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賃貸仲介市場の拡大は見込めない!?

株式会社S-FITの代表取締役社長であり、賃貸管理リーシング推進事業者協議会の副会長でもある紫原 友規氏の連載、「徹底調査!賃貸仲介の『イマ』」では、賃貸仲介業界の現状と未来をみなさまにお届けいたします。

第三回目は「賃貸仲介市場の拡大は見込めない!?」です。賃貸仲介市場の成長が停滞し、業界が大きな転換期を迎えている中で、生き残っていくための方法について語っていただきました。どうぞ最後までお付き合いください。

目次

今後の賃貸仲介市場

今後の賃貸仲介市場をどのように見ていらっしゃいますか。

賃貸仲介件数を大きく伸ばすことが出来ている会社がほとんどいない現状なので、賃貸仲介市場は淘汰の時代に入っていくと考えています。近年、仲介件数を何とか伸ばすことが出来ている会社も、成長率は年々鈍化しており、10年前のような劇的な伸びは期待できなくなっているのが実情です。

全国賃貸住宅新聞では、毎年「賃貸仲介件数ランキング」を発表していますが、上位10社の仲介件数を合算した数字はここ5年で見ても大きな変化はない状態です。
既に高いシェアを持つ会社にとって、さらなる規模拡大やシェアの拡大は容易なことではありません。上位の会社それぞれが、毎年増減を繰り返しているのが現状だと思います。

▼2024年仲介件数上位10社の合算件数

※全国賃貸住宅新聞 賃貸仲介件数ランキング(2020年〜2024年発表)

では、賃貸仲介市場全体はどうでしょうか。全国賃貸住宅新聞が年間仲介件数200件以上の全国の不動産会社に「前年に比べた仲介件数の増減」の質問を行いました。その結果は、【「増加」は139社で38.1%、「変化なし」は87社で23.8%、「減少」は139社で38.1%と、増加と減少が同率で拮抗した。】という調査結果を開示しました。(365社から回答)


※全国賃貸住宅新聞 2024年1月15日号

この調査結果からも明らかなように、賃貸仲介市場全体としての伸びはあまり期待出来ず、今後も「劇的に伸びる仲介会社」というのは出てこないのではないでしょうか。

賃貸仲介会社のこれから

賃貸仲介会社が事業を継続するためにはどうすればよいのでしょうか。

冒頭で述べた通り、賃貸仲介業界に淘汰の時代が到来します。既存のビジネスモデルがうまくいかなければ、撤退することも一つの選択肢として考えられますが、撤退ではなく、事業を継続するために、管理や売買へ進出するなどの決断がマーケットでは頻繁に行われているのが実態です。

現在の体制のまま事業を継続するにしても、管理や売買へ多角化を行ったとしても、最も重要なのは持続可能な経営を行うことです。一時的に業績が良かったり、特殊な要因で調子に波があるような状態は望ましくありません。そのような経営ではなく、持続可能な経営を行っていくためのポイントになるのは「標準化」です。

「標準化」とはどういうことでしょうか。

「標準化」とは、業務プロセスを組織的に最適化し、誰もが同じように成果を挙げられるようにすることを指します。賃貸仲介市場全体が厳しい中でも、事業を成長させている会社は、漏れなく「標準化」が出来ていると感じます。人の採用、エリア調査、新規出店、問い合わせの獲得といったプロセスそれぞれを「標準化」し、その「標準化」を徹底することで、事業の成長を実現しているのです。

変革への取り組み

「標準化」の先にあるものはどのようなものだとお考えですか。

「標準化」を徹底して事業を成長させると、ある時点で大きな岐路に立たされます。一つの道は、現在成功している「標準化」のアプローチを続けて、限界まで挑戦すること。もう一つの道は、さらなる成長を目指して、「標準化」の手法自体を変革することです。

短期的な視点で考えると、前者のアプローチの方が、収益の向上は可能だと思います。なぜなら、後者は長年にわたる「標準化」の枠組みを根底から変える必要があるためです。根底から変えるということは、当然、多大なコストが伴います。多くの仕事のやり方を変えるため、新しい方法に順応するまでの時間も必要です。今までとは違うやり方で仕事に取り組むため、これまでのように成果を出せないといった事も起こってくるでしょう。

そのため、短期的には収益が下がってしまうこともあります。ですが、そこを乗り越え、次の時代にあった「標準化」を確立することが出来れば、さらなる発展が望めるわけです。

「標準化」を変革していくことが必須ということでしょうか。

S-FITでは「標準化」の変革を選択していますが、これが唯一の正解だとは限りません。「標準化」のアプローチを続けるという選択でも、広告費や人材の確保などに継続的な投資を行えば、収益の向上は可能だと思います。

「標準化」の変革を行うということは、様々なチャレンジを行い、答えを探し、自分たちで答えを創り上げなければいけません。その結果どうなるかは、現時点では誰にもわからないわけです。一方、現在の「標準化」を維持する道を選べば、大きな失敗のリスクは低く、無駄なコストを抑えることができます。だからこそ、前者の選択肢も有効な一手と考えられるのです。

人材確保と育成

持続的な経営を行う上では人材の確保も非常に重要なものだと思います。

過去と現在の採用状況を比較すると、満足がいく水準で人材を確保が出来ている会社はかなり少ないのではないでしょうか。人手不足のために、店舗数を増やしたくても増やせないという会社は多いと思います。

社員数が一定規模以上になると、社員数を維持するだけでも、積極的な採用が必要になってきます。新規で店舗を出店するとなると、より一層の人材確保が必要です。昨今の採用コストの増加も踏まえれば、満足いく水準で人材を確保することは非常に難しくなっています。

S-FITでは、今年度に新卒社員が約50名入社してくれました。来年度も同人数程度の新卒採用を予定しています。客観的には人材確保が順調に進んでいるように見えるかもしれませんが、会社のさらなる成長を考えると、満足いく人材確保が出来ているとは言えないのが正直なところです。

人材確保が難しいとすると大事なのは人材育成でしょうか。

そうですね。やはり、満足いく人材確保が難しいとなると人材育成が大事になってきます。先ほど、「標準化」というお話をしましたが、店舗出店の「標準化」が出来ている会社はあっても、営業方法の「標準化」が出来ている会社はあまり聞きません。

S-FITでは、営業方法の「標準化」に取り組み始めています。営業担当ごとにパフォーマンスが大きく異なるため、成果を上げている人材とそうでない人材の業務手法を分析し、営業方法の「標準化」をしていきます。分業化を行った結果、繁忙期・閑散期を含め一人当たり、月平均30件程度の仲介を行えることが見えてきました。すべての営業担当が同水準のパフォーマンスを実現できるようにしていきたいと思っています。

2024年は、個々のパフォーマンスの差を最小限に抑えるため、営業手法の「標準化」の効果を検証する重要な年となります。

仲介会社の役割と求められていること

仲介会社の役割は今後変化していくでしょうか。

仲介会社の役割がすぐに変化することはなさそうです。物件情報のリアルタイム性が依然として低いため、引き続き、お客様の要望を丁寧にヒアリングし、最適な物件をご提案する、という基本的な流れは変わらないでしょう。しかし、物件情報のリアルタイム性が向上し、お客様と不動産会社が同じ情報を共有できるようになれば、仲介会社の役割は自然と変わってくると考えられます。

仲介会社に求められていることは何でしょうか。

お客様から仲介会社に求められていることは変化してきています。何度もお伝えしているように、「デジタルへの対応」が重要な課題です。いつでも手間なくコミュニケーションが取れ、最新の物件情報を迅速に提供できるようなサービスは、お客様にとってますます重要になっていきます。こういった価値を提供できなければ、不動産賃貸業界全体が取り残される恐れがあります。

ただし、これは仲介会社だけの努力では解決できない問題も含んでいるため、不動産賃貸業界全体での取り組みが求められています。

賃貸仲介会社の勝ち筋

賃貸仲介会社が今後も成長していくためにはどうすれば良いのでしょうか。

多くの方が既にご存知だと思いますが、手堅く伸ばしていくことを考えると「賃貸管理業」がポイントになります。売買仲介に進出される会社もありますが、売買仲介で収益を上げるのも容易ではありません。

賃貸仲介と比べると、売買仲介はより多額の広告費が必要になります。何よりリードタイムが長いため、お客様に対して継続的に連絡を行い、中長期的な提案を行う必要があります。そういった点を踏まえると、売買仲介もハードルが高いと思っています。ですが、賃貸仲介と比較してポジティブな要素は、市場が活況であるという点です。

特に注目している市場はありますか。

注目しているのは、事業用不動産の売買仲介です。あくまで推計値として算出したものであるため、参考数値にはなりますが、国が定めている不動産代理業・仲介業の中古市場規模は約3.9兆円です。その内訳は賃貸仲介が約2,300億円、売買仲介が約5,000億円であり、事業用不動産(一棟の賃貸マンション・アパート、店舗、オフィス、倉庫、工場など)は約3兆1,700億円にも上ります。

一棟物のマンションやアパート、オフィスなどの仲介は、数十億円単位の取引となる場合があり、賃貸仲介の平均7~8万円の手数料と比較すると、生産性の差は明らかです。事業用不動産市場は、外国人投資家、企業、個人を含め活発に動いています。事業用不動産は情報がインターネット上に出てきませんので、人と人との繋がりが重要になってきます。力技も必要になりますし、正に人間力が試される市場です。なので、手数料が高いからと言って容易に参入出来るわけではありません。

S-FITとして事業用不動産の売買仲介に参入されるのでしょうか。

今のところ参入は考えていません。手数料単価などを考えると売買仲介や事業用不動産は魅力的です。ですが、私は賃貸住宅市場に特化し、その中でどれだけ成長できるかに集中し、チャレンジしていきます。

まとめ

今回の連載では、賃貸仲介市場の現状、淘汰の時代への移行、そして淘汰の時代の中でも成長していく方法について深く掘り下げました。賃貸仲介業界は、一つの大きな転換点に立たされており、この時代の流れに適応し、さらなる成長への道を模索する必要があります。

私たちがこの業界で取り組むべき課題は多岐にわたりますが、それらに立ち向かい、業界全体をより良い未来へと導くことが私たちの使命です。みなさんと一緒に新しい時代の到来を迎えることを心待ちにしています。不動産賃貸業界のさらなる発展を、共に実現していきましょう。

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