賃貸DXで変わる不動産管理業
コロナ禍により外出が控えられる世の中になってから、急速にDXというキーワードが話題になっています。企業のデジタル化は3年前に経産省がレポートを出すほどに重要なものとして国は位置付けてきましたが、ここにきて一気に注目を浴びるようになりました。この波を受け、不動産業界においてもDXの導入が進みつつあります。
本記事では、賃貸DXとはどのようなものか、また賃貸DXの普及で不動産管理業がどう変わっていくのかを解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタルでビジネスを変えることです。この「変える」というのは、単なる変革ではありません。トランスフォーメーションというのは、芋虫が蛹になり、蝶やカブトムシになるように、大きく姿が変わることを意味します。
これをビジネスに置き換えると、ヒトがやっていた業務やモノがデジタルに置き変わることで、ビジネスモデルや産業そのものが変わることになります。従来のIT化もDXの一部といってもよいですが、IT化はモノやサービスがソフトウェアやデーターに置き換わることを意味します。
不動産テックとは?
不動産テックは、ReTech(Real Estate Tech)とも呼ばれます。従来の不動産にシステムを導入することから一歩も二歩も進んで、不動産業界にある課題を解決していく最新テクノロジーを意味します。
これには、さまざまなものが含まれます。バーチャルリアリティーで建築前の建物を仮想体験できるものや、3Dプリンターで家を建築する技術、建物の点検を現場に行かずにセンサーが異常値を発信するなど、不動産にまつわる多くの課題を解決する幅広いテクノロジーを総称して不動産テックと呼びます。
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不動産業界にDXが求められる理由
不動産業界は、長らくIT化が遅れている業界といわれてきました。その理由は、紙とコピー機、電話、FAXがあれば誰でも参入できること、また、もともと不動産の管理業務は労働集約的の細々とした手間が積み重なっているために、システム化しても費用対効果が合わないものだったというのが、IT化が遅れている理由です。
さらに、不動産や建物は、雰囲気や治安、利便性のほかにも、趣向性にかなり左右されるため、定型的なデーターに整理・分類することができず、システム化が限定的にしかできなかったということもあります。
しかし、AIによる画像解析、手書き文字認識、CADの普及、VR技術の発展によって、これらの課題が急速に解決に向かいつつあります。また、スマートフォンとクラウドの普及などによって、これらの導入費用もリーズナブルになってきています。
デジタル化によるメリットとしては、次が挙げられます。
- 単純な作業を人間が行う必要がなくなる
- 複製が自由自在
- 距離と時間を縮められる
- コストを大幅に引き下げられる
DXを導入することで、管理業務の品質を上げながら、費用を下げることができるようになります。さらには、店子の満足度の向上にもつながります。いち早くDXに取り組むことで、事業を大きく発展させることができるようになるのです。
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カオスマップの「管理業務支援」について
最新の不動産テックを活用して賃貸DXを進めようとしたときに、どこに何を問い合わせると何ができるのかわからない、という壁に突き当たると思います。
そこで、まずは一般社団法人不動産テック協会が発表しているカオスマップに記載されている企業から選んでみてはいかがでしょうか。このカオスマップには、不動産テックを提供している企業が幅広くマッピングされています。
引用元:一般社団法人不動産テック協会
しかし、この中の「管理業務支援」に入っているテクノロジー企業に問い合わせるときには注意が必要です。なぜならば、不動産管理業務支援といっても、さまざまな業務があるからです。
たとえば、オーナー経営の管理(AM:アセットマネジメント)から、建物の工事管理(CM:コンストラクションマネジメント)、ビルの維持・管理(BM:ビルメンテナンス)、そして賃貸管理(PM:プロパティ―マネジメント)などです。また、最近では民泊の管理を請け負うPM・FM(ファシリティマネジメント)も出てきていますし、立場によってそれぞれ管理業務があります。仲介業者が空き物件や空き地(またはオーナー)を探す営業や、オーナーのために買い手や借り手(いわゆる客付け)を探す営業などもあります。
カオスマップで「管理業務支援」に分類されているテクノロジー企業は、このように管理業務という概念が幅広いのと、中にはホームページを見ても上記のどの分野を提案しているのかわからない企業もたくさんあります。そのことを頭に置きながら、選別して問い合わせしていきましょう。
物件・顧客情報管理を効率化するサービス
賃貸業務は、まず物件を告知して店子を募集するところから始まります。オーナーであれば、以下のような業務を行いますが、これら煩雑な業務はDX化しやすい領域です。
- 街の不動産仲介会社に依頼して、店頭の看板や店内で紹介してもらう
- インターネット広告などで広く募集をする
- 問い合わせしてきた見込客を内覧に誘導し、契約にもっていく
ただ、どうしても対面で対応せざるを得ない内覧や重説をどう効率化するかは、大きな課題でもあります。
次は、家賃の収納や滞納対策、店子とのコミュニケーションの効率化です。また、物件の保全や、店子に対して魅力的な設備を新設するなどについても、これまでは手間がかかっていたものですが、進捗管理ツールやIoT等を活用したソリューションが出始めています。
店子の募集業務
店子の募集業務をデジタル化するには、マーケティング・オートメーション(MA)とカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)のツールを導入するのが王道です。汎用的なMAツールを使うと、顧客のインターネット上でのクリック履歴と、実際のお客様情報をつなぎ合わせて管理することができます。
一方で、カオスマップに載っているような不動産事業に特化したツールも検討に値します。たとえば、空室物件の適正収益予測から実際の集客までをワンストップで支援するツールを使えば、簡単なリフォーム等を行ってから募集を行った方が家賃を高く設定できて長期的に収益性を上げる対策を打ちやすくなります。鳥かごを自動生成できる機能を備えたツールも、手作業を減らすことができます。
また、内覧や重説(重要事項説明)を効率化することも可能です。IT重説(ZoomやGoogle Meetを使った画面越しの重説)は、まだ国土交通省によって社会実験中ですが、法制化が整えばすぐにでも導入すべきです。
いますぐできることとしては、契約書を電子契約に変えることで、来店も郵送も不要となり、契約手続きが大幅に簡略化されます。さらに、内覧時の鍵の受け渡し業務も、スマートロックを使うことで負荷がほとんどなくなります。
関連記事:不動産賃貸経営の電子契約について
図面を読み込むことで、建屋内の空間からVR空間を自動生成するツールもあります。これによりバーチャルで内覧することができるほか、手持ちの家具を重ね合わせてレイアウトを検討することもできます。こうなると内覧すらオンラインで完結することになります。
店子とのコミュニケーション
カオスマップに載っているサービスの中には、契約後の店子とのやり取りを簡略化するものもあります。
入居者にはIoTを活用したスマートな暮らしとサービスを提供しつつ、同時にオーナーや管理会社には連絡や煩雑な業務を簡単に一元管理できるツールです。また、スマートホームセキュリティサービスにチャット機能を付けるだけでも入居者の安全を確認できます。
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物件設備のメンテナンス
設計情報や施工図、修繕工事履歴などは、まだまだ紙ベースのものが多いのが現状だと思います。しかし、これらをスキャナで読み込みクラウドに保存して置くだけでも、現場でスマートフォンにダウンロードして確認することが可能になります。
検針や点検業務を効率化するツールとして、現場をスマートフォンのカメラで撮影するだけで報告資料作成までを自動化できるツールもあります。IoTを入れる一歩前の手段ではあるものの、これでもかなりの労力を軽減できます。
統合された不動産管理ツール
個別のツールを組み合わせるのではなく、管理業務全般のデーターの流れをスムーズにすることでも、煩雑な作業を大幅になくすことができます。
適正収益予測から集客、契約締結から家賃支払い、退去までをワンストップかつ一気通貫で管理するツールは数多くあります。また、PMだけでなくAMもCMもFMも連動するようなシステムも存在します。
不動産管理業の未来とは
デジタルテクノロジーの進化は、日を追うごとに速度を増しています。たとえば、IoTは家庭内や建物の各設備に浸透していくでしょう。IoTは、モノの管理を激変させます。これまで、モノの状態を知るには、人間がモノまで歩み寄って見なくてはいけませんでした。場合によっては、モノを分解する必要すらありました。しかし、IoT機器が導入されることで、モノは自らの状態をネットワーク越しにいる人間に伝えるようになります。
鍵も遠隔で制御することができるようになり、わざわざ人を介して手渡す必要がなくなりました。それどころか、VRを活用することで、スケジュールを合わせて時間を割く必要もなければ、同じ時間帯に大勢が内覧することすら可能になります。
さらにIT重説が可能になれば、契約時に移動の必要がなくなりますし、ビデオ通話は録画が可能なため言った言わないといった揉めごともなくなります。機械が重説の内容を朗読することもすでに簡単にできるようになっています。契約書を電子契約にすることで、契約の意思表示をしてから契約完了までの期間をかなり短縮できます。
これまで手間と時間がかかっていた業務が、高速かつ並列に進むようになることで、より付加価値の高い業務にシフトしていくことでしょう。
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まとめ
本記事で述べたように、賃貸DXは、IT化が遅れていて非効率の塊であった賃貸管理業務を一気に変えることができます。これを進めた企業とそうでない企業では、契約までのスピードや顧客満足度、収益性もまったく違ってくるでしょう。
すなわち、DXへの取り組みが遅い管理業者は競争に勝てず、そうした管理業者を使っているオーナーは、収益向上の機会を自ら放棄していることになります。わからないからといって放置していてはいけないテーマなのです。