日本の空き家問題の現状と解決する対策を紹介|空き家を生かして不動産会社ができること
日本全国で空き家は増加傾向にあり、放置された空き家が問題視されるようになりました。空き家を放置していると、劣化が進み活用も売却も難しくなります。その地域の賃貸ニーズを維持するためにも、不動産活用のプロとして空き家の利用方法を模索し、オーナーに提案してみましょう。
日本で起きている空き家問題とは
日本では中古住宅に比べて新築が好まれる傾向が高く、それが続いてきたことで、近年になり全国各地で空き家が増加してきました。
人口が減少傾向にある地方では、一度空き家になった住宅は次の住み手が見つかりにくく、都心部に比べてより空き家の問題が深刻です。総務省の発表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、直近5年では約6割の自治体で空き家率が上昇していました。
空き家とは
空き家とは住む人や使う人がいなくなった建物を指します。国土交通省の定義によると、1年以上誰も住んでいない、もしくは使われていない住宅が空き家です。判断基準として人の出入りの有無や電気・ガス・水道の使用状況、住民票の有無、管理状態、利用実績などが用いられます。
空き家問題の現状
人が住んでいない空き家は空気の出入りや配管の流れがなくなるため、劣化しやすいという特徴があります。そのまま放置していると、周囲に悪影響を及ぼすものも少なくありません。
空き家の種類と割合
空き家はその建物の建てられた目的等によって、大きく次の4つに分類されます。これらの中でも、今後特に利用する目的のない「その他の住宅」の空き家が問題視されています。
空き家の種類 | 概要と割合 |
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賃貸用住宅 | 賃貸用の物件のうち、借り手が見つからずに空室になっているものです。賃貸市場でも日本では新築が好まれる傾向が高いため、過剰傾向になりやすく、「平成30年住宅・土地統計調査」によると空き家全体の半数以上にあたる約50.7%がこの賃貸用住宅です。 |
売却用住宅 | 買い手がつく前で、空き家状態になっている売却用物件です。空き家全体のうち、約3.7%を占めます。 |
二次的住宅 | いわゆる別荘や、職場の近くや田舎に所有するセカンドハウスのような、普段は人が住んでいない住宅です。空き家全体の約4.4%にあたります。 |
その他の住宅 | それ以外の住宅で、住んでいた人が入院したり施設に入所したり亡くなったりといったさまざまな理由でその場所を離れ、住む人がいなくなった住宅のことです。空き家全体の約41.2%を占めます。 |
空き家が生じる原因
空き家が生じる原因は実にさまざまです。主に次のような要因で空き家が生まれるといわれており、それぞれに対策が求められています。
少子高齢化
空き家は住む人がいなくなった家なので、人口が減れば必然的に増加します。さらに日本は高齢化率が高く、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は28.7%。年齢が上がると、入院したり施設に入居したりして持ち家に住まない人が増えてくることもあり、少子高齢化が進むと空き家の増加に繋がります。
相続問題の発生
親元を離れて別に世帯を構えている人は、親が住んでいた住宅を相続してもなかなか引っ越してまでそこに住みません。しかも子供のころの思い出があったり、親の思い出があったりすると解体したり売ることに抵抗があり、そのまま目的なく空き家のまま放置してしまいがちです。
相続から時間が経つと被相続人がどんどんと増えていき、解体や売却の難易度がより上がるので、早めの対処が必要です。
固定資産税対策のため
固定資産税には、宅地に対する優遇措置があります。建物を解体して更地にするとその優遇措置の対象外となり、毎年の固定資産税や都市計画税が上がってしまうため、税負担を少なくしようと空き家のまま放置する人も少なくありません。
特に住宅1戸あたり200平米までの敷地は「小規模住宅用地の減税の特例」の対象となり、固定資産税の課税標準は6分の1に、都市計画税の課税標準は3分の1に軽減されます。200平米を超える部分も一般住宅用地として、固定資産税の課税標準は3分の1に、都市計画税の課税標準は3分の2にそれぞれ軽減されます。
解体費用などの捻出ができない
空き家を所有していて使用する目的がなく、取り壊したいものの、解体費用がなかなか捻出できないというケースもあります。
例えば1戸建て住宅を解体する場合、木造でも一般的に1坪あたり3~5万円程度の解体費用がかかります。つまり標準的な35坪程度の木造住宅でも、解体には通常100万円以上かかるということです。地域や建物の構造、周辺環境(道幅が狭く解体重機が入れないなど)によっては、200万円、300万円かかるケースも珍しくありません。
空き家の増加対策として、解体費用を補助する独自制度を設けている自治体もあるのでチェックしてみてください。
世帯数の増加以上に新築住宅数の増加
日本では新築住宅が好まれる傾向が高く、「新築信仰」などという言葉もあるほどです。新築住宅を建てたり・購入する人が多く、余ってしまった中古住宅が空き家となって増えているという現状があります。
中古住宅では劣化の状態がわからず、どの程度の修繕が必要になるかわからないとの不安から、新築住宅購入に踏み切る人も少なくありません。政府ではその対策として、新築住宅だけでなく中古住宅の性能も公的に証明できる「住宅性能表示制度」を導入。良質な住宅ストック形成を目指しています。
空き家が抱えるリスク
空き家を放置すると、次のようなリスクが生じるといわれています。
周辺地域への悪影響
自分の家の隣に荒れ果てた空き家があって、気持ちがいいという人はいないはずです。荒れた建物は朽ちて建材などが落ちてくる可能性がありますし、景観も損ないます。害虫や害獣の住みかとなり、衛生面での悪影響を与えるケースも少なくありません。
犯罪の温床となる
「空き家なら誰にも叱られない」という理由でゴミを放置する人がいたり、犯罪者や柄の悪い人間がたまり場として利用したりするケースもあります。過去には空き家の中で、勝手に大麻草が栽培されていたという事例もありました。放火のリスクにもつながります。また、勝手に入った場合、不法侵入(住宅侵入罪)にあたり、懲役3年以下または10万円以下の罰金に処されることがあります。
住宅の価値が下がる
空き家のままにしていると、建物の傷みはどんどん進みます。早い段階で売りに出していれば買い手がついたはずの建物が、解体という選択肢しか選べなくなるのはもったいないですね。
災害時に倒壊の恐れ
メンテナンスされていない建物は構造も徐々に傷んでいくので、地震に弱くなります。それまで大丈夫だったとしても、次の地震で倒壊してしまうかもしれません。周囲に人がいて、ケガをさせてしまえば賠償責任も生じます。
機会損失
空き家は重要な資産の一つです。少し整えれば飲食や小売りなどの商売に利用したり、住んだり、人に貸したりすることで収益が得られるかもしれません。しかし放置していれば劣化が進み、固定資産税や都市計画税などの維持費だけがかさんでいきます。
政府による空き家問題対策
増加する空き家への対策として、政府は行政が一定の措置をとることを可能とする通称「空き家対策特別措置法(正式には空家等対策の推進に関する特別措置法)」を制定。2015年2月26日に施行されました。
国土交通省の空家等対策特別措置法とは
空き家対策特別措置法は、自治体が管理不足と思われる空き家を調査し、問題がある場合は「特定空家等」として指定するための制度です。さらに所有者に管理に関する助言や指導をしたり、改善の勧告や命令を出したり、それでも改善が難しい場合は行政代執行によって解体したりもできるようになりました。
これまでは、周囲に悪影響空き家を行政が解体するなどの措置を取ろうと思っても、所有者の同意が得られなければ手出しできなかったためです。特定空き家の指定を受ければ、固定資産税や都市計画税の宅地に対する特例も受けられなくなる恐れがあります。
「平成30年住宅・土地統計調査」によると、この法律の施行以後も空き家の増加傾向は継続しています。2018年の空き家率は全国で13.6%。空き家数は800万戸を超えています。その一方で「腐朽・破損がある空き家」は、戸建て住宅でも共同住宅でもそれまでの増加傾向から、減少に転じました。
特定空家とは
空き家対策特別措置法では、空き家の中でも周囲に被害を及ぼす恐れがあり、放置しておくことが不適切な状態のものを「特定空き家」と定義しています。主に次のようなものが特定空き家にあたります。
- 倒壊など著しく保安上危険となる恐れがある
- 著しく衛生上有害となる恐れがある
- 適切な管理がされていないことによって著しく景観を損なっている
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である
自治体・民間による空き家問題対策
空き家問題に頭を痛めているのは政府だけではありません。各自治体や民間でも空き家対策特別措置法制定後の流れを受け、空き家の適切な管理や利用に繋がる動きが広がっています。
空き家バンク
空き家バンクとは、全国の自治体が運営している空き家の物件情報を提供する仕組みです。Webサイトや移住相談窓口を通じて情報を提供することで、移住や交流人口の増加につなげています。グリーンツーリズムなどを併用し、移住者の地域への定着をサポートする自治体もあります。
空き家管理サービス
各種民間団体や企業の中にも、空き家管理サービスを提供するところが多数出てきました。所有者が自分で管理ができない空き家の管理業務を受託するサービスです。通気や通水、周囲の清掃などの管理業務を提供します。
空き家を放置していて特定空き家の指定を受けるとデメリットが大きいため、一定のニーズがあります。
空き家を生かして不動産管理会社ができること
管理エリアに空き家がある場合、次のようなビジネスにつなげられる可能性があります。いずれも不動産管理会社のノウハウを生かせる内容なので、検討してみましょう。
住居者を探し居住用として貸し出す
住居の所有者を探して同意を得られれば、居住用の賃貸住宅として貸し出せる可能性があります。一戸建て住宅には一定のニーズがあるため、家賃設定を工夫すれば入居者が見つかる可能性は高まるはずです。
シェアハウス・シェアリングスペースとして貸し出す
一戸建て住宅なら複数の人が住むシェアハウスや、ビジネスオフィスや教室として貸し出すシェアスペースとしても使えるかもしれません。同じスペースで、通常の賃貸住宅より高い収入が得られる可能性があります。
リフォーム・リノベーションの提案
リフォームやリノベーションをすれば、所有者が自分で住んだり賃貸住宅として利用したりと選択肢が広がります。素人ではどこから手を付けたらいいかわからない場合も多いので、用途とリフォームの具体的な内容を合わせて提案してみましょう。
民泊にするなどの提案
住む予定がないなら、一戸貸しの民泊にするという手もあります。2021年3月現在、新型コロナウイルスの影響で海外観光客は減っていますが、国内旅行の需要はありますし、いずれ感染の影響が落ち着けば海外観光客のニーズも高まるはずです。年間営業日数の上限や届け出など、法律上の規制をしっかりと確認してチャレンジしましょう。
物件販売の提案
物件活用の提案をしても所有者が乗り気にならない場合は、売却を提案してみましょう。
空き家を放置していると劣化が進むばかりで、資産価値はどんどん低下していきますし、年数が経つと相続で権利者が増え、売却の難易度も上がっていきます。空き家は今が一番新しいので、今が売り時と考えてください。
「一戸建て住宅として販売」「古家付き土地として販売」「解体して更地として販売」などの選択肢があります。エリアごとに物件に対するニーズも変わってくるはずなので、最適な販売形態を提案してみましょう。
空き家問題はオーナーだけでなく管理会社にとっても解決すべき問題
「空き家はオーナーの問題だろう」「管理会社は関係ない」と考えるのは間違いです。空き家の活用方法を提案し、地域に活気を取り戻すよう努力しましょう。
荒れた空き家がたくさんあるエリアは地域全体の印象が下がっていき、入居希望者が見つかりにくくなっていきます。いくら賃料を安めに設定しても、治安が悪いと思われればなかなか借り手はつきません。空室が続けば不動産投資家はそのエリアから撤退していき、管理会社の収益も出にくくなります。
空き家が少なく活気があるエリアなら、入居者を募集すれば借り手がつきやすくなります。賃料を安くしなくても借り手がつきやすいので、管理会社も空き家問題を他人事と考えず、解決に向けて動きましょう。
空き家を活用・空き家にしないためにも不動産テックの活用が必須
空き家をうまく活用するためには、地域の特性に応じた用途を設定し、それに向けて物件をカスタマイズするなどの動きが必要です。内外装の改修や水回り設備の整備、間取りや導線の見直しは、素人だけではなかなかできません。
不動産管理会社は普段から賃貸物件の原状回復工事に携わり、リフォームやリノベーション工事に関わる機会も多くあります。地域ごとの特性やニーズも把握しやすいのではないでしょうか。「ビジネス街に近いので飲食店に」「利便性が高く落ち着いているので賃貸住宅として」「若い世代が増えてきたのでコワーキングスペースに」など、ニーズを見極めてそれに合わせた工事内容を提案してみましょう。
不動産管理会社様向けオーナーアプリ「GMO賃貸DX」を活用すれば、メッセージや月次収支報告などの機能を通してオーナーとの密なコミュニケーションが可能になります。それまで不動産運用経験がない空き家所有者も、そうしたサポート機能があれば安心して賃貸経営に乗り出せるかもしれません。
まとめ
日本全国で増加傾向にある空き家。放置していると劣化が進み、資産価値がどんどん低下していきます。空き家の所有者に不動産活用のプロとしてそうした背景を伝え、協力して空き家を「負の遺産」から「大きなビジネスチャンス」に変えていってみてはいかがでしょうか。