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【専門家インタビュー】堀内史朗様|残したいのは、「富」よりも「人」。幅広いネットワークで、日本中の不動産管理会社と個人を支えたい。

堀内様 アイキャッチ画像

今回お話を伺ったのは、不動産研究会FK2014の発足者であり、東海ビジネスネットワークの運営者でもある堀内 史朗様です。過去には全国賃貸管理ビジネス協会(全管協)の東海支部事務局長も務めた堀内様に、賃貸管理業界を支え続けてきたこれまでの道のりや、管理会社が生き残るためのキーポイントなどについてリモートにてお話を伺いました。

目次

    小さな居酒屋から、手広く手掛ける実業家へ。これまでの経験がすべて今に活きている。

    不動産を含む、多様なビジネスに携わってこられた堀内様の「原点」からお聞かせください。

    26歳の頃、山梨県の甲府で小さな居酒屋を開きました。これが私の実業家人生の始まりです。当時は高度経済成長期、かつ駅チカで立地に恵まれていたこともあり、店は繁盛していました。

    そんなある時、店を構えていた土地のオーナーから「土地を買わないか?」と持ちかけられました。土地代は1億6,000万円と非常に高額でしたが、経営は順調でしたし店に全身全霊を傾けていたため、ローンを組んでの購入を決意しました。ただし、居酒屋の経営だけではとても返済しきれません。  

    そこで、多角的な事業展開をしようと考え7階建てのビルを建築。居酒屋のほかにハンバーガーチェーン・マージャン荘・ビリヤードなどの店を入れ、すべて自ら経営して不動産オーナーになりました。これが、居酒屋を開いてから10年目のこと。本格的に実業家としての道のりを歩み始めたわけです。  

    その後、不動産業界へ参入されたのは何がきっかけだったのでしょうか?

    画面越しの堀内様

    ありがたいことにビルは大盛況でしたが、一方で月々のローン返済額も非常に大きいものでした。ビル建築後に宅配ピザの経営も始め、最終的な借入金は6億円弱にまでのぼっていましたから。そこで、利益拡大を図ろうと不動産事業へ参入したのです。  

    まずは、不動産フランチャイズ「住通チェーン(現:ERA LIXIL不動産ショップ)」に加盟し、売買仲介業をスタート。そこから徐々に、賃貸仲介・管理業へウエイトを移していきました。不動産事業を始めた頃はちょうどバブル景気の真っただ中でしたので、数年は好調でしたね。年間1,600~1,700件ほどの仲介、800戸ほどの管理を手掛けていました。

    しかしその後、バブルが崩壊して日本中の景気が悪化。当時展開していた事業全体の売上が徐々に落ちていき、結果的には経営していた店舗やビルも売却し、不動産事業も手放すことになりました。そして、「この先どうするかなぁ…」と逡巡していたわけです。そんな時に、知人が「静岡県の浜松で働かないか」と声を掛けてくれました。そこで心機一転で浜松へ移り、不動産会社である株式会社丸八アセットマネージメントに就職して、第二の人生をスタートしました。51歳の頃です。

    人生の大きな転機となったのですね。

    はい。改めて振り返ると、この転機は私の半生を非常に豊かにしてくれました。人生の3分の2を過ごした土地を離れ、再スタートを切ったことによる“解放感”が、現在までずっと続いている感覚です。

    就職後は、まず法人仲介売買に配属され、その後は賃貸管理部門の部長を務めました。

    在籍中に出向として、浜松を拠点とした全国賃貸管理ビジネス協会(以下、全管協)の東海支部立ち上げに参画。東海4県の賃貸会社から会員を募り、東海支部事務局長として経営指導などを含めた管理業のバックアップを行いました。  

    そして、全管協での経験を活かし、株式会社丸八アセットマネージメントの平野会長とともに2014年に不動産研究会「FK2014」を立ち上げたのです。全管協では、さまざまな経営者の方々とお話させていただきながら、俯瞰的な視点で“管理会社の成長に必要なこと”を模索し続けていました。

    FK2014 引用元:東海ビジネスネットワーク  

    すると、自ずと管理業界における成功・失敗のセオリーが見えてきたのです。このセオリーを、現在FK2014での情報発信やセミナーなどに活かしています。もちろん、全管協以外の経験から得た知見も役立っています。

    全管協以外のご経験は、どのように役立っていますか?

    多種多様なビジネスに携わった経験がノウハウの基になっています。特に私が“事業で失敗した”ことが、いろいろな人・企業をサポートする上で大きな武器になっていると感じます。甲府時代だけではなく、実は全管協の東海支部事務局長を退いた後に「格安チケット店」も始めたのですが、これも東日本大震災の影響で頓挫(とんざ)してしまったのです。  

    世の中では、大成功を収めた方ばかりにスポットライトが当たりがちですが、実際そのような方は全体のごく一部。なかなか日の目を浴びない方が大半です。そしてこの、いわば“その他大勢”の方にとっては、大成功した方の経験談はあまり参考にならないケースが多い。だからこそ、私のさまざまな失敗を役立ていただけるかなと思います。  

    世の中は、もっと“その他大勢”にきちんと向き合うべき。これが、私の経営哲学の一つです。

    活動内容は、“個々へのコンサル”から“大勢への情報発信”に進化。

    不動産研究会「FK2014」の活動内容をお聞かせください。

    FK2014では、定期的に会合やセミナーなどを開催しています。また会員には機関紙を発行して、賃貸管理業界の動向・課題の共有や、経営者にとって重要な他業界の情報を紹介しています。  

    なお、2021年5月頃からは情報発信の軸足をFacebookに移しました。グループ内に機関紙含むさまざまな情報を載せ、ネットワークを広げています。 FK2014_Facebook 引用元:Facebook「FK2014」  

    これからはインターネットでの活動に注力し、動画配信なども行う予定です。やはり動画は情報がダイレクトに伝わるので、活用しない手はありません。賃貸業界でも、物件情報などにどんどん取り入れるべきだと思っています(もちろん積極的に使っている会社もありますが)。  

    そもそもFK2014は、株式会社丸八アセットマネージメントの平野会長からご提案いただいたのをきっかけに、「今の自分にできるのはこのくらいだろう」と、特に長期的な理念もなく始めました。しかし、活動を続けるうちに意識も大きく変化しまして、今ではFK2014で実現したいことが数多くあります。

    「東海ビジネスネットワーク」の活動についてもお聞きできますか?

    東海ビジネスネットワーク_HP 引用元:東海ビジネスネットワーク 

    東海ビジネスネットワークは、不動産テック企業から業務支援ツールの紹介を依頼されるようになったのをきっかけに、今から10年ほど前に立ち上げました。法人化はしていませんが、FK2014とは離れたところで個人的に“ツールの営業サポート”を行っています。  

    また、以前は東海ビジネスネットワーク名義で不動産事業のコンサルも行っていました。現在は各社へのコンサルよりも、FK2014の活動を通じてより多くの人へ情報発信することに注力しています。  

    なお、私が行っていたのは、コンサルというより社長様や社員の方との個人面談という表現のほうが近いかもしれません。一人ひとりの方と向き合い、仕事に対する価値観などを探りながら、業界全体の流れや今後大切にすべきこと等をじっくり話し合っていました。  

    根底にあるのは、会社の持続的成長の鍵を握っているのは“社員一人ひとりの教育”だということ。教育といっても、技術面だけを磨いているようでは短期的な仕事にしか役立ちません。重要なのは、さまざまな角度から話をすることで、社員に“人間として視野・幅を広げてもらうこと”なのです。その結果、社員の創造力が高まり、会社の成長にも繫がります。ですから、個人面談スタイルを採用していたのです。

    賃貸管理業・不動産業は、“守りの時代”へ。

    堀内様から見て、賃貸管理業の魅力とはどんなところだと思われますか?

    何よりも、“高い安定性“ではないでしょうか。賃貸管理業界は、常に一定の需要があるため、堅実に収益を積み重ねていくことができます。

    業界の歴史を少しお話しすると、賃貸管理業界はバブルが崩壊しても、リーマンショックが起きても、致命的なダメージを受けることなく何度も立ち上がってきました。だからこそ、業界に対する注目がどんどん高まっていったわけです。  

    そして、賃貸管理業界は3千万人超の入居者を相手に商売ができる巨大な市場ですから、さまざまな業界が参入してきました。例えば、賃貸保証会社などもそうですね。  

    このような背景により、管理業界は少しずつ確実に成長を続け、ITの発達などの時代変化も相まって、活況を呈するようになったのです。  

    しかしながら、現在管理業界の成長期はすでに過ぎ、“守りの時代”に入りつつあると捉えています。  

    管理業界が“守りの時代”に入りつつある、とは?

    守りの時代について話す_堀内氏

    これは、管理業界だけではなく不動産業界全体において言えることですが、統計データによると、需要に対して事業者の数が多くなり過ぎています。つまり、事業者が多少減ったとしても、入居者もオーナーも困らないのです。  

    そのため、各社が基盤をしっかりと固めつつ、“生き残るための方策”を本気で考える時期がきています。そしてこの“守りの姿勢”の重要性は、新型コロナウイルスの影響でさらに高まりました。  

    新型コロナウイルスは不動産業界にどのような影響を与えたのでしょうか。

    昨年、コロナが流行り始めた頃は、ちょうど賃貸の繁忙期である3~4月と重なったことから売上が大きく落ち込みました。ただし、後半には盛り返しを見せ、結局一年を通して見ると前年比92~93%程度で着地。それほど大きな打撃は受けませんでした。  

    しかし、今年(2021年)は昨年に比べて、不動産業界のダメージが確実に大きくなっています。コロナが他業界に与えた影響が、不動産業界にまで及び始めている。例えば、不動産業界の大口顧客である“飲食業界”は、コロナ2年目の今、体力が限界に近づいており、家賃を払えなくなった店も少なくありません。また、大学がほぼリモート授業になった影響で、アパートを引き払って実家に帰る学生も出てきました。

    FK2014_機関紙 引用元:「FK2014」機関紙より  

    これらの事情を踏まえると、もし今後コロナがさらに猛威を振るえば、不動産業界へのダメージもさらに深刻化します。だからこそ、“守りの姿勢“が求められるのです。  

    とはいえ、変化の激しい今の時代を生き残るには、守りとのバランスを取りながらある程度“攻めること”も欠かせません。これができるか否かによって、不動産会社はハッキリと「衰退組」「安定組」に分かれていくのではないでしょうか。  

    生き残りの鍵である、デジタル化・DX化。場合によっては、慎重な姿勢も大切。

    安定組として生き残るための“攻め”とは、具体的にどんな行動でしょうか。

    デジタルツール・テクノロジーを上手に取り入れることです。現在、世界の市場を見渡してみると、コロナ禍においても伸びているのは“デジタルを主体とした事業”。これはそのまま、不動産業界にも当てはまります。  

    そして何よりも、不動産会社は入居者からデジタル化を求められている。例えば、今の時代は店頭チラシではなく“ネットの物件情報”を見ての来店が主流であり、入居者の8割がデジタル化された不動産会社を、残り2割が昔ながらの不動産会社を利用している状況です。今後、この2割の入居者もさらに減っていくと思っています。  

    また、管理業界においては、これまでは大手のほうが知名度や資金力などはあるものの、管理戸数が多いだけに、家主様・入居者様へのサービスが十分にできていない傾向にありました。そのため、中小の管理会社は、サービス面で大手に対抗できていたのです。  

    しかし近年は、GMO賃貸DXのように入居者様・オーナー様向けの便利なアプリなどが登場し、これらのツールさえ使えば、どんなに管理戸数が多くても一定のサービスを提供できるようになりました。ですから、中小の管理会社もデジタル化により自社の強み・サービスをさらに磨いていかなければ、大手によって淘汰されてしまう可能性が大いにあると思います。

    現状として、不動産業界のデジタル化・DX化はどんな状況ですか?

    真剣に話す堀内氏

    ▲写真左:GMO賃貸DX WEBメディア編集部

    二極化が進んでいますね。一部の大企業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けての明確なビジョンを掲げ、すでに取り組み始めている。一方で、その他多数の企業はDXのまだ手前にいて、シンプルなデジタルツールをやっと導入し始めているような段階です。何から始めるべきかすらわからない企業も、決して少なくありません。  

    不動産業界は、DXの手前にいる“その他多数”が全体の7~8割をも占めています。不動産業界全体のDXを進めるためには、まず“その他多数”の会社のデジタル化からDX化への道を、順序を追って丁寧にサポートしていく必要があるのです。  

    ただし、ここで注意したいのが、会社の規模や状況によっては無理にデジタル化・DX化を進めるのは危険ということ。例えば、従業員が5人にも満たない不動産会社の場合、ホームページは自社で作れる程度のITリテラシーがあればよいですが、それも外部に頼むような状態であれば経費ばかり掛かってしまう可能性もありますから。まずは各社が、目指すべき方向性やどの程度までデジタル化・DX化を進めるべきか見極めること、そして慎重にステップを踏んでいくことが大切です。  

    また、不動産テック企業は、この現状をしっかりと認識した上で不動産業界に参入し、ビジネスを展開していくべきだと思います。このような認識がないまま無理にDXを進めようとしても、DXという言葉だけが先行してしまい、実体が伴わなくなってしまいますから。

    誰かに“希望”を与えられる存在になれるよう、これからも精進を重ねていく。

    今後の展望をお聞かせください。

    先ほど少しお話ししたとおり、今後はインターネットでの活動に重点を置く予定です。これまでFK2014の活動は非常に小規模だったのですが、インターネットをベースにすれば、オンラインで全国の不動産業者に届けられますから。  

    また、これまでFK2014の有料会員のみに発信していた情報のうち、80%程度は無料で公開することも検討しています。不動産業界について一般的な勉強をしたいという方は、この無料の情報だけでも十分事足りると。さらに、会費を減額し、法人のみならず個人単位での参加も可能にしていく予定です。  

    今後は、どんどん間口を広げて、さらなるネットワークを構築する。そして、時代を捉えながら必要な情報をより広く送り出していく。これが、今の私の目標です。

    最後に、これからの不動産業界を担う次世代の方々へメッセージをお願いします。

    熱い眼差しで話す堀内氏

    不動産業、特に営業系の仕事は、決して誰もができるわけではありません。まずは入社5年程度で“自分がこの仕事に向いているのか”を見極め、もし合っていないと感じたら他業界への転職も視野に入れるべきだと個人的には思っています。  

    そして、自分は向いていると確信できたら、努力を惜しまないことと、積極的にチャレンジする気概が大切。“上司から命じられたから”ではなく、強い意志を持って自ら挑戦した物事なら、自然と能力が伸びていくものです。挑戦には苦しみがつきものですが、人間は追い込まれると最大限の力を発揮しますからね。このようなケースを、私は実際にいくつも見てきました。  

    今の日本の不動産業界には、“個人が大きく成長できる余地”がまだまだ多くあると感じます。FK2014は、このような若者の成長に繫がる会にもしたいですね。私は、富を築くよりも「人」を残したいと考えています。  

    不動産業界はもちろん、他業界の方にも役立つアドバイスだと感じます。大変貴重なお話です。

    ありがとうございます。  

    なお、人が成長するには、まずは自分の理想とする“ロールモデル”を設定することも重要です。その上で、なぜその人に魅力を感じたのかを文字に起こしてみる。これを繰り返していけば、頭の中に“自分が成功するための道”が出来上がっていくはずです。  

    私自身も、まだまださらなる成長を続けていきたいと思っています。勉強を重ねてスキルを磨き、このようなメッセージをさらに質を高めて発信できるようになりたいなと。最近ではYou Tubeでも情報を発信できるように、動画の撮り方や編集の仕方などを勉強しています。  

    そして、ロールモデルとまではいきませんが、若者だけではなく年齢を重ねた方々にも70代からでもこういう生き方ができるんだ」と希望をもっていただけるような存在になれれば、これほど嬉しいことはありません。  

    まとめ

    賃貸管理業界の成長を、事業だけではなく“人”にも真摯に向き合いながら支え続けてきた堀内様。その豊富な知見と常に新たな挑戦を続ける気概は、これからの不動産業界にとっても大きな力となるはずです。

     

    本記事取材のインタビュイー様

     

    堀内 史郎 氏
    東海ビジネスネットワーク
    1975年、26歳で山梨県甲府市に居酒屋を開業、事業家人生の第一歩を踏み出す。1985年、「将軍ビル」を建設、多角的にビジネスを展開。「住通チェーン」に加盟し不動産事業をスタートする。バブル崩壊の波の中、1998年事業を手放しビルも売却、心機一転静岡県浜松市株式会社丸八アセットマネージメントで第二の人生をスタート。賃貸管理部門の部長を務めた後、「全国賃貸管理ビジネス協会(全管協)」東海支部立ち上げに参画、支部長を務める。「東海ビジネスネットワーク」を立ち上げ、不動産業務支援ツールの営業サポートを中心に活動。2014年、不動産研究会「FK2014」を立ち上げ、「富よりも人」を信条に、情報発信やセミナー企画・運営など精力的にコンサル活動を行っている。

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