【リーダーインタビュー】創業35周年、熊本で築いた信頼の管理会社。「質の高い管理」で選ばれる存在へ。
不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、熊本を拠点に35年の歴史を誇る株式会社アズマシティ開発の代表取締役 東 伸彦様です。創業した父から会社を受け継ぎ、「1オーナー1担当制度」の導入や海外展開まで手がける同社。TSMC進出に沸く熊本で、法人契約から個人オーナーまで幅広く対応しながら、「質の高い管理会社」を目指す取り組みについてお話を伺いました。
35年の歴史と「1オーナー1担当制度」。オーナーファーストの管理体制。
まずは株式会社アズマシティ開発の沿革と東様のご経歴について教えていただけますか?
▲株式会社アズマシティ開発 代表取締役社長 東 伸彦 氏
東様:アズマシティ開発は、1991年10月に設立され、今年で創業35周年を迎える不動産管理会社です。私自身は大学卒業後に当社に入社し、現在で22年ほど経営に携わっています。
創業当初から地域密着型の経営を基本方針として、熊本を中心とした九州エリアで事業を展開してきました。不動産という地域性の強い業界において、地元のオーナー様や入居者様との信頼関係を何より大切にしながら、着実に成長を続けてまいりました。
現在では本社(熊本市東区新南部)を中心に、健軍店、菊陽店、福岡支店の4拠点体制を構築し、管理戸数8,000戸を超える実績を築いています。この35年間で培ってきた経験とノウハウを活かし、オーナー様にとって最良のパートナーでありたいと考えています。
「共存共栄」という経営理念に込められた想いについて聞かせてください。
東様:当社の経営理念である「共存共栄」には、「みんなを幸せにしたい」という想いが込められています。目の前にいる人を幸せにすることで、自分も幸せになれる。それが共存共栄であり、私たちは創業以来、この理念を社是として掲げてきました。
理念は受け継がれるアズマシティ開発のDNAであり、行動原則です。不動産業界では、短期的な利益を追求しがちですが、私たちは違います。オーナー様、入居者様、そして私たち自身、関わる全ての人が幸せになれるビジネスモデルを追求しています。
具体的には、オーナー様の資産価値向上、入居者様の住環境改善、社員の働きがい向上、そして地域社会への貢献。これら全てが調和したとき、真の共存共栄が実現できると信じています。この理念があるからこそ、35年という長きにわたって事業を継続し、多くのお客様から信頼をいただけているのだと感じています。
代表就任後に導入された「1オーナー1担当制度」について詳しくお聞かせください。
東様:代表就任後に取り組んだ最も重要な改革の一つが、オーナー様1人に対し担当者1人をつける「1オーナー1担当制度」の導入でした。この制度は業界でも珍しい取り組みだと自負しています。
従来は業務ごとの縦割り対応でしたが、賃貸募集の件では営業担当、修繕の件では管理担当、契約更新の件では事務担当といった具合に、用件によって担当者が変わってしまう。これではオーナー様が混乱してしまいますし、私たちとしてもオーナー様の真のニーズを把握することが困難でした。
「1オーナー1担当制度」を導入することで、オーナー様は常に同じ担当者とやり取りができるようになりました。担当者もオーナー様の物件状況、投資方針、お考えを深く理解できるため、より的確で個別性の高い提案ができるようになったのです。
この制度の効果は想像以上でした。オーナー様からは「安心して任せられる」「相談しやすくなった」といったお声をいただき、顧客満足度が大幅に向上しました。担当者にとっても、オーナー様との関係が深まることで仕事のやりがいが増し、社員のモチベーション向上にもつながっています。
また、年1回のオーナー懇親会や月1回のオーナー通信発行も継続して行っています。オーナー通信は社内で企画から制作まで全て手がけており、市場動向や当社の取り組み、物件管理に関する有益な情報を発信しています。こうした取り組みを通じて、オーナー様との絆をより深めることができています。
法人契約からTSMC効果まで。熊本の不動産市場を支える戦略。
現在の事業規模と、これまでの成長の軌跡について教えてください。

東様:おかげさまで現在の管理戸数は8,000戸を超え、熊本県内でも有数の管理会社として成長することができました。この実績は一朝一夕に築けたものではなく、35年間にわたる地道な努力の積み重ねの結果です。
創業当初は小規模からのスタートでしたが、オーナー様第一の姿勢を貫くことで、口コミによる紹介や信頼関係の拡大により、着実に管理戸数を伸ばしてきました。特に2000年代以降は法人契約の拡大が成長の大きな要因となっています。
当社の強みは、入居者募集から契約、管理、リフォーム、売買までのワンストップサービスを提供できることです。この包括的なサービス体系により、オーナー様にとって利便性の高いサービスを実現しています。
また、高い入居率の維持も大きな特徴です。空室期間の最小化を図る提案型募集戦略や、入居者様のニーズに合わせた、きめ細やかな対応により、安定した収益性を確保しています。これにより、オーナー様からの信頼を獲得し、継続的な契約に結びついています。
法人契約への取り組みについて教えていただけますか?
▲株式会社アズマシティ開発 経営企画本部長 兼 経理部長 梅野 義弘 氏
東様:法人契約については、早い段階からソニー様や東京エレクトロン様などの工場進出に対応してきた実績があります。熊本は製造業の拠点として発展してきた地域ですから、これらの企業様との関係構築は非常に重要でした。
特に力を入れているのは、法人の社宅担当者との関係性強化です。そのため、営業担当者が東京まで赴き、直接打ち合わせも行っています。
梅野様:遠方への出張コストはかかりますが、信頼関係を築くためには必要な投資だと考えています。
東様:社内の営業体制についても独自の取り組みを行っており、ノルマは設けず、チームでの目標達成を重視する文化を築いています。個人の成績を競わせるのではなく、チーム全体で協力し合いながら目標を達成していく。この方が長期的に見て、お客様にとっても、社員にとっても良い結果を生むと信じています。
熊本、健軍、菊陽、福岡と複数拠点展開の戦略的意図は何でしょうか?
東様:複数拠点展開は、地域特性に応じたきめ細やかなサービス提供を実現するための戦略です。各拠点にはそれぞれ異なる特色と役割があります。
本社は、全体の統括機能に加えて、熊本市中心部エリアの物件管理を担っています。健軍店は東部エリア、菊陽店は菊池郡菊陽町周辺の新興住宅地エリアを担当しています。特に菊陽町は近年、大型商業施設の開業や人口増加により注目されているエリアです。
そして福岡支店の設置には特別な意味があります。福岡は九州最大の都市圏であり、九州全体の経済活動の中心地です。多くの企業の九州支社が福岡に集中しているため、法人営業の拠点として福岡支店を設置しました。ここから九州全域の企業様へのアプローチを行っています。
各拠点では地域の特性を熟知したスタッフが常駐し、その地域ならではのニーズに対応しています。例えば、学生向け物件が多いエリアでは学生のライフスタイルに合わせたサービスを、ファミリー層が多いエリアでは子育て世代のニーズに応じたサービスを提供するなど、地域密着型のきめ細やかな対応を心がけています。
TSMC効果と熊本不動産市場。変化する投資環境への対応力。
TSMC進出による熊本の不動産市場への影響をどう分析していますか?

東様:TSMC進出は熊本の不動産市場に革命的な変化をもたらしています。これほど大規模な海外企業の進出は熊本の歴史上初めてのことであり、市場に与えるインパクトは計り知れません。
まずポジティブな影響として、雇用創出効果が挙げられます。TSMC本体の雇用はもちろん、関連企業や協力会社の進出により、数万人規模の雇用創出が見込まれています。これにより賃貸需要が大幅に増加し、空室率の改善や家賃相場の上昇が期待されます。
また、海外からの駐在員や技術者の流入により、これまで熊本では限定的だった高級賃貸物件の需要も高まっています。外国人向けの設備やサービスを整えることで、新たな市場セグメントを開拓できる可能性があります。
一方で課題も深刻です。地価の急激な上昇により、新規の不動産投資のハードルが高くなっています。特に土地取得コストの上昇は、新築物件の供給を制約する要因となっており、需給バランスの悪化を招いています。
インフラ整備の遅れも懸念材料です。道路、公共交通機関、商業施設などの整備が需要の急増に追いついておらず、生活環境の改善が課題となっています。当社としては、これらの動向を注視しながら、中長期的な視点での事業戦略を構築しています。
地価高騰や建築費上昇など、現在直面している課題について教えてください。
東様:現在当社が直面している最大の課題は、地価や建築費の高騰に対し、家賃や仲介手数料を大幅に上げることができないというジレンマです。これは業界全体の問題でもありますが、特に熊本では顕著に現れています。
地価については、TSMC関連の土地需要により30-50%の上昇が見られるエリアもあります。しかし、入居者の所得水準がそれに比例して上がっているわけではないため、家賃設定には限界があります。建築費についても、資材価格の上昇や人手不足により20-30%のコストアップが常態化しています。
この状況に対する当社の対応策は複数あります。まず既存物件の価値向上によるリノベーション戦略です。築古物件でも適切なリノベーションを施すことで、新築に近い価値を提供し、相応の家賃設定を可能にしています。
次に運営効率の向上によるコスト削減です。『GMO賃貸DX オーナーアプリ』の導入により、管理業務の自動化・効率化を進め、人件費の抑制を図っています。また、メンテナンス業務の内製化により、外注コストの削減も実現しています。
さらに付加価値サービスの拡充により、家賃以外の収益源の確保にも取り組んでいます。清掃サービス、家具家電レンタル、インターネット環境整備など、入居者のニーズに応じたサービスを提供することで、総合的な収益性の向上を図っています。
第2工場の遅れによる一時的な空室増加への対応策はありますか?
東様:TSMC第2工場の建設遅れは、確かに短期的な需給バランスに影響を与えています。当初の予定では2024年後半から建設開始の予定でしたが、遅れが生じており、これに伴い一時的な空室率の上昇も見られます。しかし、当社ではこの状況を「調整期間」と捉え、むしろ準備を充実させる機会として活用しています。具体的な対応策は以下の通りです。
まず物件の競争力強化です。この期間を利用して、設備のアップグレード、内装のリニューアル、共用部分の改善など、物件価値の向上に集中的に投資しています。TSMC本格稼働時に備えて、より魅力的な物件に仕上げることで、競合物件との差別化を図っています。
次にマーケティング戦略の見直しです。従来の地元中心のアプローチから、関東・関西エリアへの情報発信を強化しています。TSMCやその関連企業の社員の多くは首都圏からの転勤者になると予想されるため、事前に情報を届けることで早期の契約獲得を目指しています。
また柔軟な契約条件の設定も行っています。短期契約や法人契約の条件を見直し、企業の人事異動スケジュールに合わせた契約開始時期の調整など、顧客のニーズに柔軟に対応できる体制を整えています。
最も重要なのは長期的視点を持つことです。一時的な空室増加は確かに収益に影響しますが、TSMC効果は今後10年、20年にわたって続くと予想されます。この短期的な調整期間を乗り越えて、持続的な成長を実現する基盤づくりに注力しています。
海外展開とDX推進。次世代の管理会社への変革。
台湾への海外展開について詳しくお聞かせください。

東様:海外展開については、台湾の不動産会社「奥村不動産」との業務提携を行っています。台湾人投資家の方々の日本不動産への関心が高まっている中で、信頼できるパートナーとして選んでいただけるよう取り組んでいます。

台湾人投資家向けの信頼構築のため、通訳を介した対応はもちろん、YouTubeチャンネルでの情報発信も始めています。動画で実際の物件や熊本の魅力を伝えることで、遠方の投資家の方々にも安心していただけるよう工夫しています。
中国語対応が可能なスタッフも採用し、今後は社員にも語学学習を促す予定です。グローバル化が進む中で、言語の壁を取り除くことは必須だと考えています。
DXの取り組み状況と今後の展望について教えてください。
▲株式会社アズマシティ開発 総務DX推進部 兼人事企画部 部長 吉武 泰洋 氏
東様:DXについては、現在『GMO賃貸DX オーナーアプリ』の導入を進めており、社内外の業務効率化とオーナー様との円滑なコミュニケーションを図っています。
特に注目しているのは、電話対応に代わってチャット機能を活用することです。迅速かつストレスの少ないやり取りを目指しており、オーナー様にとっても、私たちにとっても効率的なコミュニケーションが可能になります。
吉武様:社内体制としては、社員間のコミュニケーション強化にも力を入れています。部署ごとの情報共有や、社員同士の連携を促すような取り組み、たとえば誕生日会やランチ会、健康優良企業の取得なども行っています。
東様:業務の属人化を避けるために、定期的な人事異動も実施しており、各部署の業務理解を深めています。これにより、特定の人に依存することなく、組織全体でお客様をサポートできる体制を構築しています。
未来への挑戦。「質の高い管理会社」が目指すビジョン。
現在の課題と今後の目標について教えてください。

東様:将来的には、「質の高い管理会社」を目指していきたいと考えています。数ではなく、サービス品質と信頼で選ばれる会社にしていくため、社員一人ひとりが共存共栄の精神を持って取り組んでほしいと思っています。
不動産管理業界は、ともすれば価格競争に陥りがちですが、私たちは価格だけでなく、サービスの質で差別化を図っていきたい。オーナー様に「アズマシティ開発に任せて良かった」と心から思っていただけるような会社を目指しています。
そのためには、社員の成長も欠かせません。研修制度の充実はもちろん、海外展開に対応するための語学学習支援、DXに対応するためのITスキルの向上など、時代に対応できる人材育成に投資していきます。
創業35周年を迎えた今、次の35年に向けて新たなスタートを切る時期だと感じています。これまで築いてきた信頼を基盤に、さらに高いレベルのサービスを提供し続けていきたいですね。
まとめ

創業35周年の節目を迎えたアズマシティ開発。代表のお話からは、「1オーナー1担当制度」に象徴される顧客第一主義の経営姿勢と、TSMC効果に揺れる熊本市場を冷静に見据える経営者としての視点が印象的でした。海外展開やDX推進にも積極的に取り組みながら、最終的には「質の高い管理会社」として選ばれ続けることを目指すビジョン。地域密着でありながらグローバルな視野を持つ同社の取り組みに、地方不動産管理会社の新たな可能性を感じました。
本記事取材のインタビュイー様

株式会社アズマシティ開発
代表取締役社長 東 伸彦 氏
父が創業したアズマシティ開発の経営を22年間担う。大学卒業後、アズマシティ開発に入社。「1担当1オーナー制度」の導入やオーナー様との関係性強化、法人契約の拡大、台湾への海外展開など、創業35周年の節目に向けて積極的な改革を推進。「質の高い管理会社」を目指し、社員の成長とサービス品質の向上に注力している。
会社紹介
株式会社アズマシティ開発
https://www.azumacity.com/
株式会社アズマシティ開発は、熊本を拠点に35年の歴史を誇る不動産管理会社です。地域密着型の経営を基盤に、オーナー様1人に担当者1人をつける「1オーナー1担当制度」を導入し、きめ細やかなサービスを提供。法人契約にも強みを持ち、ソニーや東京エレクトロンなどの大手企業との取引実績を持っています。近年は台湾への海外展開やDX推進にも積極的に取り組み、「質の高い管理会社」を目指して進化を続けています。






