原状回復特約とは|特約を機能させるために必要な3つの要項と4つの基準
原状回復特約は、貸し出した物件を原状回復する際にオーナー側が負担する額を少しでも減らすために必ず記載しておきたい契約内容です。原状回復特約の記載の方法次第では、特約が認められずに内容が有効とされない場合があります。そうならないためにも、特約が認められるための「3つの要項」と「4つの基準」を知り、それをもとに記載することが重要です。
本記事では、原状回復特約について詳しく解説するとともに、特約を有効なものとするためのポイントを説明しているので特約作成の際にぜひ参考にしてみてください。
原状回復特約とは
原状回復特約とは、賃貸契約を結ぶ際に使用する契約書に『原状回復における貸主と借主双方の負担割合』を記載した内容のことをいいます。
基本的に原状回復における費用の負担については、『経年による劣化の回復については貸主負担』『故意・不注意によって破損したものは借主負担』とされています。しかし、貸主・借主双方の合意のもとであればこれらの負担について、一部割合を変更(特約を記載)した契約書で取り交わすことが可能です。
つまり、経年による劣化(畳の日焼け跡・洗濯機の設置跡など)だとしても、契約書に明確な負担割合を記載する特約を盛り込めば、借主にも負担してもらうことができます。
原状回復とは
原状回復とは、賃貸物件の賃貸借契約が終了して借主が退去する際に、借りていた部屋を賃貸契約時の状態に戻すことを言います。
ただし、『賃貸契約時の状態に戻す』と言っても、実際のところ借主が寸分違わず元に戻すことはできないので、貸主が原状回復を行いその負担額を借主に請求するケースが多いです。その際に、借主の負担範囲はどこまでなのかを、民法では『通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化による部分は借主が原状回復義務を負わない』と定めています。
特約が認められるための3つの要項
双方合意のもと特約記載の契約書が取り交わされたとしても、前提として『借主は不動産契約において情報力・交渉力が弱い立場』とされています。
そのため、一方的な契約内容にならないように『特約が有効と認められるための3つの要項』があり、それらを満たした特約のみ有効とされます。
- 特約の必要性があり、暴利的でない客観的・合理的な理由があること
- 賃借人が特約によって原状回復義務を超えた義務を負うことを認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表明をしていること
以上の3つの要項を満たしていない場合は『消費者契約法』に則って無効の扱いとなります。
つまり、借主が一方的に不利な負担割合ではない、且つ借主がその特約について理解していることが有効な特約にするためには必要です。
特約が有効かどうかを判断する4つの基準
『特約が有効と認められるための3つの要項』は特約が有効であるための条件として提示されたものですが、対象の特約においてこれら3つの要項が満たされているのかどうかを判断する基準が無ければ作成が難しいです。
そこで、3つの要項が満たされているかを判断するための基準として以下の4つがあります。
- 負担範囲の明確度
- 負担額が予測可能かの可視化
- 借主の『義務以上の負担』であることについての認識
- 負担度合いが正当なものか
特約をこれから作成、もしくは既存の特約がある場合は上記4つの基準を満たせているかどうかを確認しなくてはなりません。もし、既存の特約で満たされていない可能性がある場合はすぐに見直しを行って、見直し以降の契約で特約を有効なものにする必要があります。
参考記事:退去時の原状回復費用は貸主・借主どっちが払う?相場や起きやすいトラブルと対策も紹介
負担範囲の明確度
借主が負担する範囲が具体的に明示されているか確認することが必要です。例えば、『経年劣化に関する原状回復費用は借主が負担する』だけでは抽象的な内容となってしまうので、有効な特約と認められません。
具体的に示すのであれば以下のように記載します。
- ハウスクリーニングにかかる費用は借主負担とする
- 襖の張り替えは借主負担とする
- 畳の日焼けによる表替えは借主負担とする
どの部分を借主負担とするのか明確にして記載することが重要です。
負担額が予測可能かの可視化
借主が負担する金額は、賃貸契約時にわかる内容になっているか確認することが必要です。
例えば、『負担範囲の明確度』で示した3点を取り上げた場合、以下のように記載します。
- ハウスクリーニングにかかる費用は借主負担とする。尚、費用は一律10,000円とする。
- 襖の張り替えは借主負担とする尚、費用は一律20,000円とする。
- 畳の日焼けによる表替えは借主負担とする尚、費用は一律30,000円とする。
『いくら負担するか』が明確になっていないと、情報力・交渉力が弱い立場の借主にとって不利な条件となってしまいます。そのため、最初の契約時に具体的な金額を説明しなくてはいけません。
借主の『義務以上の負担』であることについての認識
特約の記載は借主が負担する必要のないものである場合がほとんどです。そのため、契約時に貸主は借主に対して『通常の原状回復義務以上の負担を負う』ことについて認識をしておいてもらう必要があります。
なぜなら、『ハウスクリーニング費=30,000円』と記載があったとしても、そもそも借主が『ハウスクリーニング=本来は原則貸主負担』であることを知らなければ、特約が借主にとって不利な契約内容であることを認識できないからです。
つまり、借主が通常以上の負担をして不利な契約内容であることを認知してもらい、対等な情報下で契約を結ばなくてはなりません。
負担度合いが正当なものか
負担額が予測可能であることを特約に記載する旨を説明しましたが、仮に記載したとしても相場とかけ離れた暴利的な金額の場合は有効な特約として認められません。
また、相場の費用は借主にとってはインターネット以外で調べる方法は難しく、最新の情報かどうかを確かめる術がないことを貸主は認識しておかなくてはいけません。もし、ハウスクリーニングの費用についての根拠を借主に聞かれたら、ハウスクリーニング費用の見積もりを出すなど目安となる資料を提示して情報を開示しなくてはならない場合があります。
特約で記載する負担内容の例と相場
特約で記載する内容は相場に準じた金額の必要があります。以下は、特約において記載されることの多い原状回復内容の例とその箇所に対する相場となっています。
原状回復内容 | 相場 |
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ハウスクリーニング |
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畳張替費用 |
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襖張替費用 |
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クロス貼替費用 |
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クッションフロア(CF)貼替費等 |
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カーペット貼替費用 |
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フローリング貼替費用 |
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幅木(はばき)の交換費用 (壁下部の保護を目的として、床面に接する壁の下部に取り付ける部材のこと) |
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窓・サッシ・網戸・窓枠の交換費用 |
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特約を作成する際は表を参考にする、もしくは施工会社に直接見積もり依頼をするなどして適切な費用を記載するようにしましょう。
まとめ
原状回復特約は『借主が本来負担する義務のない箇所の負担割合』を示した契約内容のことをいいます。そのため、特約の内容は借主にとって不利なものであることを前提に、特約が有効なものとして認められるための『3つの要項』を満たした内容を記載することが必要です。
また、3つの要項が満たされているかどうかは以下の4つの基準をもとに判断されます。
- 負担範囲の明確度
- 負担額が予測可能かの可視化
- 借主の『義務以上の負担』であることについての認識
- 負担度合いが正当なものか
特約の内容を作成する場合は、これら4つの判断基準のもと、適切な相場と合わせて明確に記載するようにしましょう。
この記事のポイント
- 賃貸契約を結ぶ際に使用する契約書に『原状回復における貸主と借主双方の負担割合』を記載した内容が「原状回復特約」
- 特約が認められるためには「3つの要項」がある
- 3つの要項が満たされているかを判断するための基準として4つある
以上の内容をおさえつつ、借主・貸主のお互いがトラブルにならないよう慎重に進めていきたいですね。
貸主に変わって物件を管理する不動産管理会社にとっても、「業者さんアプリ for原状回復」を上手く活用して、原状回復に係る業務負担を減らしていきましょう。「業者さんアプリ for原状回復」について気になる方は、下記の特設サイトかCONTACTからお気軽にお問い合わせください。