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取材記事Interview

【専門家インタビュー】吉田純一様|DXの専門家が紐解く、これからの不動産ビジネスの突破口。

吉田純一様

近年デジタル化の気運が高まり、DXが進みつつある不動産業界。今回は、株式会社野村総合研究所・NRIデジタル株式会社のプロデューサーとして不動産業界の変革を先導する吉田純一様に、業界におけるDXの現状やこれからについてリモートにてお話を伺いました。

目次

    さまざまなスペシャリストが、DXをサポート。

    Q.まずは、吉田様が御社でDX推進に関わるようになった経緯をお聞かせください。

    Q.まずは、吉田様が御社でDX推進に関わるようになった経緯をお聞かせください。

    私は元々「株式会社野村総合研究所(NRI)」に所属しており、不動産ポータルサイト・大手不動産デベロッパーなど不動産業界のITコンサルティングを、10年以上前から担当していました。

    そんな中、だんだんと従来のIT化の範囲を超えて「仕事の仕方を大きく変えたい」「新たなビジネスモデルを創りたい」など、いわゆる“DX”に関わるご相談を受ける案件が増えていきたのです。全案件の中でDX案件の占める割合が高まるにつれ、社内でもDX案件があると私に声が掛かるようになっていきました。

    そんな経緯から、今から2年ほど前にNRIデジタル株式会社へ異動。現在は、主に不動産業界のDX支援に携わっています。

    Q.御社の業務業態についてお聞かせください。

    .御社の業務業態についてお聞かせください 引用元:NRIデジタル株式会社

    野村総合研究所(NRI)との対比で説明すると、まずNRIは「コンサルティング」「システム」という2本柱で事業展開しています。コンサルティング、システムともに部署が細かく分かれており、各部署にそれぞれのエキスパートが在籍しているようなイメージです。

    対してNRIデジタルは、DXを追求するためにNRIが組織した会社。コンサル・システム・マーケターなど、さまざまなエキスパートが職種を超えて一つのチームを編成しています。チーム一体となり顧客のDXを支援しつつ、NRI自体のDXも推進しているのです。

    Q.具体的には、どのように不動産DXを支援されているのですか?

    具体的には、どのように不動産DXを支援されているのですか? 引用元:NRIデジタル株式会社

    NRIではDXを「DX1.0」「DX2.0」の2つに定義しており、それぞれサポートの仕方は異なります。

    まず「DX1.0」は、“ビジネスモデルはそのままに仕事のやり方を変える”こと。この中でも、次の2つに分けられます。

    • 顧客向け活動のデジタル化・・・物件そのもの、または接客のデジタル化
    • 企業内活動のデジタル化・・・社内業務や管理のデジタル化

    これに対して「DX2.0」は、“ビジネスモデルそのものを変える”こと。賃貸管理業で言うと、「賃料を得る」だけではないビジネスモデルに置き換える=利益の生み出し方を変えていくといったイメージがわかりやすいかもしれません。 この「DX1.0」において我々が行うことは、例えば以下が多いですね。また、賃貸では賃料予測などもサポートしていきます。

    • 不動産の広告効果を最大化するためのデジタルマーケティング
    • オフィスビルのセンサーから取得した“データ”の、新たな活用方法のご提案

    そして「DX2.0」においては、クライアントと議論を重ねながら新たなビジネスモデルを企画し、プラットフォームを構築します。中には、クライアントとの共同事業会社を設立・運営するようなプロジェクトもあります。

    住宅戸数の減少を見据え、「ユーザーと長く深く付き合えるサービス」へ。

    Q.昨今の「住宅業界」のトレンドをお聞かせください。

    NRIでは毎年、国内住宅市場の見通しを発表していますが、“新築住宅の着工戸数”は、この先10年で3分の2にまで減ってしまうことがわかっています。人口が減少する=需要が減るわけですからね。

    そこで、中には海外での事業拡大を図っている不動産会社もありますが、多くの会社は、以下のように「ユーザーと長く深く付き合えるサービス」への切り替えを見据えているというのが、近年の住宅市場の大きなトレンドでした。

    • 次の入居先も自社物件に誘導する
    • 自社物件の居住者に“不動産以外のさまざまなサービス”を提供する

    そんな中で昨年からコロナ禍に入り、また新たな動きが出てきたわけです。

    Q. 具体的にはどのような”新しい動き”でしょうか?

    リモートワークが一般化したことで、住宅へのニーズが「立地(通勤のしやすさ)」から「リモートワークのしやすさ」「ネット回線の速さ」といったように変化してきました。要は、“家の中のサービスの位置づけ”が変わってきたと。 また、都心から地方への移住や、複数の拠点で暮らす「多     拠点生活」を実現できる人も増えてきました。つまり、“住み方”も変わってきたのです。

    実は、コロナ以前から「出社は不要になるだろう」と言われていたので、これらの動き自体は予測されていました。ただし、コロナの影響により5年10年前倒しで実現されたような状況です。ここからまた、不動産業界に新たなビジネスが生まれてくるのではないでしょうか。

    不動産は「サービスのプラットフォーム」に。

    Q. 御社や吉田様が目指す「理想のDX」をお聞かせください。

    御社や吉田様が目指す「理想のDX」をお聞かせください。

    NRIは、不動産DXを非常に大きなテーマとして捉えています。 目指したい姿としては、まず住宅・オフィス・街などの「不動産」を、「サービスを提供するためのプラットフォーム(土台)」だと見なしましょうと。その上で、小売りや物流などの他業界も巻き込みながら、新たなサービスを創る。そして、これにより獲得した新たなデータをもとに、さらに新たなビジネスを創出する。こんな世界観を構築したいと考えています。

    これを住宅領域で説明すると、これまでは住宅自体が売買・賃貸の対象でしたが、今後住宅は「生活を売る・買う」ための場所になるというわけです。 例えば、以下が考えられます。

    • マンション内にシェアオフィスを作る→「テレワーク環境」を売る
    • マンション内にお弁当や野菜等が買える「自販機」を作る→「食事」を売る

    これらが実現すれば、不動産会社は住宅以外のサービスからも利益を得られ、マーケット規模が拡大するわけです。住宅戸数は増えなくても、不動産業界は大きな成長を遂げられる可能性が広がります住まいのプラットフォームについての表 引用元:NRIデジタル株式会社

    そして、“住宅の価値基準”も変わっていくはずです。 従来、住宅の価値は「駅からの距離」「間取り」「周辺環境」などで決まっていました。

    しかし、例えば住宅に「キックボード」のような移動ツールが付いていれば、駅から多少遠くても気にならなくなる。また、倉庫に荷物を預けられる「クラウドストレージ」サービスが家賃に含まれていれば、クローゼットが狭くても問題ないわけです。

    そう考えると、これまで高い賃料が取れなかった物件でも、サービスを付帯して家賃を上乗せできるというケースも想定されます。そして、このようなビジネスが普及すれば住宅の相場自体が変わる可能性もあると。こういった“可能性”を考えると、非常に面白いですよね。

    Q. 「生活を売る」サービスは、すでに国内で提供されているのですか?

    少しずつ、提供され始めてきています。例えば、「クラウドストレージ」サービスは、賃貸マンションとセットで提供する取り組みが一部スタートしています。また、最近建築中のマンションだと部屋の中にテレワークスペースがあったり、共用部にコワーキングスペースがあったりと物件の作りが変わってきています

    それから、まだ実証実験レベルではありますがタクシーサービス付きの住宅もありますし、アプリで注文した生鮮食品をマンション内のロッカーに配達してもらえるサービスなどもコロナ禍で大きな注目を集めました。

    このようなサービスを家賃に含めて提供している不動産会社は、まだ多くはありません。ただし、一つひとつのサービスが実際どの程度使われているのか、どのくらいの対価を支払ってもらえるのか、という部分は徐々にクリアになってきています。

    今後は、これらのサービスをまるごとパッケージにして提供する不動産会社なども増えてくるのではないでしょうか。

    「スマートホーム」がもたらすメリットとは。

    Q.新たなビジネスモデルが生まれつつある一方で、業界全体でいうと「IT化・DX化の遅れ」も課題として挙げられています。これについてはどうお考えですか?

    「スマートホーム」がもたらすメリットとは。

    不動産業界のIT化の遅れは長年指摘されてきましたが、これはある意味仕方のないことだと思います。不動産業界は基本的にそこまで多くのデータを扱う必要がなかったので、ITがなくても困らなかったのです。

    例えば小売業の場合、年間何百万件もの取引があり、膨大な量のデータを扱っています。これに対して不動産業界は、どんなに多くても年間何万件のオーダーに収まるため、エクセルで契約者をすべて管理できる状況です。

    また、一つの取引には数週間から数ヶ月かかる、つまり比較的緩やかに物事が進んでいくため手作業でも問題なかった。紙の処理が大変という課題はあったかもしれませんが、大変なりになんとか回せていた。そういうボリュームの業界だったからこそ、なかなか変わらなかったのです。

    ただし近年は、入居者様やオーナー様のほうが変わってきた。そのため、やり取りはIT化せざるを得なくなり、さらに業界内の世代交代も進み、今ようやく「我々も変わらなくては」という空気が流れ始めてきたのだと思います。

    会社の規模によって普及率の違いが出てくるとは思いますが、全体的な動きとしてはこのままIT化・DX化が進むのではないでしょうか。ユーザーの満足度はもちろん、収益の向上も図れますから。

    Q.今後、各社どのようにDXへ向き合えば良いのでしょうか。

    「既存ビジネスをより良くしよう」というのはどこの会社も大前提だと思いますから、「DX1.0」においては基本的に取り組まない選択肢はないですよね。

    特に企業内活動のデジタル化は、自社の課題を特定した上で解決できるツールを導入するだけと、非常にシンプルです。一方で「顧客向け活動のデジタル化」は、変えるべきか否か意見が分かれるところですし、やや慎重になる会社もいるでしょう。ここは、選択肢をしっかりと整理しながら進めていく必要がありますね。

    「DX2.0」に関しては、前向きな会社が増えてきてはいるものの、「うちはまだその段階ではない」という会社もまだまだ少なくありません。ここは無理に進めるものでもありませんから、自社の状況を踏まえながら着実にステップを踏んでいただければ良いのではないでしょうか。

    Q.賃貸管理会社がDX化を進める上で、重要なポイントはありますか?

    「スマートホーム」がもたらすメリットとは。

    一つ挙げると、「スマートホームの捉え方」が非常に重要だと考えています。

    “スマートホーム”と聞くと、スマートフォンで解錠する・お風呂を沸かすなど、入居者向けの便利機能として捉えられることが多いですよね。しかし、実はこのようなセンサー付きの住宅設備機器すなわちIoT技術があるということは、管理側からすると「機器の故障が把握できる」「普段の使われ方がわかる」=故障の予測ができるのです。つまり、設備点検の頻度を減らすこともできるようになります。 そう考えると、スマートホームは管理側にとっても売上・支出の両方にメリットがあるわけです。

    • 入居者の利便性が高まる→賃料を上げられる
    • 設備点検の頻度が減る→管理コストを下げられる

    管理会社には、このような側面に期待した上での投資が求められてくるのではないでしょうか。

    不動産業界とテック業界は、「競争」も「共創」も必要。

    Q. 「不動産テック」と「他業界のテック」の関係性についてお聞かせください。

    不動産テックは、実は他業界のテックとの繋がりが結構あります。

    例えば、「不動産フィンテック」と呼ばれるローン・保険・査定などの領域は、基本的にはフィンテック(金融×テクノロジー)の世界とほぼ同じ。また、賃貸売買の領域はHRテック(人材×テクノロジー)とよく似ています。どちらも基本的に、“商材を提供したい人・欲しい人を市場でマッチングさせる”ビジネスなので、同じアルゴリズムを使っているのです。

    また、チャットボットやAR・VRはリテールテック(小売り×テクノロジー)と繋がっています。リテールテックの取り組みが、不動産テックを先行している状況ですね。

    このように、「不動産テック」は不動産業界独自の領域ではあるものの、実は採用されている技術・サービスに関してはすでに他業界で活用されていたケースも多いのです。 不動産業界とテック業界は、「競争」も「協働」も必要。 引用元:NRIデジタル株式会社

    一方で、他業界のテックと“協創”することは、決して簡単ではありません。

    例えば、マンションの共用部に“食料”を買える自販機を置きたい場合、食品衛生上の観点や保健所への届け出など、“小売業界のルール”に沿って動く必要があります。これを不動産業界が自力で勉強するのは、非常に大変です。

    しかし、小売業界の力を借りるにしても、どの企業とどの程度手を組むべきかという問題が出てくる。他業界との協創を実現できている不動産会社・不動産テック企業がまだ多くないのは、このようなハードルがあるからです。

    とはいえ、新たなビジネスモデルを構築するには上手く工夫しながら乗り越えるしかないので、ここは各社に突き付けられている課題かな、と思います。

    Q.他業界との協創で言うと、「データ連携」も課題に挙げられそうですね。

    そうですね。データ連携も重要な考え方ですが難しいと言いますか、ややこしい部分があるのが正直なところだと思います。この課題には、いくつかの側面があるのです。

    まず一つは、制度や手続きの問題。例えば「個人情報」については、不動産会社が“不動産事業”のためにもらった個人情報を、勝手に他業界の企業へ渡すことはできません。そのため、再度許諾を取らねばならないわけです。

    加えて、仕組み的な問題もあります。現状、データ連携をするにあたり“共通のルール”等が定められていません。そのため、まず「どんなデータをどのようなフォーマットで渡せば良いか」から詰めなければならない。

    それでも、大きなトレンドとして「データを連携させ、サービスをまとめて提供すべき」という流れにはなっています。今後は恐らく、他業界とのやり取りを重ねるうちに連携方法が何パターンか確立され、やがて収斂(しゅうれん)されていくのではないでしょうか。

    5年10年という長いスパンで見れば、「基本はこれで間違いない」という連携方法が出てくる可能性は高いかなと思います。

    Q.今後は、どんな不動産テックの登場を期待されていますか?

    不動産業界とテック業界は、「競争」も「協働」も必要。

    いち居住者として言うと、特に今は家で過ごす時間が増えていますから、“家の中で快適に過ごせるサービス”が充実して欲しいですね。理想は「ルームサービス」のようなイメージでしょうか。例えば、家のすぐ目の前の宅配ボックスでクリーニングの依頼や発送ができる。さらに、この宅配ボックスは冷蔵機能付きで食品も入れておけるとか。

    このように、自分はほぼ動かなくても自分に合ったサービスが受けられれば良いですよね。これはまさに、先ほどお話した“不動産DXで目指したい世界観”のコンセプトにフィットします。こうしたサービスを不動産業界と他業界がうまく連携して提供できるようになれば、居住者はとても快適に暮らせるはずです。

    あとは、居住者が得られる“情報”もさらに増えると良いなと。例えば、家の中のサイズです。現在、家具を買う際は居住者があらゆる場所のサイズを測っています。何千万と出して家を買ったのに、なぜこんな大変な思いをしているのだろう…という不満は、多くのユーザーが感じるところだと思うのです。このような設計段階の情報も、テクノロジーの力によって居住者まで届くようになることを期待しています。

    Q.不動産テック企業は、これからどんな役割を担っていくべきでしょうか?

    不動産会社と不動産テック企業がそれぞれの強みを活かし、ともに“新たな不動産業界”を創り上げていく。これがテック企業の担う役割であり、期待されていることだと思います。他業界の歴史を振り返るとわかりやすいかもしれません。

    例えば「フィンテック」の場合、当初の担い手は金融業界以外のスタートアップであり、金融機関は参入していなかったのです。その結果、ほとんどのフィンテック企業は大きなインパクトを残すことなく消えてしまいました。

    そして次に起こったのが、金融機関とスタートアップが協力し合う流れ。金融機関が金融の知識を、スタートアップが新たな体験・機能を提供し、それらが混ざり合って大きな成長を遂げたました

    不動産業界も、同じことが言えるのかな、と。不動産テックのスタートアップは数多くありますが、不動産業以外の方々が立ち上げたところが大半だと思います。これらの企業が単独で突き進むと、いざサービスを適用した時に不動産ならではの商慣習などがハードルとなり、乗り越えられない可能性が高い。テクノロジーと本業の泥臭さが融合した時に初めて、もう一段大きな変化が起きるのではないでしょうか。

    もちろん不動産業界とテック業界が戦う部分もあっていい。“競争”と“協創”の両方が必要なのだろうなという気がします。

    サポーターだけではなくプレイヤーとしても、不動産DXの可能性に挑戦。

    Q.今後の展望をお聞かせください。

    今後もお客様に伴走しながらDXを支援し、時代を拓くビジネスモデル・新たな価値をともに創り続けていきたいと思います。

    冒頭でもお話したとおり、我々は“NRIのDX2.0推進”というミッションも背負っています。ですから、本日お話したさまざまなビジネスモデルに関しても、コンサルタントとしてお客様にご提案させていただくと同時に、可能性を見出せたところは我々自身も挑戦していくつもりです。

    まだ具体的にお話できない部分も多いのですが…これまで以上に、もう一歩踏み込んだ形で不動産業界の進化に寄与していきたいですね。

    まとめ

    「これからの住宅は、生活を売るプラットフォームになる」。DXのスペシャリストが語る不動産業界の未来は、自社の行く末を考え、“ビジネスをデザイン”するための大きな指針となりそうです。

     

    本記事取材のインタビュイー様

    吉田純一氏
    NRIデジタル株式会社 プロデューサー
    2002年、野村総合研究所入社。2019年よりNRIデジタル参画。
    不動産業界を中心に、広く産業全般にわたる企業の情報システムに関わるコンサルティングやシステム開発プロジェクトに従事。
    近年は、デジタルマーケティングのほか、
    AI・IoTなどの新技術を活用したクライアント企業のデジタル変革を推進している。

     

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