【リーダーインタビュー】ユニホー 松瀬 賢亮様|飛び込み営業から社長へ。御用聞き営業で未来を拓く
不動産業界の変化と将来性について、業界全体を幅広い視点で捉え、明確な方向性を持って業界を牽引するトップリーダーたちが、今後の不動産業界の進路を語る特別企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、名古屋を拠点に建設・不動産・生活支援の3事業を展開する株式会社ユニホーの松瀬社長です。飛び込み営業から始まり、PPP/PFI事業への挑戦、そして社長就任後の全国展開まで。御用聞き営業を哲学に掲げ、お客様の困りごとを解決し続ける同社の取り組みについて、詳しくお話を伺いました。
飛び込み営業からPPP/PFI事業へ―多彩な経験が築いた経営基盤
まずはユニホーに入社されるまでの経緯と、入社後のキャリアについて教えてください。
▲株式会社ユニホー 代表取締役社長 松瀬 賢亮 氏
長野県の木曽郡で生まれ育ち、高校卒業まではそこで過ごしていました。名古屋に来たのは大学入学のためで、名古屋にいる親戚が株式会社ユニホー(以下、ユニホー)の創業者だったこともあり、その大おじのところでアパートを借りてお世話になりながら、4年間建築の勉強をしていました。
大学院への進学も考えましたが、大おじからは「早く社会に出た方がいい」とアドバイスをいただきました。建築学科卒業の学生は設計事務所を志望することが多いのですが、設計業務は緻密で細かな作業が多く、時間もかかるため、自分の性に合わないと感じました。そこで、もう少し包括的に、別の角度から建築にアプローチできる仕事の方が合っていると考え、不動産会社を第一に希望しました。実家が長野で工務店をやっていたこともあり、修行のつもりで新卒からユニホーに入社しました。
入社してからは分譲の販売を希望していましたが、開発営業という建築営業の部門に配属。最初の3、4年は、ひたすら飛び込み営業をやっていて、名古屋市内や周辺の地主様を、一軒一軒回る日々でした。
入社2年目の3億円超の案件受注について、詳しくお聞かせください。
入社2年目の秋頃、飛び込みで訪問した地主様から、介護施設の新築工事を受注しました。金額は3億円を超える規模でした。それまでは数百万円程度の細かな仕事が中心でしたが、自分の足で一から開拓して大きな案件を受注できたことが大きな自信になりました。
その地主様は、「遊休地に介護施設の提案を受けているが、その提案がいいかわからない」と悩まれていました。私は、単に介護施設を建てる提案にとどまらず、何度も足を運び、じっくりお話を伺いながら、その地主様のお考えに適した運営会社をご紹介し、借り入れを含めてご納得いただける条件で運用するという土地活用のトータルソリューションをご提案しました。
この経験は、自分の力で大きな案件を受注できたという確かな手応えを得るきっかけとなり、その後の仕事への大きな自信に繋がりました。
この時の経験が貴社の掲げる「御用聞き営業」の原点となっているのでしょうか?
この案件の後は分譲マンションの販売、売買仲介を経験し、その後は名古屋市緑区の営業所をほぼ一人で切り盛りすることになりました。ベテラン社員とパートスタッフが数名いる程度で、あとは私一人。文字通り「何でも屋」でした。お客様から相談があれば、建築でも売買でも賃貸でも、とにかく対応する。そんな日々が6年間続きました。
この時期の経験が「御用聞き営業」という考え方を形作ったと思います。「御用聞き営業」というのは、単にものを売ることではありません。お客様が何に困っているのか、何を求めているのかをしっかり聞いて、それに応えること。今で言うソリューション営業に近いですが、もっと泥臭く、地道な信頼関係を築いていくスタイルだと思っています。
PPP/PFI事業に携わるようになった経緯を教えてください。
そうした中でPPP/PFI事業に携わることになりました。PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)というのは公民連携を意味し、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)は、民間が資金調達を含めて公共サービスを担う仕組みです。
厳密には、公共側からサービス購入費として毎月あるいは年数回に分けて支払いを受ける場合もありますが、その場合でも施設を整備するためには初期段階で数十億円規模の大きな資金が必要になります。そのためまず民間で資金調達し、国立大学や地方公共団体からの支払い、公共サービスの利用料等を原資に返済していくという構造になっています。
私が最初に関わったのは、名古屋大学のPPP/PFI事業でした。1棟目の事業は留学生寮で、まさにマンション建設に近いイメージのプロジェクトでした。このプロジェクトに3〜4年携わったのち、役員に就任しました。
グループの多角化戦略と御用聞き営業の哲学
ユニホーが幅広い事業を手がけるようになった背景について教えてください。

そもそもユニホーができた背景ですが、創業の会社は株式会社麦島建設(以下、麦島建設)という建設会社です。麦島建設が建てた建物の管理をする位置づけや、麦島建設の建設業務の受注を増やすという目的で設立されました。
たとえば分譲マンションを建てるには、企画や販売をする会社が必要です。建設会社だけでは完結しない部分を、ユニホーが担う。そうした役割分担の中で、自然と事業領域が広がっていきました。
自分たちでノウハウを組み合わせたり、グループ内の詳しい人材に協力してもらったり、ときにはノウハウを持った会社や事業部門を買収したりしながら事業を築いてきました。PPP/PFI事業もそうですし、後でお話しするフィリピン事業も、まさにこうした前のめりな挑戦から生まれた取り組みです。
競合他社と比較した際の御社の強みはどこにあるとお考えですか?
不動産や建設といった分野における1から10まで対応できるというところです。多角化の背景にあるのは、「御用聞き営業」の哲学です。お客様の困りごとが、土地活用なのか、建物の建設なのか、その後の管理なのか。どんな相談にも応えられる体制を整えるために、事業を広げてきました。
企業バランスとして、大手上場企業に比べるとそこまでの体制はありませんが、街の工務店よりも豊富な実績があります。たとえばプロの方やセミプロのような方、本業をやりながら不動産賃貸業を半分生業としているような法人の方には、適していると思います。コストや性能の総合力で大手企業とも勝負できますし、品質も担保できますので、そこが一番強みだと思っています。
全国へ、そして海外へ―広がる事業フィールド
名古屋以外の拠点展開について現状と今後の方針をお聞かせください。

名古屋以外の拠点が、しっかり育ってきている実感があります。去年も今年も、東京の売り上げが大きいですし、仙台も例年以上の数字を上げているほか、大阪も伸びてきました。
それぞれの拠点には、地域特性にあわせた“色”があります。名古屋は建設・不動産・生活支援業務をバランスよく行ってきました。東京は不動産・生活支援業務に強く、分譲マンション・戸建て事業にとどまらず土地区画売り、商業ビル、物流等も手がけながら、拠点のある千代田区や練馬区を中心に賃貸不動産の管理物件も多く受託しております。大阪は不動産業務を中心に行っており、大型の開発案件も増えてきました。
一方で、仙台はもともと株式会社西洋ハウジングという会社を買収して吸収合併した拠点で、分譲や注文住宅がメインでしたが、最近は物流やアパートの請負工事も手がけるようになりました。
海外展開はどのようにお考えでしょうか?またフィリピン事業についても詳しく教えてください。
フィリピン事業は、M&Aによって始まりました。現地のビルのオーナー様や、コンドミニアムの所有者様で構成している管理組合などに対してサービス提供している会社です。もともとはイギリスの不動産大手サヴィルズの傘下だった会社を、現地のパートナーが買い取り、そこにユニホーが資本参加する形でした。今はユニホーが51%出資、パートナーの会社が49%出資という形で、共同で運営しています。
まだ10億円には届かないぐらいですが、着実に数字を伸ばしてくれています。しっかりした現地パートナーがいるおかげです。私たちが想像していた以上に現地の人材が優秀で、マネージャークラスと会議をした時、レベルの高さに驚きました。「優秀な人材が育っている。これなら、もっと事業を広げられる」と確信しました。
海外子会社として継続的に売り上げを上げているのはフィリピンだけですが、これまでミャンマー、マレーシア、ベトナムなど東南アジアを中心に、アメリカやオーストラリアも検討してきました。個人的に、次に行きたいと思っているのはマレーシア。国として投資先として面白いし、可能性を感じています。
DX推進と業務効率化への取り組み
現在取り組まれているDX施策について教えてください。AIツールの活用状況はいかがでしょうか?

試験的な段階ではありますが、今はChatGPTやCopilotを使っています。たとえば契約書のチェックや、何か発信するときの文章のチェックなどに使うようになりました。
基本的には基幹情報システムを整備し、そのシステムに各種情報を紐づけて一元管理し、業務に活用できるような設計としています。たとえば営業については「Salesforce」の導入が進んでいますし、建設現場の管理については「ANDPAD」を導入しています。
一番力を入れているのは管理業務で、新たに「GMO賃貸DX オーナーアプリ」を導入して、今まさに取り組んでいるところです。管理業務は労働集約型と言われる業務ですが、基幹情報システムの情報も連結させながら、「いえらぶ」や「イタンジ」など、入居者様の手続きなどのツールを組み合わせて効率化を図っています。
それらの組み合わせとして何がいいかということ、実際に使う運用が機能するかどうか、が重要だと思うので、運用しながら改善・変更していくことも必要だと思っています。
システム導入による業務効率化の具体的な成果はありますか?
「ANDPAD」は、紙の書類や個別のメールでバラバラにやり取りしていた情報を、協力業者も含めたプロジェクトメンバー全員で一元管理できるようになったのが大きな成果です。情報が散らばらないので、連絡漏れも減りました。
また管理業務では、「いえらぶ」や「イタンジ」を導入したことで、募集業務の効率が大幅に向上しました。物件情報を一度登録すれば、複数の仲介会社に自動で配信されるようになります。以前は一社ずつ個別に連絡していたので、かなりの手間でした。今は、その時間を別の業務に使えるようになっています。
ユニホーには独立した情報システム部門はありません。その代わり、各部門にITに詳しいメンバーがいて、現場の声を反映しながらシステムを改善しています。教育を受けてRPAを自分で作れるメンバーが配置されており、大規模な開発については、親会社の株式会社ZENホールディングスの情報システムチームと連携しながら進めています。
情報共有と人材育成への想い
部門を超えた情報共有の仕組みについて教えてください。

DXと並んで、部門間の連携強化にも力を入れています。その仕組みの一つが「情報提供制度(社内制度)」です。イントラや社内の共有フォルダーがあり、そこで情報をやり取りできるようにしています。
ユニホーは、建設、不動産、生活支援と、全く違うことをやっている人たちが同じ会社にいる。言ってみれば、3社分の業務が一つになっているような組織です。部門が違えば、接点も少なくなります。そこで、部門を超えた情報共有を促すために、報奨金制度も導入しました。
たとえば、管理部門のメンバーが建設の仕事の情報を得たとします。それを建設部門に提供して、実際に仕事になったら、通常の業務評価とは別に報奨金を支払う――そういう仕組みです。
これがモチベーションになって、以前では考えられなかったような連携が今は自然に生まれています。ここにも「御用聞き営業」の哲学が根付いているのかもしれません。
教育研修制度について詳しくお聞かせください。
新卒社員については、これまでも毎年研修を実施し、その後も翌年、翌々年と振り返り研修を行ってきました。そして今年からは、新卒に加えて30歳前後までの若手社員も対象に含めた「営業研修」を新たにスタートしました。
この研修は1回限りではなく、約半年間にわたって毎月集まり、全国の拠点メンバーが情報を共有しながら切磋琢磨していく研修です。さらに研修で得た学びや成果を中間管理職にも共有し、日々の業務にしっかりと反映させていく仕組みにしています。
社長就任後に新たに始められた取り組みはありますか?
オーナーアプリの導入と合わせて、「全国管理会議」を立ち上げました。拠点間の規模のばらつきがあり、それに連動するように能力のばらつきがどうしても出てしまっていました。
たとえば、名古屋や東京のようにある程度組織として機能している拠点では、誰かに聞けば、システムを教えてもらえますが、研修がない地方拠点だと本当に限られた人数でやっていたりするので、どうしてもサービスのばらつきが出てしまいます。
この課題を解消するために月に1回、全国のメンバーが参加して情報共有するという会議体を作りました。基本的には管理部門の責任者が参加しますが、地方拠点だと担当が一人だけということもあるので、拠点の営業責任者と管理担当者が参加することもあります。
数値管理や成果、課題点、今抱えている問題点を共有してもらい、本社からサポートしています。私も入りますし、名古屋の役員が入ることもあるため、みんなでWeb会議ツールを通して実施しています。
これから描く未来 ― ミニユニホー構想
今後注力していきたいエリアや事業領域について教えてください。

三大都市圏に加えて福岡、札幌、金沢、松本などに拠点はありますが、まだ十分に売上が伸びきれていない地域もあります。そうしたエリアに、「ミニユニホー」を展開していきたいと考えています。「ミニユニホー」とは、建設、不動産、生活支援という3つの機能を、小規模ながらすべて備えた拠点のことです。規模は小さくても、お客様のどんな相談にも対応できる体制を整え、全国の主要都市に展開していく構想です。
実際に地方拠点のうち仙台や大阪など、名古屋や東京に比べて規模の小さいエリアが着実に数字を伸ばしています。今後は、こうした地方拠点での取り組みをさらに強化するとともに、事業規模や地域間のシナジー効果を鑑みて日本のビジネスの中心地である東京で拠点をもう少し増やしていきたいと考えています。
5年後、10年後にどのような会社を目指されていますか?
まずは、サービス水準のばらつきをなくしたいです。「全国管理会議」や研修を通じて、どの拠点でも同じレベルのサービスを提供できる体制を整えます。全国に体制が整えば、名古屋や東京で得た情報を地方で活かしたり、地方の案件情報を名古屋や東京で展開したりできるようになります。大手企業がやっていることですが、私たちも実現したいです。
また、私個人がやっているPPP/PFI事業を中部地方以外でもやりたいと思っています。今は愛知県が中心ですが、公共の課題は全国どこにでもある。名古屋大学で培ったノウハウを、他の地域でも活かしていきたいです。
まとめ

飛び込み営業からキャリアをスタートし、入社2年目で3億円超の案件を受注、その後PPP/PFI事業という新たな領域を切り開いてきた松瀬社長。御用聞き営業を哲学に掲げ、お客様の困りごとに1から10まで対応できる体制を構築してきた株式会社ユニホーの取り組みは、多くの不動産会社にとって参考になるものでした。
麦島建設の周辺ビジネスとして誕生したユニホーは、自社でノウハウを組み合わせながら前のめりに事業を創造していく企業文化を持ち、建設・不動産・生活支援の3事業を展開しています。名古屋を中心に東京、仙台、大阪などの拠点が成長し、海外ではフィリピンで10億円規模の事業を展開するなど、着実に全国・海外への展開を進めています。
とくに印象的だったのは、社長就任後に始めた「全国管理会議」による拠点間のサービス品質均質化への取り組みと、「情報提供制度」による部門を超えた連携促進の仕組みです。さらに今後の展望として語られた「ミニユニホー」構想は、地方都市においても建設・不動産・生活支援の全てに対応できる体制を整備するという、同社の「御用聞き営業」の哲学を体現するものといえるでしょう。
本記事取材のインタビュイー様

株式会社ユニホー
代表取締役 松瀬 賢亮 氏
長野県木曽郡出身。名古屋の大学で建築を学び、新卒で株式会社ユニホーに入社。飛び込み営業からキャリアをスタートし、入社2年目に3億円超の介護施設案件を受注。その後、分譲販売、売買仲介、営業所長を経験し、PPP/PFI事業に携わる。名古屋大学のPPP/PFI事業などを手がけ、役員を経て社長に就任。「御用聞き営業」を哲学に掲げ、建設・不動産・生活支援の3事業を通じてお客様の困りごとを解決する経営を実践。
会社紹介
株式会社ユニホー
https://www.uniho.co.jp/
株式会社ユニホーは、麦島建設の兄弟会社として設立された総合不動産会社です。建設・不動産・生活支援の3事業を柱に、土地活用から建設、分譲、賃貸管理まで1から10までワンストップで対応。御用聞き営業を哲学に掲げ、お客様の困りごとをしっかり聞いて解決するソリューション営業を実践しています。名古屋を中心に東京、仙台、大阪、福岡、札幌、金沢、松本などに拠点を展開。海外ではフィリピンで不動産管理事業を展開し、約10億円の売上を計上。PPP/PFI事業では名古屋大学などの公共プロジェクトを手がけるなど、多角的な事業展開を進めています。




