不動産業界の業務改善・効率化におすすめの方法を紹介
内閣府の「仕事と生活の調和総括文書2007〜2020」によると、不動産業界における週労働時間が60時間以上の雇用者割合は4.2% という結果でした。この数値は、ほかの業種と比較しても決して低い水準ではありません。
このような労働環境が改善されることにより、人材の定着率もアップするでしょう。この記事では、不動産業界の業務改善や効率化におすすめの方法についてご紹介します。
- 1不動産業界で業務改善におすすめの方法
- 1フレームワークを利用した業務フローの見直し
- 1フレームワークのメリット・デメリット
- 1フレームワークを活用するときのポイント
- 1SNSを活用した効率的な集客
- 1SNSのメリット・デメリット
- 1SNSを活用するときのポイント
- 1DXによる生産性の向上
- 1DXのメリット・デメリット
- 1DXを活用するときのポイント
- 1アウトソーシングによるマンパワーの供給
- 1アウトソーシングのメリット・デメリット
- 1アウトソーシングを活用するときのポイント
- 2不動産業界の改善が期待できる業務一覧
- 2仲介・販売業務
- 2顧客との 打ち合わせ
- 2内見業務
- 2物件の提案・追客業務
- 2物件情報の入稿・登録
- 2顧客情報の登録
- 2管理業務
- 2物件管理業務
- 2契約書作成などの事務処理
- 2報告レポート作成
- 3業務改善の取り組み方・進め方
- 4業務改善を行うために大切なポイント
- 5まとめ
不動産業界で業務改善におすすめの方法
不動産業界で業務改善におすすめの方法は以下の4つです。
- フレームワークを利用した業務フローの見直し
- SNSを活用した効率的な集客
- DXによる生産性の向上
- アウトソーシングによるマンパワーの供給
具体的な方法やメリット・デメリットを解説しますので、自社の課題に合った方法を検討してみてください。
フレームワークを利用した業務フローの見直し
業務改善を行う際には、現状の課題を明確にした上で課題に対する解決策を考える必要があります。しかし、単に「業務時間を減らすには?」と考えるのでは、効率的だとは言えません。
より論理的かつ効率的に業務改善を行うためにも、フレームワークを利用して現状の課題と解決策を明確にすることをおすすめします。業務改善に役立つフレームワークは以下の4つです。
概要 | どんなときに? | |
ロジックツリー | 課題を分解の木として原因や解決策を発見する手法 | 課題の原因や問題の解決策がわからないとき |
BPMN | 業務プロセスを可視化して、課題を発見する方法 | 部門間をまたぐ場合など、互いの業務プロセスが不明瞭なとき |
ECRS(イクルス) | 業務改善をする箇所を洗い出す手法 | 業務改善をする順番が明確になっていないとき |
KPT | 業務改善の振り返りに役立つ手法 | 業務改善を始め「今後も継続するか、辞めるか、新しい取り組みをするか」で、迷っているとき |
自社の課題が明確になっていない場合は、まずはロジックツリーで課題・原因を明確にする必要があります。また、企業の規模が大きく、複数部門をまたいで業務改善を行う場合には、BPMNを使うと便利でしょう。
すでに改善点が明確になっている場合は、ECRS(イクルス)を用い、どのような順番で改善するか考えてみてください。また、すでに業務改善に着手しているけれど、本当にこの方法で問題ないのか不安な場合は、KPTで振り返ってみるのがおすすめです。
自社が現在どのような状態にあるのかを踏まえて、段階に応じたフレームワークを利用することが大切です。
フレームワークのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
● 課題を可視化できる ● 共有しやすくなる ● 時間の短縮に繋がる |
● あくまでも業務改善のプロセスでしかない ● やって終わりになりがち ● 思考が固まる恐れがある |
フレームワークは課題の特定と対策を導き出したプロセスが明確であることに加え、効率よく業務改善を実施できます。
しかし、フレームワークの作成自体が目的になってしまうと、本来の業務改善に繋がりません。フレームワークはあくまでも課題を明確にするためのツールであり、そこからの解決策については創造性を発揮する必要があります。
フレームワークを活用するときのポイント
フレームワークを活用するときのポイントは、以下の通りです。
- 現場の声を汲み取れるような環境で行う
- 状況に応じて使い分ける
- 時間をかけ過ぎない
フレームワークは現在の課題を明確にするために重要ですが、現場の声(本音)を汲み取れない環境で実施しても意味がありません。上層部の顔色を窺いながらのフレームワークにならないよう、年次で分けるなど活発な意見が出る環境で実施することが大切です。
また、フレームワークで導き出した答えが必ずしも正解とは限りません。実際に業務改善を実施しなければ見えてこない部分もあるため、フレームワークに時間をかけ過ぎないようにしてください。
SNSを活用した効率的な集客
不動産業界の主な集客方法は以下の通りです。
- テレビCM
- 折込チラシ
- 自社ホームページへの掲載
- 不動産ポータルサイトへの掲載
- 住宅展示場・現地販売会
しかし、上記の集客方法は手間や費用がかかるため、すべての不動産会社が実施できるわけではありません。そこで、注目が集まっているのがSNSを活用した集客です。
特徴 | |
X (旧:Twitter) |
拡散力が高いことに加えて、相互のコミュニケーションが取りやすい |
写真や動画で視覚的に訴求できるので、ブランディングにも繋がる | |
TikTok | アルゴリズムで情報が拡散されるので、潜在層にも情報が届く |
YouTube | 1つの動画で多くの情報を伝えられる |
実名登録のSNSであるため、ユーザー同士の親密度が高い | |
LINE | ユーザー数が多いことに加え、メールよりも気軽にやり取りできる |
「自社の認知度を高めたい」「物件の紹介をしたい」など、目的によって利用するべきSNSは異なります。自社に目的に合ったSNSを選んでみてください。
SNSのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
● 無料で集客できる ● 写真や映像などのビジュアル面で印象付けられる ● ユーザーとコミュニケーションが取れる |
● 炎上リスクがある ● 定期的かつ長期的に運用する必要がある ● SNSの媒体によって訴求方法が異なる |
SNSを活用すれば無料で集客できるので、積極的に活用するのが賢明です。利用率も年々上昇しているため、より多くの潜在層にアプローチできるきっかけ作りに繋がります。
ただし、SNSマーケティングはすぐに結果が出るわけではありません。定期的かつ長期的な運用を前提に戦略を考えることが大切です。
SNSを活用するときのポイント
SNSを活用するときのポイントは以下の通りです。
- 競合他社の動向を調査する
- 自社ホームページを充実させる
- ターゲット層の利用者が多いSNSを利用する
SNSを始める際には、何から始めるべきかわからないことも多いのではないでしょうか。そのような場合は、競合他社が利用しているSNS媒体や更新頻度、投稿内容などを調査してみましょう。
また、SNSでの集客は「SNSでの認知→自社ホームページ」の流れが一般的です。自社ホームページの見栄えが悪かったりコンテンツが不足していたりすると、問い合わせに繋がらない恐れがあるため、自社ホームページにも注力する必要があります。
DXによる生産性の向上
生産性の向上にはIT技術の活用が欠かせません。ビッグデータやAI、IoTなどのデジタル技術の導入(DX)によって、さまざまな業務改善が期待できます。
- 契約書類の電子化・オンライン契約
概要:契約書のとじ込みや押印の手間がなくなる・出張契約などが不要になる - オンライン内見
概要:物件を案内する時間を短縮できる、非対面でも営業できる - リアルタイムの物件確認
概要:業者間で物件確認をする際の電話やFAXが不要になる
不動産業界は未だにアナログな手続きが多く残っています。DXで業務を効率化すれば、生産性が大きく向上するでしょう。
DXのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
● コア業務に集中できる ● 人手不足問題が解消する ● 古いシステムから脱却できる |
● DXツールの選定が難しい ● DXに詳しい人材の確保が難しい ● 費用や手間がかかる |
DXによって機械化・自動化できる業務が増えると、社員はコア業務に集中できるようになり、生産性が向上します。また、故障やウイルス感染リスクがある古いシステムから脱却できるため、情報漏えいなどのリスクも抑えられるでしょう。
ただし、DX人材の確保や新システムへの移行には費用や手間がかかるため、注意が必要です。
DXを活用するときのポイント
DXを活用するときのポイントは以下の通りです。
- まずは小さく始めてみる
- 社内全体で方針を固める
- DXの勉強会などを開催する
不動産会社でDXを導入する際には、まずは小さく始めてみることが大切です。例えば、社内資料の一部を電子化するなどです。
不動産は動く金額が大きいビジネスモデルであるため、急に大きな変更を行うと対応が間に合わず顧客に迷惑がかかったり、大きなトラブルに繋がったりする懸念があります。まずは小さく始めて、徐々に範囲を広げていきましょう。
アウトソーシングによるマンパワーの供給
不動産業界は離職率が高い ため、人手不足が叫ばれています。この点については、社員を雇うのではなく業務をアウトソーシングすることで人手不足を補うのも一つの方法です。
- ノンコア業務のアウトソーシング
概要:経理や給与計算、事務作業など - 専門性の高い業務のアウトソーシング
概要:折込チラシのデザイン作成など - ルーチンワークのアウトソーシング
概要:ポータルサイトに掲載している物件情報の確認や、ポスティングなど
不動産会社の主な業務は営業であるため、営業担当者がより多くの時間を営業に費やせるように仕組みを整える必要があります。
アウトソーシングのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
● 採用よりも短期間で成果が出る ● 採用よりもリスクが小さい ● 営業担当者が営業に集中できる |
● どこまでをアウトソーシングするべきかの判断が難しい ● 社内にノウハウが蓄積されない ● 情報漏えいのリスクがある |
社員を採用する際には、募集や面接、入社時の手続きなど、多くの時間と費用がかかりますが、その後すぐに離職してしまったら採用にかけた費用が回収できません。その点、アウトソーシングはすぐに依頼できることに加え、辞めるか続けるかの判断は発注者側にあります。
ただし、不動産会社は多くの個人情報を扱うため、アウトソージング時の情報漏えいには注意しなければいけません。
アウトソーシングを活用するときのポイント
アウトソーシングを活用するときのポイントは以下の通りです。
- 費用対効果の見込みがあるかを確認する
- 個人情報の取り扱い方法を確認する
- アウトソーシングする業務を絞る
アウトソーシングは人手不足の解消に繋がりますが、コストもかかるため費用対効果が見込めるかどうか精査する必要があります。採用と比べてどの程度の費用がかかるのか、どの程度の成果が見込めるかなどといった点を慎重に比較検討してください。
不動産業界の改善が期待できる業務一覧
不動産業界の業務内容は以下の3つに大別されます。
- 開発:マンションや商業施設などの開発(企画立案)
- 仲介・販売:住宅営業や売買・賃貸仲介
- 管理:マンションやアパートなどの保守・管理
なかでも大きな業務改善が期待できるのは「仲介・販売」と「管理」でしょう。「仲介・販売」は業務内容が多岐にわたり、残業や休日出勤が常態化しています。「管理」も同様に業務内容が多く、物件の数が増えるほど入力ミスなども増える可能性があります。
ここでは、「仲介・販売」「管理」について、改善できる業務内容を詳しくご紹介します。
仲介・販売業務
ここでご紹介する仲介・販売は、顧客から依頼を受けて仲介(売買・賃貸)・販売業務を行う不動産会社を前提にします。開発や自社物件の販売を行う会社とは業種が異なる点に注意してください。
仲介・販売で改善が期待できる業務は以下の通りです。
- 顧客との打ち合わせ
- 内見業務
- 物件の提案業務
- 物件情報の入稿・登録
- 顧客情報の登録
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
顧客との 打ち合わせ
不動産業務では顧客との打ち合わせが数多く発生します。
とくに売買仲介の場合、手続きが煩雑かつ動く金額も大きいので、資料などを提示しながら打ち合わせをするのが一般的です。そのため、アポイントの移動だけで多くの時間を消費してしまいます。結果としてほかの業務が進まず、残業や休日出勤に繋がってしまうケースも少なくありません。
生産性のない移動時間を減らしたい場合は「Zoom」や「VDI(仮想デスクトップ)」の導入がおすすめです。
Zoomであれば非対面でも資料を提示しながらの打ち合わせが可能です。また、VDIを導入すれば、移動時間や隙間時間にオフィスと同じ環境のサーバーにアクセスできます。セキュリティ面も強いので、情報漏えいリスクも抑えられるでしょう。
内見業務
仲介・販売業務で多くの時間を費やすのが内見業務です。
成約に繋げるために内見は欠かせない業務ですが、遠方まで案内したにもかかわらず「イメージと違った」などの理由で、すぐに内見が終わってしまうことも珍しくありません。
そのような事態を避けたい場合には、「Spacely」のオンライン内見がおすすめです。Spacelyであれば、360度写真などを用いてスマホやタブレットから簡単に室内全体を確認できます。実際に内見したい場合も、具体的に検討したい物件に絞って案内できるでしょう。
物件の提案・追客業務
不動産の購入や賃貸は即決するとは限らないため、ほかの物件の提案など追客業務が重要です。
顧客が増えるほど追客業務にかかる時間も増えるため、多くの顧客を抱えている営業担当者ほど負担が重くなってしまいます。
そのような場合は「PropoCloud」や「メールマガジン」などで、追客業務を自動化するのがおすすめです。希望条件に合った物件情報や新着物件情報を一斉送信することで、追客業務の時間短縮、成約率アップに繋がります。
物件情報の入稿・登録
仲介・販売業務では新規物件の販売開始や価格変更、成約などのたびに物件情報を更新しなければいけません。
物件情報が古いままになっていると「おとり広告」と認識されるリスクもあります。しかし、膨大な数の物件情報を日々更新するのは多くの時間がかかってしまうでしょう。
そのような場合は、物件情報を管理・更新できる「不動3之助」や「いえらぶcloud」がおすすめです。
ツールで物件管理を一元化できれば、コア業務に専念できるでしょう。
顧客情報の登録
一度接点を持った顧客を追客して成約するためにも、正確な顧客情報の登録は必須です。しかし、顧客情報の登録には物件情報同様に多くの時間がかかってしまいます。
そこで、顧客情報の登録を簡素化するために、「Salesforce」などの顧客管理システムの導入や、登録作業の外注化がおすすめです。
ツールの導入と外注のどちらがいいかについては顧客数によっても異なるので、自社に規模に合わせて検討してください。
管理業務
管理業務とは、顧客から依頼を受けてマンションやアパートなどの保守管理を行う業務を指します。
管理業務で改善が期待できる業務は以下の通りです。
- 物件管理業務
- 契約書作成などの事務処理
- 報告レポート作成
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
物件管理業務
物件管理業務と一口に言っても、以下のようにさまざまな業務があります。
- 家賃管理
- 滞納督促
- クレーム対応
- 建物・設備の維持修繕
- 原状回復工事の進捗管理
上記の内容を1件ずつエクエルなどで進捗管理をしていると、情報量が増えてミスの原因になりかねません。
物件管理業務を見える化してミスをなくすためには、賃貸管理ソフトの導入がおすすめです。「ESいい物件One」や「賃貸名人」などさまざまなソフトがあるので、比較検討してみてください。
契約書作成などの事務処理
管理業務では、契約書や各種帳票の作成など、数多くの書類を作成する必要がありますが、業務効率化のためにも、それらを一元管理できるようにすることが大切です。ただし、エクセルやワードで帳票を作成すると、内容変更の際に手間がかかってしまいかねません。
そこで、おすすめのシステムが「i-SP/SPCLOUD」です。管理戸数が多い企業でも十分対応できるでしょう。
報告レポート作成
不動産オーナーに対して、建物の点検や原状回復、収支などをまとめた報告レポートを作成するのも重要な管理業務です。
しかし、管理する不動産が多くなるほど、報告レポートの作成に多くの時間がかかってしまいます。報告レポートの作成時間を短縮したい場合はアットホームの「物件の報告」などを活用すると便利です。
見やすくわかりやすいレポートを作成できれば、オーナーの満足度も向上するでしょう。
業務改善の取り組み方・進め方
おすすめの業務改善方法やツールがわかったところで、ここでは業務改善の具体的な取り組み方・進め方について解説します。
社内で業務改善に取り組む際には、以下の流れに沿って進めてみてください。
- フレームワークを利用して業務の全体像・改善点を把握する
何が課題になっているのかを明確にして、社内全体で課題を共有する - なくす業務やまとめる業務、やり方を変える業務を抽出する
明らかになった課題をグループ分けして、優先順位を考える - 具体的な解決策を考えて実行する
各課題に対しての解決策を社内で共有して実行に移す - 振り返り・効果測定を行う
一定期間を経た後に、どのような成果が得られたかを振り返り、検証する
会社の規模が大きいほど時間がかかりますが、まずは小さく始めてみることを意識しましょう。
業務改善を行うために大切なポイント
業務改善を行う際には、以下のようなポイントを意識することが大切です。
- 効率化すべき業務に優先順位をつける
- 数字で計測できる目標を立てる
- 短期的な結果を求めすぎない
フレームワークなどで見つかる業務の改善点は1つとは限りません。しかし、すべてをまとめて改善する訳にはいかないため、複数の改善点が見つかった際には、必ず優先順位を付けて対応しましょう。
業務には直接利益を生むコア業務と、コア業務を支援するノンコア業務があります。利益を生むコア業務を優先するべきという考え方もありますが、一般的に業務効率化の効果が高いのはノンコア業務です。
なぜなら、以下のようなノンコア業務は専門性が低く、定型化しやすいためです。
- 領収や請求書の作成
- 顧客情報や物件情報の登録
- 契約書類のとじ込み・整理
誰が行っても結果が大きく変わらない業務は、業務改善の優先度を高くして対応することをおすすめします。
まとめ
不動産業界は長時間労働が常態化しており、結果として離職率も高くなっていると考えられています。
一昔前までは、人手不足は新規採用で解決するしかありませんでしたが、近年ではIT技術の発展により、業務効率化ツールやSNSの活用で解決できるようになりました。
自社の課題によって対応方法は異なるため、まずはフレームワークなどを利用して自社の課題を明確にする必要があります。その後、明らかになった課題に優先順位をつけて具体的な改善策を考えていきましょう。