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【専門家インタビュー】池本洋一様|時代の変革とテクノロジーから考える、住まいの未来

SUUMO_池本様
ビックデータやIoTに代表されるデジタル化が叫ばれている昨今、最も身近な不動産である「住まい」も、テクノロジーにより大きく変わろうとしています。そこで今回は、日本の住宅業界をけん引するポータルサイト「SUUMO」の編集長 池本洋一様に、「SUUMO」の取り組みや、日本の住まいの未来などについてリモートにてお話を伺いました。
目次

    住まいに関わる「負」の経験が、キャリアのきっかけに

    Q. まずは自己紹介をお願いします。

    私は「株式会社リクルート」が提供する住宅情報サイト「SUUMO」の編集長であり、かつ「SUUMO リサーチセンター」のセンター長も務めています。1995年に入社してから現在に至るまで、一貫して住宅業界に携わってきました。  

    ですが実は入社前、住宅業界だけは避けたいと思っていたのです(笑)。ちょうど就職活動中、両親が注文住宅を建てていた途中で業者が倒産し、大変な苦労をしたためです。  

    面接時にこの話を伝えていたこともあり、配属面談では「できれば人材系の部署に入りたい」と希望しましたが、配属は“住宅情報編集部”。もちろんこれは不当な人事でも何でもなく、「住宅業界が抱える『負』の解消には、『負』を実体験した人材が必要だ」という、適正な人材配置を考えた人事部の決断でした。  

    希望に反した形で住宅業界に携わることになりましたが、結果として現在「SUUMO」の編集長まで務めさせてもらっています。まさに、人事の見立て通りでしたね。  

    世界から後れを取る、日本の住まい

    Q.「SUUMO」編集長として、特に力を入れて取り組まれてきた施策をお聞かせください。

    「SUUMO」事業に関わる皆さんと協同しながら、大きくは次の2つに業界課題に対して取り組んできました。  

    • 不動産取引の安全性・快適性の向上
    • 日本の住宅品質の向上

      まず不動産取引の安全性を高めるには、“情報の非対称性”の解消、つまり事業者と消費者における情報格差をなくすことが必須です。そこで「SUUMO」は、掲載する物件数や画像数の最大化を目指し、事業者に向けて“多くの情報を開示するほど検索上位に表示される=問い合わせが増える”という仕組みを作りました。  

    そして不動産取引の快適性の向上においては、「SUUMO」のUI・UXの向上、つまり消費者がより自分に合う住まいに出会いやすくするためのサイトにおける検索性や使い勝手の良さに磨きをかけてきました。その結果、最近はさまざまな調査機関による使いやすさを評価する情報サイトランキングで上位を獲得できています。  

    Q. 「日本の住宅品質の向上」に関してはいかがでしょうか。

      住宅品質の向上は、基本的にハウスメーカーや工務店、デベロッパーなどの手に委ねられています。そんな中で我々にできるのは、“住宅品質の良し悪しを消費者が区別しやすくする”こと。これは、低品質な住宅が選ばれにくくなる状況を生み出し、結果として品質向上に繋がるはずです。そこで「SUUMO」は、選択式の条件絞り込み機能や、フリーワード検索で「長期優良住宅」を絞りこめるようにするなどの工夫を施してきました。  

    そもそも、日本の“住まい”は世界に大きな後れを取っています。これは広さだけではなく、快適性や省エネ性能もそう。日本では部屋間の温度差が大きい「部分間欠冷暖房」が大半なのに対し、欧米諸国では家中どこでも同じ温度の「全館冷暖房」が当たり前です。また、断熱性の低い単板ガラスやアルミサッシをいまだに使っているのも、世界の先進国でほぼ日本だけだといえます。

    現在、このような省エネ性能・住宅品質に対する消費者の関心を高めるために、国土交通省と一緒に取り組みを進めています。  

    省エネ性能を可視化させる、国土交通省の取り組み

    Q. 具体的には、どのような取り組みなのでしょうか?

    “住宅の省エネ性能と目安光熱費”を住宅情報サイトに表示させるという、いわば「省エネ性能・住宅品質の可視化」を叶える取り組みです。  

    仕組みとしては、まず電気製品に貼られている「省エネラベル」の住宅版を作る。ラベルには、省エネ性能の度合を示す星マーク・省エネ性能を実費換算した光熱費(年間)などを載せます。 引用元:国土交通省  

     

    そして、ラベルとともに★の数や年間の目安光熱費を、SUUMOなどの住宅ポータルサイトの「物件詳細ページ」「物件一覧ページ」などに掲載していく構想です。  

    この取り組みは2021年3月に最終合意され、現在は他社ポータルサイトと一緒に詳細を詰めています。  

    このようにポータルサイトが国の施策に関わらせていただくのは、制度の“円滑な運用”のため。消費者がより理解しやすく、かつ不動産事業者がより活用しやすい制度にするためです。運用が回っていない国の制度を複数見て、おこがましいけど意見したほうがいいと考えました。私はこのほかにも、いくつか国の施策に関わっていますが、スムーズな制度導入を目指して最大限の助言をさせていただきたいと思っています。  

    「SUUMO」紙媒体で、検討初期の方をサポート

    Q.「SUUMO」は紙媒体も発刊されていますが、どのようなユーザー層を想定しているのですか?

    基本的には、“住宅購入”の検討初期段階の方です。検討初期の場合、「どんな条件で物件検索すべきか」から迷われる方も少なくありません。そのため、まずは紙媒体でパラパラとページをめくりながら物件のイメージを膨らませたり、相場観を養ったりしていただければと思っています。  

    住宅購入は、マンションならまず新築から、戸建てなら注文住宅から検討し始めるのがセオリーですから、入口となる「新築分譲マンション」「注文住宅」の情報誌を充実させています。  

    “住み心地”を、計測可能に

    Q.「SUUMO リサーチセンター」とはどのような機関ですか?

    住まいの未来に必要なモノを考え、広く深く調査・研究を進める機関です。

    たとえば、「住みたい街ランキング」。これは当センターが中心となり、世の中の変化に応じて調査項目を見直しながら、街に関する意識調査や分析を進めています。また、コロナ禍においては、昨年の緊急事態宣言の解除直後に「住宅購入に関する意識調査」を行いました。  

    このように住まいに関する最新の意識や動向を調査してわかった最新のトレンドや兆しを、消費者向けだけでなく、不動産業界にも発信・共有することで、業界の発展に寄与していきたいと考えています。  

    また、「IoTセンサーによる住環境の測定」など、大学との共同研究も行っています。  

    Q.「IoTセンサーによる住環境の測定」についてお聞かせください。

    これはまさに、先ほどお話した「住宅品質の可視化」に繋がる研究です。東京大学や北海道大学と共同で、“物件の住み心地や快適度”を定量的に評価するための開発・実証実験を行っています。  

    現在、物件選びの検討材料は駅からの距離・間取り・予算などが基本。住み心地に直結する“断熱性能・騒音の有無・日当たりの良さ”などは、入居するまでわかりません。距離や間取りのように、正しく測るシステムがなかったからです。  

    そこで、これらの要素をセンサー等で計測を実現し、SUUMO上に表示するなど必要な人に情報提供することを目指して進めているのが、この研究なのです。 引用元:山崎俊彦ほか 「IoTセンシングによる不動産物件の断熱・防音性能評価」, 2019年度人工知能学会全国大会(第33回)講演資料より引用  

     

    具体的な計測方法としては、IoTセンサーを家の中と外に一定期間設置して、温度・音・明るさなどを測ります。そして、家の中と外それぞれの温度変化・騒音レベルなどを比較分析することにより、断熱性や遮音性を可視化させるのです。仕様によっては、花粉やPM2.5なども計測できます。 引用元:山崎俊彦ほか 「IoTセンシングによる不動産物件の断熱・防音性能評価」, 2019年度人工知能学会全国大会(第33回)講演資料より引用    

     

    現在は、計測精度の向上を試みつつ、どんな物件から導入可能かの検討を重ねている段階です。  

    なお、このIoTセンサーは入居前に住み心地がわかるだけではなく、リノベーションによる改善点を可視化できるのもメリットです。たとえば、“サッシの入れ替えにより断熱性がどれだけ高まったか”などを明示できると。つまり、事業者やオーナーの努力を家賃・物件価格に反映できるようになります。  

    実用化には時間が掛かるかもしれませんが、着実に研究を進めていこうと考えています。  

    「職住融合」が進む不動産業界

    Q.池本様から見た、昨今の不動産業界の動きをお聞かせください。

    住宅市場でいうと、コロナ禍でも停滞することなくむしろ活性化したように思います。ステイホームにより自宅への不満が顕在化し、「もっと広い家に住みたい」「防音性など性能に優れた家に住みたい」というニーズ高まったからです。また、テレワークが一般化したことで、「家に仕事スペースが欲しい」「会社から遠くても良いから家賃を下げたい」など新たな兆しも生まれています。  

    ただ、住み替えへの影響は都市部と地方で差があり、都市部のほうが顕著だといえます。テレワーク可能なオフィス業務は、都市部に多い傾向がありますからね。  

    Q. 都市部を中心に、住宅選びのポイントが変わってきたのですね。

    おっしゃるとおりです。なお、リクルートは2020年1月に「職住融合」というトレンドワードを発表していました。

     

    これはコロナを予見していたのではなく、働き方改革によりテレワークが普及するにつれて、住む家・街が変わる=“職”と“住”が融合していくだろう、と考えたわけです。  

    当時ここまで急速に進むとは思いませんでしたが、今まさに職住融合が現実になりつつあります。 引用元:リクルート2020年トレンド予測発表会資料より

    Q. 住宅業界内でコロナの影響に差はありますか?

    廉価な建て売りを作るハウスメーカーと高額な物件を手掛けるハウスメーカーとで、多少状況は異なるようです。  

    こなれた価格で建売住宅を供給するホームビルダーの中には、過去最高の売上を記録しているところもあります。というのも、廉価な建て売りを買う方は、狭めの賃貸に住んでいたケースが多い。家が狭いとリモートワークや休校に伴うストレスが大きいため、「今の環境から抜け出そう」「予定を早めて買ってしまおう」と住み替えを決意せざるを得ません。これを私は“緊急脱出”と呼んでいますが、この層にマッチしたのが建売業界だったわけです。  

    一方で、高額物件を手掛ける大手ハウスメーカーはやや苦しい状況だと聞いています高額物件を買う方は、広めの賃貸に住んでいた可能性が高い。つまり緊急脱出の必要性がないため、「もう少し見通しが立ってから住み替えよう」と冷静に判断する方が多く、逆に動きが鈍っていると考えられます。  

    Q.管理会社への影響はどうでしょうか?

    賃貸管理業にとって重要な「空室率」と「入居者対応」から見ると、まず「空室率」においては退去が少し減り、入居率が上がったと聞いています。これは、コロナ禍で新築の賃貸物件の供給戸数が減り、かつ緊急脱出の必要性がない方も一定以上いたためでしょうね。  

    一方で、「入居者対応」には苦労されているようです。入居者トラブル、特に騒音問題が平均で例年の2~3倍増えたと。騒音問題は、音の程度・発生源・過剰反応か否かなどのさまざまな確認が必要で、非常に厄介です。そう考えると、先ほどお話した「IoTセンサー」は騒音問題の解決にも活用いただけるのではないでしょうか。  

    テック企業による“伴走”で、さらなるDXを

    Q.不動産業界のDXに向けた動きを、どう捉えていますか?

    DX化により、消費者・事業者ともに大きなメリットを享受できるはずです。  

    まず消費者にとっての主なメリットは、冒頭でお話した「情報の非対称性」が緩和され、かつ「不動産取引の円滑性」も向上する点。「AI家賃査定」などを使えば消費者でも物件価格の正当性をある程度判断できるようになりますし、「VR内見」「IT重説」などを利用すれば家探しにかかる時間も移動コストも大幅にカットできますよね。  

    他方で事業者にとってのメリットは、売上・利益ともに上げられる点。「VR・AR」「IoT」などを活用すれば集客力・成約率をアップできますし、「業務支援システム」などを導入すれば人件費を削って生産性を上げられますからね。  

    個人的には、特に“公正で快適な取引”を叶えるテックサービスに今後も注目していきたいと思っています。SUUMOとしても、IT重説や予約管理など事業者の業務をサポートするサービスの提供を始めており、今後も強化していく予定です。  

    Q. DXが一気に進まないのは、どんな理由があると思われますか?

      そもそも業務に役立つテックサービスの開発が難しいためではないでしょうか。これは不動産テック業界に進出したリクルートOBの言葉ですが、「不動産取引ほど取引ルートが多彩でプレイヤーが多く介在し、やりとりが煩雑な領域はない」と。「だからこそ、DXのハードルが高いのだ」と話していました。  

    不動産業界は、取引形態も業務の内容も進め方も、会社によって大きく異なります。そのため、便利なテックサービスを作るには各社の業務に沿って開発する=サービスの個別性を高める必要がある。しかしそうすると、開発コストばかりがかさみテック企業のビジネスは成り立ちません。  

    つまり、不動産会社が求めているのは個別性に対応し、他社と差別化できるサービスですが、テック企業が提供したいのは汎用性の高いサービスであるという、対立構造ができているわけです。  

    これがDX化に時間がかかる理由であり、大成功を収めるテック企業がなかなか現れない理由でもあると思います。  

    Q. その問題の解決には、どんな取り組みが必要でしょうか。

    このような構造を根本から変えることはできないので、どちらかというと「ある程度汎用性のあるサービスでも、各社がうまく活用できる仕組み」を確立させることが重要かなと思います。  

    具体的には、サービス導入時・導入後のサポートを充実させる。テック企業が不動産会社にしっかりと伴走するような仕組みですね。  

    現在テックサービスの価格競争が進んでいますが、伴走コストも盛り込めないような超廉価にしてしまっては意味がありません。少なくとも伴走コストは含めた価格設定で、「使い勝手の良いサービス」に仕上げていくのが肝要ではないかと思います 。  

    Q.今後の不動産業界・テック業界に期待することをお聞かせください。

    不動産業界における「負」の解消に、テックサービスが活用されて欲しいですね。  

    そもそもサービスには「快適性を追求するモノ」と「不満(負)を解消するモノ」がありますが、不動産業界はいち早く解消すべき「負」を少なからず抱えています。たとえば、おとり広告などもそうです。  

    まずはテクノロジーで、このような不当取引を排除する。そして、“消費者を第一に考える不動産会社”が中心的存在として残れるような業界になることを期待していますし、そのために我々も尽力していこうと思っています。  

    「自由な住み替え」と「多拠点居住」で広がる、住まいの可能性

    Q. この先、どのように「住まい」と向き合うべきだと思われますか?

    「住まい」だけではなく、「住まい方」にも向き合うことが大切かな、と思います。  

    日本では、一度家を購入したら基本ずっと住み続ける。しかし、今後人口が減少することを考えると、一人あたりの“住み替え回数”を増やさなければ不動産市場は縮小してしまいます。  

    また、市場の縮小を食い止めるには“生活拠点”を増やすことも重要です。一つの家にとらわれずに暮らす、ということですね。  

    この「多拠点居住」は、これまで資産家向けのイメージがありました。しかし最近は職住融合が進み、かつ定額で日本中の空き家に暮らせる「住み放題サービス」なども登場しているため、ハードルが下がっています。これは、自分にフィットする家や街を気軽に試せるという点でも魅力的です。  

    ちなみに私もいくつか拠点を持っていますが、自分が居ない時は“マンスリー賃貸”や“簡易宿泊”で貸し出し支出と収入をバランスさせることにより、多拠点居住を実現しています。  

    Q. いまや住まいは「借りる」「買う」だけではないのですね。

    そうです。オフィスとして使ったり、ホテルとして貸したりできるようになりました。一つの建物が複数の用途をもつ、いわば“不動産のシームレス化”が進んでいるのです。

    この“不動産のシームレス化”という視点をもちながら、より気軽な住み替え・多拠点居住を実現する。これが業界の活性化にも、消費者の幸福度を高めることにも繋がるのではないでしょうか。  

    そのためにも、不動産業界・テック業界が一致団結して、消費者が積極的に不動産取引をしたいと思えるような「自由で健全なマーケット」創りに注力することが重要です。  

    もちろん我々「SUUMO」もサービスにより磨きをかけ、住まいに関わる皆さんが幸せになれるよう貢献したいと考えています。

    まとめ

    時代の流れやDX化に伴い、大きな変化の可能性を秘めている日本の住まいのあり方。

    不動産業界の未来、ひいては日本の未来を見据えて、暮らしに対するリテラシーを高めていく必要がありそうです。

    本記事取材のインタビュイー様

    池本洋一 氏
    1972年滋賀県生まれ。
    1995年上智大学新聞学科卒業。株式会社リクルートに入社。
    住宅情報編集部、広告営業、ブランド戦略、事業開発、都心に住む編集長など3誌の編集長を経て2011年より現職。
    内閣官房、日本版CCRC構想有識者会議委員。 経済産業省、ZEH(ゼロエネルギーハウス)ロードマップフォローアップ委員。
    国土交通省、良質住宅ストック形成のための市場環境整備促進事業評価委員
    環境省、賃貸住宅における省CO2促進モデル事業 評価委員などを歴任。
    住まいの専門家としてテレビなどのメディア出演。 新聞・雑誌などの執筆取材や講演で全国を精力的に飛び回っている。

     

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