【リーダーインタビュー】吉田 宏様|成長を楽しむ経営で、地域に必要不可欠な存在へ。建築と売買の融合で新たな価値を創出。
不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、株式会社アート不動産及び株式会社SUMiTASの代表取締役である吉田 宏様です。賃貸仲介、賃貸管理、売買、開発事業など幅広い事業領域を持つ同社の強み、賃貸管理業の今後、不動産のDX化などについてお話を伺いました。
経営理念である「地域の会社に必要とされる企業を目指す」に込められた思い
吉田様が不動産業に携われた経緯を含め、ご経歴をお聞かせください。
父親が高松で不動産業を営んでいたことが、私が不動産業界に興味を持ったきっかけでした。ただ、その時は自分がこの業界に入るとは全く考えていませんでした。転機が訪れたのは、平成13年に愛媛大学に編入試験に合格し、愛媛で部屋探しをしたときです。
香川では社員数が少ない不動産会社が主流で、どちらかというと家族経営の色が強かったのですが、愛媛に来てみると不動産業がしっかりと企業として成り立っていることに驚きました。これを機に不動産業を企業として学びたいという思いが強まりました。
その思いを父親に話すと、「他社で働くよりも、愛媛で新しい会社を立ち上げろ」と言っていただき、父親の言葉を信じて「やってみよう」と決心しました。大学をほとんど行かずに退学して、不動産業に専念しました。当初は父親のサポートを受けながら松山でゼロからのスタートでした。松山には父親の知り合いもいませんし、全てを一から築き上げなければなりませんでした。
特に苦労したのは、私がまだ若かったため年上の社員に対して指示を出すのが難しかったことです。
徐々に経験を積み、2年目にはアパマンショップに加盟することで賃貸業界のノウハウを学び、組織を強化していきました。苦労も多かったですが、その分成長の楽しさを感じることができました。
経営理念の「地域の会社に必要とされる企業を目指す」について詳しくお聞かせください。
この経営理念には、私自身が大切にしている想いが込められています。お客様にとって、なくなっても困らない会社と、なくなったら困る会社があると思います。例えば、お気に入りのラーメン屋がなくなると困るけど、別に行かなくても困らないお店もあるでしょう。私たちは、地元の方々に「なくなったら困る」と思ってもらえる会社を目指しています。
これは企業の価値にも直結すると考えています。お客様に「アート不動産じゃなきゃダメだ」と思ってもらえるような会社を目指しています。単に物件を紹介するだけでなく、総合的なサポートを提供することが重要だと考えています。
私たちは、賃貸の仲介や管理だけでなく、売買の仲介、開発事業など、幅広いサービスを提供しています。これはお客様のあらゆるニーズに応えるためです。賃貸物件のオーナー様に対しては、単に物件の管理だけでなく将来的な売却や新たな投資の相談にも乗れるようにしています。
また、ブランド戦略も重要だと考えています。物件の広告を出して、安さでお客様が来るのは物件の魅力によるものですが、自社の魅力で来てもらうことも大切です。家電量販店で言えば、欲しいテレビが安いからA店に行くお客様と、A店が好きだから行くお客様がいますよね。企業のブランドを信用して来てくださるお客様を増やしたいと考えています。そういうお客様は、企業のファンになってくれる可能性が高いですからね。
一体感と連帯感で利益を生み出すチームビルディング
貴社の強みをお聞かせください。
アート不動産の強みは、総合力と組織力です。単なる不動産会社ではなく、総合不動産企業として幅広いサービスを提供しています。賃貸の仲介から管理、売買の仲介、さらには開発事業まで手がけており、事業領域の広さが挙げられます。これにより、お客様のどんなニーズにも対応可能です。賃貸物件をお探しのお客様が将来的に購入を考えている場合でも、スムーズにサポートできます。
また、組織力も大きな強みです。私たちには5つの店舗がありますが、面白いことに店舗別の利益管理はしていません。各店舗が人手不足の時にお互いにフォローし合う体制をとっているのです。
賃貸仲介が採算を取りにくくなってきている中で、部門別の採算よりも店舗間の連携を強化してワンチームとして動く方が効率的だと考えているからです。この一体感と連帯感は、私たちの大きな強みになっています。お客様にとっても、どの店舗に行っても同じ質の高いサービスを受けられるというメリットがありますからね。
ここ数年、業績が右肩上がりのように見受けられます。
強みといえば、数値管理の徹底も挙げられます。特に2013年からは、金融機関との信頼関係が深まり、自社物件の開発を進めたことで売り上げが増加しました。最近の3〜4年は物件の売買をしつつも、借入金の増加に依存せず粗利を増やすことに注力してきました。
この数値管理の徹底は、会社の成長に大きく寄与しています。前年対比の成長率を見ながら手を打ってきた結果、着実に成長を遂げることができました。
そして、「成長を楽しむ」という企業文化も私たちの強みだと思います。私自身、成長することが好きでそれを社員にも伝えています。仕事でも人生でも、成長を楽しむことが一番楽しいと思っているのです。この姿勢が、会社全体の成長につながっているのだと確信しています。これらの強みを活かして、これからも顧客満足度の向上と企業価値の創出に励んでいきたいと思っています。
他社の事例をもとに人材育成の難しさを克服
SUMiTASについて、またアパマンショップとSUMiTASを運営する中で、良かった点や苦労した点をお聞かせください
SUMiTASを立ち上げた背景には、旧副都心住宅販売の創業者である藤本さんへの強い尊敬の念があります。藤本さんは全国に不動産フランチャイズを展開するイエステーションを設立された方です。その経験とビジョンに共感していた私は、藤本さんが創業した旧副都心住宅販売(のちにスミタスに社名変更)の事業承継のタイミングが来た時に、その流れを引き継ぐことを決意し、SUMiTASを立ち上げました。
アパマンショップとSUMiTASを運営する中で、人材の成長がいかに難しくも重要であるかということを感じました。アパマンショップではフランチャイズのオペレーションマニュアルに基づき、生産性の基準を確立することができました。店舗が1つしかない時期にはどのような動き方が正しいかを理解するのが難しいですが、FCに加盟することで他社の事例や数字を参考にしてKPIを作り上げることができました。
一方で、SUMiTASにおいても同様に売買のKPIを作り、業績を伸ばしていく基盤を築くことに注力しました。特に苦労したのは、売買の担当者が少ない中で正しい生産性を追求しながら全体の業績を上げていくことです。他社の事例を参考にすることで、着実に成果を上げることができました。
アナログ主流の不動産業界にもデジタルが浸透始めています。貴社ではテック化やDX化について、どのような取り組みをされていますか?
▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人
私たちアート不動産では、テック化やDX化を積極的に進めています。特に力を入れているのが、業務の効率化と顧客サービスの向上です。最近取り組んでいるのが、お客様来店カードの電子化です。これまで紙ベースで行っていた来店時の情報収集を、Googleフォームを使って完全にデジタル化しました。お客様が来店された際、希望の家賃や条件をGoogleフォームで直接入力していただいています。
今回の来店カードの電子化は、全社的に100%徹底できたことが特に良かったと感じています。従来は紙で行っていた作業が、電子化によって迅速かつ正確に処理できるようになりました。今後は、売買の分野でも同様の電子化を進め、さらに業務の効率化を図りたいと考えています。
DX化は単なる技術導入に留まらず、業務全体の流れを見直し、どのように効率を最大化するかを常に考えています。アート不動産では、こうした取り組みを通じて、より良いサービスをお客様に提供し、地域に必要とされる企業として成長していくことを目指しています。あくまでも、お客様へのサービス向上や業務効率化のための手段として、テクノロジーを活用していきたいですね。
大切にしているのは「成長を楽しむ」という姿勢
社員教育に関して、貴社での取り組みを教えてください。
「成長」を大切にしています。生産性や採算性を他の人と比べることも大切ですが、それ以上に重視しているのは、その人自身の成長です。前月や昨年と比べてどれだけ成長しているかを見ますね。
半年で売り上げを伸ばしたスタッフと、3年や5年かかったスタッフがいたとします。一般的には、短期間で成果を出した方が評価されがちですよね。でも、私はそうは思いません。実は、器用に売り上げを伸ばせるスタッフは他の人に教えるのが苦手なケースが多いのです。なぜかというと、自分にとっては当たり前のことが、他の人にはなかなか伝わらないからです。
一方で、成長に時間がかかったスタッフは、さまざまな壁を乗り越えてきた分、誰かを教える際に力を発揮することが多いですね。自分が苦労した経験があるからこそ、他の人の気持ちが分かるのでしょう。だから、私たちは短期間で成長した人だけが優れているとは考えません。むしろ、成長意識を持ち続け、先月や昨年の自分を超えようと努力し続けることが大切だと考えています。
また、私自身の経験を社員に伝えることも大切にしています。例えば、私は最近マラソンを始めたのですが、これは単なる趣味ではなく、成長の楽しさを体現する一つの方法なのです。仕事以外の場面でも、目標を持って努力し、成長していく姿を見せることで、社員にも同じような意識を持ってもらいたいと思っています。
結局のところ、私たちが大切にしているのは「成長を楽しむ」という姿勢です。仕事でも人生でも、成長を楽しむことが一番大切だと思っています。適切な負荷の中で成長していくことが、最も楽しい人生につながると信じています。この考え方を基に、これからも社員一人ひとりの成長を支援し、会社全体の成長につなげていきたいと考えています。
中古住宅市場の活性化と外国人居住者の受け入れ
SUMiTASは中古マンション・一戸建て・土地を扱っていますが、今後の不動産業界についてどのような状況になるとお考えですか?
不動産業界の未来について、私は大きな変化が訪れると見ています。特に、中古住宅市場の活性化が進むと考えています。これまで日本では、新築住宅への憧れが強かったですよね。でも、経済状況の変化で、注文住宅の購入が難しくなってきています。その代わりに、建売や分譲マンション、そして中古住宅の需要が増えてくると予想しています。
現在、日本には約900万戸の空き家があります。内訳としては、賃貸用約443万戸、売却用32万戸、別荘などの2次利用住宅38万戸、そして未活用の放置空き家が385万戸となっています。つまり、売却用の32万戸の住宅の10倍以上の385万戸の使っていないけど売っていない家として活用されていません。今後、これらの家が徐々に市場に出てくる可能性が高いと見ています。経済的な背景から住宅予算が押さえられ、結果として新築需要が低下する一方で、中古住宅市場がどんどん活性化していくでしょう。今後10年くらいで、マイホーム購入の主流が不動産業者を通じて行われる時代が来ると考えています
この流れの中で、SUMiTASのような不動産売買のプラットフォームの重要性が高まってくるのではないでしょうか。この変化を見据えて、全国的に中古住宅の流通を促進していきたいと考えています。ただ、不動産業界全体で心配なのは家賃の問題です。空き家が多いと家賃が上がりにくく、賃貸管理会社としては厳しい状況になります。家賃が上がらなければ管理料も増えませんからね。一方で、人件費や経費は上がっていくので、売り上げが上がらない中での経営は非常に厳しくなると思います。
最近では外国人居住者も増えてきました。彼らが市場に影響をもたらすことはあるのでしょうか?
はい、空き家問題解決において重要になってくるのが、外国人居住者の受け入れです。少子化対策をしても、すぐには人口増加につながりません。外国人世帯数の増加は即効性があります。賃貸用の空き家数の推移は2013年(429万戸)から2023年(443万戸)の10年間で約14万戸の増加です。それに対して、在留外国人の増加数は2013年(206万人)から2023年(341万人)の10年間で約135万人の増加となっています。つまり、在留外国人の増加が無ければ、賃貸空き家数の増加はさらに進んでいたと予測でき、賃貸市場における外国人の貢献度はとても大きいと言えます。
今後、在留外国人1000万人の時代が来る可能性は十分あり、外国人の受け入れを進めることで、空き家問題の解決と賃貸市場の活性化が同時に図れるのではないかと思っています。
このように、中古住宅市場の活性化、外国人居住者の受け入れ。これらが今後の不動産業界の大きなトレンドになると考えています。我々はこの変化に対応し、新たな価値を創出していきたいと思っています。
地域と全国の双方において「なくてはならない存在」に
今後のアート不動産やSUMiTASをどうしていきたいと考えていますか?大きなビジョンについて教えてください。
今後のアート不動産とSUMiTASについて、私はそれぞれに異なる役割とビジョンを持たせて成長させたいと考えています。アート不動産においては、愛媛の総合不動産業としてさらに地域に密着した深掘りを進めていきたいです。地域社会に根ざし、地元の皆様に信頼される企業であり続けることが目標です。
一方で、SUMiTASに関しては、全国展開を視野に入れ、売買のプラットフォームとしての広がりを強化したいと考えています。
特に、地域ごとに建売商品を作り、それをフランチャイズ加盟店が販売するという形を構築することで、全国的なネットワークを築きたいと思っています。地域ごとに異なるニーズに応じた柔軟な対応が可能になり、全国規模での展開が現実のものとなるでしょう。
さらに、SUMiTASでは建築と売買の融合を進めることで、不動産業界の枠を超えた新たな価値創出を目指しています。生産性の高い、安くて良いデザインの物件を全国的に供給できる体制を構築したいのです。不動産業者が売買に関わる際に、建築のノウハウが不足していることが課題となることが多いですが、私たちは本部としてその部分をサポートし、業界全体の成長を促進していきたいと考えています。
最終的には、アート不動産とSUMiTASの両輪で、地域と全国の双方において「なくてはならない存在」として認知されることが私のビジョンです。この目標に向かって、日々成長し続ける企業を目指していきます。
まとめ
吉田社長のインタビューを通じて、地域と全国の双方に「なくてはならない存在」を目指すという強い信念を感じました。アート不動産とSUMiTASそれぞれに異なるビジョンを持たせ、地域密着型の総合不動産業と全国展開を見据えた売買プラットフォームの構築を目指す姿勢は、これからの不動産業界に新たな価値をもたらすことでしょう。成長を楽しみ、常に前進し続けるその姿勢に、企業の未来と地域社会への貢献に対する強い意志を感じました。
本記事取材のインタビュイー様
株式会社アート不動産 代表取締役
吉田 宏 氏(詳細プロフィール)
株式会社アート不動産 代表取締役
株式会社SUMiTAS 代表取締役
株式会社アセットバンク 代表取締役
公益社団法人 全国賃貸住宅経営者協会連合会 愛媛県中予支部 支部長
■不動産関連保有資格
宅地建物取引士
賃貸不動産経営管理士
測量士補
二級建築施工管理技士
会社紹介
株式会社アート不動産
株式会社アート不動産は、2001年に設立された総合不動産会社です。
愛媛県松山市を拠点に、賃貸仲介事業、賃貸管理事業、売買仲介事業、サブリース事業、ストレージ事業、建設請負業など、多岐にわたる事業を展開しています。同社は、賃貸経営と建築企画の幅広い知識、情報でニーズに合わせたサービス提供で7,000戸の実績を誇ります。
株式会社SUMiTAS
株式会社SUMiTASは「住まいをみたす」をコンセプトに、不動産売買事業と不動産売買フランチャイズを全国に展開しています。幅広いノウハウと最新の不動産IT技術によって、売買取引をより身近に、より手軽に利用できるサービスを提供しています。