【専門家インタビュー】成本治男 様|法律家から見る、「不動産金融×テクノロジー」の可能性 - GMO賃貸DX
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【専門家インタビュー】成本治男 様|法律家から見る、「不動産金融×テクノロジー」の可能性

テクノロジーで不動産業界に変革を起こすには、法制度の整備も欠かせません。今回お話を伺ったのは、「不動産テック×法律」と不動産金融のスペシャリストである弁護士 成本治男様。弊社のエバンジェリスト後田がインタビュアーとなり、不動産金融市場における不動産テックや、それを取り巻く法制度などについてお聞きしました。

目次

「不動産テック×法律」を追求

Q.まずは、自己紹介をお願いします。

私は2000年に弁護士になり、以降21年間「TMI総合法律事務所 」に所属しています。

当初は幅広い案件を担当していましたが、あるとき大手証券会社のアセットファイナンス部門へ出向して以来、不動産を中心とした金融分野に携わる機会が多くなり、徐々に不動産証券化・不動産ファンド・ノンリコースローンなどが専門となっていきました。

不動産テックに携わるようになったのは、今から4~5年前。ちょうど、日本で「FinTech」が広がり始めた頃です。不動産を専門としていたことから不動産テックにも可能性を感じ、「不動産テック×法律」をテーマにした寄稿やセミナーの開催を行うようになりました。最近では、不動産クラウドファンディングやセキュリティトークンなどのご相談も増えてきています。

テクノロジーが業種間の壁を崩しつつある

Q.昨今の不動産業界をどのように見ていますか?

伝統的な不動産契約が、大きく変化しつつあるように感じています。

昨年は、コロナ禍で電子契約やバーチャル内見などの実施が増えました。さらに、今年は「IT重説」が売買でも解禁され、重要事項説明書や契約書のデジタル交付を可能とする法改正が今国会で成立すれば1年以内には施行される見込みです。

消費者もオンラインに慣れてきているので、今後はオンライン対応の可否が不動産会社を選ぶ基準の一つになるかもしれません。また、最近はテックサービスの数が増え、コスト競争も進んでいる。DX化の土台は、着実に整ってきたように思います。

とはいえ、業界全体のDX実現にはまだ少し時間が掛かるかもしれません。業界の伝統があるだけに、新たな物事やオペレーションに対するハードルは高いと思いますし、中小規模の会社数も多いですからね。

Q.不動産業界のDXは、必要だと思われますか?

必要だと思います。たとえば、業界の課題として挙げられる生産性・効率性の低さは、DXにより改善を図れますよね。そして、DXの必要性は今後さらに高まるのではないでしょうか。

近年はテクノロジーの普及により、業種間の壁が崩れつつあります。直近では、商社がブロックチェーン企業と手を組んで不動産賃貸のプラットフォームを創り上げました。また、逆に不動産会社が不動産プラッフォームの中で、他業種のサービスを始める可能性もあります。

そんな時代の流れの中で、従来のやり方から脱却できないでいると、気づいたら他業種・他社のプラットフォームに消費者や潜在顧客を囲い込まれていたという事態も起こり得る。だからこそ各社が危機感をもって、いち早くDXに取り組むべきだと感じています。

Q.「不動産テック×法律」の観点から、気になる動向はありますか?

情報の利活用がどう進むのか、という点ですね。

不動産業界、特に売買取引は情報があまり表に出ません。ここをテクノロジーの力で改善できれば、個人でも不動産価格の正当性などを判断しやすくなり、より安心感のある取り引きが実現するはずです。私としては、テクノロジーが業界の透明性・公平性を高めるような方向に向かうことを期待しています。

ただ、ここでネックになるのが個人情報保護法や契約上の義務の観点です。たとえば何らかの契約を締結して情報を取得できたとしても、その契約に秘密保持義務や目的外利用禁止条項が含まれていた場合、情報をどこまで活用して良いか迷ってしまうケースも少なくありません。

そのため、たとえば、官と民が連携してガイドラインを作成し、“法令にも契約にも抵触しない情報の活用方法”を明確にすべきだと思います。そうすれば、より円滑に利活用が進むのではないでしょうか。

Q.法律の現場でも、DXは進んでいますか?

まだまだこれからですね。一部の業務はデジタル化されましたが、いまだに裁判所とは書面のやり取りが必須ですし、契約書も紙がほとんどです。

それでも最近では、クライアントから「電子契約できますか?」と聞かれることが増えてきたように感じます。電子契約は、印紙税が非課税になるなどメリットも大きいです。多発しているトラブルも聞きませんし、今後少しずつ、着実に広まっていくのではないでしょうか。

直接金融で手軽な投資の「不動産クラウドファンディング」

Q.成本先生が精通されている「不動産クラウドファンディング」についてお聞かせください。

少し複雑なので、まずクラウドファンディングの概念からお話しします。クラウドファンディングは、「資金を調達したい企業や人」と「資金を出して事業を応援したい人」をインターネット上で結びつける仕組み。事業者は、不特定多数から少額ずつ資金調達ができます。

そしてクラウドファンディングにはさまざまな種類があり、資金を出すリターンとしてモノ・サービスを得る「購入型」や、資金を出すリターンとして事業の収益が分配される「投資型」などに分かれています。また、「投資型」の中には、資金を貸付けして金利というリターンを得る「貸付型」と呼ばれる類型もあります。

【クラウドファンディングの種類】

購入型 事業者に資金を提供することで、商品やサービスを得る。
投資型 事業者に資金を提供することで、事業の収益が分配される。
貸付型 事業者に資金を貸付けることで、元本+金利を得る。

この中で不動産クラウドファンディングが分類されるのは、「投資型・貸付型」。出資・貸付けをする事業の対象が、不動産に限定されます。要は、投資型でいうと不動産を賃貸運用する事業者にお金を出して、賃料収益(+売却利益)から配当金をもらうような仕組みです。

なお、法律面も複雑です。事業者によって遵守している法律が異なり、ある事業者は国土交通省の「不動産特定共同事業法(不特法)」にのっとり、またある事業者は金融庁の「金融商品取引法」にのっとり運用していますから。

Q.どんな不動産が対象になりますか?

GMO ReTech株式会社 エバンジェリスト 後田博幸

アパートの一室から物流施設、ホテル、保育園までさまざまです。中には、時価総額100億、200億の不動産や、メザニンローンへの出資案件などもあります。

不動産クラウドファンディングは、今まで機関投資家しか出資・融資する機会がなかったハイグレードな案件にも、個人が少額から投資できます

“一等地のオフィスビル”などのハイグレードな案件のほうが、リターンは少ないもののリスクも低いことが多いです。また、事業者からしても、個人から直接資金調達をしたほうが、間に機関投資家を挟むよりも調達コストが下がります。

つまり、不動産クラウドファンディングは「直接金融」を叶え、個人投資家と事業者との間にWin-Winの関係を構築できるのです。

Q.個人でも、不動産投資のリスクコントロールがしやすくなったと言えるのでしょうか。

そうですね。もちろん“目利き力”にもよりますが、事業者の信用度や実績なども参考にしながら幅広い選択肢から選べますからね。

幅広い不動産に小口投資できる手法としては「REIT (リート=Real Estate Investment Trust)」もありますが、REITは複数の不動産にまとめて投資する仕組みなので、物件を個別に選ぶことはできません。また、金融商品として上場しているため、株式のように時々刻々と価格が変動します。

対して不動産クラウドファンディングは、気に入った物件だけを選べる上に実際の不動産価格ベースで安定的な値動きをするのです。

さらに、「不特法」に準拠した事業者の大半は「優先劣後構造」を採用しています。これは簡単に言うと、仮に不動産が値下がりしても、事業者が投資家よりも先に一定の損失を負担する=投資家の元本割れリスクを低減できる仕組みです。

これらの安心感も、不動産クラウドファンディングの人気が高まっている背景にある理由だと思います。

Q.不動産クラウドファンディングには、どのような事業者・出資者が多いのでしょうか?

事業者は、不動産会社が本業とのシナジー効果を期待して参入するケースが多いです。

たとえば、以下のようなケースです。  

  • 不動産管理業者が、オーナー向けの「資産運用メニュー」の一つとして活用する
  • 買取再販業者が、見込み客獲得のためのマーケティング手法として活用する

  あとは、REITなどを扱う不動産金融事業者が手を広げたケースもあります。

不動産クラウドファンディングだけで大きな利益を上げるのは、正直まだ難しいとは感じています。扱う金額が数十・数百億になれば手数料だけで大きな利益が出ますが、そこまでの規模には至っていないファンドが大半だからです。

出資者で言うと、20~40代の若年層が中心ですね。一人あたりの出資額は、大体20~30万円が平均だと聞いています。最近は若い方の間でも資産運用の意識が高まってきましたから、手軽に投資できる不動産クラウドファンディングは、時代のニーズに合っているのだと思います。

Q.不動産ファンドへの参入を考えている会社にアドバイスはありますか?

不動産ファンドの運営には、不動産業のみならず金融業や資産運用業などの視点・知識が必須です。

「投資家のお金をお預かりしている」という意識のもと、投資家に対しての善管注意義務(善良なる管理者が払うべき注意義務)を果たし、利益相反取引(一方は利益を得るが、もう一方には不利益が生じる取引)などにも留意しなければなりません。

そのため、少なくとも一人はファンド経験者を雇っていただいたほうが安心かなと思います。 

Q.不動産クラウドファンディングのデメリットはありますか?

基本的に、ファンド商品の運用期間が終わるまでは商品の売却・現金化はできません。つまり、流動性・換金性が非常に低いのです。

運用期間はあらかじめ決められており、短いと3~6か月、長くても3年くらいです。もちろん事業者としてなるべく長期間で運用したいところですが、期間が長いほど「現金化できない」というデメリットが出資者に重くのしかかるため、応募額は減る傾向にあります。この辺のバランスが難しいところですね。

そこで、このネックを解消できるシステムが近ごろ大きな注目を集めています。それが、「セキュリティトークン」です。

長期資産形成を実現する「セキュリティトークン」

Q.セキュリティトークンの仕組みや可能性についてお聞かせください。

セキュリティトークンとは、投資に関する権利をデジタル化したモノです。いわば、株式や債券などの替わりです。これを不動産クラウドファンディングに活用すれば、出資の持分を個人がスマホで気軽に売買できる、高い流動性・換金性が実現します

具体的な活用方法は、取引所を創るのか、証券会社が随時買い取る仕組みにするのか、まだ模索段階であり課題です。しかし、活用方法が確立され広く普及すれば、「幅広い不動産に小口投資できる」+「安定した値動きで低リスク」+「換金性もある」、と今まで個人向けでは存在しなかったような素晴らしい投資商品が誕生します。

ひいては、一千兆円ともいわれる個人の預貯金を動かすことにも繋がるのではないでしょうか。セキュリティトークンの普及をきっかけに、日本にも長期資産形成の文化が根付くのではと期待しています。

Q.セキュリティトークンの普及に必要な法整備などはありますか?

法整備でいうと、一旦は整ったと思います。2020年5月に「金融商品取引法」が改正され、セキュリティトークンも規制下に置かれました。

ただ懸念点としては、この法律は良くも悪くも規制が厳しいところです。世界的には、セキュリティトークンは流動性・換金性のみならず「デジタル化で証券の発行・管理コストなどを下げられる=小規模な不動産でもコスパ良く小口化できる」点が評価されています。

対して日本では、規制が厳しく大手企業が関与せざるを得ない仕組みになったので、小規模な不動産へ気軽にセキュリティトークンを活用することは難しい状況です。他方、プラスにとらえると、大手企業が関わるからこそ投資未経験の個人も安心して利用できるという考え方もできますね。

セキュリティトークンのインフラ整備が完了した海外

Q.海外における不動産クラウディングやセキュリティトークンの動向をお聞かせください。

どちらも、日本より進んでいます。アメリカやシンガポール、韓国では、すでに不動産におけるセキュリティトークンの活用事例があり、二次売買する取引所も開設されています。

取引量は、まだそこまで多くありませんが、必ずしもそれが問題であるとも言い切れません。そもそも不動産は価格変動が小さく、キャピタルゲイン狙いで短期間で頻繁に売買するモノではありませんから。

重要なのは、“個人が好きな時に売れる”インフラが整っているという事実です。その安心感があれば投資というより「お金を置いておこう」という感覚になるので、市場は自然と成長していくように思います。

不動産投資も「地産地消」の時代へ

Q.昨年セミナーでお話されていた「不動産DXを見据えた商品開発やビジネスモデル」について、具体的な考え方や方法をお聞かせください。

大きな方向性としては、不動産DXにより以下の実現を目指すことが重要です。  

  • より安心感のある不動産取引と気軽な住み替え
  • 早期からの長期資産形成
  • 業界の生産性UP

  その上で、ビジネスモデルの構築や商品開発を進めていただきたいと考えています。

これらを実現するためには、先ほども少し触れた民と官の連携が欠かせません。「不動産業界・テック業界の現場における課題」と「法制度における課題」をすり合わせて対話を重ねることで、業界は着実に進化していくはずです。

また、海外のように民間出身者が官僚になったり、公務員が民間に転職したりという民と官の人材交流も必要かなと感じています。

Q.セキュリティトークンと不動産クラウドファンディングは、今後どう展開していくと思われますか?

セキュリティトークンは大手企業が続々と参入を表明しているので、個人的にはREITと同じくらい、もしくはそれ以上のマーケットになると思っています。法規制が厳しいぶん、ハイグレードな投資案件に多く活用され、長期資産形成を実現できる手段になれば良いですね。

その一方で不動産クラウドファンディングは、セキュリティトークンを活用しにくい小規模な案件が中心になるのではないでしょうか。いわば“すみ分け”が進むのかなと。

なお、海外から日本に“不動産ファンド”や“証券化”などの概念が入ってきた1990年代から現在に至るまで、日本の市場でも外国人投資家が大きな影響力をもっていました。

しかし、セキュリティトークンや不動産クラウドファンディングが普及すれば、日本の個人投資家の存在感が高まるはずです。日本の不動産から生ずる利益が、海外ではなく日本の個人に還元される。いわば投資の「地産地消」を実現できるのではと期待しています。

まとめ

ITや法律、金融とさまざまな業界を巻き込んで、着実に進化を遂げている不動産業界。その波に乗り遅れないよう、未来を見据えた事業戦略を策定し改革を進めてみてはいかがでしょうか。

成本先生と後田の2ショット

インタビュアー:GMO ReTech株式会社 エバンジェリスト 後田博幸

本記事取材のインタビュイー様

成本治男 氏
TMI総合法律事務所 パートナー
1975年、生まれ。 1998年に早稲田大学法学部を卒業し、最高裁判所司法研修所入所。2000年、東京弁護士会登録。その後、韓国の金・張法律事務所、ロンドンのシモンズ・アンド・シモンズ法律事務所を経て、現職。不動産テックの法律の関するセミナーを多数開催し、不動産テックを「法律」の視点から読み解く先駆者。 著書に「不動産Techの概要と法的問題点」(日本不動産学会誌、2017年6月)「不動産Tech の実務と法律」(土地総合研究、2017年9月)など。
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