【リーダーインタビュー】坂東 多美緒様|「人間力」を鍛え、誠実で質の高いサービスを提供。最後まで諦めない姿勢が、揺るぎない信頼を築く。
不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回インタビューを行ったのは、ポスト・リンテル株式会社の代表取締役社長兼CEOである坂東 多美緒様です。アジア市場におけるNo.1の不動産ソリューションカンパニーを目指し、顧客満足度を最優先にしたサービス提供に力を入れる同社。坂東社長が描く今後のビジョンや、さらなる成長に向けた取り組みについてお話を伺いました。
先輩の誘いを受け、不動産業界に踏み出したのが人生のターニングポイント。その後、ゼロから会社を築き上げたいという想いが強まり独立を決意。
不動産業界を選ばれたきっかけなど、ご自身の歩まれてきたキャリアについてお聞かせください。
若い頃は、学校生活が自分に合わず、中学校卒業後は高校にも進学せずに働こうと思っていました。ですが、その時に父から「就職するなら家を出て自立しなさい。学生になるなら面倒を見る」と言われ、急に独り立ちするのが怖くなり、留学という選択肢を選んだのです。1994年、準備もほとんどせずにアメリカの全寮制の学校に飛び込みました。特別な志や目的があったわけではなかったので、英語もゼロから学ぶ必要があり、最初はとても苦労しました。
しかし高校3年に上がる前に父の事業が悪化してしまい、学費を支払えなくなり日本に戻りました。19歳で帰国し、家族もバラバラの状態で一人暮らしをすることになりました。その後、日雇いの現場仕事や住み込みのアルバイトを転々とし、29歳まではフリーターとして生計を立てていました。その間、友人と移動販売のメロンパン事業や携帯ショップ運営に挑戦したこともありましたが、どれも成功には至りませんでした。
そんな生活が続く中で、先輩の臼井社長が不動産会社を立ち上げ、声をかけてくれたのです。当時、結婚して家族ができていたこともあり、フリーターではなく、何か一つを長く続ける仕事がしたいと感じていたこともあって、この誘いを受けることにしました。
不動産業界に一歩踏み出したのは人生の大きなターニングポイントの一つになりました。人との出会いは多かったので、いろいろな方から声をかけていただきましたが、臼井社長のように「平社員から始めろ」と言われたのは初めてでした。臼井社長は、私がほかの方からも誘われているのを知りながらも、「正社員経験もない君が評価されるためには、他の社員と同じスタートラインから始めるべきだ」と言われ、厳しい条件を提示されたのです。
そんな時、臼井社長は私を五反田の居酒屋に誘い、「今この時間でも働いている社員たちのおかげで、この食事を楽しめるのだよ」と話してくれたのです。そして、「役職というのは人からもらうものじゃなく、自分で掴み取るものだ」とも言われ、もし私がこの条件で納得できなければ来なくていい、ともはっきりと伝えられました。その時、確かにその通りだとは感じつつも、結婚して家族もいる自分には厳しい道だと悩みました。
それでも臼井社長は「君に今必要なのは役職や給料じゃなく、一から始めて本物になることじゃないか。今までは逃げてきたかもしれないが、ここで踏み出さなければ次のチャンスはもう訪れない」と背中を押してくれました。結果として、臼井社長のもとで「平社員から本物を目指そう」と決意し、他の会社ではなく、臼井社長の会社を選びました。あの選択がなければ今の私はなかったと思っています。
入社された会社はその後、上場も果たしました。独立を決意された背景をお聞かせください。
臼井社長が立ち上げたデュアルタップ社に入社したのは29歳のときで、独立したのが39歳です。ちょうど10年間在籍しました。入社した当初は社員が5人で、売上も10億円に満たない規模だったのです。オフィスは五反田の飲み屋街の真ん中にあり、お客様を会社に招くことが難しい環境でした。それでも、その小さな会社が、私が退職する頃には売上が約100億円、上場も果たし、社員数は60名以上、海外を含めると100名を超えるまでに成長しました。
入社当初は本当に電話営業からのスタートで、朝から晩まで働き詰めでした。1年目、2年目はほとんど会社にいて、朝9時から深夜12時過ぎまで働く日々が続き、終電前に帰ろうとすると「何か予定があるの?」と尋ねられるほどのハードな環境でした。
臼井社長のリーダーシップのもと、最初はマンション販売から始まり、徐々に土地開発、さらには海外進出と事業が広がっていきました。私はマレーシアやタイ、シンガポール、イギリスなどで海外事業を担当し、日系初の建物管理会社をマレーシアに設立する経験も得ました。そして37歳の時、デュアルタップはジャスダックに上場し、その後東証二部へと昇格しました。こうした成長を間近で体験できた10年間が、私にとってかけがえのない経験となっています。
会社が拡大するにつれて自分のポジションも上がっていきましたが、上場企業としての方向性と自分が求める働き方に違和感を抱くようになりました。大きな仕組みの中で動くよりも、一人ひとりのお客様と向き合う仕事が自分に合っていると感じたのです。上場企業での成長も魅力的でしたが、ゼロから会社を築き上げたいという想いが強まり、それが独立を決意したきっかけです。
信頼を勝ち取るために必要なのは「人間力」。「どんなに厳しい交渉でも最後まで諦めない姿勢」が他社との違い。
貴社は2017年12月に創業され、わずか6年でグループ総売上45億円、営業利益4億5千万円、社員数55名と急成長を遂げられています。この短期間で急成長を実現できた要因について、詳しくお聞かせください。
やはり、一番大きな要因は優秀な社員の存在です。創業メンバーである私と役員のジョーイ、エダは、前職で築いた信頼関係から自然とチームが形成されました。私が前職を退任する際、彼女たちから「一緒にやりませんか?」と声をかけてくれたのです。彼女たちも独立して頑張っていたのですが、会社の運営や組織の構築に苦労していた部分があり、私が経営を任されることになりました。このような信頼の上に成り立ったチームだからこそ、急成長を遂げるために必要な基盤ができたのだと思います。
また、新しく加わった社員たちも皆、優れた実力を持ち、目標達成に向けて努力を惜しまず取り組んでくれました。営業チームからPMチーム、さらにはバックオフィスに至るまで、全てのメンバーが貢献してくれた結果、私たちはこの成長を遂げることができました。
貴社の顧客層の多くは海外投資家です。海外投資家から「信頼」を勝ち取ることが出来ている背景をお聞かせください。
過去の経験ももちろん役立っていますが、私たちが関わる海外事業は、特に超富裕層を対象としています。彼らは資産が千億や数千億円を超え、多いと数兆円規模の資産を持っていますので、通常の方法ではなかなかアプローチできません。こうした方々との取引を成功させるには「人間力」が重要で、仕組み化が難しい部分が多いです。そのため、サービスやホスピタリティの考え方を社員に徹底して教え、どんな時でも誠実で質の高いサービスを提供できるようにしています。
こうした富裕層の方々は、単に大手企業だから信頼するわけではなく、人として信頼できる相手かどうかを重視されます。例えば、美味しい料理があれば町の居酒屋にでも行くし、逆にミシュランでも質が低ければ行かないといった価値観を持っており、良いものは素直に評価してくれるのです。つまり、私たちが質の高いサービスを提供すれば、相手がどんな規模であっても評価していただけるのです。お客様に資産を預けてもらうために、社員が努力し、お客様の信頼を得ている姿勢が、成長の原動力になっていると実感しています。
貴社の差別化についてお聞かせください。
当社の差別化要因は、「どんなに厳しい交渉でも最後まで諦めない姿勢」にあると感じています。以前、お客様に「なぜ他の大手企業ではなく、当社を選んでいるのか」と尋ねたことがあるのです。お客様は「ポスト・リンテルは最後まで諦めない」と答えてくれました。投資家にとって、少しでも良い条件でまとまることは非常に重要ですが、そのプロセスには非常にハードな交渉が伴います。たとえば、数十億円規模の取引では、どちらか一方が折れるだけではなく、売主・買主双方の要望をバランス良くまとめ上げることが必要です。
他の会社が途中で妥協してしまうような厳しい条件の中でも、当社の社員は最後まで着地点を探し続けます。売主にただ値引きを要求するだけでは簡単ですが、それでは双方が納得しないため、ポスト・リンテルではお客様双方が満足できる形を見つけることを徹底しています。こうした粘り強い姿勢とサービス精神が、当社を選んでいただける大きな理由だと考えています。
多様性とそれを支える主体性が特徴。社員の自主性を重んじ、柔軟に行動できる仕組みを構築。
貴社の特徴についてお聞かせください。
当社の特徴は、多様性とそれを支える主体性にあります。日本人に加え、中国人、香港人、スペイン人、イタリア人といった異なる文化背景を持つ社員が在籍しており、それぞれが自分の役割や責任に対して主体的に動ける環境が整っています。また、当社では「マニュアルに従う」ことが基本ではなく、社員一人ひとりが最善の方法を考えて行動することが求められます。そのため、仕事の進め方や手数料の設定についても現場に任せており、必要であれば現場の判断で値引きを行うことも可能です。この自由な働き方は、指示を待つよりも自分で考えたいと感じる社員にとっては非常にやりがいのある環境だと思いますが、逆に指示やルールが必要な人には難しい職場かもしれません。
こうした自主性を重んじる文化と、社員一人ひとりが柔軟に行動できる仕組みがあるからこそ、当社は顧客満足度を高め、成長を続けていると感じています。非上場であることも、こうした自由で柔軟な組織づくりを可能にしている要因の一つですね。
「足を使うこと」を大事にされており、年2~3回の海外視察ツアーや、全額会社負担でのホテル宿泊研修など、会社として「足を使うこと」を支援されています。こうした取り組みに力を入れている背景について詳しくお聞かせください。
当社では、不動産業でありながら「サービス業」であるという意識を持っています。そのため、お客様が求めるサービスを理解するために、同じ経験を積むことが重要だと考えています。実際に世界中のリゾート地や一流ホテル、不動産物件を見て、体験してきなさいと社員に言っています。世界中の高級な施設や文化に触れることで、お客様が本当に求めているものを知り、同じ目線で会話ができるようになります。
お客様の多くは、世界各地に不動産を所有しており、たとえば「ロンドンやニューヨークでおすすめのレストランや劇場はどこか?」といった会話が自然に交わされます。もしその場所を知らなければ、その会話に入ることもできません。そうした理由から、当社では、社員が自らの目で見て感じる機会を提供することを大切にしており、全額会社負担で現地視察や宿泊研修を行っています。
真に価値のある高品質なサービスを提供し、幅広いお客様の不動産に関する課題を解決し続ける。そのために、社員それぞれの目標に合わせて成長できる環境を整備。
今後、特に力を入れていきたいと考えている事業はございますか?また、その事業の今後の展望についても併せてお聞かせいただけますでしょうか。
▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人
私たちの会社は、富裕層に限らず、幅広いお客様の不動産に関する課題を解決することを目指しています。「不動産ソリューションカンパニー」として、不動産を通じた問題解決を軸に、どなたでも支援できるサービスを提供したいと考えています。ただし、私たちはサービスの質に対して一切妥協せず、しっかりとした手数料をいただき、その分一流のサービスを提供することを基本方針としています。安価なサービスで数をこなすのではなく、真に価値のある高品質なサービスを提供し、その対価をいただく考えです。
将来的には、こうした高品質なサービスをアジア全域へ広げ、たとえば日本だけでなくシンガポールやフィリピンでも同じレベルのサポートを提供できる体制を目指しています。
坂東様は不動産業界のテック化、DX化について、どのようなお考えをお持ちでしょうか?
私たちは顧客満足のために、一流レストランの予約や空港での出迎えといった、手間がかかるサービスを大切にしています。こうしたサービスは確かにアナログ的で時代に逆行しているようにも見えますが、富裕層のお客様が求めているのは、まさにこの「手間と気遣い」による特別な体験です。しかし、不動産マーケットが成長していくためには、DXやテクノロジーの導入による効率化が避けられないとも考えています。無駄を省き、よりスムーズに取引を行えるようにすることで、将来的にはこの層のお客様もDXによる恩恵を感じられるようになると思います。特に、クロスボーダー(国際取引)の不動産取引においてDXが導入されれば、これまで以上に安全で効率的な取引が可能になります。
他社とは違った教育方法や採用方法があれば教えてください。
当社では基本的にOJT(On the Job Training)を重視しています。社員が現場で実際に行動し、実務を通じてスキルを身につけていく形式です。経験を積むために、先輩社員と同行して一緒にお客様対応や交渉の場面を体験してもらいながら、少しずつ覚えてもらいます。しかし、それだけでなく社員がさらに成長したいと思う場合には、会社が積極的に支援する体制も整えています。
例えば、英語を学びたい、ビジネススクールに通いたいといった要望があれば、会社負担でそうした学習を支援しています。また、外国人社員が日本語を学ぶために日本語教室に通う場合も、同様に費用を負担しています。さらに、海外の不動産市場を直接見て学びたいという場合には、海外研修の機会も提供しています。こうした柔軟なサポート体制を通じて、社員がそれぞれの目標に合わせて成長できる環境を整えているのが、当社の特徴です。
「アジアNo.1の不動産ソリューションカンパニー」を目指し、真に追及するのは「顧客満足度でナンバーワン」。
坂東様、またポスト・リンテル株式会社として、今後のビジョンや想いをお聞かせください。
私のビジョンは、ポスト・リンテルを「アジアNo.1の不動産ソリューションカンパニー」に育て上げることです。目標の一つは、2027年までにファンドを組成し、2032年までに欧米に拠点を築くこと、さらにグループ会社を30社まで増やしていくことなどのマイルストーンがあります。しかし、私たちが真に追求しているのは、社員数や売上ではなく、「顧客満足度でナンバーワン」になることです。これは、KPIにとらわれず、純粋にお客様に対するサービスの質を高め、誇りをもって手数料を請求できる会社でありたいという想いから来ています。
このビジョンの実現のためには、海外拠点やゼネコン、ビル管理(BM)、プロパティマネジメント(PM)といった多様な分野の専門性が必要です。今後も積極的にシンガポールをはじめとするアジア各地に拠点を増やし、現地での合弁事業や協力体制を強化していきます。基盤が固まりつつある今、次のステップとして海外不動産を扱うフェーズに進むことで、さらに多様なニーズに応えられる会社に成長したいと考えています。
まとめ
今回のインタビューを通じて、ポスト・リンテル株式会社が掲げる「アジアNo.1の不動産ソリューションカンパニー」というビジョンと、それを支える坂東社長の力強いリーダーシップを深く感じることができました。坂東社長は、顧客満足度を最優先にする姿勢を徹底しており、単なる売上や社員数を指標とするのではなく、お客様から信頼されるサービスの質を追求することで「価値ある企業」を目指しています。また、柔軟な教育支援や多様な人材を活かす企業文化があり、各社員が主体的に成長できる環境を整えることで、サービスの質をより高めていることも注目すべき点です。今後、シンガポールをはじめとしたアジア全域に拠点を拡大し、持続的な成長を遂げていくポスト・リンテル株式会社の未来に大きな期待を寄せています。
本記事取材のインタビュイー様
ポスト・リンテル株式会社 代表取締役社長兼CEO
坂東 多美緒 氏
1978年、東京都生まれ。中学を卒業後に単身で渡米。日本に帰国後、さまざまな仕事を経て、不動産会社の立ち上げに参画。2007年に新興の不動産会社だった株式会社デュアルタップに入社し、マネージャー、事業部部長などを歴任後、常務取締役に就任。海外不動産事業に注力するなど業容を拡大し、2016年には同社を東証二部上場へと導いた。同社の国内外すべての販売、運用、管理部門の統括責任者として活躍した後、2017年12月にポスト・リンテル株式会社を設立、代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
ポスト・リンテル株式会社
HP:https://post-lintel.com/
ポスト・リンテル株式会社は、2017年に設立された不動産ソリューションカンパニーです。顧客の8割以上が外国人投資家であり、社員の半数以上が外国籍というグローバルなプロフェッショナル集団として、国内不動産のクロスボーダー取引に特化したサービスを提供しています。東京都港区に本社を構え、顧客満足度を最優先に、質の高い不動産取引の実現に注力。「アジアNo.1の不動産ソリューションカンパニー」を目指し、国内外を問わずお客様にとって最良のサービスを提供しています。