【リーダーインタビュー】黒木 健次郎様|コロナ禍の逆風を追い風へ。10万室掲載のマンスリーマンションポータルで業界を変革。

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、Weekly&Monthly株式会社 代表取締役 黒木 健次郎様です。コロナ禍での大胆な事業転換を経て、マンスリーマンション検索ポータルサイトを運営し、掲載数日本一の10万室を誇る同社。自社開発の管理システム「wellmo」により予約から入居までを完全DX化し、2030年に向けて「反響数30万」を目指すビジョンや、海外展開の構想についてお話を伺いました。
高卒からの道のり。不動産業界に入るまでの経歴と新たな価値創造へのチャレンジ。
黒木様の経歴と不動産業界に入られたきっかけを教えていただけますか?
▲Weekly&Monthly株式会社 代表取締役 黒木 健次郎 氏
私は宮崎県の高校を卒業後、愛知県のとある工場に入社しました。しかし、高卒では上のポジションに就きにくいと感じ、約1年で退職。地元に戻って農業法人で働き始めました。当時、携帯電話が出始めたばかりの頃で、それを活用して東京の市場とのやり取りができるようになり、仲買人と関係を築いて出向する機会を得ました。
その後、地元の漬物工場で働くことになり、フォークリフトの免許を活かして物流を担当しました。上司の病気をきっかけに営業も担当するようになり、在庫管理や販売促進の企画など幅広い業務を経験し、売上向上に貢献しました。
不動産業界に入ったきっかけは、弟が岡山・広島で不動産会社(現在のケイアイホールディングス、ケイアイホーム、ケイアイコミュニティ)の代表を務めていたことです。弟の会社であるケイアイコミュニティに入社し、不動産管理の道に進みました。役員を経て、全体の取締役となり、約7年間管理部を務めた後、親会社のケイアイホールディングスに移りました。
Weekly&Monthly株式会社を設立された経緯についてお聞かせください。
ケイアイホールディングスでは、サブリース事業と簡易的なマンスリーマンション事業を担当していました。当時、マンスリーマンション事業は小規模で、岡山と広島を合わせても10室に満たない状況で、サイトはあったものの、ほとんど活用されていませんでした。
私はこのマンスリーマンション事業に可能性を感じ、既存の物件に家具を入れ、写真を撮ってサイトにアップすることから始めました。ニーズに合わせて部屋を増やしていき、岡山を皮切りにマンスリーマンション事業を拡大していきました。
約2年後には合計200室ほどまで事業を拡大し、4名の少人数チームで年間約6,000万円の営業利益を生み出すビジネスモデルを確立。この高い収益性が評価され、出資を受けてWeekly&Monthly株式会社を設立することになりました。当初は東京を拠点に、マンスリーマンションの運営事業を主軸として展開する計画でした。
コロナ禍を乗り越える大転換。自社運営からポータルサイト事業へ。
北海道を拠点にされた理由と、事業モデルの転換についてお聞かせください。
Weekly&Monthly株式会社設立後、川崎、横浜、池袋、京都で物件を1棟ずつ借り上げてマンスリーマンション事業を展開しようとしていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により状況が一変しました。オリンピックが延期となり、ホテル価格の下落、インバウンドの激減など、事業環境が急激に悪化しました。
そんな中、北海道の札幌にあるドットコム社(帯広のドットコムホールディングスの子会社)が運営していたマンスリーマンションのサイトを買収する機会がありました。私たちはこのサイトを全国展開するためのポータルサイトとして活用することを決め、自社物件の運営事業は全て解約し、完全にポータルサイト事業へと軸足を移しました。
北海道を拠点にしたのは、このサイト制作会社が北海道にあったからです。東京の本社を閉鎖し、北海道にオフィスを移転。以降はZoomでのミーティングが中心になり、リモートワークを基本とした運営体制へと移行しました。
振り返ると、コロナ禍は私たちにとって大きな転機となりました。資金ショートの危機に陥り、株主から融資を受けなければならないほど厳しい状況でしたが、「選択と集中」を徹底し、ポータルサイト事業に集中することでこの危機を乗り越えました。2期目は債務超過に陥りましたが、3期目で脱却し、現在7期目を迎え、6期目で株主からの借入金も全額返済することができました。
現在の事業内容と他社との差別化ポイントを教えてください。
▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木 明人
現在、当社は日本最大級のマンスリーマンション検索ポータルサイト「W&M(ウィークリー&マンスリー)」を運営しており、掲載数は10万室に達しています。コロナ禍での急激な事業モデル転換が功を奏し、短期間で急成長することができました。
▲マンスリーマンション検索ポータルサイト「W&M(ウィークリー&マンスリー)」
当社のポータルサイトの強みは、他社にはない特徴的な検索機能と、豊富な物件情報にあります。物件写真は最大50枚まで掲載可能で、通常他社サイトでは8枚程度しか掲載できないところ、当社では50枚の写真に加えてYouTube動画も埋め込むことができます。これにより、エンドユーザーは物件の詳細情報を得ることができるのです。
さらに、管理システムと連動しており、在庫状況をリアルタイムで反映したカレンダー形式での募集も可能です。これはホテル予約のような使い方で、最低1ヶ月から利用可能で、それ以上の期間も柔軟に設定できます。
当社のお客様は主に2つに分けられます。1つ目はサブリース事業を展開する不動産会社様で、通常の賃貸と比べて約3倍の売上を上げることができるマンスリーマンション運営は、空室対策としても効果的です。2つ目は民泊を運営する会社様で、180日規制のある民泊のハイブリッド運営としてマンスリーマンションを活用されています。
コロナ禍のピンチをチャンスに変え、大手ホテルチェーンから大手賃貸管理会社まで、様々な企業に掲載していただいています。
マンスリーマンション市場の需要と可能性。ビジネスユースからライフスタイルの多様化まで。
最近では不動産業界でもDXが注目されていますが、貴社ではどのような取り組みをされているのでしょうか?
マンスリーマンション業界は、インバウンドの回復や半導体工場などの新設による長期出張者の増加で需要が伸びています。例えば千歳市では、一泊2万円のようなホテルでは長期滞在が難しい一方、マンスリーマンションなら40平米の部屋でも1日8,000円程度で泊まれるため、コストパフォーマンスの面でも選ばれています。
当社サイトの反響数も増加傾向にあり、とくに法人契約が大きく伸びています。これは多くの法人がマンスリーマンションというサービスを認知し始めた証拠だと考えています。
ユーザー層としては、全体の約7割がビジネスユースで、残り3割がその他の用途です。インバウンド需要は民泊やホテルに流れる傾向があり、マンスリーマンションの利用者は8〜9割が日本人です。その他の用途としては、大学生が2〜3割程度、残りは長期入院患者の付き添いや、引っ越し前の仮住まい、地方から東京へ転勤してきた方が環境を確認するための仮住まい、帰省時の宿泊施設など多岐にわたります。
学生利用の特徴的な例として、キャンパスが変わる際の一時的な住まいとして利用されるケースがあります。例えば、学生が2年目から別のキャンパスに移る際、短期間の引っ越しによる違約金や仲介手数料の負担を避けるために、マンスリーマンションを活用されています。企業の研修でも同様に、3〜6ヶ月程度の短期利用というニーズがあります。
マンスリーマンション業界の課題と今後の展望についてはどうお考えですか?
マンスリーマンション業界の課題としては、業界自体の認知度がまだ低いことが挙げられます。また、地方ではウィークリーマンションを展開していても都市部ではマンスリーのみを展開するといった規制の不明確さや、グレーゾーンとの認識も一部ではあります。
今後の展望としては、「マンスリーマンション」という言葉の認知度を高め、新たな市場創出を目指しています。潜在的な市場は確実に存在すると考えており、これを顕在化させることが私たちの使命だと思っています。
また、業界自体もまだ発展途上であり、AIや最新テクノロジーを活用した開発も進めています。社内で勉強会を実施し、技術者が常に最新の開発トレンドに触れ学習できる体制を整えています。具体的には、A Iを活用したエージェント型の物件検索機能など、より便利な体験をユーザー様提供するための開発も進行中です。
さらに、北海道でのブランディング活動にも力を入れており、地域イベントへの協賛や各種メディアでの露出を通じて、ベンチャー企業としての知名度向上にも取り組んでいます。
デジタル技術で変革する宿泊体験。検索から入居までシームレスな顧客体験の創出。
DXへの取り組みと管理システム「wellmo」について教えてください。
当社のDXへの取り組みの中核となるのが、独自開発した管理システム「wellmo」です。このシステムは、物件の登録から予約管理、契約締結まで一貫して行えるプラットフォームとなっています。
▲マンスリーマンション予約管理システム「wellmo(ウェルモ)」
まず、不動産会社様が自社のマンスリーマンション物件を「wellmo」に登録すると、自動的に当社のポータルサイトに掲載されます。ユーザーからの問い合わせやお申し込みは、そのまま「wellmo」に反映され、物件管理会社はリアルタイムで確認することができます。
問い合わせがあった場合、システムから自動的にURLが発行され、お客様に身分証明書などの必要書類のアップロードを促します。お客様が入力した情報は自動的に「wellmo」に取り込まれ、物件と期間に基づいた自動見積もりが発行されます。お申し込みが完了すると請求書が自動生成され、契約書も顧客情報から自動生成されるため、手入力の手間が大幅に削減されます。
契約書は「wellmo」から直接送付され、電子契約にも対応しています。クレジットカード決済機能も備えており、入金確認も容易に行えます。さらに、入居者向けのアプリとの連携を進めており、今後は入居案内からQ&A、ゴミステーションや駐車場の場所案内、鍵の開け方など、全ての情報をデジタルで提供できるようにして行きます。
このように、検索から申し込み、契約、支払い、入居案内まで、全てのプロセスがDX化されているのが当社の大きな特徴です。
また、マンスリーマンション事業の大きなポイントとして、通常の賃貸物件と異なり内見がないことが挙げられます。これはホテルと同様のビジネスモデルであり、代わりに豊富な写真や動画で物件の詳細を確認できるようにしています。内見がないからこそ、完全自動化が可能になっており、現在はまだ、やり取りはメールが中心ですが、今後は「wellmo」のシステム上で完結する形を目指しています。
この完全自動化により、マンスリーマンション運営会社の業務効率が飛躍的に向上し、少人数での多数物件管理が可能になります。これは当社のビジョンでもある「マンスリー運営会社の生産性向上」に直結する取り組みです。
2030年ビジョンと海外展開。マンスリーマンション業界のパイオニアとして。
Weekly&Monthly社としての今後のビジョンについてお聞かせください。
今年初めに幹部全員とのミーティングで2030年に向けたビジョンを策定しました。現在「W&M」の反響数を年間15万件から30万件へ伸ばすことを目標としています。これにより、当社がマンスリーマンションのポータルサイトとして圧倒的な地位を確立し、運営会社様にもより多くの価値を提供できると考えています。
このビジョン実現のため、「wellmo」システムのさらなる自動化を進め、マンスリー運営会社の一人当たりの生産性を大幅に向上させる環境を整えていきます。これにより、少ない人員でより多くの物件を効率的に管理できるようになります。
また、サービス拡大の一環として、シェアハウスや民泊などの領域にも進出していく予定です。基盤が整ったら、次のステップとして海外のサービス・アパートメント企業との提携も視野に入れています。日本のユーザーが海外のサービス・アパートメントを利用する際は当社から紹介し、逆に海外から日本へ来るユーザーは提携先から当社サイトに誘導するという相互送客の仕組みを構築したいと考えています。
当初は自社で海外サイトを立ち上げることも検討しましたが、各地域でSEO対策を一から行うことの難しさを考慮し、各国の強いプレイヤーとパートナーシップを組む戦略に切り替えました。これが最も早く効果的に海外展開できる方法だと確信しています。
私たちの目標は、マンスリーマンションの認知度向上と市場拡大を通じて、より多くの人が便利で快適な中期滞在型の住まい方を選択できる社会を作ることです。2030年に向けて、ポータルサイト事業の拡大と、一部のマンスリーマンション運営、そして将来的にはホテル事業への挑戦も視野に入れながら、挑戦を続けていきます。
まとめ
黒木社長のインタビューからは、逆境をチャンスに変える経営者としての決断力と先見性が伝わってきました。コロナ禍という危機的状況の中で、自社運営からポータルサイト事業へと大胆なピボットを行い、業界最大級のプラットフォームを構築した軌跡は、多くの経営者に勇気を与えるものです。特に印象的だったのは、マンスリーマンション業界のDXを徹底的に推進し、管理システム「wellmo」を通じて検索から入居までの全プロセスをシームレスに連携させる取り組みです。内見のない業態だからこそ可能になる完全自動化は、不動産業界の新たな可能性を垣間見ることができました。
本記事取材のインタビュイー様
Weekly&Monthly株式会社
代表取締役 黒木 健次郎 氏
宮崎県出身。高卒後、製パン会社を経て農業関連の仕事に従事。弟が経営する不動産会社ケイアイコミュニティに入社し、不動産管理業務に携わる。7年間管理部を務めた後、親会社のケイアイホールディングスに移り、サブリース事業とマンスリーマンション事業を担当。マンスリーマンション事業の高い収益性を証明し、Weekly&Monthly株式会社を設立。コロナ禍での事業転換を経て、日本最大級のマンスリーマンションポータルサイトに成長させた。2030年に向けた明確なビジョンを掲げ、マンスリーマンション業界のパイオニアとして活躍中。
会社紹介
Weekly&Monthly株式会社
https://weeklyandmonthly.co.jp/
Weekly&Monthly株式会社は、マンスリーマンション検索ポータルサイト「W&M(ウィークリー&マンスリー)」を運営する会社です。日本全国のマンスリーマンション・ウィークリーマンションを検索できる日本最大級のポータルサイトとして、10万室以上の物件を掲載しています。自社開発の管理システム「wellmo」を通じて、物件検索から予約、契約、入居までを完全にDX化し、マンスリーマンション運営会社と利用者をつなぐプラットフォームを提供。2030年に向けて「『W&M』の反響数30万件」を目標に掲げ、マンスリーマンション市場の活性化と認知度向上に取り組んでいます。