【専門家インタビュー】梶 宏輔 様|データパワーで不動産業界を変革する「住宅テックラボ」の挑戦とは?

この度、住宅テックラボ株式会社の代表取締役である梶 宏輔 様にインタビューする機会を得ました。
住宅テックラボ株式会社では、不動産管理会社向けの「オーナーサーチ」「ちんさてくん」と金融機関向けの「propREPORT(プロップレポート)」を展開し、データ活用により不動産業界の課題解決に取り組んでいます。
梶様の取り組みや、データを活用して業務効率化を図るための戦略、今後の展望について伺いました。
データ×不動産テック:住宅テックラボの事業戦略と独自性
住宅テックラボの事業概要についてお聞かせください。
▲住宅テックラボ株式会社 代表取締役 梶 宏輔 氏
弊社は主に二つの事業ドメインで展開しています。一つ目が不動産管理会社向けのサービス、二つ目が金融機関向けのサービスです。
不動産管理会社向けには、不動産管理会社と物件のオーナーを繋ぐというコンセプトで、多数のサービスを提供しています。主なサービスは「オーナーサーチ」と「ちんさてくん」です。「オーナーサーチ」は、不動産管理会社のために家主の名簿を作成し、営業支援を行うサービスです。「ちんさてくん」は、賃料査定や空室対策、詳細なレントロール作成などができる賃貸管理支援ツールです。
金融機関向けには、主に担保の査定ツール「propREPORT(プロップレポート)」を提供しています。このツールは、融資部や営業支店の方々が、ブラウザ上で簡単に不動産の評価を約1、2分で行えるサービスです。
私たちの強みは、北海道から沖縄までの膨大な物件データ(毎日400万棟、ユニーク数で250万棟)を活用していることと、法務局やゼンリンを活用しながら、安価で高品質且つ鮮度の高い家主情報を提供できることです。
私はもともと前職で、不動産管理会社向けのコンサルティングを10年ほどやっていました。その中で、自分でリスクを背負って事業をやってみたいという気持ちがふつふつと湧いてきたのです。コンサルティングはお客様のお金と人とリソースでサービスをやるので、どこまでいっても他人行儀というか……。改めて「自分でリスクを背負って会社をやりたい」という気持ちが強くなりました。
そんなとき、たまたま紹介で出会った共同創業者の白井がシンガポールを拠点に世界17カ国のデータを集めてデータビジネスを行っていると知り、特に不動産のデータが多いということで、「不動産×データ」を主軸とした会社をやってみようとなりました。
競合サービスと比較した、住宅テックラボの強みや優位性はどんなところでしょうか?
最初の強みはデータの量と鮮度です。データ系のサービスを提供している会社はありますが、日時で更新している件数と鮮度のところで、我々は他社より一桁〜二桁多いデータを活用しています。
2つ目は不動産会社様とのネットワークです。不動産業界は非常にウェットな業界だと思っています。人間関係や泥臭さ、一見意味がないようなことを重要視する雰囲気があると思っていて、我々はそんな不動産業界の特性を理解し、業界に寄り添ったサービスを提供することを重視しています。
代表的なサービス「オーナーサーチ」について詳しく教えてください。
オーナーサーチは、不動産管理会社や売買会社向けに、家主の名簿を代わりに作る非常にシンプルなサービスです。いわゆる登記簿の取得代行ですね。
不動産会社様が売上を上げるためには、物件オーナーのリストは必須です。従来、このリスト作成は非常に手間のかかる作業で、私も以前、コンサルティングの仕事で、広島の会社が3,000件から4,000件のリストを作るのに、朝4時から9時まで毎日ブルーマップを見て、蛍光ペンで塗りつぶし、打ち込む作業を二、三ヶ月続けた経験があります。
「オーナーサーチ」は、こうした泥臭い作業を完全に解決します。2週間でオーナーリストを提供し、しかも1件あたり385円(税込)というコスト破格の価格設定です。従来の手作業では人件費や取得費用を入れると1件600〜700円かかっていたものが、私たちのサービスで大幅に効率化・コストダウンできます。
特徴的なのは。金額に加えて、「業界で唯一、物件の条件で絞り込めるオーナーリスト」が作れるということです。
エリアや築年数で絞り込んだり、空室が多い物件や特定のブランドのオーナーを抽出したりできる点です。実際、ある不動産管理会社では、月2,000件のリストを利用して、媒介契約の獲得が3〜4件増加するなどの成果も出ています。
「ちんさてくん」の特徴や機能について教えてください。
「ちんさてくん」は2025年3月にリリースした、今一番力を入れているサービスで、我々が扱っている膨大な物件データを活用した、革新的な賃料査定ツールです。
毎日物件データベースが更新されるため、成約したタイミングを予測できます。これを「みなし成約」と呼んでおりまして、公開された賃貸情報から、ほぼ成約時の賃料と同等の価格を導き出すことができます。
単なる賃料査定にとどまらず、駐輪場や駐車場の情報、詳細なレントロールの作成、エリアや設備に特化したランキング機能など、不動産管理会社の幅広いニーズに応えるサービスとなっています。空室対策や物件管理の受託にも活用できる、多機能なツールです。
データの取扱いから連想される「知的」なイメージを持つチンパンジーをモチーフにしたキャラクターに、賃料査定や賃貸の「チン」という言葉遊びも込めて、親しみやすいサービスを目指しています。
金融機関向けの「propREPORT」はどのようなサービスですか?
「propREPORT」は、金融機関向けの担保査定ツールです。ブラウザ上で物件を選んでいただいたり、簡単な情報を入れていただいたりすると、担保の査定結果が約1〜2分で返ってくるサービスです。不動産管理会社では約100社弱にご利用いただいており、主に買取再販の会社にご活用いただいています。
このツールの最大の特徴は、銀行の目線を社内で理解できる点です。従来は、銀行に個別に確認を取る必要がありましたが、「propREPORT」を使えば、社内で効率的に不動産の評価が可能になります。
不動産評価だけでなく、周辺物件の事例(例:4,000万円、6,500万円の物件)や、賃料査定と連携して利回り計算まで行っています。キャッシュフロー分析や金融機関様にとって多角的な情報が得られます。
また買取再販業者様には物件購入時、不動産会社様は売却査定の際の報告書として活用いただいています。「この物件をいくらで売れるか」を迅速に把握するツールとして役立っています。
コスト最適化と付加価値が鍵。管理会社ネットワークが支える不動産テックの挑戦
データ収集・整備について工夫されている点があれば教えてください。
データの加工自体は業務提携先で行っていますが、我々の強みは全国の不動産管理会社とのネットワークがあることです。主にご利用いただいている不動産管理会社と売買を合わせると200数十社になります。そこから生データをいただけるというのがデータ収集の強みです。
導入の決め手となるポイントはどこにありますか?
一番わかりやすいポイントは金額です。「ちんさてくん」は1万円から各種分析ができ、40枚近いで報告書が作成できます。「オーナーサーチ」は1件385円〜(税込)なので、コストパフォーマンスが導入の決め手の一つです。
単に安いだけでなく、名簿取得からサービス代行、レポート作成までをワンストップで提供できる点も大きな強みです。特に「ちんさてくん」のSaaSサービスは、導入を迷っている会社様に、まずは使ってみてもらいやすいよう設計しています。デモも用意しており、データの正確性や機能の違いを実際に体感いただけるような工夫もしており、不動産管理会社に、わかりやすく、メリットを感じていただける価格と仕組みを追求しています。
導入後の定着度を高めるためにはどんな取り組みをされていますか。
カスタマーサクセス(CS)は、私たちにとって極めて重要な要素です。単に安いサービスを提供するだけでなく、お客様に実際に使っていただき、成果を出していただくことが最も大切だと考えています。
これまでの不動産管理会社向けコンサルティングの経験から、導入後に「安いから」という理由だけで使われず、形骸化してしまうケースをたくさん見てきました。そのため、専門のCSチームを設置し、定期的にお客様にコンタクトを取り、サービスの使い方説明や成功事例の共有に注力しています。
デジタル変革の本質とは?不動産テック企業が描く新たな価値創造
不動産業界のDX推進において、現在の課題・障壁は何だとお考えですか?
不動産業界のDX推進には、主に二つの大きな段階があると考えています。
第一段階は、DXそのものの受け入れと導入です。幸いなことに、この段階は徐々に進展しています。大手企業やベンチャー企業の参入により、不動産管理会社の皆様もITツールの存在に興味を持ち、導入する企業が増えてきました。他の業種と比較しても、決して遅れているわけではありません。
しかし第二段階、つまりITツールを実際に使いこなし、会社に落とし込むというところでは、まだまだ課題が山積しています。
特に大きな課題は、DX推進の専任者を置くことです。理想は、兼務ではない専任者ですが、管理戸数が1,000戸以下、年間売上1億円程度の中小企業では、専任のIT担当者を置くのは現実的に難しいのが現状です。そのため、店長や部長が兼務でも構わないので、DX推進の旗振り役を置くことが重要だと考えています。単にツールを導入するだけでなく、どう活用し、どう業務改善につなげるかを考える人材が不可欠なのです。
これは不動産業界に限らず、多くの業界が直面している共通の課題です。テクノロジーの導入は簡単でも、それを本当の意味で経営に活かすのは容易ではありません。
中小規模の不動産管理会社がデジタルツールを導入する際、どのような支援を行っているのでしょうか。
中小規模の不動産管理会社のデジタルツール導入支援において、私たちは二つの柱を大切にしています。
まず一つ目はCS部門の強化です。不動産業界とITの両方の知識を持つ人材を配置し、お客様のサポートに注力しています。ここで重要になってくるのが、コミュニケーション能力です。不動産の知識とITスキルに加えて、お客様の課題を真に理解し、寄り添えるコミュニケーション能力が、デジタル導入の成功を左右すると考えています。先ほどのお話とも繋がってくるのですが、単にツールを提供するだけでなく、実際に成果を出していただくことが最大の目標です。
二つ目は、成功事例の体系化と共有です。例えば、「ちんさてくん」は本来、賃料査定が目的ですが、実際のお客様の中には、そのレポートを使って管理戸数を増やしたり、想定外の方法で活用したりする会社が出てきています。「オーナーサーチ」も、単なる名簿取得から、オーナー向けセミナーを通じた相続相談へと発展している事例があります。これらの成功事例を、セミナーや事例集を通じて共有し、他の不動産管理会社にも新たな可能性を示していきたいと考えています。
ここで重要になってくるのが、コミュニケーション能力です。不動産の知識とITスキルに加えて、お客様の課題を真に理解し、寄り添えるコミュニケーション能力が、デジタル導入の成功を左右すると考えています。
現在は10社ほどですが、DXによる管理業務の効率化や生産性向上のコンサルティングも行っています。私たちの目標は、デジタルツールを通じて、不動産管理会社の成長を真にサポートすることです。
今後の展望について、目指すビジョンがあれば教えてください。
不動産業界の価値は、この10年で大きく変化してきました。かつては集金管理から始まり、次に入居率の改善へと進化し、今は総資産管理の時代に入りつつあります。
私たち住宅テックラボは、この変化を見据え、現在二つのフェーズで事業を展開しています。
フェーズ1は、不動産管理会社向けのサービス拡充です。現在、「ちんさてくん」と「オーナーサーチ」のサービスを提供していますが、まだまだ成長の余地があります。年内には300社の導入を目標にしており、3年以内には市場でしっかりとしたシェアを取りたいと考えています。
フェーズ2では、金融機関と不動産管理会社をつなぐ新しいサービスの提供を目指しています。早ければ2〜3年後には本格的に始動したいと思っています。
私たちの究極的な目標は、オーナーの資産を最適化することです。現在は家賃や入居率に焦点を当てていますが、将来的には、より包括的な資産管理支援を目指しています。日本では9割近くの資産が不動産で占められているため、不動産管理会社は資産管理の重要な鍵になり得ると考えています。
特に、アメリカのファンドマネージャーのように、日本の不動産管理会社も社会的に高く評価される職業になることを目指しています。金融機関と協力しながら、オーナーの資産を最適化し、不動産管理業界全体の地位向上に貢献したいですね。
データの力を活用し、不動産管理会社とオーナーを深く繋ぐことで、日本の不動産業界に新たな価値を創造していきます。
まとめ
データパワーで不動産業界の変革に挑む梶 宏輔 様。不動産業界のウェットな特性を理解しながら、データとテクノロジーを活用して業界の課題解決に取り組む姿勢が非常に印象的でした。毎日400万棟ものデータを活用し、競合他社より圧倒的に多いデータ量と鮮度は、まさに「データパワー」の真骨頂と言えるでしょう。不動産管理会社の業務効率化や、金融機関との連携による新しい価値創造など、今後の展開も非常に楽しみです。
本記事のインタビュイー様
住宅テックラボ株式会社 代表取締役
梶 宏輔 様
住宅テックラボ株式会社 代表取締役の梶宏輔氏。大学卒業後に船井総合研究所へ入社し、企業の経営戦略立案に携わる。同社の賃貸支援部では不動産管理会社の業務支援を経験し、不動産業界への深い知見を培った。その後、全国賃貸管理ビジネス協会に入社。全管協総研にて管理会社の知見を集約しながらサービス提供に尽力。2022年、不動産情報のビッグデータを武器に、住宅テックラボを設立した。現在は、不動産管理会社と金融機関をつなぐプラットフォーム構築を目指し、業界のデジタルトランスフォーメーションを牽引する若手経営者として注目を集めている。