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業界全体で挑む!不動産賃貸業界の未来

株式会社S-FITの代表取締役社長であり、賃貸管理リーシング推進事業者協議会の副会長でもある紫原 友規氏の連載、「徹底調査!賃貸仲介の『イマ』」では、賃貸仲介業界の現状と未来をみなさまにお届けいたします。

最終回である第六回目は「業界全体で挑む!不動産賃貸業界の未来」です。連載全体を振り返りつつ、連載の中で語られた未来の賃貸仲介市場の方向性や、不動産賃貸業界全体が直面する課題への取り組み方について、業界関係者が今後取り組むべき具体的な行動についてお話しいただきました。ぜひご一読ください。

目次

    連載の振り返り

    今までの連載で紫原社長の想いや考えを伝えることはできましたでしょうか。

    はい、今回の連載を通じて、不動産賃貸業界の今と未来について、お伝え出来たと思います。未来が明らかになれば、経営をより戦略的に進める手助けになるはずです。今回の連載が、みなさんの判断の一助となれば幸いです。

    その中でも私が一番お伝えしたかったことは、「賃金を引き上げること」です。都市部だけでなく、都市部以外でも人材不足が叫ばれていますが、この問題を解決するためには賃金の引き上げが急務です。しかし、利益を圧迫するため、多くの企業が踏み切れていません。何度もお話していますが、この問題を解決するためには、業務の効率化が不可欠なのです。

    連載では、不動産賃貸業界全体で課題に対して取り組んでいく重要性に関するお話しが多くありましたが、まずは何から業界全体で取り組むべきでしょうか。

    最初に取り組むべきは、第三回目でお話した業務の「標準化」です。これにより、お客様と仲介会社だけでなく、管理会社も時間とコストを大幅に削減することが可能です。「フロント営業」や「物件案内」は各社独自の意向が反映される部分だと思いますが、「申込・契約業務」においては独自性を発揮する必要性はないため、不動産賃貸業界全体で取り組む意義が非常に大きいです。この取り組みは、私が連載を通じて強調してきた業務効率化と密接に関連しており、不動産賃貸業界全体の賃金の引き上げにも寄与するでしょう。

    それぞれの不動産会社が成長するために最初に取り組むべきことは何でしょうか。

    最初に取り組むべきは、第三回目でお話した営業方法の「標準化」です。仮に営業担当が5人いたとして、それぞれの能力に差があるのはごく自然なことです。しかし、お客様に対して一貫したサービスを提供するためには、全員が一定水準以上のパフォーマンスを発揮できるようにする必要があります。

    「標準化」することにより、全ての営業担当が一定水準以上のサービスをお客様に提供できれば、企業としてお客様からの信頼を得られるようになります。これは成果を上げるために極めて重要なことです。

    競争から共創へ

    紫原社長は賃貸管理リーシング推進事業者協議会の副会長も務めています。これまでお話しされてきた不動産賃貸業界全体の課題を解決するために、協議会起ち上げに参画されたのでしょうか。

    リーシング協議会への参加を決意したのは、不動産賃貸業界全体の課題に対して一企業として出来ることには限界があり、不動産賃貸業界としてアプローチすることの重要性を感じたからです。これまでの不動産賃貸業界は慣習として、各社が連携することなく独立して行動していました。ですが、市場の変化が激しくなり、単独では乗り越えられない課題が明らかになってきました。乗り越えるべき課題を解決するためには、普段は競合という関係であっても、連携して問題解決に立ち向かうことが最善策だと感じたのです。

    リーシング協議会の役割について詳しくお聞かせください。

    リーシング協議会の役割を一言で表すならば、「未来の賃貸市場を示すこと」です。この協議会は不動産賃貸事業の将来像を提示し、不動産賃貸業界にどのような変化が起こるかを明確にすることが役目だと考えています。

    リーシング協議会は大手賃貸仲介会社が中心となり、まずは賃貸仲介業がどのように変わっていくかを研究しています。今後は研究を踏まえた改革を実行していきますが、改革が成功すればそれが不動産賃貸業界の「ニュースタンダード」となり、幅広い企業が採用しやすくなると考えています。単独では大きな変化を起こすことが難しい大手企業以外も、改革の流れに乗ることが可能です。リーシング協議会はそのような大規模な改革を推進するために設立されました。

    これにより不動産賃貸業界全体の質が均一に向上し、お客様に対してもより良いサービスを提供できるようになると考えています。リーシング協議会はこうした不動産賃貸業界全体の取り組みを通じて、賃貸市場が直面する様々な課題に効果的に対応し、持続可能な成長を支える基盤を築くために重要な役割を担っていきます。

    リーシング協議会に参画されどのような気付きがありましたか。

    リーシング協議会に参加して得た最も重要な気付きは大きく分けると二つです。一つは賃貸仲介市場における地域間での違いです。特に都市部と都市部以外での仲介業務に対する捉え方の違いが大きいです。リーシング協議会が発足する前に、私たちは全国の賃貸仲介市場の現状を理解するため、幅広いデータを収集しました。このデータ分析を深める中で、都心部の市場規模が非常に大きいことが改めて明らかになり、都市部以外との間に大きな違いが存在することを再確認しました。

    リーシング協議会に参画した後は、様々なエリアの不動産賃貸業界関係者と意見交換をする機会が増えました。その結果、データだけでなくリアルな議論の中でも、都市部と都市部以外で必要とされるサービスや対応策が異なることがはっきりと示され、私たちの取り組むべき課題が地域によって異なることを理解することができました。この気付きは今後の戦略策定において非常に貴重であり、リーシング協議会の活動を通じて地域ごとに最適化されたアプローチを模索し、実行していく必要があると強く感じています。

    もう一つの気付きは大手賃貸仲介会社も安泰ではないとうことです。特に都市部では市場の変化のスピードが非常に速く、その変化のスピードに付いていくだけでもとても大変です。一方で、都市部以外では変化のスピードは比較的安定しているのが現状であるため、様々な課題の深刻度も地域によって変わってきます。

    今後の不動産賃貸業界

    リーシング協議会を通して成し遂げたいことについてお伺いできますか。

    あくまで私の意見になりますが、リーシング協議会で最終的に成し遂げたいことは、不動産賃貸業界全体の効率化を実現することです。具体的には、業務プロセスを見直し、どの作業を省略できるかを全体で検証を行い、実行に移すことです。例えば、物件確認、写真撮影、データ入力など、手間と時間を要する多くのプロセスを削減し、可能な限り自動化を図りたいと考えています。

    このプロセスによって、不動産賃貸業界全体の作業負担が大幅に軽減され、企業間での競争がよりイノベーションとお客様サービスの質に焦点を当てたものに変化することを期待しています。しかし、これは同時に新たな課題を引き起こす可能性があり、企業間での差別化が新しい形で問われることになります。リーシング協議会は、これらの変化に対し、不動産賃貸業界全体がスムーズに順応するよう、サポートすることが重要な使命です。これは簡単な道のりではありませんが、実現できれば不動産賃貸業界全体の新しい未来を形作ることができると信じています。

    そのような世界観が実現されれば、今後の人材に求められるものも変わってきそうです。

    不動産賃貸業界全体が効率化を遂げるにつれて、求められる人材も変化していきます。現在は接客業としての要素が強いため、コミュニケーション能力が高くお客様と直接関わることが得意な人材が主流ですが、今後はテクノロジーを駆使して顧客体験を向上させる能力を持った人材も必要になります。

    具体的にはAIやデータ分析を活用し、顧客体験を迅速かつ高品質に提供できるエンジニアやプロダクトマネージャーも求められるようになるでしょう。データ分析が進むと不動産賃貸業界においても、顧客データを活用したパーソナライズサービスの提供が可能となり、お客様一人ひとりのニーズに合わせた物件提案や効率的な物件管理が実現されるため、技術職の比重が増加することが予想されるのです。

    働き方はどう変わっていくとお考えですか。

    今後の働き方に関しては、賃貸仲介業界では「スマートエージェント」への移行がキーポイントになります。これは、従来の「人手に頼った作業」から「デジタルツールを活用した情報提供」へとシフトしていくことを意味します。そのため、新しい技術やツールを駆使して効率的に業務を行うスキルを身につける必要があります。デジタルツールの導入はただ単に新しい技術を業務に取り入れるだけでなく、それをどのように効果的に活用していくかが重要なのです。この変化に対して、どこまで順応出来るかが賃貸仲介業界で働く人材には求められていきます。

    この変化に対応する過程では摩擦が起きそうですね。

    確かに、変化に対して否定的な意見を持つ方がいるのは事実です。しかし、実際にその効果を実感した場合、多くの人がその価値を認めるようになります。例えば、ある営業担当が月に10件の成約が平均だったところ、効率化を進めた結果、20件の成約を達成できたとします。このような結果が出れば効果は明白ですし、変化に対する抵抗感も自然と薄れていくでしょう。

    実際、変化の初めには新しい方法やツールに慣れるまでの不便さや戸惑いから、一部の方が反発をすることもあります。しかし、テクノロジーを活用した効率的な働き方が日常化するにつれて、「旧来の方法が良かった」と強く主張する人は少数派となります。これはチャットGPTなどのAIツールを使って業務を効率化することが一例です。

    例えば、「AIツールを使わずに、全てを手作業で行う方が質が高い」と感じる人もいるかもしれませんが、実際には時間の節約やミスの削減など、明確なメリットが存在します。変革において重要なのは全員が同じスピードで進むことではなく、変革のメリットを具体的に示し理解を促進することです。また、変革を推進する過程で生じる問題点に対しては、適切なサポートや研修を提供し、新しい環境に適応できるように支援することが必要です。このアプローチにより変革への抵抗感を最小限に抑え、不動産賃貸業界全体の成長を促進することができます。

    まとめ

    不動産賃貸業界は現在、大きな変革期を迎えています。これまでの連載で、私が何度も言及した「不動産賃貸業界全体の賃金を引き上げること」は、質の高い人材を確保し、顧客サービスを向上させるために不可欠なのです。利益を圧迫するという問題を業務効率化でクリアし、不動産賃貸業界としての更なる成長を目指すべき時です。

    また、この難局を乗り切るのに一企業での努力では限界があるというのが現実です。不動産賃貸業界は慣習的に各社が独立して行動してきました。ですが、市場の激しい変化の中では、これまで以上に業界全体で連携し、共通の課題に立ち向かうことの重要性が増しています。不動産賃貸業界全体が一丸となって効率化を推進し、デジタル変革を進めることが、持続可能な成長への鍵となります。

    私たちは新しい技術とアイデアを積極的に取り入れ、不動産賃貸業界の未来を切り開いていく責任があります。連載を通じて提供した知見が皆さんの業務に役立ち、共に成長していけることを心より願っています。

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