長期修繕計画とは|マンションに合わせた適切な計画の立て方と見直し時の注意点
長期修繕計画はマンションを長期的に維持していくために必要な計画です。マンションはそれぞれ環境やどのように利用されているかなどで傷み方や劣化度合いが大きく変わってくるので、各マンションに合わせた独自の長期修繕計画を立てる必要があります。
そこで本記事では、長期修繕計画を立てる際の注意点に加え、もし外部に長期修繕計画の作成依頼をした場合どのくらいの費用が掛かるのかもまとめました。
これから長期修繕計画を作成、もしくは見直しを検討している方はぜひ参考にしてみてください。
長期修繕計画とは
長期修繕計画とは、マンションの大規模修繕や定期点検などの予定を10年、20年と長期的な期間を見据えて作成した計画のことを言います。
長期修繕計画の作成は、マンションの定期的な点検・修繕を通してマンションの寿命の延長・快適な居住環境の確保、そして区分所有者の資産であるマンションの資産価値を維持することを目的としています。そのため、長期修繕計画の作成では概算費用や計画の詳細などを明確にして記録しておく必要があり、その計画を区分所有者全員が確認できるように保管しておかなくてはなりません。
また、長期修繕計画の作成は基本的に国土交通省が提示するガイドラインに基づいて作成をするのが好ましいと言われています。しかし、管理組合でガイドラインに沿って作成をするのが難しい場合は、外部へ委託をするなどしてマンションに適した長期修繕計画を作ってもらう場合もあります。
長期修繕計画はマンションごとに作成
長期修繕計画は各マンションに合わせて最善の計画を立てることで、ベストな効果を得ることができます。そのため、長期修繕計画を作成する際は、修繕・点検を行う対象箇所の耐用年数や外観を美しく保ち続けられる期間などを把握しておくことが重要です。
マンションによって修繕箇所や点検の箇所、面積・耐用年数などは全て異なってくるので、もし組合で長期修繕計画を作成する場合は、他のマンションの計画を参考にすることはあっても『全く同じものを作る』ということはあり得ません。そのため、組合自身で作成した場合は『他と真似しただけになっていないか?』『自身のマンションに適した計画になっているか?』を意識して見直しをする必要があります。
また、耐用年数においてもマンションがある地理や環境によっても大きく変化するので注意しましょう。
長期修繕計画を立てる目的
長期修繕計画はマンションの寿命の延長・快適な住環境の確保のために立てると説明しましたが、その他にも計画を立てる目的があります。それは以下の通りです。
【長期修繕計画を立てる目的】
- 数十年先までにかかると思われる工事や点検の費用を把握して備えるため
- 修繕積立金の設定額の根拠を示すため
- いざ工事の時期になった時にスムーズに取り組めるようにするため
工事をスムーズに進めたり、区分所有者に対する理解を得られるようにするためにも長期修繕計画の作成は必要です。また、これらの目的は建築基準法・マンション管理標準管理規約にも示されています。
修繕積立金と修繕積立基金
実際に立てた長期修繕計画を実施していくには、相当の費用が掛かります。そのため、管理組合は大規模修繕や定期点検に合わせて必要なだけの金額を貯めておくことが必要不可欠です。
そこで、管理組合では修繕や点検の時のためにお金を貯めておく制度として『修繕積立金』と『修繕積立基金』が設定されています。修繕積立金と修繕積立基金には以下のような違いがあります。
【修繕積立金と修繕積立基金の違い】
- 修繕積立金
マンション竣工時から毎月、区分所有者より大規模修繕のために徴収する。
- 修繕積立基金
マンション購入時に、購入者より一時金として修繕費用を一括、もしくは一部まとめて徴収する。
基本は修繕積立金でやりくりするのが一般的ですが、マンションの劣化度合いに応じて想定外の費用がかかってしまう場合があり、そういう時には修繕積立基金から切り崩して補填する場合が多いです。
また、マンションによっては修繕積立基金を多めに設定して、修繕積立金の設定を低くすることで毎月の支払額を減らし、マンション購入者にお得感を感じさせるという方法をとる場合もあります。しかしこの場合、最終的に修繕積立基金が尽きて修繕積立金の見直しが必要になる場合がほとんどなので、その名のとおり長期的な目線の金額設定がキーポイントです。
長期修繕計画の見直し時に積立金も見直す
マンションの経年に伴って大規模修繕の頻度は増えていきます。そのため、マンション建築時に設定した修繕積立金の設定額では賄いきれない時がやってきます。
したがって、長期修繕計画を立てる段階で積立金の設定金額の変更も計画の中に入れておかなくてはなりません。
例えば、長期修繕計画は定期的に見直しをする必要があるので、その際に修繕見積もりを取り、修繕費用を算出して毎月の積立金額を見直すという方法があります。それ以外にも、積立金で間に合わない場合は工事のタイミングに合わせて再度一時金を徴収するのも一つの方法です。
大規模修繕はマンションに住む全員で共有するべき内容なので、全員で話し合い多数決を取って適切な金額を設定しましょう。
長期修繕計画で予定する主な工事箇所と周期
長期修繕計画を立てる上で修繕する箇所と、それらの耐用年数に対する工事周期は把握しておく必要があります。箇所と耐用年数を把握しておくことで、長期修繕計画を立てる際に工事や点検時期を明確にしておくことができるので、積立金の設定や予測が立てやすいです。
工事箇所 | 工事内容 | 周期・耐用年数 |
外壁 | 外壁塗装 | 4~15年 |
防水工事 | 10~15年 | |
タイル交換 | 10~30年 | |
設備部分 | 配管設備 | 20~25年 |
立体駐車場設備 | 15~30年 | |
ガス設備 | 25~30年 | |
エレベーター | 20~30年 |
各箇所に応じて長期修繕計画の工事時期は決定しましょう。特に配管・防水など、水回りに関しては劣化が始まるとそこからの進行はとても早い上に、被害が出てしまった際の費用のかかり方が大きいので注意が必要です。
長期修繕計画を作成する段階で、優先的に工事をする箇所を決めておくのもマンションの環境を維持するためには大切になってきます。
長期修繕計画はガイドラインに基づいて作成
長期修繕計画は国土交通省が定めたガイドラインに沿って作成すると質の高いものが出来上がりやすいです。
ガイドラインに従って作成するのは義務ではありませんが、日本のマンション全体がこれを目安に作成することで、他のマンションから住人が引っ越してきたとしても長期修繕計画の内容を理解しやすくなるメリットもあるので、可能な限りガイドラインを参考に作成することをおすすめします。
ちなみに、ガイドラインでは以下のポイントを意識して作成されています。
- 管理組合が長期修繕計画について理解し、比較検討を容易にするため、作成者ごとに異なっていた様式について「標準的な様式」を初めて策定した。
- 項目漏れによる修繕積立金の不足を防ぐため、標準的な「推定修繕工事項目」を示した。
- 修繕積立金の将来的な引き上げ額の幅を少なくするため、「均等積立方式」により修繕積立金の額を算出することとした。
標準的な様式を定めて計画の内容を理解しやすくすることを意識したり、積立金の額の算出方法を統一したりすることをガイドラインではポイントとしています。
長期修繕計画に上限期間はない
長期修繕計画の真の目的は『マンションで長く快適に暮らし続けることの実現』なので、「何年後まで修繕計画立てたから安心!」とはなりません。そのため、長期修繕計画を立てる際には、『ひとまず20年後までの予定を立て、さらにその先の工事も見据えるのが基本』という意識を持つことが大切です。
長期修繕計画を工事が行われた時や、5年毎・10年毎のように決まった時期によって見直しすることで、長期的な見通しを立てていくことをおすすめします。また、計画の見直しだけでなく積立金の徴収額や一時金の検討なども行えるように、見直し時に見積もりも積極的に取得していくようにすると、より明確な計画が立てられるでしょう。
長期修繕計画は5年ごとに見直しをするのがおすすめ
長期修繕計画は、基本10〜20年単位で計画を立てます。しかしそうはいっても、耐震制度の改訂や急な修繕工事といった想定外の事態は多々起きてしまうので、その都度計画の見直しは必要です。
つまり、急な事態にも柔軟に対応できるように計画の見直しは5年ごとに行うのがおすすめです。5年ごとに行えば、役員の入れ替えがあっても計画の引き継ぎがしやすいメリットがあり、多人数で計画の情報を共有しやすくなります。
また、5年で見直しをおすすめする理由として、耐用年数が最短で4年のものがあることが挙げられます。例えば、外壁塗装では塗装の種類にもよりますが最短で4年のものがあるので、耐用年数の短いものにも対応した計画が立てられるという意味で『5年ごとの見直し』を本記事では推奨します(5年ごとの見直しが正しいわけではありません)。
専門家に依頼して長期修繕計画を作成
長期修繕計画は役員会で作成することもできますが、マンション管理士のような専門家に作成を依頼するという方法もあります。
依頼するメリットとしては、長期修繕計画の作成をしてもらえるのはもちろん、会計のチェックやコンサルティングなど計画作成以外の部分でもサポートの依頼もできます。さらに、マンション管理士のように管理業界で最前線に立つ人々は、修繕に関する知識なども最新情報をインプットしているので、時代にマッチした長期修繕計画を作成してもらうことが可能です。
金額の幅は大きいですが、約35万~100万円ほどの依頼料がかかります。建物診断などを行うなどして精密になればなるほど費用は高額になります。マンション維持のためとはいえ安い金額ではないので、役員会や総会などでしっかり話し合ってから依頼するか検討したほうがいいでしょう。
マンション管理士とは
長期修繕計画を依頼する相手としてご紹介した『マンション管理士』ですが、計画の作成や見直しだけでなく、管理組合に対する様々なサービスを行っています。何をしている専門家なのか本記事で少しだけ解説しますので、参考にしてみてください。
マンション管理士とは、マンションの維持・管理官するコンサルティングを行う専門家のことを言います。管理会社から派遣されてくる管理員とはまた別で、マンション管理士は個人で請け負っていたり、マンション管理士事務所から派遣されてきたりします。
そのため、「業務委託している管理会社に全て任せっきりなのは少し不安」と考えている管理組合には、マンション管理士へも依頼するのがおすすめです。
【マンション管理士の主な業務】
- 管理組合の総会や理事会の運営サポート
- 管理費・修繕積立金のチェック
- 管理会社の選定および変更
- 管理規約の作成・見直し
- 長期修繕計画の作成・見直し
- 修繕工事に伴うコンサルティング会社、施工会社の選定
- マンション内のトラブル解決
- 防犯・防災に対する指導
マンションの環境を維持するためにも、マンション管理士の業務を把握して依頼できるところは積極的に依頼することをおすすめします。
また、マンション管理の重要性を解説している記事もありますので、気になる方は下記の記事をチェックしてみてください。
関連記事:マンション管理適正化法とは|施行の背景からマンション管理の重要性を知る
長期修繕計画の見直しを外部に委託した場合の相場
長期修繕計画を外部に依頼する場合、『管理会社に依頼』か『マンション管理士に依頼』のどちらかから選択することになります。
そこで、以下では管理会社に長期修繕計画の作成・見直しを依頼した場合とマンション管理士に依頼した場合の2通りをまとめたので参考にしてください。
管理会社に依頼した場合 | マンション管理士に依頼した場合 |
新規作成:約10万~20万円
見直し:約10万円 |
新規作成:約60万~100万円
※月額契約の場合は月訳5万円で作成までしてくれる場合が多い。 見直し:約25万円 |
できるだけ安く抑えたい場合はマンション管理士と顧問契約を結んで毎月数万円支払う形の方が、作成・見直し意外にもサポートを受けることができるのでおすすめです。また、管理会社・マンション管理士ともに見直しを依頼した場合、建物診断なども取り入れてより精密に作成を行うほど費用が高くなるので、どのくらいの精密度合いで依頼したいのかよく相談してから依頼するようにしましょう。
長期修繕計画を見直す際の注意点
長期修繕計画の見直しを外部に依頼すると、1回数十万円と費用がかかるので管理組合自ら見直しをするところもあります。
費用面を考えれば組合自らが見直しをするのが理想ですが、専門的な知識が浅い人しかいない状態で見直しを実施してしまうと、どうしても不備や至らぬ点が出てきてしまうものです。そこで、本記事では組合自ら見直しをするにしても最低限注意しておくべきポイントをまとめたので参考にしてください。
【長期修繕計画見直し時の注意点】
- 計画通りに進まないことが多い
- 増額を先送りにしない
- 修繕積立基金と修繕積立金の金額は要チェック
計画通りにいかないことはもちろんのこと、積立金の不足などにも柔軟に対応していかなくてはならないので、長期修繕計画を立てる以上、計画見直し以降に問題が起きないような見直しをしましょう。
計画通りに進まない場合が多い
長期修繕計画の中で『5年後に大規模修繕』と予定されていても、それ通りに従って実行する必要はありません。
劣化度合いによって修繕を前倒しする場合もあれば、予定時期に建物診断をしたところ修繕の必要はなく先延ばしでも問題ない場合もあります。そのため、長期修繕計画を見直す場合、修繕の先送りに関しては問題ありませんが、前倒しになった場合想定していた費用が早くに必要になることを想定して作成することが重要です。
なので、最低でも予定より2年は前倒しになる可能性も含めて修繕積立金の設定や一時金の徴収を検討した方がいいでしょう。
増額を先送りにしない
長期修繕計画の見直しをした際に、計画に対して費用が不足する可能性があった場合は修繕積立金の増額の検討が必要です。
しかし増額の検討を行った時、積立金の増額となると住民の賛同を得にくいので、本当に不足するまで先送りにしてしまうこともあり得ます。これでは、本当に必要な時に十分な金額を確保することができず、必要な修繕を十分に受けられない可能性が高くなります。
したがって、計画の見直しをした際に、費用が不足する計算が出た場合はすぐに増額のための決議を取り、実行に移すようにしましょう。
修繕積立基金と修繕積立金の金額は要チェック
修繕積立基金とはマンション購入時に徴収するお金で、徴収した分はマンションの積立に加えられます。一般的に修繕積立基金は修繕積立金を低く抑えるために徴収される場合がほとんどです。
しかし、この方法だと1回目の大規模修繕の費用は賄えても2回目、3回目となるにつれて修繕積立金が足りなくなってしまいます。なので、定期的に一時金としてまとまった修繕費を徴収したり、修繕積立金の額を増額したりと、金額が不足しないように注意しておくことが重要です。
まとめ
長期修繕計画は『マンションの価値』や『住人の快適なマンションライフ』を維持するために必要なものです。また、長期修繕計画を作成する際に他のマンションの計画を真似して作ることはなく、自身のマンションの環境・状態に合わせて作成しなくてはなりません。
しかし、各マンションに合わせた計画を立てるにしても専門的な知識がないと、ベストな計画を立てるのはなかなか難しいです。そのため、長期修繕計画の新規作成・見直しはマンション管理士や管理会社といった専門家に依頼するのがおすすめです。
もし、組合自ら作成する場合は積立金が不足してしまうような計画を立てないように気をつけましょう。