管理業務主任者とは|マンション管理士との違いと試験概要&難易度
管理業務主任者は、管理組合30組に対して1人は必ず管理会社に在籍していなくてはならない役職です。
そのため、多くのマンションから管理業務の委託を受けているところほど、管理業務主任者の資格を持つ人の需要が高くなっています。
また、マンションに住む人が年々増加していることもあり、有資格者は即戦力で採用したいと考えている企業もあるので、今後就職や転職を考えている方は、資格取得を一度検討してみるのはいかがでしょうか。
管理業務主任者とは
管理業務主任者は、マンションにおける管理組合と業務委託契約を結ぶ際に重要事項説明や管理事務報告ができる人のことで、国家資格です。また他にも、重要事項説明や管理事務報告以外で、組合運営に関するマネージメントも行うなど、組合ではカバーしきれない運営・管理業務のサポートをしたりします。
管理業務主任者の資格は単体でも需要はありますが、マンション管理士の資格と併せて所有していればさらに需要が高まるうえに、マンション管理における業務の幅が大きく広がります。そのため、管理業務主任者とマンション管理士の資格を両方取得する人が多いです。
マンション管理士との違い
マンション管理士は管理業務主任者の資格と併せて紹介されることの多い資格です。
組合と業務委託契約を結ぶ際に重要事項説明を行うなど、契約に関する重要なポジションを任される管理業務主任者。一方でマンション管理士は、組合からの相談に乗ったり、法的見地から管理業務に対するアドバイスをしたりして、組合のサポートをします。
マンション管理士は具体的に以下のような業務を行います。
- 管理規約および使用細則の作成
- 大規模修繕計画の策定
- 住人間のトラブルに対するサポート
管理業務主任者は管理会社に所属して業務を行うのに対して、マンション管理士は管理会社に在籍する必要がなく、個人で組合からの相談を受け付けることができます。
ちなみに管理規約と使用細則について、もう少し踏み込んだ内容を知りたい方はこちらを参考にしてみてください。
参考記事:管理規約と使用細則の違いは?規約作成時の注意点と作成依頼を出した場合の相場を紹介
管理業務主任者には設置義務と独占業務がある
管理会社は管理業務主任者の『設置義務』があり、『管理組合30組合につき、1名の管理業務主任者を設置すること』と、マンション管理適正化推進法第五十六条で定められています。さらには、以下の4つのような管理業務主任者にしか行うことのできない『独占業務』もあって、代えが効かない役職として就職・転職には強い資格と言われています。
【独占業務内容】
- 管理受託契約に際して重要事項を説明
- 管理受託契約に関する重要事項説明書に記名・押印
- 管理受託契約書に記名・押印
- 管理組合に対して管理事務に関する内容を報告
独占業務なので同じ管理会社の社員だとしても、有資格者でなければ代わりは務まらないので、管理会社の中でも貴重な役割を担うことができます。
管理業務主任者の平均年収
管理業務主任者の平均年収は300~500万円と言われており、一般的なサラリーマンの平均年収とほとんど差がありません。
基本的に独立・開業をするための資格としては向いておらず、管理会社に属して会社が請け負う複数の業務内容の中で重要なポジションを担うことに特化しています。
そのため、個人で始めて青天井を目指すのは難しく、会社の中で『管理業務主任者+α』的な要素を持ち合わせて存在価値を高めることが、年収UPには近道となるでしょう。
例えば、併せてマンション管理士の資格を取って、組合の相談窓口としても担当できるようになったり、経理の知識を身に付けて組合費の運用までアドバイスしたりすることで、組合からの自身の需要を高めるといった方法があります。
就職・転職の際に武器になる
30組合につき1人の管理業務主任者を在籍させる義務が企業にはあるので、就職や転職の際には武器になり得ます。
また、年々減少してはいるものの、毎年全国で10万戸近く新しいマンションが建てられていることもあり、単純計算で新規の管理業務主任者が年間3,000人近く必要になってきます。管理業務主任者試験における1年あたりの合格者数が約3,000~4,000人で毎年推移していることを考えると、単純計算でほとんどの人材が働き手としての需要があります。
ただし、就職後のことを考えるのであれば、管理業務主任者の資格を有するだけでは企業側としては物足りないと思われる可能性が高いので、何か付随する資格を持ち合わせて就職することをおすすめします。
【管理業務主任者の資格と併せて持っておきたい資格】
- マンション管理士
- 宅建士
- 簿記
就職・転職ではなく、すでに管理会社に在籍している場合でも、企業によっては資格手当を出してくれるところもあります。資格の合格率は20%付近を毎年推移していることから、取得が特別難しい国家資格というわけではないので、もし興味がある方は取得することをおすすめします。
また、宅建士の試験詳細については、下記を参考にしてください。
参考記事:宅地建物取引士(宅建士)とは|就職・転職に有利?宅建士になるとできる業務内容を分かりやすく解説。
管理業務主任者試験の概要
管理業務主任者の試験は合格率から見ても、難しくない部類の国家試験と言えます。
しかし、簡単とはいっても法律系の試験範囲もあって、それなりの勉強時間の確保が必要で、試験対策は必須です。基礎的な内容が多いため比較的優しいと言われるのであって、試験対策をせずに受かることは厳しいので注意してください。
以上のことを踏まえて試験概要を確認しつつ、試験を受けるかどうか検討してください。
【管理業務主任者試験の概要】
項目 | 詳細 |
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試験日 |
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受験申請期間 |
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受験料 |
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合格発表日 |
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試験地 |
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受験資格 |
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試験科目 |
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試験実施機関 |
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出題範囲
出題範囲に関しては、法令関係が約6割を占めているので、法令の問題は9割くらいとれるようにしておきたいところです。年によって割合の変化は多少あるものの、概ね以下のような振り分けで試験問題が作成されます。
- 法令系:約30問
- 管理実務系:約10問
- 建築設備系:約10問
合格基準点は毎年若干の変動があるものの、34~36点あたりを推移しているので、40点前後を確実に取るための戦略を考えて勉強していくことが合格の鍵を握ります。
以下で説明する出題範囲の詳細を確認して、自身の勉強割合をどう振り分けていくべきか参照にしてください。
法令系
法令関係の試験内容において、必ず押さえておきたい内容が以下の3つです。
- 区分所有法
- マンション管理適正化法・標準管理法
- 民法
この中でも一番時間をかけて勉強をしていきたいのが『区分所有法』に関する内容です。なぜなら、そのほかの範囲である『マンション管理適正化法』や『民法』などは区分所有法の知識があることを前提に出題されるからです。
なので、区分所有法を知っておくことで、試験範囲の法令関係全ての内容を理解しやすくなることに繋がります。
また、試験のことだけでなく、就職後の実務のことも考えると区分所有法の知識を抑えておくことは、その後の不動産関係の知識を蓄えるためのベースになるので深く知っておいて損はまったくありません。
管理実務系
管理実務系の範囲は、マンション管理のための会計と税金の知識を問われる内容です。
簿記の資格を持っている方であれば容易に理解がしやすい内容で、基本的な知識を覚えたら過去問などで繰り返し解いて問題のパターンをつかむことで得点に繋げやすいです。また、簿記の資格がなくても基礎的な内容しか出ないので、身構えずに学習してください。
マンション管理士の資格取得を併せて検討している場合は、管理実務系の内容を理解しておくことでその後の実務に活かせる機会が多いので、合格後のことも見据えて勉強していくことをおすすめします。
建築設備系
建築設備系の範囲ではマンションの構造・設備・維持・保全に関する問題が出題されます。
建築設備系の範囲は法律系と同等レベルで範囲が広く、難易度が高い問題が出ることも多いです。そのため、試験対策としては一番後回しにしたい科目で、勉強するにしても基礎部分の内容を抑える程度にして、時間があれば深く突き詰めていくスタンスで問題ないでしょう。
ただし、この範囲もマンション管理士の資格を合わせて受験する方にとっては、その後の実務に活かせる場面が多いので、内容の理解を深めておくことは業務の質を高めることに直接つながります。
『マンション管理士』の試験を合わせて受けるのもおすすめ
マンション管理士の資格は管理業務主任者の資格と併せておすすめされることが多い資格です(特に通信講座など)。
それには2つの理由があり、1つは『試験範囲の重複箇所が多いこと』、2つ目は『片方の資格を持っている状態で受験すると試験問題が5問免除される制度があること』が挙げられます。つまり、2つの試験を受ける場合は、2種類目の試験の労力が大幅に減少されるのです。
また、実務においても管理会社においては両資格を活かせる場面が多いので、会社内でのスキルを確立させるためにも併せて取得するのがおすすめです。
管理業務主任者試験の年度別合格率と難易度
管理業務主任者試験は宅建士の資格などと比べると優しい部類の内容になっており、範囲全体をしっかり勉強して基礎部分を確実にしておけば高い確率で合格することができます。
また、以下の表からもわかるように合格率は毎年20%を超える値を推移しているケースがほとんどで、宅建士の資格が合格率平均15%程度であることを踏まえると優しい試験に分類されることがお分かりいただけるかと思います。
管理業務主任者試験の合格率や基準点
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格基準点 |
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平成26年度 |
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平成27年度 |
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平成28年度 |
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平成29年度 |
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平成30年度 |
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令和元年度 |
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令和2年度 |
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令和3年度 |
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参考:一般社団法人 マンション管理業協会(令和3年度 管理業務主任者試験 結果報告)
『国家資格』という言葉に惑わされず、参考書の基礎を抑えるように勉強していくようにし、下手に身構えずに試験に臨む心構えも時には大切です。
ただし、基礎的な内容だとしても試験範囲は広いので勉強時間は200~300時間は確保したいところなので、試験日の約半年前から勉強を進めていくことをおすすめします。
マンション管理士・宅地建物取引士の資格を持っている人には優しい
試験範囲の6割は法律関係の内容になるので、ほぼ重複する範囲を勉強することになるマンション管理士や、さらに深く不動産における法律関係の勉強を必要とされる宅建士の資格を所持している方にとってはかなり優しい試験内容になるでしょう。
マンション管理士においては逆も言えるので、先に管理業務主任者の資格を取得した場合は、勉強内容を覚えているうちに併せて受験してしまうことをおすすめします。
管理業務主任者試験の勉強方法
管理業務主任者試験の範囲は広いため、200~300時間ほどの勉強時間は確保する必要があると言われています。そのため、自身の生活に合わせて予定を組んでいつから勉強を開始するべきか計画を立てなくてはなりません。
その際に、『独学』『通信講座』どちらを選択するかで計画の立て方が大きく変わるので、以下で説明する内容を参考に、どちらの勉強方法を選択するか検討してください。また、検討するにあたり、時間の余裕・効率・費用・性格の4点にポイントを置くことをおすすめします。
独学
独学で勉強をする際は、勉強方法・勉強内容を教えてくれる先生がいないので、何から勉強すればいいか分からなくなりがちです。そんな時は以下の順番で勉強を進めることをおすすめします。
- テキスト(参考書)を何度も読み返す
- 過去問を解いて試験の形式になれる
テキストを選ぶ際は、内容ももちろんですが自身が読みやすい・勉強を進めやすいかを重視して選択するようにしましょう。厚ければ内容が充実しているというわけでもないので、試しに読んでみて抵抗がないことが勉強を続ける上で重要なポイントです。
そして、テキストは1周で終わりにするのではなく最低でも3周するようにしましょう。この時のポイントとして、1周目ですべて理解しようとしなくても大丈夫です。
参考として挙げますが、例えば1周目は見出しと太字を流し読み、2週目でも熟読はいらないレベルで読み進める、3回目に細かい気になるポイントがないか確認しながら読む。知識を薄く何回にも分けて塗り重ねていくようなイメージで知識を吸収します。繰り返すことで理解を生むことを念頭に置いて勉強するようにしましょう。
そして最後に、ある程度テキストを周回したら試験1か月前くらいから過去問を繰り返して実践になれていくようにしましょう(もちろん過去問に取り掛かるタイミングは個人差があります)。
独学は試験への意識を持ち続けることが一番大変なので、テキストや勉強方法も自分に適した方法を見出すことに注力するのが独学で成功するための一番のポイントです。
通信講座
通信講座で勉強をする場合は、最初に受講する講座のサイトで学習完了までにかかるおおよその時間を把握しておくようにしましょう。
なぜなら、試験日までの勉強予定が決めづらいのと、もし時間が足りない場合はどのくらいペースを上げてやるべきかを判断する必要があるからです。
素直に通信講座の勉強システムに沿って勉強を進めましょう。通信の講座内容は、その試験に対するプロが考えた試験に受かるための最短かつ最善の勉強方法とも言えるので、自分自身であれこれ考えると勉強の効率を落とす要因になりかねません。
ただし、通信講座の唯一のデメリットは、独学に比べて講座費用が割高である点です。通信講座の会社にもよりますが、4〜14万円と言われています。金銭面的に余裕がない場合はお財布事情と照らし合わせて検討してください。
いかに効率さを求める場合は、通信講座やスクロールを利用して手っ取り早く試験勉強を進めるのが吉です。
まとめ
管理業務主任者の資格は、管理組合と業務委託契約を結ぶ際に重要事項説明をしたり、契約に関する書類に記名押印をしたりする重要な役割を担っています。
また、管理会社には30組合につき1人の管理業務主任者を設置する義務があり、マンションが毎年数十万戸と建てられている現状においては需要が高いので就職・転職に有利な資格として認識されています。
管理会社内に在籍する方にとっても、管理業務主任者の資格を取ることは、持っていない他の社員と差別化を図ることができるのでおすすめできる上に、企業によっては資格手当を用意している場合もあります。
試験の内容自体は、宅建士よりも比較的簡単な部類に入るので、業務におけるスキルアップや資格手当を希望する場合はぜひ一度取得の検討をしてみてはいかがでしょうか。