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【専門家インタビュー】巻口成憲様|AIが切り拓く、不動産市場の未来

昨今、あらゆる業界で導入が進む「AI」は、不動産市場においても高い注目を集めています。今回お話を伺ったのは、不動産テックの中心人物であり、“不動産AI査定”サービスを提供しているリーウェイズ株式会社の代表取締役社長CEO巻口成憲様。GMO ReTech エバンジェリストの後田が、不動産業界の課題やAIの可能性などについてお聞きしました。

目次

多彩な経験を糧に、現在の道へ。

Q. まずは自己紹介をお願いします。

私は、不動産テック企業リーウェイズ株式会社の代表取締役社長CEOであると同時に、一般社団法人不動産テック協会の代表理事も務めています。

私のキャリアは結構特殊です。社会人としてのスタートは、住み込みの新聞配達からだったのです。その後、投資マンションデベロッパーの経理に転職。業務効率化のため自力で会社の基幹システムを構築し、そのシステム構築の腕が評価されて外資コンサルに転職。そして経営知識を強化するため、仕事と並行して大学院に通いMBAを取得…と、さまざまな業界で経験を積み重ねてきました。

現在のビジネスの柱となる「AI」に出会ったのは、デベロッパーの元上司に誘われて不動産ベンチャーを立ち上げたときです。私はその会社にCFO(最高財務責任者)として参画してリノベーション事業を展開していましたが、起業直後にリーマンショックが発生し経営が悪化。そこで、営業面を強化するため、2010年に早稲田の大学院に入学し金融工学を学びました。その時「AI」についても学ぶ機会があり、「これは良いビジネスになりそうだ」と確信したのです。

Q. どんなビジネスに使えると思われたのですか?

まず「リノベーションによる経済効果を可視化できるのでは?」と考えました。従来、“リノベーションに掛かるコスト”はわかるものの、“リノベーションにより何円賃料が上がるか”は未知数でした。しかし、ビッグデータとAIをうまく使えば、ある程度正確な賃料を分析できるはずだと。  

また、当時アメリカでは「Zillow」などのデータを活用した不動産テック企業が盛り上がっており、「この流れは日本にも来る」と感じていました。そこで私は、ベンチャーを続けながらも、ひとまず自分でビッグデータを集めようと思い、クローラーを開発したのです。  

そして2014年、参画していたベンチャー企業の事業がようやく軌道に乗り「自分の役目は終わったかな」と感じた私は、持ち株を処分し、満を持してリーウェイズを設立しました。  

「客観的で正しい分析・査定」により透明性が高まれば、市場は拡大する。

Q. 御社は「不動産市場は高度な情報分析技術が要求される」と謳われていますが、この理由を教えてください。

そもそも不動産事業者は、物件情報はもちろん、不動産を買いたい人・売りたい人などのさまざまな情報を繋げる“情報流通業者”です。そう考えると、ビジネスの要である“情報”の分析技術は欠かせません。  

なお、不動産事業者のキャリアを考える上でも、情報分析技術は重要です。今の不動産業界は、他業界でも役立つ専門スキルを身に着ける機会がほぼないため、キャリアチェンジをしようと思っても選択肢が非常に少ない。しかし、情報分析技術を身に着けておけば、不動産コンサルタントやデータアナリストなども選択肢に入れられます。つまりキャリアの幅が大きく広がるのです。  

Q.“不動産事業者は、情報流通業者”。面白い視点ですね。

ただ、“情報”が日本の不動産業界の課題にも繋がってきます。従来から不動産業界、特に売買の領域においては、有利にビジネスを展開するために「情報は隠す」のが常識でした。この不透明さが、消費者の不信感を煽り、不動産業者の信用を落としていると言われています。  

以前、私はデベロッパーで経理のほか電話営業もしていたのですが、電話口で「この仕事恥ずかしくないの?」と言われた経験があります。不動産業は生活の基盤を支える“インフラ産業”なのに、こんなことを言われてしまうのが実情なわけです。  

一方、アメリカの不動産事業者は「医者・弁護士・不動産エージェントが友達だと良い人生を送れる」と言われるほど、消費者から高い信頼を得ています。MLS(アメリカ版レインズ)の存在により消費者との情報格差がないので、不動産事業者は“情報”ではなく“消費者へのサービス”を売りにしているからです。  

日本の不動産業界も、まずは“情報を隠した方が儲かる”という構造を変える必要があると思っています。  

Q.透明性を高めることで、消費者からの信用度が上がるのですね。

はい。さらに不動産市場の拡大にも繋がります。  

これは、他業界の歴史を見ても明らかです。たとえば、中古車業界・証券業界は、昔はいずれも情報格差が大きく、非常にグレーな業界だとされていました。しかし、ネット上で売買可能になり透明性が向上し、誰でも安心して取引できるようになった結果、中古車業界のマーケットは10年間で約3倍に、証券業界は約6倍に拡大しています。  

現在、日本の不動産資産は2,600兆円あるのにもかかわらず、取引量は年間わずか40兆円。つまり、それだけ市場拡大の余地が大きいのです。これは、逆に大きなチャンスだと言えるのではないでしょうか。  

Q. どうすれば透明性が高まるのでしょうか?

最も大切なのは、まず“プロが客観的に正しく不動産の分析・査定を行える環境”を作ること。そうすれば結果的に、ウソやごまかしのない「透明性の高いマーケット」が形成されるはずです。  

現在、投資不動産の査定指標となるものは非常に少なく、以下の2つだけです。  

  • 価格=今いくらか
  • 表面利回り=今どのくらいの収益が取れているか

査定結果は人によって差が出ます。また、指標は“今”を示すものばかりであり、本当に必要な「将来いくらキャッシュを生むか(不動産の価値)」は、営業の「私を信じてください!」という言葉で補われているのが実情です。つまり、正しい分析・査定ができているとはいえません。  

まずはここを将来の収益性も含めたさまざまな観点から、誰もが同じ目線で分析・査定できるよう改善していく必要があります。  

Q. まさに、高い情報分析技術が不動産業者に求められるわけですね。

そうですね、ただこの場合の「プロ」は不動産事業者に限られるわけではありません。不動産に関わるすべてのプロ、特に金融機関は要となります。不動産業界は、常に"資金供給元”である金融機関の動きを注視しているもの。金融機関が正しく公平な分析・査定を行うようになれば、不動産会社も後に続くでしょう。  

なお、これは透明性の実現だけではなく、中古物件の流通の活性化にも繋がります。これまで耐用年数”を超えた中古物件は資産価値ゼロだと見なされていましたが、金融機関が中古物件の“収益性”を正確に分析・査定できるようになれば、中古物件への融資が増えますからね。  

実は、このようにプロが客観的に正しく不動産の分析・査定を行える環境」を実現するのが、弊社のサービス「Gate.」なのです。  

50年先までの収益性がわかる、「Gate.」のAI査定。

Q.御社のサービス「Gate.」について教えてください。

引用元:リーウェイズ株式会社

「Gate.」は、2億件超の不動産ビッグデータを基にAIが不動産査定を行う、SaaS型のクラウドサービスです。

「Gate.」にはパッケージ型とカスタマイズ型があり、パッケージ型は3つから選べます。  

  • Gate. Investment Planner
  • Gate. Market Survey
  • Gate. Office Market Survey

「Gate. Investment Planner」は、ワンクリックで“50年先”までの査定・投資シミュレーションができるサービス。担当者の立場や力量に左右されることなく、AIが賃料や空室率の推移・利回り相場・価格などを高精度に査定します。

「Gate. Market Survey」はワンクリックで物件周辺の市場調査ができるサービス。AIが瞬時に人口の統計情報・賃料相場・3年先までの建築情報・ハザード情報などを導き出します。  

そして「Gate. Office Market Survey」は、「Gate. Market Survey」のオフィス版。オフィス物件に特化して、ワンクリックで坪数ごとの賃料相場・業種ごとの就業者数などを調査できます。  

Q.カスタマイズ型は、どう活用できるのですか?

カスタマイズ型には、次の2種類あります。  

  • 「Gate. API」
  • 「Gate. UI」

「Gate. API」は、Gate.の中から必要な機能だけを選んで導入していただけるサービス。そして「Gate. UI」は、Gate.で導き出したデータのグラフ・表をそのままの形で自社ホームページに掲載可能なサービスです。  

なお、「Gate.」はまだ完成形ではありません。この夏には査定の全国対応が可能になりますし、ゆくゆくはオフィスの分析・査定にも対応する予定です。SaaS型システムは、いつでも最新版の機能を使えるのが魅力。今後も、システムの改修には注力していきます。

Q.「Gate.」の精度や、導入事例をお聞かせください。

GMO ReTech株式会社 エバンジェリスト 後田博幸

賃料・売却価格のエラー率でいうと、人間による査定は大体7~10%であるのに対し、「Gate.」のAIは4.8%。つまり、人間による査定よりもはるかに高精度なんです。  

というのも「Gate.」の査定は、景気変動も加味されています。リーマンショック直後の2008年から現在に至るまで、つまり景気が悪い時・良い時それぞれのデータを地域・駅ごとに持っているため、あらゆるシナリオでの予測が可能なわけです。  

導入事例では、たとえば客観的かつ高精度な査定により“説得力のある提案”が可能になり、半年間で物件が92戸売れて粗利が3億円上がったという企業様もいらっしゃいます。  

また、「Gate.」を使った新入社員が賃料・利回りの相場観を正しく身に着けられ、1年でほぼ中堅レベル社員並みの仕事ができるようになった、という声も聞きました。このように「Gate.」は、教育ツールとしても使えるんです。  

Q.今後、「Gate.」をどんな方に使っていただきたいですか?

全国各地の不動産業者・金融機関・不動産鑑定士・税理士など、不動産取引に関わるすべての方々です。  

皆さんが「Gate.」を共通基準として情報分析を行えば、よりスムーズな不動産取引が実現されるはず。そして、「Gate.」から派生してCRMツール・電子契約などのシステムも一般化されていくような、いわば“不動産取引のエコシステム”を構築したいと考えています。  

また、不動産事業者でいうと、投資物件だけではなく住宅領域の方にも使っていただければなと。住宅こそ、将来の資産価値を考えて購入すべき時代だからです。  

現在、日本の不動産は800万戸余っている状況下で、年間100万戸ずつ新たに作られ続けています。つまり今後、資産価値を維持できる「勝ち残る不動産」と価値が下がる「負ける不動産」に二極化するわけです。  

そんな中で、たとえば地域密着型の小規模な不動産業者も「Gate.」を使って住宅の資産価値を測れるようになれば、消費者にとって大きなプラスになるでしょう。もちろん、事業者も顧客拡大を図れます。これまでの知見やノウハウを補完するツールとして活用いただきたいですね。  

Q. 賃貸管理業界の方にも、便利に使っていただけそうですね。

そうですね。まず、ワンクリック査定により好機を逃すことなく賃料アップをご提案できるため、オーナー様の利益損失を防げます。また、これは「Gate.」とは別のツールですが「Gate.」を基に開発したCOMPASS社が提供するAI不動産経営シミュレーター「AI SCOPE」を使えば、冒頭でお話した“リノベーションによる経済効果”をオーナーに提示することも可能です。  

まさに、管理業界で昔から叫ばれてきた「PM(賃貸経営管理)からAM(金融資産管理)へ」が実現するわけですね。  

管理会社の方々は、不動産事業者の中で最もオーナー様と接点が多く、長く付き合っていきます。だからこそ、将来的な資産価値を踏まえた提案・営業ができれば、オーナー様にとって非常に良い相談窓口になる。もちろんオーナー様からの厚い信頼を勝ち取れますから、管理会社にとっても大きなプラスになるはずです。  

“いかにコスト削減・効率化するか”だけではなく、このような視点でテクノロジーを活用することも大切ではないでしょうか。  

ようやく、足並みを揃えてデジタル化できる環境に。

Q. 不動産業界の「デジタル化の遅れ」については、どうお考えですか?

遅れているとはいえ、個人的には近年少しずつスピードが上がってきたかなと感じています。  

不動産業界はこれまで、デジタル化の波がきても“イノベーター”(新たな物事を真っ先に取り入れる層)から先には広まらない状況でした。ところが現在は、イノベーターを超えて“アーリーアダプター”(比較的早く取り入れる層)も参入し始めています。  

このように空気が変わってきた要因としては、危機感の違いが挙げられるのではないでしょうか。昔と異なり、昨今は海外のテックサービスが続々と日本に入ってきています。これにより、大手企業を中心に危機感が生まれ、デジタル化に取り組まざるを得なくなった。そして不動産業界は横を見て仕事する業界ですから、デジタル化で成功する企業を見た周りの企業も、少しずつデジタル化を進め始めていると。ただ、「DX化」という点では、まだまだこれからですよね。  

Q. デジタル化が進んだ=DX化が進んだ、とは言えないのでしょうか?

そうですね、デジタル化はあくまでDX化の前提条件。厳密に言うと、デジタル化とDX化には違いがあるのです。簡単に説明すると、次のようになります。  

  • デジタル化(デジタイゼーション)…既存の業務プロセスにデジタル技術を一部取り入れ、効率化やコスト削減を図ること
  • DX化(デジタルトランスフォーメーション)…デジタル技術の活用によりビジネスモデルを変革し、新たな顧客体験や事業価値を創り出すこと

  不動産業界は、「FAXや紙をやめよう」とようやくデジタル化に取り組み始めた段階なので、ここが完了してから初めてDX化に踏み出せるわけです。なお、現在はコロナ禍により、企業が足並みを揃えてデジタル化に取り組みやすい状況。これは、不幸中の幸いなのかもしれません。  

各業界のデータ連携を可能にする、「不動産共通ID」。

Q.不動産テックの可能性については、どうお考えですか?

今後、テック化を実現した企業とそうでない企業の格差が開いていくのは間違いありません。一足早くテック化が進んだアメリカでは、「裕福な不動産エージェントは貧しいエージェントの約6倍テクノロジーに投資している」という統計が出ています。結局、テクノロジーを使ったほうが利益を出せると。当然、これと同じことが日本でも起こるはずです。  

他方で、日本の不動産テックには大きな課題もあります。それは、各不動産会社・テック企業にデータが分散しており、データ連携がしにくいこと。このデータを集約して活用できれば、テック企業はより優れたサービスを生み出せるはずです。   引用元:PR TIMES

そこで、この課題の解決に向け「不動産テック協会」では不動産共通ID という取り組みを進めています。  

Q.「不動産共通ID」とは?

国内にあるすべての不動産に、“共通ID”を付与する取り組みです。このIDを用いることにより、各社で不動産の管理表記などが異なっていても簡単に紐付けられる=各社がもつ不動産情報を連携しやすくなるのです。  

ゆくゆくは、不動産業界・テック業界だけではなく、金融業界や行政などさまざまな業界が不動産共通IDを用いてデータを連携できるようになれば良いですね。そうすれば、周辺情報・取引履歴・ハザードマップ・犯罪情報など、物件調査に必要な情報を一瞬で取得可能にもなります。  

このような世界観の実現が、不動産共通IDの目的であり私が不動産テックに期待していることです。  

周囲との連携を大事にしながら、「不動産マン」を創りたい。

Q.今後の展望をお聞かせください。

弊社は不動産データを扱う“データブローカー”なので、データの精度向上はもちろん、データ収集の環境創りに注力し続けていきます。  

そして、不動産業界に「不動産マン」を創り出したいですね。自らの職業に誇りをもっている人は、「銀行マン」など“マン”をつけて名乗る。一方で不動産事業者は、どこか自虐的に「不動産屋」と名乗ります。これを、データ分析という専門スキルを備えた「不動産マン」という名乗り方へ変えていきたいなと。  

また、将来的には「Gate.」をフランチャイズのように展開することも視野に入れています。「Gate.」を導入された会社様のホームページや名刺に、正しいデータ分析ができる企業の印として、たとえば【Gate.インストラクター】マークを入れていただく。このマーク入りの企業が増えてくると、消費者には「なるべく「Gate.」インストラクターを選ぼう」という意識が働き、その結果企業は「消費者から信頼を得るために『Gate.』を使おう」となる。  

このように、片方が増えるともう片方も増える「マルチサイドプラットフォーム」を構築していきたいと考えています。  

Q.今後「Gate.インストラクター」マークが増えていくのが楽しみです。

ありがとうございます。なお、この先不動産テック市場で生き残るには、「敵を作らずに連携していくこと」が何よりも大事です。テック企業は古い不動産業を壊す“ディストラプター”として捉えられがちですが、そうなると必ず失敗します。自分が長年培ってきたやり方を否定されて、喜ぶ人はいませんから。  

まずは、不動産事業者の文化を尊重する。そしてテック企業同士も手を取り合い、みんなでテクノロジーの世界を構築していく。これが、日本にとっての不動産テックのあるべき姿なのかな、と考えています。  

先ほどお話した「不動産共通ID」の推進を図りながら、“繋がり”を大切に、より俯瞰的・網羅的なテックサービスを生み出していきたいですね。  

まとめ

不動産市場の変革・成長のカギを握る、「AI」。すべての不動産会社でAIが活躍する未来は、そう遠くないのかもしれません。

インタビュアー:GMO ReTech株式会社 エバンジェリスト 後田博幸(写真右)

本記事取材のインタビュイー様

巻口成憲 氏
リーウェイズ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人不動産テック協会 代表理事
日本不動産金融工学会(JAREFE)理事
1971年生まれ。アメリカバージニア州に本社を置く大手コンサルティングファームのベリングポイントに勤務後、立教大学大学院にて経営学、早稲田大学大学院にて不動産金融工学を学び、2014年にリーウェイズ株式会社を設立。代表取締役に就任。
2017年不動産価値分析AIクラウドサービス「Gate.」をリリース。不動産取引の情報の不透明性を解消し、不動産投資の新世紀を創るため、日夜奔走している。
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