取材記事Interview

【専門家インタビュー】浅海 剛様|「売れるはずがない」をなくしたい。 カバー率95%のAI査定で、住み替え文化の改革に挑戦する。

近年、不動産業界に大きな変革をもたらしているAI査定。今回は「株式会社コラビット」の代表取締役であり、「一般社団法人不動産テック協会」の理事である浅海剛氏にインタビュー。AI査定で“中古不動産の流通活性化”を目指す同社の取り組みや、不動産業界の課題と可能性についてお話いただきました。
目次

    「住まいを諦めた」実体験から、AI査定サービスが誕生。

    まずは、御社をご設立された経緯をお聞かせください。

    コラビットメンバー_イメージ図

    私はもともと、金融系システムのエンジニアとして働いていました。そこは、一度設計が決まると後戻りできない“ウォーターフォール型”の開発現場でして、開発途中で設計がおかしいと感じても変更できず、たとえユーザーの希望からズレていてもそのまま続けるしかなかったのです。

    そのため、「これを作って誰が喜ぶのだろう?」と疑問を抱くようになり「エンジニアとして“ユーザーのためになる”と思える仕事をしよう」と決意し独立。「株式会社コラビット」を立ち上げ、Web/アプリ制作・CMS構築などを請け負っていました。

    どんなことがきっかけで、不動産業界に携わるようになったのですか?

    はにかみながら話をする浅海氏

    ある時、株式会社ブルーム(ドリパス)というスタートアップ企業に出会い、そこのCTOを務めることになりました。しかし、私がジョインして間もなくブルームがヤフー株式会社に買収されたのです。実はこれが、不動産業界に関わる大きなきっかけです。

    当時私は横浜市内で仕事をしており、横浜に新築戸建てを購入していました。当然、一生そこに住む覚悟を決めたうえでの購入です。しかし購入してわずか半年後に、会社の買収に伴って職場が六本木に変更。つまり、突然横浜から六本木に、片道2時間かけて通勤する羽目になったというわけです。

    往復4時間の通勤は、かなりの負担ですね……。

    そうですね。さらに買収の条件には“私の入社”が含まれていたので、数年間は会社を辞められない状況。家族との時間は減り、妻とも喧嘩ばかりで非常に辛い日々を送っていました…。

    しかし、家は購入したばかりで住宅ローンもほぼ全額残っており、売れるわけがない。当時私は“新築でも買った途端に半値になる”という、いわば都市伝説を信じていましたので、あと35年は引っ越せないと絶望的な気持ちでした。

    そこで、そもそも“なぜ日本の住宅は中古になった途端に安くなるのか”が気になり調べてみたのです。するとどうやら、日本は新築文化で中古住宅がほぼ流通しないから安いのだとわかりました。それを知った私は、「中古の流通を何とか活性化できれば、中古でも高く売れるようになる→自宅も高く売れる→引っ越せるのでは?」と考えたのです。

    実はこの考え方が、弊社が中古不動産の流通活性化に向けたサービスを開発し始めた足掛かりでした。最初は、個人的な悩みを解決するためだったのです(笑)。

    なぜ「AI査定」サービスを選ばれたのですか?

    自宅の売却は、まず“いくらで売れそうか”がわからなければ検討もできません。ですが、査定のためだけに不動産会社へ出向くのもハードルが高い。

    そのため、“自宅の売却推定価格をネットで簡単に知れる仕組み”があれば売却に踏み出しやすくなり、中古の流通量が増えると考え、AI査定を開発しました。

    まずは試しに、自宅の査定をしてみたところ、なんと新築購入時とほぼ同額という査定結果に。実際に売り出してみると、査定どおりの金額で売れたのです!

    もともと、ご自宅の価値は下がっていなかったのですね。

    はい。私の場合、価値が低いと勝手に思い込んでいただけだったのです。引っ越した結果、家族との幸せな日々を取り戻せました。家の価格を知っただけで、人生が大きく好転したわけです。この時点で、当初の目的は達成されました。

    でも改めて周りを見渡してみると、「高く売れるはずがない」と思い込み、最初から売却・引っ越しを諦めている人が結構いたのです。実はこういう人が日本中にいるのではないか…と感じましてね。

    自分がこのような体験をしたからこそ、同じように“諦めている人”の助けになりたい。そのためにも、中古不動産の価格をオープンにして流通を活性化させなければならないと考えたのです。

    このような想いで、改めてAI査定サービスに本気で取り組み始め、改良を重ねながら現在の形を作り上げてきました。

    世帯カバー率95%、査定から売却までをオンラインでサポート。

    改めて御社のAI査定サービスについて、詳しくお聞かせいただけますか?

    弊社のAI査定サービスは、個人向け・法人向けに分けて展開しています。 個人向けサービスが、「HowMa(ハウマ)」です。

    HowMa引用元:HowMa

    不動産の情報を入力するだけで、最新のデータを基にAIが瞬時に査定します。匿名かつ無料で使える上に、全国の戸建て・マンション価格を算出できます。また、登録すると定期的に推定価格のお知らせが届き、価格推移も把握できます。つまり、売り時を逃さないわけですね。将来的に売却を考えている方は、知っておいて損はないはずです。

    HowMa オンライン売却」という無料の売却サポートサービスも提供しています。これは、売却相談から売り出しまでのすべてをオンラインで完結できるのが特徴です。最大6社に査定から売却を依頼できるのですが、査定時は「HowMa」が窓口となり、かつ売却活動中は各社とチャットでやり取りできるため、スムーズに売却を進められます。  

    企業サービス_イメージ図

    そして法人向けには、「AI価格推定エンジン」をご提供しています。これは日本全国のマンション・戸建て・土地の売買価格のほか、賃料や利回りの推定も可能です。また、推定データ自体に加え、データを活用した「相場マップ機能」「簡易査定機能」なども開発・ご提供しています。

    御社のAI査定の“強み”は、どのようなところでしょうか?

    笑みを浮かべて自社について話す浅海氏

    最も大きな強みは、カバー率ですね。一般的なAI査定の対象範囲はマンションのみ、もしくは戸建てに対応していたとしても、ごく一部しかフォローできていないケースがほとんどです。対して弊社は、世帯カバー率95%とほぼ日本中のマンション・戸建てを査定できます。

    これは、AIが常に機械学習する「膨大な最新相場データ」と、弊社に在籍している不動産鑑定士の「鑑定理論」の両軸から構築した独自のロジックをベースにしているためです。そのため、売り出し事例が少ない物件でも査定でき、一般的なAI査定より広範囲をカバーできるのです。

    「HowMa」の活用事例をお聞かせください。

    例えば、実家を相続したものの、空き家だったので「売れるはずがない」と放っておいたと。しかし「HowMa」を試したところ、高額の査定結果が出ました。そこで売却し、その空き家には今新しい方が住んでいる、という事例がありました。

    また、都心の「コーポラティブハウス」に住んでいた方の事例も特徴的です。コーポラティブハウスとは、入居希望者同士が共同で企画・建築を進めた集合住宅のこと。通常のマンションとは大きく異なるため、売り出し事例などがないと、住人はいくらで売れるか見当もつかないわけです。そのため、子供が成長して家が手狭になっていたものの、引っ越しを長らく我慢していた。

    しかしある時「HowMa」を試したところ、予想以上の高額査定結果が出たのです。そこで売却し、広いマンションに住み替えられました。

    売買取引の電子化には、行政機関の改革も必須。

    不動産業界の現状を、どう捉えていらっしゃいますか?

    真剣な眼差しの浅海社長

    私が主に関わっている売買の領域で言うと、売買取引は“人の労働力”に依存しているのが現状であり、大きな課題だと感じています。

    特に「物件調査業務」は、水道局・税務署・役所などの行政機関に直接足を運び、台帳から調べないといけません。電子化されていないどころか、電話で聞くこともできないのです。調査業務に費やされている時間は、年間約2,300万時間。これは、1.3万人もの労働力に相当します。少子高齢化が進む今、ここの改革は進めるべきだと思っています。

    なお、売買業界には仲介手数料は3%が上限のため、格安物件が流通しづらいという課題もあります。格安物件の仲介手数料では、経費代もカバーできない。そこで少し前に、格安物件における仲介手数料の上限が上がりましたが…個人的には「そこじゃないのでは?」と思うのです。

    まずは生産性の向上を図り、そこまで経費が掛かってしまう現状を変えるのが先決ではないでしょうか。

    少なくとも調査業務を電子化するだけで、1.3万人相当もの生産性が上がるのですもんね。

    おっしゃるとおりです。ただし、調査業務を電子化し行政機関の情報をデータで受け取るには、行政機関側の改革も必須。つまり、不動産業界だけの努力では不可能なのです。不動産業界、特に売買取引における生産性の低さは、業界だけが咎められるべきではないと思います。

    調査業務の電子化に関しては、内閣府の産官協議会でも何度かお話をさせてもらっていますが、やはり行政機関の仕組みを変えるとなると簡単なことではありません。

    でも、最近ようやく進展の可能性が見えてきたかなと思います。コロナをきっかけにデジタル庁の創設も決まり、国がデジタル化へ本気で取り組み出していますから。この取り組みが今後10年20年と続いていけば、売買取引の完全電子化も実現するかもしれません。

    売買取引の完全電子化が実現したら、不動産業界は大きく変わりそうですね。

    そうですね。先ほどお話した格安物件の流通も促進されると思いますし、不動産業界全体の成長にも繋がるはずです。

    “不動産取引の電子化”というと、消費者の視点が重視されがちです。そのため、IT重説や電子契約などばかりがフォーカスされ「電子化が大きく進んだ」と言われますが、決してそんなことはありません。重説・契約より手前の業務に、膨大な労力と時間が費やされているのが実情です。

    物件を売りたい時にボタンを押すだけで自動的に重説の内容が表示される。その内容は買主にも共有され、買主もボタン一つで申し込みができるのが究極の理想像ですね。 まだまだ時間は掛かるでしょうが、このような世界観を実現するために、不動産テック協会の理事としても注力していきます。

    不動産業界の課題には「情報の非対称性」もよく挙げられますが、どのように思われますか?

    土地総合研究 2017年冬号:既存住宅市場における情報の非対称性とそれに対する対策引用元:土地総合研究 2017年冬号:既存住宅市場における情報の非対称性とそれに対する対策

    消費者が関係する“住宅領域”に限って言うと、現状「家を買う・借りるために必要な情報」はすでにある程度揃っているのでは、と感じます。ポータルサイトにさまざまな情報が載っていますから。

    また、ポータルサイトに載る前に業者間で取引される情報もあるにはありますが、消費者が知る必要はないのかなと。例えば、今日ランチに行った店の「賃料」も「人件費」も「食材の卸値」も、私にはわかりません。これと近い話だと思います。“情報の非対称”な部分があったとしても、それが必ずしも悪いことではないのです。

    不動産業界の場合、“情報の非対称”というより“情報を理解・活用する能力”が非対称。つまり、同じ情報を見た時に、その情報から得られるモノが不動産事業者と消費者では大きく異なるのです。

    残念なことに、中にはこの能力や知識の差を悪用して消費者を騙す事業者もいます個人的には、こちらの方が課題かなと。事業者は簡単に消費者を騙せてしまうし、騙したほうが得になる。もちろん、そんなことをしない健全な事業者さんがほとんどだとは思いますが。

    ただし、このようなマーケット構造は変えるべきですし、「HowMa」で知識の差を埋めることにより、少しでも変えていきたいと考えています。

    “あえてアナログで行う”世界観を目指して。

    浅海様から見て、注目のテックサービスはありますか?

    ジャスチャーを用いて話す浅海社長

    たくさんあるので、難しいですね(笑)。個人的に感じるのは、AIやVR・ARなどの最新技術ばかりが注目されがちですが、そういうサービスだけが不動産テックなわけじゃないと思います。

    例えば、「業務支援」系のサービスは“最新テクノロジー”としてスポットライトを浴びることはあまりないものの、不動産業者さんにとっては最も身近ですし、生産性向上に大きく貢献しています。

    業務支援サービスのように日々の現場を支えているサービスが、実は不動産DXの実態を作っている。ですから、もっと注目されるべきですし、不動産業者さんもこのようなサービスに関する情報をもっと知りたいのではないでしょうか。

    不動産テック協会は、現在どんなところに注力されているのですか?

    テック協会が最も注力しているのは、「不動産共通ID」です。

    一般社団法人 不動産テック協会  引用元:一般社団法人 不動産テック協会

    現在、不動産のデータは各社バラバラに管理しています。そのため、管理表記などが異なり、データ同士の連携に手間と時間が掛かっているのが現状です。

    ですが、不動産に共通のIDを付与することで、表記が異なっていても同一物件であることが容易に特定できると。その結果、スムーズにデータを連携できるようになります。

    不動産の流通は、一社だけでは完結しないことがほとんど。ですから、不動産共通IDの普及により業務は楽になるはずですし、楽になって業務コストが減るぶん消費者も恩恵を受けられると思います。ビジネスモデルとして、仲介手数料が下がる方向性に行くかもしれません。

    また、データ連携はさまざまなテックサービスが誕生するための鍵にもなるので、全力で取り組んでいきたいと考えています。

    今から20年・30年後、不動産業界はどんな世界になっていて欲しいですか?

    理想を言えば、“あえてアナログで行う”世界観ができあがっていると良いですね。

    例えば、現在「物件の決済・引き渡し」はさまざまな人の立ち合いのもとで行われています。司法書士による本人確認などの“必要性”がありますから。この先、本当はオンラインで完結するにもかかわらず、あえて「引き渡し式」=“記念セレモニー”としてアナログで行われる。このような状態になれば、「不動産取引はスムーズになったんだな」と実感できるような気がするのです。

    あとは、「物件内覧」もそうですね。すでにVR等でオンライン化されていますが、あえて実際に足を運んでもらえる選択肢も残しておくべきだと思います。空間を五感で感じられ、ワクワク感も高められる。リアルには、リアルの良さがありますから。

    このように“人間の感情に寄り添うところ”には、アナログが残っていても良いのかなと。すべてオンラインで完結してしまったら、それはそれで寂しい気もしますし。揺り戻しが起こるかもしれませんし(笑)。

    中古不動産の流通は、社会問題の一つ。“解決すべき社会問題”に何度でも立ち向かう。

    御社の今後のビジョンをお聞かせください。

    下から撮られ笑顔の浅海社長

    まずは、弊社のサービス経由で一兆円の流通を起こすことを一つの目標にしています。そして中古不動産の流通を活性化させることにより、住み替えの文化を変えたいと。

    今は先が読めない時代ですし、人生は刻一刻と変化していくのに家はなかなか変えられない。ですから、持ち家を諦めて賃貸にする方も少なくありません。

    また、せっかく購入した家を売りに出すと「何かトラブル?」と思われてしまう雰囲気がありがちで、ひっそり売却活動を進めざるを得ないのも日本の特徴です。

    これらのいわば“負の文化”をなくし、賃貸とほぼ同じくらい気軽に家を売買できる世の中へ変えていきたいですね。これは、人生の選択肢・楽しみを大きく広げることにもなると思うのです。

    この先も、不動産を軸にされたサービスを展開されていくのでしょうか?

    将来的には、他分野に舵を切る可能性もありますよ。

    弊社の、そして私の根幹にあるのは「世の中の役に立ちたい」という想いです。また、どうせならインパクトの大きなことを成し遂げたいとも考えており、これが弊社の「イノベーションで社会問題を解決し続ける」というミッションに繋がっています。

    中古不動産の流通は、あくまで私が直面した社会問題の一つにすぎません。今後もし別の解決すべき社会問題が見つかれば、そちらにフォーカスしていくと思います。それは私の体験からくるモノかもしれませんし、社内のメンバーの体験がもとになるかもしれません。

    ただ、まずは住み替えの文化を変えることが我々の果たすべき使命ですから、全力で立ち向かいたいと思っています。

    まとめ

    不動産業界の業務改革を叶えつつ、「家と人生のアンマッチ」を解消して住み替えやすい社会に導くAI査定。加速度的な進化を続けるAI査定、そして株式会社コラビットから、今後も目が離せません。

    コラビットのロゴ前で笑顔の浅海社長

     

    【本記事取材のインタビュイー様】

    浅海 剛 氏
    株式会社コラビット 代表取締役・CEO
    一般社団法人不動産テック協会 理事
    2011年「株式会社コラビット」を設立、代表取締役社長就任。コラビットの社名の由来は「コラボ×IT」。ITと何かのコラボレーションにより大きな価値を生み出すことを目的としている。
    2014年、コラビット代表取締役に再就任。不動産業界における事業者とユーザーの情報格差を埋めるべく不動産の知識とITを融合させ、第一弾サービスとして個人向けAI査定サービス「HowMa」をリリース。不透明だった中古不動産の価格指標を提示している。
    一般社団法人不動産テック協会理事も務め、不動産取引電子化部会の活動に取り組み、不動産業者・消費者ともにWIN-WINとなる環境を作るべく奔走中。

     

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