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【リーダーインタビュー】紫原 友規様|「賃貸DX」×「業界改革」で未来を創造。賃貸住宅の「ニューエコノミー化」実現に尽力。

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。

今回インタビューを行ったのは、株式会社S-FIT 代表取締役社長であり、賃貸管理リーシング推進事業者協議会副会長も務める紫原友規様です。賃貸仲介を主軸とした「お部屋探しCAFEヘヤギメ!」を展開している同社。「不動産DXで業界を明るく変えていきたい」という強い思いを持つ紫原社長に、賃貸業界の未来像と生産性向上を通じた働きがいのある業界への変革について語っていただきました。

目次

夢を追い求めて福岡から東京へ。不動産業界での起業と怒涛の20代

紫原様のキャリアについて、また不動産業界に携わるようになったきっかけを教えてください。

▲株式会社S-FIT 代表取締役社長 紫原 友規 氏

福岡出身の私は、起業という夢を抱いて上京しました。最初はサラリーマンとして不動産会社に入社し、営業マンとして働いていました。当時は何か起業したいという思いだけがあり、業種は特に決めていませんでしたが、不動産業界での経験を通じてこの分野に面白さを感じるようになりました。

▲株式会社S-FIT

25歳で社内ベンチャーとしてS-FITを立ち上げました。その後の道のりは劇的な展開の連続でした。28歳で上場、31歳でリーマンショックを経験。一時はユニマットグループにS-FITを売却しましたが、再び自分で会社を経営したいという意欲が湧き、33歳の時にMBO(マネジメント・バイアウト)を実施して独立を果たしました。

エスグラントコーポレーション時代には、マンション企画や賃貸だけでなく、不動産の流動化事業として百貨店やショッピングモールの買収・運営にも携わり、さまざまな経験を積みました。こうした多様な経験を経て、現在のS-FITの経営と賃貸管理リーシング推進事業者協議会の活動に取り組んでいます。

現場の課題解決から始まった、業界変革への第一歩

賃貸管理リーシング推進事業者協議会を設立されたきっかけを教えてください。

きっかけは、ある方から「賃貸仲介協会のようなものを作りたい」という相談を受けたことでした。当初は明確な目的があるわけではなく、「業界を良くしたい」という漠然とした想いからのスタートでした。しかし、従来の勉強会や会合のような形式ではなく、実際の課題解決に結びつくような活動が必要だと考え、YouTube配信を通じた情報発信など、新しい形での取り組みが始まりました。

その過程で、業界全体を俯瞰したときに、「このままではいけない」という強い危機感を抱くようになりました。全国を回り、現場の声を直接聞く中で、賃貸業界における様々な課題が浮き彫りになっていったのです。そうした課題を解決し、業界全体の生産性を高め、働く人が輝ける環境をつくる必要がある。その想いが賃貸管理リーシング推進事業者協議会設立の原動力となりました。

また、日本の賃貸住宅の約半分が属する「日管協(編集部註:日本賃貸住宅管理協会)」の枠組みの中で取り組むことで、より多くの賛同者と共に、現実的かつ影響力のある変革ができると判断しました。

具体的にどのような活動をされているのでしょうか?

現在、協議会では主に2つの大きな課題に取り組んでいます。1つ目は「AD(広告料)問題」への対応、そして2つ目が「契約書の統一」です。特に契約書の統一に関しては、業務の生産性向上を強く意識した施策として位置づけており、業界全体での標準化を目指しています。

全国どこの不動産会社でも同じフォーマットを使い、同じ項目で契約書を作成できるようにすることで、契約業務にかかる工数を大幅に削減することができます。チェックや作成の手間がなくなるだけでなく、これからのAI時代にも対応出来るようになります。また、地域性や大家ごとの個別対応ではなく、業界全体として共通フォーマットで動くことで、みんなが理解しやすくなります。

こうした取り組みの根底には、「賃貸業界を明るくし、誰もが働きやすく、正当に報われる業界にしたい」という強い想いがあります。生産性の向上によって人件費に余力を持たせ、業界全体の賃金水準を引き上げることを最終的なビジョンとし、協議会はその実現に向けて具体的なアクションを重ねています。

世の中を良くする、賃貸業界を明るくするという思いはどのようにして生まれたのですか?

協議会の活動を始め、全国の不動産会社を見て回る中で、賃貸業界のさまざまな課題が浮き彫りになっていきました。契約書の煩雑で膨大な業務量や人材不足、そして何よりも「先が見えない業界」であるという閉塞感が強く印象に残りました。業界全体に漂うネガティブな空気を払拭し、明るく前向きな未来を描ける業界にしたいという気持ちが強くなったのです。

また、そうした現場の声に触れる中で、「ひょっとして自分が、最も気づいているのではないか」と感じました。気づいた人間が動くべきだという、シンプルな想いが行動の原動力になっています。

この業界を持続可能で、若い人材が夢を持てる場所に変えていく。それが、今一番やりたいことです。

法人向け仲介に特化し、デジタル化で生産性向上を目指すS-FITの強み

S-FIT様についてお伺いします。貴社の特徴と、他社に対する強みを教えてください。

S-FITの最大の特徴は、仲介がメイン事業であることです。全体の粗利の7割が仲介からの収益になっています。そして、その仲介の7割が法人向けビジネスであることが、特徴的だと思いますね。

現在は仲介事業のデジタル化に力を入れています。まだ本格的な開発というよりは、まず仕事を整理するところから始めていて、そこを今しっかり終わらせたところです。業務を分解して整理することで、より効率的な仕組みを構築していきたいと考えています。

リテール向け、つまり個人向けの仲介サービスについては、正直に言うと他社とそれほど大きな違いはないかもしれません。ただ、先ほど申し上げたように、法人向け仲介の割合が高いというのが当社の大きな特徴です。

社内の教育体制についてお聞かせください。

業務がかなり整理されてきたので、それが教育の軸になっています。これまでは経験で覚えるという面が強かったのですが、今は業務をしっかり分解して、「このミッションをこなしていきなさい」「このタスクをこなしなさい」というように指導しています。そうすると売上が上がるという仕組みです。

評価制度も基本的には売上ベースですが、今後はそれをもう少し細かく分解していく必要があると考えています。店舗ビジネスですから、仲介の売上や契約件数といった数字は非常にわかりやすい指標になります。

目標値としては、全社員平均で年間300契約を目指しています。現状は100本いけるかどうかというレベルですから、3倍の生産性向上を目指しているわけです。1日あたり平均1.5件の契約を獲得していく計算になります。

社内でもデジタル化を徹底的に進めています。業界全体と同じく、S-FITの中でもすべてデジタルに振っていくというのが基本方針です。そのために、マネージャー会議の内容も変えました。去年からは単なる情報共有の場ではなく、研修の場として位置づけています。

というのも、不動産業界の人間はどうしても頭が「不動産」なんです。そこからデジタルの発想に変えていくことが必要なので、課長クラスから全部意識を変えていく取り組みをしています。全国から集まってもらって研修を行い、今後はAIも積極的に活用していく予定です。

不動産業界のDX化について、どのようにお考えですか?

▲左)インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木 明人

不動産業界の中でも、賃貸事業こそが最もDXとの親和性が高い領域だと考えています。売買や開発といった分野は、情報の非対称性や現地確認の必要性が強く残るため、アナログな要素が多く、完全なデジタル化には限界があります。一方で、賃貸業界は人海戦術に依存しやすく、業務が煩雑かつ属人的になりやすい構造です。その分、仕組み化とデジタル化による効率化の余地が大きいと感じています。

現在、賃貸住宅市場は約13兆円規模(*)ですが、この業務を半分の人数で回せるようになれば、生産性は大きく向上し、業界全体の報酬水準を押し上げることにもつながります。
(*)総務省「令和5年住宅・土地統計調査」より算出

賃貸仲介の現場を全国回っていると、仲介の役割は大きく2つあることがわかります。1つは事業として売上を上げること、もう1つは自社のリーシング、つまり客付けです。都市部では売上が第一のミッションですが、地方では客付け、リーシングが主な役割です。

東京を中心とする主要都市、たとえば福岡市内や大阪、札幌の一部では事業として成り立ちますが、他のエリアは基本的に自社の客付けのために仲介店舗があります。仲介店舗があることで他の管理会社との差別化が図れます。自社で管理物件を決めるというのが仲介事業の重要な役割になっています。

賃貸仲介領域の最大の課題は生産性の向上です。たとえばオンライン内見などの取り組みも進めていますが、これも効率よく仕事をするための一環です。特に企業案件では、転勤の方など実際に来られない方も多いので、オンライン内見の需要も高まっています。

今後の賃貸業界の方向性としては、とにかくDX化して生産性を上げ、それにより従業員の賃金を上げて働きやすい環境を作ることに尽きます。すべてそこに集約されます。

「稼げる業界」への転換を目指して。賃貸業界を持続可能なニューエコノミーへ

不動産業界の今後の発展のために、業界全体で取り組んでいくべきこと、方向性などについてどのようにお考えか、お聞かせください。

不動産業界、特に賃貸住宅業界の今後を考えるうえで重要なのは、「稼げる業界」にしていくことだと考えています。人が集まらず、育っても辞めていくという現状の背景には、将来に対する明るい展望が見えにくいという構造的な課題があります。その課題を乗り越えるには、生産性を飛躍的に高め、給与水準を引き上げられる業界にしていく必要があります。

その実現には、業務の標準化とデジタル化が不可欠です。たとえば契約書の統一もその一つで、煩雑な事務作業を減らし、業務を効率化することで、少ない工数でより多くの成果を出せる仕組みをつくることが可能になります。結果として、働く人の待遇改善にもつながっていきます。

また、業界全体が一丸となって変革に取り組むことも重要です。気づいた人、変えられる立場にいる人が率先して行動することで、業界の意識を少しずつ変えていけると信じています。不動産業界を、古い慣習にとらわれたものから、未来に向かって進化する“ニューエコノミー”型の産業へ変革する。そのための取り組みを、これからも続けていきたいと思います。

まとめ

紫原社長との対話を通じて、賃貸業界の将来に対する明確なビジョンと情熱を感じました。「ニューエコノミー化」という言葉に込められた、デジタル化による業界全体の構造改革への強い決意。単なる自社の成長戦略ではなく、業界全体を引き上げようとする姿勢に感銘を受けます。契約書統一などの具体的な取り組みから、働く人の処遇改善まで見据えた長期的展望は、まさに業界リーダーとしての責任感の表れでしょう。S-FITの挑戦が、賃貸業界の明るい未来を切り拓く道標となることを期待しています。

本記事取材のインタビュイー様

株式会社S-FIT
代表取締役社長
紫原 友規 氏

肩書:株式会社S-FIT 代表取締役社長 株式会社S-FITパートナーズ 代表取締役社長
喜飛特不動產股份有限公司 董事長
生年月日:1977年6月27日
年齢:47歳
出身地:福岡県 筑後市

1996年 福岡から東京に上京し、就職
2001年 友人が立ち上げた株式会社エスグラントコーポレーションに合流
2003年 社内ベンチャーとして株式会社S-FIT(当時、有限会社SGリライアンス)を設立
2005年 株式会社エスグラントコーポレーションが名証セントレックス市場に上場。
2009年 リーマンショックにより事業環境は悪化。民事再生法が適用され、上場廃止。その際、株式会社S-FITを売却
2011年  MBOを実施し、株式会社S-FITを買い戻す。株式会社S-FITパートナーズを設立
2014年 喜飛特不動產股份有限公司(台湾)設立
2023年 公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会内の「賃貸管理リーシング推進事業者協議会」副会長に就任
2024年 一般社団法人新しい都市環境を考える会の理事に就任

会社紹介

株式会社S-FIT
https://www.sfit.co.jp/

株式会社S-FIT(エスフィット)は、「お部屋探しCAFEヘヤギメ!」を主軸に賃貸仲介事業を展開する不動産企業です。賃貸仲介件数ランキングでは400社中11位にまで成長しています。法人向け、学生向けなど、専門特化したサービス展開により、業界平均4割弱の成約率に対し、全体で5割以上、法人では9割、学生では7割という高い成約率を実現。賃貸管理やリノベーション事業も手掛け、「不動産市場の課題解決 企業活気ある人財の創造とテクノロジーによるイノベーションにより、不動産市場の課題解決に貢献する」というパーパスのもと、「不動産DX改革」を推進。代表取締役社長の紫原友規氏は賃貸管理リーシング推進事業者協議会の副会長も務め、業界変革に尽力しています。

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