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取材記事Interview

【リーダーインタビュー】宮川 恒雄様|賃貸管理業をベースに保育園、シェアオフィス、野菜の販売会も手掛ける。全ては顧客のため、溝の口の価値を高めるために。

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。

今回インタビューを行ったのは、株式会社エヌアセットの代表取締役社長である宮川 恒雄様です。賃貸管理業務をベースに、入居者様が必要としている保育園なども事業化し、拠点となる溝の口エリアの価値向上に貢献。地域密着を大切にする理由や、今後の展開などについてお話しいただきました。

目次

大手総合商社で分譲マンション事業等に携わり、縁あって溝の口で独立。改めて街の魅力を感じる今。

宮川様が不動産業に携われた経緯を含め、ご経歴をお聞かせください。


▲エヌアセット本社

新卒で大手総合商社に入り、不動産の部署に配属されました。最初は分譲マンション事業等に携わり、その後はリゾートマンションやホテルも扱うようになりました。地方に出張する機会も多く、1カ月ほど泊まり込みで福島県の猪苗代町などに行くこともありました。また、弊社のような地域の不動産会社に飛び込み営業をかけ、マンション用地の情報を提供してもらうこともありました。

やがて商社の先輩が、田園都市線「溝の口駅」の近くで不動産会社を興すことになり、誘われて転職しました。
こうした背景もあって「株式会社エヌアセット」は溝の口を拠点としています。

溝の口で事業を展開していく上で、「溝の口」の良さはどのようにお考えてしょうか。

たまたま以前務めていたのがこの街でしたので、この街での起業となりましたが、利便性が高く、人口も多く、田園都市線の中でも乗降客数は「渋谷駅」に次いで2位です。非常に恵まれたエリアだと感じています。

農家の顧客を喜ばせようと始めた野菜市や、2人の女性社員が立ち上げた保育園事業も。

「街の価値を高めることが不動産会社の使命」と認識されているようですね。


▲シェアオフィス「nokutica(ノクチカ)」
写真:小川拓郎

まさに私たちのミッションだと考えています。なぜなら賃貸仲介の仕事は、地域に暮らす人が増えなければ成り立たず、賃貸管理の仕事は地域に暮らし続けてもらうことが重要です。つまり、地域に暮らす人を増やし、減らさないよう維持するこの仕事は、街の価値を高めるはずだと考えています。

また、生活が続いた先には「働く場所が欲しい」「子どもを預けたい」という要望が生まれます。これらを満たすために、シェアオフィスを運営する「nokutica(ノクチカ)」や、未就学児を預かる「こころワクワク保育園」を立ち上げました。いずれも溝の口という街のファンを増やすためです。

他に、ゴミ拾いボランティアの「キラっとおそーじ同盟」活動や「まち・まるごとオフィス」プロジェクト、シェア型複合施設「one」なども展開させていますね。


▲シェア型複合施設「one」

溝の口エリアに事業を集中させている理由をお聞かせください。

地域を絞り込むことで、一定のお客様に当社のビジネスを数多く利用してほしいからです。当グループでは、皆様との関わりを「生涯顧客サービス」と認識しています。出会った方々を末永く、手厚くサポートするために溝の口エリアに事業を集中させているのです。

不動産賃貸業とコワーキングスペースとのシナジーは感じられているのでしょうか。

もちろん、私たちが管理する部屋に入居している方がレンタルオフィスも利用してくれたり、マンションを購入してくれたりというシナジーも生まれています。だから私たちが目指すのは、一人のお客様を長くサポートしていくことはもちろん、顧客接点を増やすことですね。

物件に入居してから退去するまでの数年間、何もせずに見守るだけでなく、その間もその後も利用できる各種サービスを用意してアプローチし、日々の生活に満足してもらうことが非常に重要だと考えています。だからコワーキングスペースや保育園を立ち上げたり、野菜市を開催したりと、顧客接点の機会と時間を増やしてライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を高めています。

こうした企画は宮川様が考えていらっしゃるのでしょうか?

主に社員が発信してくれます。例えば野菜市は、弊社のお客様の中には農家のオーナー様が多いことから、喜んでもらうのに何をすべきかを考える中で生まれたアイデアです。

各種イベントは土曜の勤務時間内に行われることが多く、入社間もない若手がよく手伝ってくれます。野菜市ではオーナー様から農作物を買い取り、そのままの値段で販売しますね。売れ残ったら社員に配ったりするので、いつも赤字です(笑)。事業ではなく、地域貢献だと捉えています。


▲エヌアセットが開催している「野菜市」

この企画は、「川崎にもおいしい野菜があることを入居者様に知ってほしい」という思いもあって、SNSなどで周知してきましたが、いつの間にか来場者の9割近くを近所の皆さんが占めるようになりました。毎年2回、開催するたびに喜ばれ、いつも15分前には行列ができています。

社員の皆様が自由な発想を持てる会社なのですね。

私もそのような会社であることを願っています。とはいえ社歴が長くなるにつれ、自由を感じられない社員の方も出てくるかもしれません。だから新しい事業を「やりたい」と言って立ち上げてほしいと考えています。

この点では、先ほど話した「こころワクワク保育園」は2人の女性社員が発案しました。産休・育休後も復帰しやすい環境を作りたいと、プレゼンを受けましたね。

保育園の運営はどのようにスタートされたのでしょうか。また異業種への進出への障壁はございましたか?

もちろん未経験では運営できないため、園長と保育士を新規に雇用しました。小さなお子様を預かるには大きな責任が伴いますが、それでも「どの事業を始めるにしても準備すべきことは同じ。まずはやってみよう」という姿勢で臨みました。担当の2人が頑張ってくれ、無事に開園しましたね。

園のための場所も、自社所有の空き物件ではなく、ゼロから選定しました。また、発案者2人は園長らに現場を任せ、既存の仕事と両立させていました。定期的にミーティングを開いて状況を確認するなど、バックアップサポートに徹していました。

保育園の経営も2人の女性社員が担当されたのでしょうか?

事業計画書や損益計算書(PL)の作成、キャッシュフローの計算、会社への借り入れなど、いずれも本人たちに任せました。プランを役職者会議に出してもらい、承認するという流れです。

野菜市とは異なり、こちらは完全に事業ですよね。私もサラリーマン時代、自由な発想の下で働くことができて楽しかったので、同じ思いをしてほしいと考えています。

まずは独自の地域密着型ビジネスモデルを構築。その一環として基幹システムの自社開発も検討。

現在の不動産マーケットをどのように捉えていらっしゃいますか?

不動産が高騰しているといわれますが、私としては現在の東京の価格が当たり前だと思っています。1人あたりのGDPと不動価格の関係に着目すると、日本の不動産は海外よりも手に入れやすいです。

ようやく世界標準になりつつありますが、まだ低金利に支えられているのも事実です。今よりも金利が上がれば、物件の価格も確実に下落することになり、海外からの資金がさらに流入するでしょう。どちらに転んでもビジネスは成立すると思いますが、準備や対策は必要ですね。

社内でIT化、あるいはDX化を進めていることはございますか?

数名のエンジニアを採用し、新たにスクラッチで自社の基幹システムを構築する予定です。税制など不動産関連のルールが変わるたびにバージョンアップする負担を考えると既製品のメリットもあります。慎重に検討を進めます。

そもそも、私がなぜ地域密着にこだわるのかというと、まずこの業界は大手資本系、フランチャイズ系、独自ブランド型の地域密着系という3つの不動産会社に分かれていると考えられます。もちろん、私が盛り上げたいのは独自ブランド型地域密着であり、そのために異業種への参入などにチャレンジしています。

つまり、まずは「こうすればお客さまのライフタイムバリューを高められる」「溝の口に事業を集中させたことで、こんなにご紹介件数が増えた」といったビジネスモデルを作ることが大切です。その上で他のエリアにノウハウを提供したり、自社開発のシステムを販売したりと、さまざまな計画を練っているところです。

若手はまず賃貸仲介の部門へ。育成プログラムを用意し、教育係には優秀な営業担当者を専任で配置。

今後の展開を考えると社員教育が重要になると思いますが、どのように取り組まれているのでしょうか?


▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人

この点は大きな課題に感じています。採用はもちろん重要ですが、それよりも入社後の教育のほうが大切ではないかと考えています。新卒で入ったメンバーの多くは賃貸仲介の部門に配属されるので、特にここでの教育を重視していますね。

優秀な営業担当者を専門の教育係として配置し、売り上げ目標を50%程度として、後輩の指導に集中させています。そして育成プログラムを用意し、賃貸仲介の営業担当者として一人前になるために必要なことを学んでもらいます。

今までは実質OJTのみでしたが、指導する側も自分の仕事を抱えながら後輩の面倒を見るのは大変なので仕組みを変えました。この育成方式は他部署でも活用したいと考えております。

地域密着の会社だからこそ、その地域のインフラを構築することが醍醐味。やがてノウハウを全国へ。

今後、宮川様ご自身や会社としてチャレンジしたいことはございますか?

まず、エヌアセットグループとしてのミッションは「生涯顧客サービス」です。そのためにできることは、ほぼ無限に近いですよね。一方「株式会社エヌアセット」に与えられているのは、街の価値を高めることでグループのミッションを達成することです。それぞれで、お客様に何が“刺さる”のか、これからも追求していきます。

昔は地方に行くと、その土地の大きな会社が地域のインフラになり、バスを運行したり、スーパーマーケットを開いていたり、病院を経営したりしていましたよね。今の時代、こうした仕組みは不要かもしれませんが、それでもソフト自体は地域独自に作っていくと面白いでしょう。

例えば、心理的安全性や承認欲求が満たされるコミュニティを作れば、地域住民の住みやすさが増し「この街で暮らし続けたい」と思うようになるかもしれません。そのために、オンラインもオフラインも交えてソフトのインフラを作っていくことが、私たちのような地域密着型の会社にできることの醍醐味ではないでしょうか。こうした取り組みが、結果的に街の価値を高めると感じています。

まずは溝の口で実現させ、やがて他エリアの管理会社や仲介会社とも協力関係を築きたいですね。あくまでも、その土地に根差した会社がコミットするべきだと考えているので、私たちは自ら手を広げず、溝の口から離れず、ノウハウのみを提供するつもりです。

なお、こうしたビジネスを展開させるには、当グループの認知度をもっと高める必要があると感じています。そのため2024年度には、溝の口エリアのある神奈川県川崎市高津区の管理戸数において、シェア10%超を目指します。

まだ大手不動産会社には太刀打ちできませんが、不動産の売買仲介も強化します。認知度を高めれば、この領域でも違う景色が見えてくるはずなので、より力を入れて取り組むつもりです。

まとめ


▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真右)

賃貸管理業務をベースに、保育園やシェアオフィスなど多角的に事業を展開している宮川様。社員の声を柔軟に取り入れ、自らチャレンジさせる姿勢が印象的でした。また、お客様のライフタイムバリューを上げることで街の価値を高めるという発想も興味深く、拠点としている溝の口エリアがどう変化するのか、ますます注目が集まります。

本記事取材のインタビュイー様

株式会社エヌアセット 代表取締役社長
宮川 恒雄 氏

1971年京都府京都市生まれ。神戸大学農学部卒業後、総合商社に就職し、不動産ビジネスに従事。その後、商社時代の上司が立ち上げた不動産会社に転職し、3つの新組織と新事業の立ち上げを行う。そして2009年、株式会社エヌアセットを立ち上げ、代表取締役社長に就任。

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