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【専門家インタビュー】岡村 雅信様|不動産会社のDX実現に求められることとは

岡村様(アイキャッチ)

近年不動産業界のDX化が進んでいますが、自社のDXをどのように進めるべきか頭を悩ませている不動産会社も少なくありません。そこで今回は、不動産会社のDX化をサポートする「株式会社UPDATA」の岡村 雅信様にお話を伺いました。

目次

    不動産業界のアップデートを目指して

    Q.まずは、自己紹介をお願いします。

    私は「株式会社UPDATA」の代表取締役 CEOを務めています。また、「不動産テック協会」の理事や「日本賃貸住宅管理協会 IT・シェアリング推進事業者協議会」の幹事を務めているので、不動産テック関連のセミナーにも年間50本程登壇させてもらっています。

     

    当社は「不動産業界をデータとテクノロジーでアップデートする」というミッションのもとDXソリューション事業を展開している不動産テック企業です。累計200社以上の不動産会社様とお取引があります。

    事業内容は、大きく分けると不動産業界のDXに特化した「DX コンサルティングと、自社開発のSaaS(インターネットを通じて利用できるシステム)をご提供する「DX SaaS」の2つです。

     

    SaaSはいくつかご用意していますが、現在の機軸は「SyncaWorkFlow(シンカワークフロー)」。これは、あらゆる業務フローを可視化できるシステムです。なお、当社の前身である「ダイヤモンドメディア(株)」時代からご提供してきたWEBサイト構築サービスも、現在「Syncaシリーズ」の一つとしてリニューアル中です。

    昨今の不動産業界について

    Q.昨今の不動産業界をどのように見ていますか?

    不動産業界の方はよく「日本の不動産業界は昔からあまり変わらない」とおっしゃいますが、変化という意味では私も同じように感じています。近年徐々にDX化は進んでいますが、アメリカの不動産テックのようなインパクトのある大きな変化はまだ起こっていないのではないでしょうか。

     

    例えば、不動産業界では「レインズ」の話題がよく挙がりますが、「私が不動産業界に関わりだした10年前も同じ話をしていたな」とたびたび思うのです。これは、良くも悪くも市場が動いていないと言えます。

     

    本来であれば、時代とともに消費者のニーズは変化し、それに伴ってビジネスの形も進化を遂げていきます。ニーズの変化に対応しなければ、業界全体が衰退してしまうからです。しかし、不動産業界の場合は「家」を扱っているため、ニーズが大きく変化したりなくなったりすることはありません。つまり、不動産業界は強制的に変化する環境にはなりづらい業界ではあると思っています。

    Q.日本の不動産業界が変わるには、何が必要だと思われますか?

    良いかどうかは別として、1つとしては「海外の巨大資本が入ってくる」などの外的な要因で大きな危機感を覚えるような出来事があれば、進化のきっかけになるのかもしれません。

    また、テクノロジーを気軽に導入できる環境の構築も重要だと思います。

    現在不動産テックサービスの種類は非常に多く、何から導入すべきか分からなくなってしまいがちです。加えて、さまざまなサービスを一通り導入しないとDX化を体感しにくいですし、予算も限られています。

    今後導入すべきサービスが明確になったり、各サービス間のデータ連携が簡単にできたり、助成金が増えたり…という環境になれば、導入のハードルが下がって進化が加速するのではないでしょうか。

    Q.データ連携でいうと、「レインズ」との連携もポイントになるのでしょうか。

    岡村様_01

    そうですね。レインズでAPIを使えるようにするだけでも、サービス導入のハードルは多少下がるはずです。

    レインズでAPIを使えるようにするデメリットは、特にないような気がします。データ移行が簡単になるだけで一般公開されるという話とは別なので、不動産会社の方が便利になり、むしろ不動産流通の加速に繋がりますよね。

    一時期クローリングが横行したことがネックになっているかもしれませんが…なぜまだAPIが使えないのかな?と不思議に思います。  

    不動産業界が抱える課題

    Q.不動産業界の課題についてお聞かせください。

    例えば、課題としてよく挙げられる「労働時間の長さ」は、やはり業務効率化が解決のカギになる気はします。もちろん、事業内容によっても異なりますし、労働時間が長くてもそのぶん大きな利益を出して満足している方もいるでしょうから、一概には言えませんけどね。

    Q.「データの整理・管理」をうまく行えていないことが、業務効率の悪さに繋がっているように感じていますがいかがでしょうか。

    データの整理・管理は、結構根深い問題ですよね。これは単純にテクノロジーを一つ入れれば解決できるモノではなく、社内のIT人材不足も影響していると思います。要は、「このデータはスキャンしてここにフォルダ分けしましょう」などの適切な全体設計ができる人がいないのではないでしょうか。

    これまでの不動産業界では、そもそも人材を採用する際に“ITリテラシーの高さ”が考慮されていなかったのかもしれません。しかし、DX化が進むこれからの不動産業界には、サービスの選定はもちろん導入後に指揮をとってもらうためにもIT人材は必須です。

    IT人材が実際に応募してくるかどうかはまた別問題ですが、まずは不動産会社側がIT人材の獲得に向けてアクションを起こすことが大切だと思います。例えば”服装は自由にする”、”リモートワークOK”、“新しい評価制度の導入”、“フレックスタイムの導入”など、制度や環境の整備を進める。それが、さらなるDX・業務効率化に繋がっていくのではないでしょうか。

    Q.フレックスタイム制度は、なぜか不動産業界にはあまり受け入れられていない印象があります。

    そうですね。一口に不動産業界と言っても、賃貸、売買、仲介、管理、本社、店舗など業務内容がさまざまなので取り入れやすい面やそうでない面もあると思います。

    例えば仲介店舗などは接客業なのでやはりお客さんの時間に合わせるとなると取り入れづらいと思いますし、逆に本社なのであれば取り入れやすいと思います。またこれまではどうしても電話、FAX、紙ベースの業務フローになっていたので、同じ時間同じ場所で仕事をすることが前提となっていたことも影響していると考えます。

    コロナ渦でリモートワークを実践された不動産会社様などは業務のデジタル化が進み、結果としてフレックスタイム制などを取り入れやすくなっているのではないでしょうか。

    IT人材のみならず良い人材を確保するためには、やはりフレックスタイムなどの制度の整備は欠かせません。そういった取り組みをする企業が増えてくれば不動産業界のイメージアップにも繋がり、良い人材が多く入ってくると思います。

    それでいうと、社内教育制度も見直しが必要だと思います。例えば、「テクノロジーに関する教育は実施していない」という不動産会社様は多いと感じています。不動産業界は独立や転職も多い業界なので、前の会社のやり方がそのまま次の会社でも使われているというケースが多くあります。

    「テクノロジーを活用するのが当たり前」という教育がされていれば、そこから独立や転職される方も次の会社でテクノロジーを活用するはずです。今後日本の不動産業界をより一層盛り上げていくためにも、力を入れるべきではないでしょうか。

    (株)UPDATAのDXコンサルティングとは

    Q. DXコンサルティングをされる中で、最も多いお悩みはどのようなものですか?

    岡村様_02

    • どこからDXを始めれば良いか分からない
    • どのサービスを使うべきか分からない
    • サービスを導入しても長期的な戦略が立てられないから、“部分最適”になってしまう
    • 社内に専門知識をもった担当者・チームがいない

    などのお悩みが多いですね。当社はこのようなお悩み一つひとつに対してコンサルティングを行うのですが、プランとしては3種類に分かれています。

    まず1つ目は、業務フローを整理した上で導入サービスを策定し、今後の方向性をご提案する「全体設計プラン」。2つ目は、サービス導入時の実務や導入後の運用をサポートする「サービス導入・運用プラン」。そして3つ目は、ごく簡単な相談だけ承る「アドバイスプラン」です。

    ただ、「アドバイスプラン」はお手伝いできることが限られているので、「全体設計プラン」もしくは「サービス導入・運用プラン」をご提供するケースが大半です。

    Q.特に解決が難しかったご相談はありますか?

    すぐには思い浮かばないですね…というのも、実は大抵同じようなパターンなのです。最も多いのが、「経営者が漠然とDX化の必要性を感じてはいるが、具体的な方法は分からない」というケース。

    この場合、経営者はまず現場へDX化の指示を出しますが、現場も分からない。その結果、「外部に相談しよう」と当社へお問い合わせくださいます。

    あとは、私のセミナーを聞いてくださった方が、ご連絡くださるケースもありますね。

    Q.どこからDXを進めるべきか分からない方には、どんなご提案をするのですか?

    お客様の事業内容によって異なりますが、基本的にはまず「DXとは何か」をお話しするところから始めます。そしてDXの共通認識が持てたら、課題などをヒアリングして現状把握をする。その上で初めて、課題解決に向けてシステムの導入・業務フローの見直しなどをご提案していきます。

    ここで大切なのは、「必ず全部署にヒアリングを行う」という点です。一部の部署だけだと、部分最適になってしまいますから。実は、コンサルティングを入れずに社内でDX化に取り組むと、部分最適になりがちです。組織全体のDX化を図れるというのも、コンサルティング導入のメリットだと思います。あとは、“社員同士だと話しにくい問題”はどうしても出てくるので、そこに外部からアプローチできるのもメリットの一つですね。

    Q.手始めには、どんなサービスをご紹介することが多いのですか?

    課題にもよりますが、最近基幹システムの刷新も検討している会社様が数多く、その場合は“外部サービスとデータ連携のできる基幹システム”への入れ替えからご提案するケースが多いですね。

    やはりデータの流れの中心なのは基幹システムなので、データ連携ができない基幹システムを使っていると、各サービスの導入が遅れてしまうのです。DX化は、今導入しているサービスが全てではなく、今後新しく出てくるサービスの導入を検討する可能性もあるので、長期的に見て柔軟性の高い環境を構築することが重要です。

    とはいえ、基幹システムの入れ替えには大きなコストがかかるので、踏み切れない方も少なくありません。その場合は、「GMO」さんの提供されているようなオーナー・入居者向けアプリやWeb申込・電子契約システムをご提案しています。さまざまな周辺システムがある中で、やはりリーシング業務とオーナー・入居者向け業務に対応できるモノは重要ですから。

    Q.不動産テックを知らない方に対しては、どのようにコンサルティングをされるのですか?

    テクノロジーの知識がなくてもご理解いただけるように、各システムのメリット・デメリットを分かりやすくお伝えします。例えば「SaaS」でいうと、導入コストが低くアップデートや外部連携もできる一方で、カスタマイズが難しいというような内容ですね。

    ただ、ここで重要なのが一般的なデメリットがお客様の会社にとってもデメリットなのか否か。これを見極めるには、お客様の会社に関する知識とITの専門知識どちらも求められます。なので、当社はいわば「アウトソーシングされているIT部署」のような立ち位置で、この見極めもサポートしていきます。 

    Q.お客様には、どのくらいの規模の会社が多いのですか?

    岡村様_03

    管理戸数でいうと、数百~何万戸までさまざまです。ただ、やはり会社の規模が大きいほど、コンサルティングの成果が数字に大きく反映されます。そのぶん、思い切った予算を組まれることが多いです。

    一方で、小規模なほうがサービスの導入自体はしやすいと思います。管理戸数をこれから大きく伸ばしていく予定であれば、「余裕がある今のうちに導入しておこう」となります。逆に、ずっと小規模で続けていく場合でも「シンプルなサービスを一つだけ入れて少しでも業務効率を図りたい」というケースが多いので、いずれにせよ導入のハードルは低いですよね。

     「SyncaWorkFlow」とは

    Q.「SyncaWorkFlow」を導入されたお客様は、どんな変化を実感できますか?

    SyncaWorkFlow」はあらゆる業務フローをテンプレート化できるシステムなので、一度テンプレートを設定しておけば誰でもスムーズに各タスクを実施できます。また、進捗状況も全体に共有されるので、「会社で皆と顔を合わせないと仕事が進まない…」というリモートワークを阻害する問題も解決します。

    さらに、いつでも最新のテンプレートに更新できるので新たな業務フローにもすぐ順応できますし、注意事項を入力しておけば新人への業務マニュアルとしても活用できます。

    そして、これからのワークフローの構築や更新が現場主導でできるというのが最も特徴的な点です。これまでも似たようなシステムは存在していますが、ワークフローの作成や更新は「情報システム部に相談して進める、場合によっては外部業者に見積をとって発注しないといけない」というような運用の場合がほとんどでした。それを「SyncaWorkFlow」を使えば、誰でも簡単にワークフローの作成や更新ができるので、現場で完結するDXが実現できます。

    細かな機能としては、各タスクの期限設定機能やチャット機能なども備わっています。今後は、「未完了の業務リスト」なども可視化予定です。なお、このシステムは不動産業界以外にも対応できるので、当社の社内でも「契約手続き」や「新入社員の入社手続き」などで活用しています。

    Q.お客様からは、どんな声をいただくことが多いですか?

    ユーザビリティに優れた「SyncaWorkFlow」の画面 ユーザビリティに優れた「SyncaWorkFlow」の画面

    最も多いのは、「画面が見やすく操作も分かりやすい」というお声です。これは当社がかなり意識している部分で、前述のように「現場主導でのDX」を実現するためにマニュアルを見なくても活用していただけるよう工夫しています

    あとは、「業務フローの分岐にも対応してほしい」など機能面のご意見も数多くいただきますね。ご要望はすべて拾い上げ、優先順位をつけながら開発を進めています。

    Q.「SyncaWorkFlow」の導入に前向きな担当者様と、決裁権を持つ上長との間で温度差がある場合は、どうサポートしていくのでしょうか。

    導入前においては、「業務効率がどのように上がり、結果としてどのような数字が改善できるのか」という定量的な指標でお話をさせていただきます

    また、「なぜ今あらゆる業界でDX化が進んでいるのか」など、世の中の動きもお伝えします。決裁権のある方の温度感が低い場合、情報が足りていないから必要性が実感できていないケースも少なくないためです。

    加えて、システムのデモも行います。実際の業務をいくつか当社がシステムに落とし込んで、使用感を試していただくのです。やはり、「これを使えば会社が良くなりそう」という明確なイメージをもってもらうことが一番ですから。

    なお、導入後のサポートで気を付けているのは、まずはごく一部の業務だけをシステムへ移行していただくことです。一気に全業務を移行すると失敗しがちなので、まずは小さな成功体験を積み上げてもらえるようにサポートしています。

    日本の不動産テックの今後

    Q.最後に、不動産テックは今後どう変化していくと思われますか?

    日本の不動産テックは、日本独自の進化を遂げていくのではないでしょうか。

    例えば、日本の不動産業界の業界構造や商習慣などから考えると、アメリカのように「テック企業が破壊的な改革を起こす」形にはならないはずです。日本にはテック企業と不動産会社が一緒に業界をアップデートしていく方法が適していますし、最近のテック企業はどこもこのような意識でDX化に取り組んでいると思います。

    ただ、日本の不動産テックは「複数のサービスを組み合わせる」のが主流なので、テック業界全体がもっと“横のつながり”を意識する必要はあるのかなと思います。先ほどお話したとおり、APIの公開が進む・各社のフォーマットが統一されるなどデータ連携のしやすい環境を構築できれば、サービス導入のハードルは今よりも下がるはずです。

    日本のテックサービスはこれまで“自社基準”で作られてきたこともあり、少し多様化しすぎているようにも感じます。今後はある程度“業界全体の基準”を定め、そこに合わせてシステムを作るべきなのかもしれません。そうすればサービスのズレも減り、そのぶん重要な機能の向上に労力を割けるようになるので、さらに大きな進化を遂げられるのではないでしょうか。

    まとめ

    一口にDXといっても、目指すべき方向や最適なシステムは会社によって異なります。スムーズなDXを実現するためには、プロに相談してみるのも一つの手です。

    岡村様、後田様_01

    インタビュアー:GMO ReTech株式会社 後田博幸

    本記事取材のインタビュイー様

    岡村 雅信氏
    高校在学中に公認会計士を目指しダブルスクールへ通う。大学在学中にアフィリエイトを始めWEBマーケティングを独学で実践、その後創業メンバーである小林に出会いダイヤモンドメディアへ参画。受託制作のデザイナー、コーダー、ディレクターとして経験を重ね、「ダイヤモンドテール」の事業責任者となる。その後、不動産テックサービスの新規立ち上げ、大手不動産会社への常駐、協会活動などを通じて不動産業界の慣習やITシステム事情に深い知見を得る。常に顧客との対話を大切にし、ユーザーファーストなサービスの開発を心がけている。

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