってもメリットがあり、賃貸仲介業界全体のサービス水準を高めることに繋がるはずです。
業務効率化を進めるためには、業務のアウトソーシングやクラウドワーカーの活用も必要になってきますが、現状の「宅地建物取引業法」では、クラウドワーカーの方に依頼出来ない業務もあります。
現在の「宅地建物取引業法」に照らし合わせて「抵触しそう」という話だと思うのですが、「時代が変われば法律も変わるべき」ということではないでしょうか。ライドシェアがいい例ですね。議論を重ねて、日本でも4月から日本版ライドシェアがスタートすることになりました。「業務のアウトソーシングやクラウドワーカーの活用をもっと進めなくてはならない」といった際に議論されることになると思います。
賃貸物件の空室確認やポータルサイトへの掲載に関連する業務が負担となっています。
確かに、物件情報の更新やポータルサイトへの掲載は相当な労力を要しています。以前もお伝えした通り、より新鮮な物件情報をお客様に提供したいのですが、これ以上「広告業務」の負担が増えてしまうと、ビジネスモデル自体が難しくなってきてしまうと感じています。一方で、気になる物件に問い合わせた際、既に「決まってしまっていた」と知らされることは、お客様にとって大きな失望となります。私たちは、空室情報をできるだけ迅速に更新し、お客様の期待に応えたいと考えていますが、これは仲介会社の努力だけでは限界があるというのが現実です。
不動産賃貸業界全体として改善に向けた動きをするべきだということでしょうか。
先に述べたように、業務負荷が高いのは事実ですが、この問題は主に仲介会社側の課題として捉えています。現実には、「より多くの顧客を集めるために多数の物件を掲載し、それに伴い業務量が増える」という状況にあります。この状態を踏まえると、不動産賃貸業界全体として声を上げるのは難しいと感じています。
この課題は、実際には仲介会社とポータルサイトが協力して取り組むべき問題であり、不動産賃貸業界全体の問題というわけではありません。ただし、業務効率化のためのデジタル化推進やシステム改善は、仲介業務を行う全ての関係者にとってメリットがあるため、その点では不動産賃貸業界全体での意識向上や取り組みが望まれます。
「仲介業」における改善点
現在の法律では、入居者を守ることが重要視されています。以前、紫原氏からも「住居に関する保護」のバランスの見直しが必要との話がありました。
法的な枠組みで入居者の保護を重視することは、住宅市場の公平性と安全性を保つ上で非常に重要です。しかし、この保護が原因で入居審査が厳格化し、一部のお客様が住宅を見つける機会を失っていることに繋がっているとも感じています。家賃滞納などの問題が発生したときに迅速に対応できる制度が整備されていれば、もっと柔軟な入居審査が可能になるでしょう。
この問題については確かにバランスの見直しが必要ですが、その過程では多方面からの意見を集め、慎重な議論を重ねることが求められます。現在の法律が入居審査の厳格化を招いているとはいえ、それは入居者を保護するためのものです。しかし、一部のお客様が審査基準を満たせずに住居を見つけ辛くなってしまっている現状もまた事実です。
迅速に退去を促せるような法的な補助があれば、オーナーとしてもリスクを低減でき、結果として審査プロセスの見直しに繋がります。ただし、これを実現するためには、十分な保護措置を維持しつつ、不当に住宅市場へのアクセスが制限されないようなバランスの取れた法改正が求められます。難しい問題ではありますが、不動産賃貸業界全体での協力と対話により、より良い解決策を見つけ出すことが可能だと信じています。
デジタル化の進展を考慮した際に、「住居に関する保護」のバランスについての見直しは、将来的に必要とされると見ていますか。
デジタル化の進展は、不動産賃貸業界にとって大きな変化をもたらしています。オンライン決済や電子契約、さらには鍵の受け取りまでがインターネットを介して行うことが主流になることで、入居プロセスは今まで以上に簡素化され、スピードアップが期待されます。しかし、この便利さが前提となった場合、「なぜ入居審査をこれほど厳格に行い、時間を掛ける必要があるのか?」という疑問が生じることも予想されます。
デジタル技術の進歩がもたらす便利さと効率化を最大限に活用するためには、現行の規制や審査基準について、時代に合わせた見直しが必要になってきます。もちろん、すぐに大幅な変更を加える必要はないかもしれませんが、長期的な視点で業界の動向とテクノロジーの発展を注視し、必要に応じて柔軟な調整を行うべきでしょう。今後、デジタル化がさらに進展するにつれて、これらの問題はより具体的に、そして避けられない議論の対象となるでしょう。そうした時に備え、不動産賃貸業界として前向きな検討を進めることが重要です。
物価上昇の中でも、法定の「報酬額の上限」により仲介手数料の値上げができない現状について、どのような課題を感じますか。
報酬額の上限が存在すること自体を課題とは捉えていませんが、これは、一見すると「収益性に影響を及ぼす課題」のように思えます。しかし、報酬額の上限に着目するだけでは、視野を狭めてしまうことになります。近年、お客様は価格だけでなく、サービスや商品の価値に敏感になっています。多くの商品やサービスが価格を上げている現在でも、価値が認められなければ市場から淘汰されることは明白です。
そのため、値上げを法的問題として考えるのではなく、仲介業としてのアプローチを見直すべきだと思います。デジタル化を推進し、お客様に対して以前よりも高い価値を提供することが重要です。お客様がスムーズに理想の部屋を見つけることができ、そのプロセスで発生する手数料を納得して支払っていただけるようなサービスを目指すべきです。現状では、受け取った手数料に対して見合った価値を提供出来ていないケースもあると感じており、賃貸仲介業界全体でこの意識を改め、お客様からの信頼を得られるよう努める必要があります。
仲介手数料を無料にしてサービスを提供するビジネスモデルが存在しますが、このアプローチについてどのようにお考えですか。
仲介手数料を無料に設定するビジネスモデルについては、その持続可能性について検討が必要だと考えます。無料という価格設定は、お客様にとって魅力的に映ることでしょう。ですが、仲介手数料を無料にすることで1件あたりの単価が下がってしまうため、ビジネスモデルとして成立させるためには、より多くの物件を仲介した上で、運営コストを極限まで削減する必要があります。これは、特に人件費の増加が続く現在、質の高いサービスを維持することを難しくしており、お客様の満足度低下に繋がる可能性が非常に高いです。
結局のところ、仲介手数料を無料に設定するビジネスモデルは、短期間で顧客基盤を拡大する効果的な方法かもしれませんが、長期的な視点で持続可能性を確保するには、質の高いサービスを提供し続けるための戦略が必要です。
まとめ
今回の連載では「宅地建物取引業法」の適応、「住居に関する保護」のバランス見直し、広告業務の改善、そして仲介手数料の扱いに至るまで、多方面にわたる課題への対応について深堀してきました。しかし、ここで忘れてはならないのは、私たちがまだ、時代の流れに完全に追いついていないという現実です。
これら全てが時代に即した形で再検討される時が近くまできていますが、その前に、私たち自身が時代に追いつくための努力を重ねることが先決です。デジタル化はその最初のステップに過ぎません。そのため、まずは貸仲介業界として現代の技術と社会のニーズに追いつくことが必須です。
私たちが取り組むべき課題は山積していますが、これらに立ち向かい、賃貸仲介業界をより良い未来へと導くことが、私たちの使命です。一緒に新しい時代を切り拓いていきましょう。