普通借家契約と定期借家契約の違いは?契約内容の違いを把握して入居者とのトラブルを回避
ご存じの方も多いかと思いますが、賃貸物件の契約形態には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。
一般的には1〜2年に一度の更新が必要となる普通借家契約が一般的で、2020年度の調査では三大都市圏において、95.5%が普通借家契約を利用しています。(出典:国土交通省 2020年度 住宅市場動向調査)。
ですが、近年では契約の更新が原則なく契約期間が決められた定期借家契約の契約方法も少しずつ増えてきています。
そこで、当記事では2つの契約方法の違いについて触れつつ、定期借家契約に出すオーナーの真意や、それぞれの契約のメリット・デメリットについて解説しています。今後自身で物件を所持して賃貸に出す予定がある方は参考にしてみてください。
普通借家契約と定期借家契約
貸主と借主の間で賃貸契約を結ぶことを借家契約(しゃっかけいやく)と言います。借家契約は以下の2種類に分けることができ、貸主側がそれぞれどちらの契約内容で物件を出すか判断します。
- 普通借家契約(ふつうしゃっかけいやく)
- 定期借家契約(ていきしゃっかけいやく)
海外では定期借家契約が主流のところも多いですが、日本でも約20年前から優良な賃貸住宅を供給しやすくなることを目的に導入された契約方法です。現在導入中の方も、そうでない方もそれぞれの内容を把握して、メリットがあるかを判断した上で検討してみてください。
普通借家契約
普通借家契約とは、1年以上の賃貸借期間が定められており、契約の更新が可能な契約方法です。基本的に、契約後は解約の手続きをするまでは同条件にて更新され続けていく一般的な借家契約になります。
【普通借家契約の詳細】
- 契約期間
契約期間は1年以上で設定しますが、一般的には2年とすることが多いです。なお、契約期間を1年未満とした場合は「期間の定めのない契約」とみなされ、各当事者がいつでも解約の申し入れができてしまう状態になります。
- 貸主からの中途解約
借主が引き続き物件を使い続けることを希望している場合、貸主からの中途解約や契約期間満了時の更新の拒絶は基本的にはできません。貸主から中途解約や更新の拒絶をしたい場合には、貸主がその物件を自ら使用しなければならなくなったという「正当事由」が必要になります。
- 借主からの中途解約
中途解約に関する特約をあらかじめ定めていれば可能です。解約の予告期間や、直ちに解約する際に支払う金額を定めることが多いです。
定期借家契約
定期借家契約とは賃貸借期間が終了になったら契約を終了し、更新したい場合は新たに契約をし直す必要のある借家契約です。基本的に、更新できる場合は少なく、オーナーの事情により定期借家契約を希望する場合がほとんどになります。
少しの空き家期間ができますが、その期間が数ヶ月しかない場合などは普通借家契約だと1年以上ないことから契約を結ぶことができない場合などに利用されることが多いです。
【定期借家契約の詳細】
- 契約期間
各当事者の間で自由に定めることができます。特に制限も存在しません。
- 契約の締結方法時の注意
契約期間を確定的に定めたら、公正証書などの書面によって契約することが必要です。
また貸主は、契約書とは別に「契約の更新はなく、期間の満了とともに契約終了すること」を書面としてあらかじめ交付して、借主に説明する義務があります。もしこの説明を怠ったときは、定期借家契約としての効力がなくなり、普通借家契約になります。
- 中途解約
中途解約に関しての特約を個別に結ぶことが可能です。
期間中に借主の転勤、療養、親族の介護などやむを得ない事情が発生し、物件を使い続けることが困難になった場合には、解約の申し入れができます。ただし、この解約を申し入れることができるのは、床面積が200㎡未満の物件を使用している借主に限られます。
- 契約終了時の通知
契約期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年~6か月前までの間に、借主に対して契約終了の通知をする必要があります。
- 普通借家契約の定期借家契約への切り替え
定期借家契約の制度が始まった平成12年3月1日より以前に締結された普通借家契約は、借主を保護する観点から、借主と物件が変わらない場合、定期借家契約への切り替えを強制することは基本的にできません。
普通借家契約と定期借家契約の比較
普通借家契約と定期借家契約ではどんなところが違うのか、比較表にまとめたのでそれぞれの理解を深め、賃貸に自身の物件を出す場合はどちらを選択すべきか適切な方を選択できるようにしておきましょう。また、借りる側としても把握しておきたい内容なので、借主側もぜひチェックしておいてください。
普通借家契約 | 定期借家契約 | |
---|---|---|
賃貸借の用途 | 居住用・事業用いずれも可能。 | 居住用・事業用いずれも可能。 |
契約方法 | 書面でも口頭でも良い。 | 書面による契約のみ。貸主には「更新はなく、期間の満了とともに契約終了すること」を契約書とは別に書面を交付する必要があり。 |
契約期間 | 1年以上。1年未満の契約期間を定めた場合は、期間の定めのない賃貸借契約とみなされる。 | 制限なし。 |
賃借料の増減額の請求権 | 特約にかかわらず、当事者は賃借料の増減を請求できる。 | 特約の定めに従って、請求が可能。 |
貸主からの通知 | 特になし。 | 契約期間が1年以上の場合、満期の1年~6か月前までに、契約終了の通知が必要。 |
更新の有無 | 更新が可能。 | 期間満了により契約終了で更新は基本できない。 再度同じ物件を使用したい場合は、また新たに契約を結ぶ必要あり。 |
貸主からの中途解約 | 基本的にはできない。中途解約や更新拒絶をしたい場合は、正当事由が必要。 | 中途解約について特約を結ぶことが可能。 |
借主からの中途解約 | あらかじめ特約を定まっていれば可能。 | 床面積が200㎡未満の物件を使用している際に限り、やむを得ない理由での解約が申請可能。 |
定期借家契約は更新がない分、退去時期に入居者がきっかり退去してもらわないとオーナー側が困る事態になってしまいます。そのため、契約の取り交わしは口頭ではなく書面で取り交わし、後で揉めることがないようにしておかないといけません。
また、注意点として普通借家契約において1年未満の契約で取り交わした場合は、「期間の定めのない契約」となるので更新手続きが必要のない内容となってしまいます。そのため、「賃貸を解約する場合は1カ月前に連絡する」という双方の取り決めができず、オーナーや不動産管理会社にとって不利に働いてしまうため、普通借家契約の契約期間を1年未満にすることは基本的にないと言われています。
オーナーが定期借家契約で物件を貸し出す理由は?
オーナーが定期借家契約で物件を出している理由は、オーナー自信の何かしらの事情である場合がほとんどだと考えられます。
参考までにオーナーが定期借家契約で物件を出す理由を挙げたので、オーナーは当てはまるものがないか確認してみてください。
【オーナーが定期借家契約で物件を賃貸に出す理由】
- 転勤のため持ち家を一時的に離れるため
- 地方などに所有している別荘を利用しない期間を活用するため
- 実家が空き家になったので、自分が継ぐまでの間、貸し出すため
賃貸の期間をあらかじめ決めておくことができる定期借家契約を利用することで、期間限定での賃貸が可能になるので、所有しているのに使っていない物件を一時的に貸し出すことで物件の有効活用ができます。
借主側における普通借家契約のメリット・デメリット
普通借家契約における、借主側のメリット・デメリットをまとめたので、今後物件を賃貸で借りようとしている方はぜひ参考にしてください。
メリット | デメリット |
---|---|
解約意思を示さない限り、 契約満了後も自動更新されるので更新の手間があまりかからない |
契約の際の条件交渉が難しい |
定期借家契約の物件より圧倒的に数が多いので、 選択肢の幅が広がる |
定期借家契約に比べ賃料が割高 |
賃料を一方的に増額される心配がない | 契約の際に条件交渉をしにくい |
普通借家契約では自動更新がされるので、特別な理由が貸手側にない限りはその物件に住み続けることが可能です。基本的に、借主のための契約システムなので、いきなりの強制退去命令や家賃の増額を言い渡されたりといったことは基本ありません。
定期借家契約の場合はオーナーが一時的な空き家を有効活用するために利用することが多いので、家賃交渉がしやすい面がありますが、普通借家契約の場合はオーナー側に融通が効きにくいのであらかじめ長期的目線で修繕費なども含めた金額設定をされることがほとんどです。したがって、もし同じ立地、同じ物件で賃貸に物件を出していたら、普通借家契約の賃料の方が高くなる可能性があります。
借主側における定期借家契約のメリット・デメリット
定期借家契約は、一時的な引っ越し先を探している場合などに最適な契約システムなので、ぜひメリット・デメリットを確認して住む価値があるか確かめてください。
メリット | デメリット |
---|---|
安い賃料で良質な(家具などが揃った)物件を使用することができる | 普及率が低い |
短期間での契約ができる | 中途解約に条件がある |
契約期間満了後に再度契約したい場合は、新たな条件提示ができる | 契約期間満了後に再度契約することができない場合はほとんど |
普通借家契約に比べると普及率が低いので、物件を探すこと自体に時間がかかりそうですが、期間限定で良い物件を安く利用できるのがメリットです。
賃貸物件検索サイトを利用すれば、定期借家契約の条件を入れることで検索可能です。まずはどんな物件があるのかを探してみることで、『安くて良質な物件』とはどんなものがあるのか確認してみましょう。
普通借家契約における『立ち退き』概要
貸主が所有している物件が老朽化や建て替えをしたいなどの理由から、借主側に退去してほしい時は、立ち退きを交渉する必要があります。
この時、定期借家契約ならば、契約期間が満了になったら契約終了となり、借主側は出ていくという選択肢しかないので、立ち退きの交渉は不要なケースが多いですが、普通借家契約の場合はそう簡単にはいきません。
もし、普通借家契約において貸主側から立ち退いてほしい場合は、立ち退きを依頼する正当な事由が必要です。正当な事由があれば、立退決定後最大6ヶ月までの間に立退をしてもらうことが可能で、貸主側は立退料を6ヶ月分支払って、早めに立退してもらえるよう促す場合もあります。
立ち退きにおける正当な事由とは
普通借家契約における立ち退き依頼時に必要となる『正当事由』は、以下のようなものがあります。前提として、そもそもその事由が正当かどうかの判断は、物件や入居者などの状況によって変わってくるので、参考事例として確認してみてください。
【正当事由として認められる可能性のあるもの】
- 借主への信頼関係が損なわれた
- 物件が老朽化してきたため危険性がある
- 災害などで貸主の住まいが損傷してしまったので物件が必要になった
- 店舗を拡充するため、建て替えをしたい
- 貸主側が亡くなり、相続税支払いのために物件を売却しなければならない
正当事由の判断については、裁判沙汰になるケースも多々あるくらい、認められるかどうかの判断は難しいです。
裁判の有無にかかわらず、借主側と揉めてしまったりした場合は立ち退き料を支払って穏便に出て行ってもらうことも少なくありません。
立ち退き料の相場
立ち退き料については明確な基準がないですが、家賃の6ヶ月分程度が相場とされています。これは、立ち退き料が新しい物件を探す時間や引っ越しのコストに充てられる役割を持っているためです。
また、住居として利用している借主より、店舗として利用している借主への方が、立ち退き料が高額になることが多いです。これは、店舗として利用している方が、次の物件を探すのが大変であったり、店舗移転に伴い顧客が減ってしまうリスクがあったりするためです。
基本的にオーナー側は立ち退き料について借手側からの要求を受けざるを得ないのですが、ある程度引っ越し相場などを知っておくことで法外な値段を要求されていないか確認することはできるでしょう。こちらの記事に、オーナー都合による立ち退き料の相場などを解説してますので、参考にしてみてください。
参考:大家都合による退去の立ち退き料の相場を紹介|支払わなくてもよいケースや流れ・判例を徹底解説
まとめ
「普通借家契約」は一般的に賃貸物件で採用されている契約方法で、定められた期間後も基本的には更新手続きをすることで引き続き住み続けることが可能です。
一方、「定期借家契約」は物件を期限付きで賃貸に出す契約方法のことを言い、主にオーナーの転勤や別荘など利用しない期間を賃貸物件として活用できます。オーナーとの交渉で住み続けられるケースもありますが、原則として契約の更新はできません。
借主はそれぞれの特徴を知った上で、自分に合った物件を借りるようにしましょう。そして、貸主(オーナー)は何かの事情で少しでも空室ができる場合などは、期間が定められた「定期借家契約」を検討してみてはいかがでしょうか。
また、オーナーは自主管理ではなく不動産管理会社へ物件の賃貸管理・運用を依頼するケースも多々あるかと思います。そんなときに「GMO賃貸DXオーナーアプリ」を利用すれば、双方のやり取りがスムーズになるだけでなく、物件の資産価値をアップさせるためのサポートツールとして役に立ちます。「GMO賃貸DXオーナーアプリ」について詳しく知りたい方は、下記からお気軽にお問い合わせください。
この記事のポイント
- 普通借家契約は、基本的に契約期間を1年以上に設定し、入居者は更新が可能。日本においてメインとなる賃貸形態。
- 定期借家契約は、オーナー側に何かしら事情があり、一定期間を賃貸として貸し出すが、基本的に契約期間の更新はされない。そのため、普通借家と同じ条件の物件がある場合は、割安になるケースが多い。
- 契約期間や更新の有無のみならず、それぞれのメリット・デメリットを理解した上でオーナーは貸し出しを、入居者は賃貸契約の検討をしましょう。