【リーダーインタビュー】水野 達司様|大阪と東京の2本社制で台頭。 黒字経営の背景にあるのは、管理業務に専念すること、従業員を主役にすること。
不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、株式会社エステートトーワの取締役専務である水野 達司様です。「大阪と東京の2本社制」「管理業務に専念するため、基本的に自社物件を所有しない」など独自のスタイルを持つ同社に、創業の経緯や現在の取り組み、社員の育て方、不動産DXにおける課題などについてお話いただきました。
- 1創業メンバーとして立ち上げ時の苦境を乗り切り、4年目から黒字経営へ。
- 1貴社は創業以来、不動産の管理、仲介、売買、建築、コンサルティングなど幅広い事業を手掛けてきました。その中で水野様が歩まれてきたキャリアをお聞かせください。
- 1水野様は「日本賃貸住宅管理協会」(日管協)の大阪支部で副支部長も務めていらっしゃいますね。
- 2従業員を大切にすると、顧客、取引先、地域住民、株主も幸せにする。あくまでも従業員が主役。
- 2貴社の強みをお聞かせください。
- 2どのような企業理念を掲げているのでしょうか?
- 22009年には藤和ハウス賃貸事業部門の管理事業を吸収・分割し、大阪と東京の2本社制にされたと伺っています。
- 2企業理念に「人間力成長企業」を掲げていますが、社員の方々に求める「人間力」とは何ですか?
- 2既存サービスのブラッシュアップや新サービス立ち上げなどの構想があればお聞かせください。
- 3理解ある経営者、説明できる人材、使いこなせる人員がいてDXが進む。そろわないことが業界の課題。
- 3現在の不動産マーケット全体をどのように捉えていらっしゃいますか?
- 3アナログ主流の不動産業界にもデジタルが浸透始めています。業界のテック化やDX化について、どのような課題があるとお考えですか?
- 3賃貸管理の課題解決のために、乗り越えなければいけない障壁は何ですか?
- 3不動産業界の発展のために、全体として取り組むべきことや方向性はいかがですか?
- 3今後の不動産業界を見据え、消費者に対する不動産DXのあるべき姿とは何ですか?
- 4現代の管理会社にふさわしく福利厚生が充実。従業員のために酸素カプセルも導入予定。
- 4他社とは違う教育・採用方法があれば教えてください。
- 4売り上げや契約戸数などに関して、社内でどのような目標を掲げているのでしょうか?
- 4社員の方々と働く上で大切にしていることを教えてください。例えばオーナー様との言い分が異なる場合、どのような判断を考えるのでしょうか?
- 5次世代を担う人材の育成が課題。夢は物件のオーナーになり、この会社に管理を任せること。
- 5水野様あるいは株式会社エステートトーワとして、今後のビジョンや想いをお聞かせください。
- 5今後の不動産業界を見据え、ご自身でチャレンジしたいことは何ですか?
- 6まとめ
- 7本記事取材のインタビュイー様
創業メンバーとして立ち上げ時の苦境を乗り切り、4年目から黒字経営へ。
貴社は創業以来、不動産の管理、仲介、売買、建築、コンサルティングなど幅広い事業を手掛けてきました。その中で水野様が歩まれてきたキャリアをお聞かせください。
前職も不動産管理会社で8年ほど勤めました。そして2006年に弊社の母体となる「株式会社エステートトーワ関西」の創業に参加し、現在に至ります。現在は大阪70人、東京24人という規模ですが、創業当初は10人程度でしたね。
振り返ると、起業からの3年間が最も苦しかったです。管理会社として単独で開業する場合、ほぼ確実に赤字経営からのスタートになります。私たちも収入が無く、管理手数料が入ってくるのも数か月先という状況でした。
当時は親会社の「株式会社藤和ハウス」があり、財務的にかなり助けていただきました。さらに代表取締役の川本も関係先を駆けずり回って支援を取り付け、管理戸数ゼロの状態からコツコツと営業し、創業から3年間赤字経営で4年目からやっと黒字に転換し、そこからは安定した黒字経営を続けています。
やがて、私たちを信頼してくれるオーナー様が2棟目、3棟目の物件管理も任せてくれるようになり、現在は扱う戸数も1万を超えました。大阪は管理会社がしのぎを削る“戦国時代”だと感じています。
水野様は「日本賃貸住宅管理協会」(日管協)の大阪支部で副支部長も務めていらっしゃいますね。
企画研修・業務研究委員会に所属し、年に数回開催されるセミナーなどをサポートさせていただいております。また、副支部長に任命され、支部長代理としてさまざまな行事に出席させていただき、他にゴルフ部長も務め、年1回のコンペを企画しています。
従業員を大切にすると、顧客、取引先、地域住民、株主も幸せにする。あくまでも従業員が主役。
貴社の強みをお聞かせください。
「ブレない経営」です。弊社は管理会社として設立され、基本的に賃貸仲介の店舗を所有していません。賃貸借契約における立ち位置を「入居者様の代理は仲介業者様。オーナー様の代理は私たち」と明確に定めて業務を行っております。
自社物件の購入を進めるなど、一部の不動産会社で見られるような「本業より利益率の高い業務への傾倒」も行っていません。条件の良い売り出し中の物件があれば、基本的にはお世話になっている皆様に優先して紹介しています。代表の川本も「自社で物件を持ったら、その他の物件に目を向けられなくなる」という考えです。
コロナ禍前、インバウンド事業が活況だった際には民泊などの新たなビジネスも検討しました。しかし、本業が疎かになる可能性があるとの判断から一切行いませんでした。管理会社はオーナー様の大切な資産を預かっているため、他の業種や職種よりもリスクの高いことにチャレンジしてはならないという認識でいます。
どのような企業理念を掲げているのでしょうか?
世の中には「顧客第一」を掲げながら、実際には「経営者第一」「親族第一」という会社もあります。企業理念を唱えたところで現実との相違があれば、従業員の心に響かないものです。
私たちの経営理念は、元法政大学大学院教授で経営学者の坂本光司氏が書いた『日本でいちばん大切にしたい会社』に基づいており、企業が1番大切にする順番として、社員とその家族を最初にし、そのようにする事によって社員が仕事を頑張り、顧客や取引先、最終的には株主までが幸せになれるという内容なのですが、そのあたりを参考にさせて頂き、当社の企業理念は社員を主役にした内容となっております。
現状この企業理念を全てできているとは思わないですが、作った経緯や内容などは他社様よりは自慢できるのではと思っており、実現を目指すことで私達を取り巻く全ての人に喜んでもらえる理念で、強みだとも思っています。
2009年には藤和ハウス賃貸事業部門の管理事業を吸収・分割し、大阪と東京の2本社制にされたと伺っています。
そもそも代表の川本とは前職が同じで、彼の「大阪に管理会社を立ち上げよう」という発案に基づいて弊社の設立が計画されました。藤和ハウスの社長から独立を勧められたことも影響し、川本は創業当初、弊社代表と藤和ハウスの賃貸部門責任者を兼務していました。そして大阪のエステートトーワ関西と、東京の藤和ハウスの賃貸部門を買い取り2本社制になりました。
元親会社である藤和ハウスとの関係は、資本関係も解消し、借入金も全て返済していますが、現在も不動産売買などでお付き合いがあり、継続して良好な関係を続けさせてもらっています。
企業理念に「人間力成長企業」を掲げていますが、社員の方々に求める「人間力」とは何ですか?
企業理念を策定した際に、人間力とは「物の見かた、考え方が正しく出来ており、正しい判断と決断ができ、決断した結果に対する責任を理解していること」と定義しました。しかし、あまり難しくても従業員に浸透しないので、最近は『SLAM DUNK(スラムダンク)』の主人公がバスケットボールを通じて成長していくさまを「人間力成長」とたとえています。
私も実際に読んで感動した作品で、わが子のためにコミック全巻を“大人買い”したほどです(笑)。友情、周囲の支え、ライバルの存在など、とても勉強になりますね。
既存サービスのブラッシュアップや新サービス立ち上げなどの構想があればお聞かせください。
入居者様とのコミュニケーションは以前から盛んで依頼内容も多種多様です。今までのようなマンパワー任せでは慢性的に人材不足が続くため、限界を感じています。いずれ「GMO賃貸DX ⼊居者アプリ」などを導入し、入居者様への対応をより良くしていきたいと考えています。
例えば電気料金を調べるにあたり、以前は電話で問い合わせるのが基本でしたが、これでは質問する側も答える側も時間と労力がかかります。現在は電力会社のアプリを使えば、誰でも簡単に料金が分かります。
実際に私たちも、入居者様から「今月の水道料金を教えてほしい」と問い合わせを受けます。大阪では管理会社が水道使用量を検針していて、弊社でもパート従業員が各物件を訪ねています。アプリを通じて伝えられるようになれば、簡単に済ませられると期待しています。
ITを活用すれば、従来のさまざまな仕組みを簡素化できますよね。入居者様の満足度向上にもつながると確信しています。
さらにDXの領域では、弊社は10年以上も前からSEを雇用してきました。基幹システムからリンクした「空室一覧」「クレーム対応」「退去立ち会い」などの独自システムも自社開発し、機能追加などの要望があればすぐに対応できます。
より正確に言うと、Microsoft Officeのアプリ拡張機能であるVBA(Visual Basic for Applications)で社内プログラムを構築していて、現場の要望を受けて使いやすくなるよう改良できる体制です。
理解ある経営者、説明できる人材、使いこなせる人員がいてDXが進む。そろわないことが業界の課題。
現在の不動産マーケット全体をどのように捉えていらっしゃいますか?
人口動態からして少子高齢化は進んでおり、今後は間違いなく「人口の都市集中」「地方の過疎化」は避けられない課題となるでしょう。東京や大阪でも郊外は高齢化していて、都市部といえども不動産業界は厳しい状況になると考えております。
アナログ主流の不動産業界にもデジタルが浸透始めています。業界のテック化やDX化について、どのような課題があるとお考えですか?
業界の各協会は、いまだに連絡手段としてFAXを利用しています。
私が不動産業界に入った25年前、社内にはスタンドアロンのパソコンが3台しかなく、リフォームの見積もり書をエクセルで作っていました。併せて空室情報も作成していましたが、社内用と社外用をそろえる上に双方の数字が合っているのか従業員が読み合わせていて、パソコンを使うメリットがありませんでした。
DX化を進めるには、経営者の理解、導入による変化への対応、分かりやすく説明できる人材、使いこなせる人員がいなければなりません。この点が業界の課題だと思います。
賃貸管理の課題解決のために、乗り越えなければいけない障壁は何ですか?
前提として、管理業務は人件費などのコストがかかることを顧客に認識して頂く必要があります。
旧来は仲介会社が無料サービスの一環で提供していましたが、やがて多くが有料化されました。しかし仲介会社の立場になると、たとえ無料でも退去に立ち会うことで、新たに空いた部屋を優先的に客付けできますよね。メリットがあることから、今も無料で提供するケースが見られます。
一方で管理会社は、定期的な報酬がなければ退去立ち会いでメリットは無く、単に人件費や交通費、駐車場代などの経費が生じるだけです。この点を理解せず「以前は全て無料だったのに……」と不満を持つオーナー様もいますが、そもそも無理がある旨を会社や業界として提唱し、乗り越えていく必要があると思います。
プロとしての仕事を遂行するのは当然ですが、今後はそれに見合った報酬を頂けるように訴求していくことが必要だと考えています。
不動産業界の発展のために、全体として取り組むべきことや方向性はいかがですか?
▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人
私と同年代の人は業界に対し、バブル期の“地上げ屋”という印象を持っているようです。しかし近年、特に管理業界に入ってくるのは真面目で誠実な人ばかりです。当然ながら、法令順守や社会貢献など、私たちが取り組むべきことは多々あります。これらを着々と続け、業界をクリーンなイメージに変えていくことが重要でしょう。
また、管理業を営む会社は経営・財務共に好調な優良企業が多いようです。私たちが不動産業界全体のイメージを変える先人になれるのではないかと考えています。
今後の不動産業界を見据え、消費者に対する不動産DXのあるべき姿とは何ですか?
昭和のように、何かあれば電話を入れ、受ける人を配置するという状況は業界を問わず減っていくでしょう。コストがかかる従来の仕組みから、ウェブやチャットでの顧客対応が主流になると思います。
このデジタル化がこれまでの電話よりも迅速かつ効率的になれば、管理会社と入居者様の双方にメリットが生まれると考えられます。
現代の管理会社にふさわしく福利厚生が充実。従業員のために酸素カプセルも導入予定。
他社とは違う教育・採用方法があれば教えてください。
弊社は旧来の不動産管理会社から、現代にふさわしい企業に生まれ変わりつつあります。
私が若い頃、業界では朝9時から夜11時まで働くのが一般的でした。休みは週に1日で残業手当も無く、有給休暇も使えませんでしたね。就業規則もよく分からず、なかなかグレーな働き方でした。弊社も創業時はその名残がありましたが、無理があると気付き「賞与は年3回」「休日の増加」「残業代の完全支払い」といった待遇改善を進めてきました。
福利厚生の拡充にも力を入れ「福利厚生サービス」「置き型社食」「確定拠出年金(DC)」など、従業員に長く勤めてもらうためのアイデアを常に考え、実現させています。また、休憩室にマッサージチェアを設置している他、酸素カプセルの導入も検討しています。
採用に関しては、今年から中途だけでなく新卒も入れていますね。営業では女性の雇用も強化しています。
売り上げや契約戸数などに関して、社内でどのような目標を掲げているのでしょうか?
毎月100戸、年間1,200戸の新規獲得を目標としています。純増は年平均600戸ほどで、多い年はおよそ1,000戸ですね。入居率、家賃回収率、サブリース物件の単価などでも目標があります。
社員の方々と働く上で大切にしていることを教えてください。例えばオーナー様との言い分が異なる場合、どのような判断を考えるのでしょうか?
基本的には社員の言い分を信じたいと思います。オーナー様にも理解を示し、誤解があれば解くよう努めます。そもそも都合の悪い時に人のせいにしたり、嘘をついたりするような人とは一緒に働けませんよね。
私たちの仕事で一番大事なのは、オーナー様から信用や信頼を得ることです。それを達成するためにも、土台となる社内での信頼関係は必要不可欠だと考えます。
次世代を担う人材の育成が課題。夢は物件のオーナーになり、この会社に管理を任せること。
水野様あるいは株式会社エステートトーワとして、今後のビジョンや想いをお聞かせください。
大切にしたいのは「今後を託せる人材の育成」です。代表の川本以下、役員陣も50代半ばになり、現役でいられるのはあと10年ほどでしょうか。
管理する不動産はオーナー様からお子様、お孫様へと相続されるのが一般的であり、長い期間でのお付き合いとなります。私たちも永遠に生きられるわけではないので、多くの方々に信頼されているこの会社を安心・安定して継続させて行くために、次世代の育成が最大の課題だと考えています。今は話せませんが……、その方法はいくつかあると理解しています。
人材育成こそが弊社最大の課題であり、企業理念ともリンクします。この課題に対して愚直に向き合うことが最も重要だと考えています。
今後の不動産業界を見据え、ご自身でチャレンジしたいことは何ですか?
そう遠くない未来、現役を退いたら家主業を始めたいと思っています。そして、自分が勤めてきたこの会社に物件管理を任せることが将来の目標です。
まとめ
創業時の苦しい状況を乗り越えて会社を軌道に乗せ、次世代の育成も見据える水野専務取締役。従業員を大切にすることが顧客や株主の幸せにつながると考え、彼らが「人間力」を理解しやすいようにと人気アニメを活用していることに優しさを感じました。人員の世代交代も思いやりの下に進んでいくことでしょう。
本記事取材のインタビュイー様
株式会社エステートトーワ 専務取締役。
水野 達司 氏
1968年大阪府東大阪市生まれ
1991年大阪工業大学 卒業
大阪の不動産管理会社勤務を経て
2006年エステートトーワ関西設立に取締役で参加
2017年同社専務取締役に就任
2022年日本賃貸住宅管理協会 大阪府支部副支部長
現在に至る