<4コツ目>騒音クレームは本人を疑え!?騒音クレームの傾向と対策
今回は騒音クレーム編です。
騒音クレームと一言で言っても、その内容や対応方法は千差万別です。
今回はその分類と解決へのアプローチ、解決のコツについてご紹介します。
騒音クレームの分類
賃貸住宅の管理会社をやっていると様々な騒音クレームが発生します。
まずはこの分類をしてみたいと思います。
(1)音の大小
当然、音が大きいためクレームになるのですが、この大小の基準がやっかいです。
音の大きさについては環境省の「騒音にかかる環境基準」があります。
→ 騒音に係る環境基準について(https://www.env.go.jp/kijun/oto1-1.html)
これによると基準は昼と夜に分かれており、さらに特に静穏を要する地域から商工業のエリアにある住居、また、どういった道路に面しているかまで、エリアごとに分かれています。
ただ、この基準は外部環境を主眼としているため、共同住宅内の隣室の音の大きさを対象としていません。
従って、ここで言う基準値はあくまでも参考と言う事になります。
また、私たちの業界ではマンションのフローリングにおいてL値と言うものがあり、これも「音」と言う側面では割とポピュラーになっています。
これは日本工業規格(JIS)が定めた上階の床で生じる音が下の階でどのくらい聞こえるのかと言う床の遮音性能を表す指標で、騒音と言うより、遮音や防音の性能基準となっており、これも騒音クレームに直接使えるとは言えません。
→ L値ってなに?(https://jafma.gr.jp/flooring/sound/s03/)
結局、騒音クレームの音の大きさの基準については、何ヘルツ以上がダメとか、何デシベルなら良いと言うように、ピッタリしたものが無いと言うのが現状です。
(2)音(声)の種類
騒音クレームは音の大きさだけで発生するものでは無くて、その種類によって、微小な音量でもクレームが来ます。
音の種類で一番分かりやすいものは、隣の部屋の話し声や上の階で走り回る音、また、楽器の演奏音や建物の前の車の騒音なんかは分かりやすいと思います。
ただ、実際に来るクレームはこれだけに限りません。
管理会社に来るクレームとしては、スマホやコンピュータのゲーム音やアラーム(目覚まし時計)の消し忘れ等の機械的な音から、ワンルームの隣に異性を連れ込んだと言うような、声の大きさと言うよりも、感情的なものまで多岐に渡ります。
(3)発生時間と発生頻度
同じ大きさの音でも、昼ではクレームにならなくても、夜中ではクレームになるようなものもあります。
また、一度だけなら許容されたものでも、毎日となるとクレームになるケースもあります。
一番典型的だったのは、コロナ禍での発生状況でした。
この期間は普段、自宅にいない入居者も皆さん自宅にいた(いなければならなかった)ため、騒音クレームも通常の2倍以上になりました。
(4)分類の限界
以上のように、騒音クレームと言っても、簡単に線引きすることは出来ないと言う事が分かって頂いたのではないかと思います。
ただ一つ言えることは、騒音クレームを測定器等で測ってジャッジする定量的な対応で整理できるものでは無く、定性的、あるいは相対的な事案であると言う事です。
つまり、ある人にとっては我慢できないほど、その音(声)が気になって眠れないのに、別の人にとっては取るに足らないレベルだったりする訳です。
騒音クレームの解決へのアプローチ
上記のとおり、分類してみるといかに判断の難しいクレームかと言う事がお分かりいただけるかと思いますが、好奇心の強い私はこれを何とか解決したいと思い、いくつかのアプローチを行ってみました。
(1)予め基準を契約書に入れる
これは入居者との賃貸借契約書に、予めこれ以上は契約違反だと言うレベルを細かく取り決め、そのレベルを超えたら、例え被害者が気にならないと思っても契約違反として、対応する考え方です。
取りあえず、音量を測ろうと騒音測定器を調べたら当時(10年くらい前?)は高価で手が出ませんでした。(今は数千円で販売されているようですが)仕方がないので、無料の騒音計測アプリをダウンロードして、目安としていました。
弁護士にまで相談して、実際に作成にトライしてみましたが、その線引きが非常に難しく、また、物件ごと、部屋ごとに変わってくるので、実現は現実的ではありませんでした。
(2)防音性能を強化する
前に勤めていた管理会社は木造が主体でしたが、建築業もやっていたので、隣室や上下階の騒音について、研究し実際に施工もしました。
結果として、ある程度は改善されますが、完全には音が消えないため、募集図面に防音性能ありとまでは書けなかったのが結果でした。
また、防音壁等の界壁は基本的にその壁の重さが重いほど効果が高くなるため、材料が軽い木造住宅は実現が難しい事が分かりました。
防音以外にも吸音や遮音と言う方法がありましたが、いずれも費用がそれなりにかかるため実現しませんでした。
(3)ノイズキャンセリング
途方に暮れていた時に海外のクラウドファンディングサイトに隣室の音を消す機械が販売される予定がある事を発見しました。
大きめのスマホくらいのサイズで、1万数千円くらいで募っていたので、早速料金を振り込んで半年後の完成を待ちました。
理屈はイヤホンなどでよく見るノイズキャンセリングの技術を利用しているとの事です。
音には波(音波?)があります。ノイズキャンセリングはこの波の反対の波(逆位相)を作り、ぶつける事で音を相殺する技術です。
イヤホンだけなく、交通量の多い道路などで実際に試行されている技術です。
これはすごい発明だと思い、半年後に送られてきた製品で早速試しましたが、まったく効果はありませんでした。
やっぱり1万数千円では騒音は消せませんよね。
ただ、ノイズキャンセリングの技術はどんどん進んでおり、こういった製品も近い未来には実現するのかもしれません。
現実的な対応
前項でいくつかアプローチをしてみましたが、現在のところは、それぞれのクレームに合わせて、人間が対応するしかないのかなと考えています。
(1)前面道路の騒音や建物の設備の音
こういった機械音については、元の音を何とか出来ればいいのですが、そうはいきません。
従って、入居者にご説明してもご納得頂けない場合で、かつこちら側に非があるような場合は、金銭的解決(金銭を使って引越等をして頂くケースを含む)しかないのかなと思います。
機械の騒音について、一点対応が難しいのが聞こえない騒音(大型車が通過した時の振動やモスキート音のような若い人にしか聞こえないような周波数の音)です。
これも結局対応はケースバイケースになりますが、個人差が大きくあるため判定には苦しみます。
(2)隣室の生活音
隣室の生活音は件数としては一番多いケースとなります。
これに関しては、一点、特徴的な傾向があります。
それは、音を出している入居者の問題と言うより、クレームの連絡があった言わば被害者側の入居者が神経質な傾向がある点です。
私の勤めていた賃貸管理会社の管理物件の約9割が木造住宅であったからか、経験では騒音クレームのあったうち、約7割が被害者側に原因がありました。
従って、これを被害者本人に納得して頂くのには少し苦労します。
対応としては、入居者への説明に客観性を担保するため、まず、当事者にご連絡する前に周りを固めます。加害者側も、被害者側もです。
その結果、加害者の周りの入居者の方々が加害者の部屋がうるさいとなれば、加害者に原因があり、被害者の周りの入居者の方々が、被害者からうるさいと言われた事があるとなれば、これは被害者の神経質が過ぎると言う判断になります。
あとは、この客観的な結果を含めて、ご注意申し上げる、あるいは当事者同士で話し合って頂くと言う対応です。
さらに、予め賃貸借契約書に「共同住宅なのである程度の音は受忍して下さい。」のような一文を追加しておけばさらに対応がしやすくなります。
まとめ
今回は騒音クレームについて、考えてみました。
賃貸管理会社へのクレーム連絡で、ゴミのクレームと、騒音クレームと言うのは代表的なクレームですが、その対応についての考え方は基本的に変わらないかと思います。
整理すると、
①法的アプローチ
ここで言う法的アプローチは法律や条例と言うだけではなく、賃貸借契約書等の当事者が取り決めた契約なども含みます。
②物理的アプローチ
今回の騒音クレームで言えば、設備や使用、機材なども関わりますが、IT技術を使った解決などもここに含みます。
③コミュニケーション
ここにはコミュニケーションスキルだけではなく、金銭的解決を含めた最終的に当事者にどうご納得頂くかと言う意味も含めます。
もし、賃貸管理会社の方で、解決に困られていたら、一度、これら3つの方面から解決を模索されてはいかがでしょうか?
以上