【リーダーインタビュー】 中村 和彦様|組織をけん引してきた実績で社内外の要職に就任。行政も巻き込み、街づくりまでも意識したサブリースを提案。

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。
今回お話を伺ったのは、「公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)」の副会長や、その会員である「サブリース事業者協議会」の会長も任されている中村和彦様です。これまでのキャリアや賃貸管理業界の現状、人口減少などの問題を打破するためのヒントについてお話しいただきました。
- 1会社を強く、大きくしてきたことが誇り。顧問の今も意見を求められ、毎日出社する。
- 1まずはご自身のキャリアについてお聞かせください。
- 1貴社の強みをどのようにお考えでしょうか?
- 1顧問になられた現在はどのような業務に携わっているのですか?
- 1どのように会社を運営されてきたのでしょうか?
- 2賃貸管理業界の発展と市場の適正化を目指す日管協。副会長として方向性を定め、参加各社を支援。
- 2実績が評価されて社外の機関でも要職を任されているのですね。
- 2日管協はどのような組織なのでしょうか?
- 2日管協の視点で、現在の賃貸住宅市場にはどんな問題があるとお感じですか?
- 3財務的に安定した企業のみが所属できるサブリース事業者協議会。国との橋渡し役として広く意見を募る。
- 3一方のサブリース事業者協議会はどのような団体ですか?
- 3協議会内におけるご自身の役割を教えてください。
- 4IT化の推進と顧客訪問の両立を。人口減少が進む日本で、サブリース成功のヒントは外国人の受け入れ。
- 4不動産金利が上昇する一方で円安を迎えています。この先、不動産マーケットはどうなるとお考えですか?
- 4社内のIT化はどのように進めているのでしょうか?
- 4オーナー様への提案営業で心がけていることはございますか?
- 4外国人の受け入れに成功するためのヒントを教えてください。
- 5まとめ
- 6本記事取材のインタビュイー様
会社を強く、大きくしてきたことが誇り。顧問の今も意見を求められ、毎日出社する。
まずはご自身のキャリアについてお聞かせください。
大学を卒業して「殖産住宅株式会社」に入社しました。その後28歳の時に休職し、コンストラクション・マネジメントのマスターコースを取得するため、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)に留学しました。
やがて、殖産住宅に戻ると不動産事業本部に配属され、各地の駅前の再開発や分譲地の造成を任されるようになりました。その後、殖産住宅の管理業務を担う「株式会社サン・ステップ」に異動し、現在の会社に至ります。
当時、当社のグループでは次々とアパートやマンションを建てていましたが、大手の中では珍しく賃貸管理会社を所有していませんでした。一方でサン・ステップは管理会社の先駆けであり、より大きく成長しようとしていたため、両者の思いがマッチした形です。私もこの頃から「不動産管理業務は巨大なビジネスになるだろう」と確信していましたね。
新卒からひと筋で当社の流れの中に身を置いてきたわけで、我ながら「長い間尽力し、組織をここまで立派に成長させた」と、誇りに思っています。
貴社の強みをどのようにお考えでしょうか?
賃貸管理業に携わる中、最も意識したのは「我々は地場産業である」ということです。それぞれの土地に密着し、農耕的なビジネスを展開させるのです。私も社内では「オーナー様や入居者様との距離感を無くそう。何でもすぐに相談してもらえる関係を築こう」と、絶えず言い続けてきましたね。
そんな経緯もあり、お客様の苦労を心から理解できることが弊社の特長だと思います。実際に我々は、建物の完成後から参入する管理会社とは異なり、物件を建築する段階からオーナー様と関わります。だから、マンションやアパートを建てる目的や意図も十分に把握した上で、管理業に臨めるのです。
顧問になられた現在はどのような業務に携わっているのですか?
以前とあまり変わりません。毎日出社し、物件の空室状況などもチェックした上で、全ての会議に出席しています。そして「問題は何か」「どの計画が遅れているのか」などと、アドバイスできるよう努めています。来客も多く、あえて従来の業務との違いを挙げるとすれば、数字的な責任を負わなくなったことぐらいでしょうか。とはいえ、いまだに組織の方向性について意見を求められる場面も多々あります。
専務として収益を10倍強にまで伸ばし、社員数も倍以上に増やした会社なので本当に愛着があります。かじ取りを任されてからは十数年にわたって一度も未達を出しておらず、そんな経験を買われて顧問に選ばれたのかもしれません。
どのように会社を運営されてきたのでしょうか?
賃貸管理のビジネスは、一気に崩壊する恐れはありませんが、その代わりに半年先や1年後の状況を読み解く力が強く求められます。大きなホームランは狙えなくても、目の前にある数字を基に、一つひとつジャッジしていくことが醍醐味ではないでしょうか。
例えばある地域で、その年の退去者が非常に多かったとします。すると翌年には、退去者は相当に減ると予測できますよね。数字は見えているので、そこに何をプラスして未来をどうカバーしていくのか、といった判断が重要になると思います。また、収益が安定している物件があれば、オーナー様に設備投資を提案して建物の競争力を高めるなど、俯瞰する力も不可欠でしょう。
そんな中でオーナー様が物件を手放すこともありますが、売却後にその事実を知るのと、あらかじめ相談を受けているのとでは雲泥の差があります。情報量と収益力は切っても切れない関係にあるので、やはり困った時に相談される会社であることが大切なのです。
賃貸管理業界の発展と市場の適正化を目指す日管協。副会長として方向性を定め、参加各社を支援。
実績が評価されて社外の機関でも要職を任されているのですね。
現在は日管協の副会長と、その会員であるサブリース事業者協議会の会長を務めています。前者は地場に根差した会社が多く、後者は大手企業が中心で、その共存共栄を進めることが私の役割だと感じています。
日管協はどのような組織なのでしょうか?
全国の賃貸管理会社や関連業者から成る団体で、主に業界の発展と市場の適正化を目的としています。入居者様の安全や安心を確保して快適な住環境を提供し、資産価値の維持・向上を図りながら、管理会社の社会的な役割を見いだし、地位確立を目指しているのです。
その中で私は副会長として、メンバーと共に日管協の方向性について話し合っています。賃貸管理業法や建設リサイクル法、2024年に改正予定の省エネ法などが業界を取り巻く中、地場の会社を中心とした日管協でも我々のような大手管理会社の意見が求められるようになりました。大手は業界全体の約3割に相当する450万戸を管理している上に、提案も先進的なので必要とされている気がします。
日管協の視点で、現在の賃貸住宅市場にはどんな問題があるとお感じですか?
最大の課題は人口減少でしょう。市場が狭まる中、省エネ法の改正で光熱費のコストダウンを強いられ、一方で入居者を確保するには物件の質向上が必須です。賃貸物件は収益を得るために造られ、単身者や転勤者が一時的に入居し、若い家族が分譲住宅を買うまでの“つなぎ”でもありますが、それでもクオリティを求めなければならないのです。
さすがにオーナー様も手が回らず、災害やセキュリティ対策も含めて管理会社に委託する傾向にあります。我々ももっと、賃貸物件がいかに安心できるのかをアピールする必要がありますね。
財務的に安定した企業のみが所属できるサブリース事業者協議会。国との橋渡し役として広く意見を募る。
一方のサブリース事業者協議会はどのような団体ですか?
物件を建ててサブリースで扱う大手企業が属しています。オーナー様の不要な仕事を引き受け、安定した収益をもたらすことが目的で、モラルや責任を重んじ、信頼できる企業できなければ所属できません。
特に昨今は、サブリースと称して物件を購入させるケースが増えています。しかも結果的に相場よりもかなり高額だったり、サービス提供会社に倒産のリスクがあったりもします。中には銀行やメディアが勧める商品もありますが、物件が売れなければ家賃保証もかなわず、破綻につながるのが目に見えています。
こうした流れに対抗すべく、高度な倫理感を持った業者を育成し、オーナー様も交えて適切な賃料を考えることが当協議会の大切な役割です。そのためにも、財務的に安定している会社でなければ参加を認められません。
実際に国もサブリース契約における建物の質を重視するようになり、賃貸住宅管理適正化法が生まれました。私たちとしても「本物のサブリースとは」「提供する会社の財務状況は」といった情報を発信する必要があると考えています。
協議会内におけるご自身の役割を教えてください。
所属する企業間の調整役でしょう。利己的な発想がまかり通らないよう、各社の足並みをそろえることに注力しています。適切なサブリースによって自社も他社も収益を得られるがゆえに、互いに存続できるという意識を共有できるよう努めていますね。
先ほど話した通り、賃貸管理業界に対する法的な規制が強まる中、協議会内で広く意見を集めて国に提言することも私の大切な役目です。譲歩できることとできないことを見極め、窓口としての役割を果たしたいものです。
IT化の推進と顧客訪問の両立を。人口減少が進む日本で、サブリース成功のヒントは外国人の受け入れ。
不動産金利が上昇する一方で円安を迎えています。この先、不動産マーケットはどうなるとお考えですか?
人々の給与が上がらず、従ってお金が家賃に回って来ず、ゼロ金利に近い状態が続くでしょう。社会の伸びと不動産マーケットの成長が等しくなる一方、土地価格が上昇したら物件を建てることも難しくなります。市場が出す答えに対して需要が落ち着いていくのかどうか、見守る必要がありますね。
どんなに材料費が高騰しても建築件数はゼロになりませんが、物件を建てる側の利回りが下がるため賃貸住宅は家賃を上げざるを得ないでしょう。従って高所得者向けの物件を建てるしか方策が無くなり、物件の質を向上させることが結果的な値上げにつながってしまいます。
社内のIT化はどのように進めているのでしょうか?
管理戸数が増加し、業界とのタイアップも強化する中、全社的な仕組みを再構築しているところです。独自のシステムとパッケージ製品を併用していて、社内には専門のエンジニアも在籍するなど積極的にIT化を進めています。
だから「GMO賃貸DX」などの新しい仕組みも、次々と取り入れていく予定です。管理業界が成長する中、今まであまり関わってこなかった企業からもアプローチを受けるようになり、私たちと異なる目線での提案に刺激を受けています。当社の個性に合わせたアレンジが加わることで、この組織はもっと変わる気がします。
ただ、アプリやシステムで業務が便利になる一方、人間同士の交流が減ってしまうことが気になります。地場産業である管理業では、人と会うことで新たな仕事が生まれるのが基本ですが、オンラインに頼り過ぎるとオーナー様が持っている本当に重要な情報を引き出せないかもしれません。
とはいえアプリは、不動産の情報を集めたり、記録したりするのにとても重宝します。また、管理している賃貸物件の話題に留まらず、周辺にある不動産の相場などを調べ、アプリ経由で発信することもできると思います。対面よりも頻繁にオーナー様と接触でき、プラスアルファの情報をやり取りできるのは大きなメリットですね。
オーナー様への提案営業で心がけていることはございますか?
オーナー様の物件だけを見て提案内容を決めないよう、私はよく社内で「周辺の物件がどう変わっているのかも調べるように」と伝えています。そうでなければ、時代遅れの提案になってしまうことも考えられますよね。
物件だけで判断するのは普通の提案で、周辺環境の変化や他社の状況を踏まえたものが、勝てる提案です。こうして社員の能力がアップすれば、マーケットに反応するスピードも上がり、各物件に対する思い入れやアイデアも質が上がって、結果的にオーナー様の安心につながります。だから私は、勉強にこだわっているのです。
あとは外国人の受け入れも重要です。日本は島国ゆえ、閉鎖的な考えのオーナー様も多いです。それをチャンスと捉え、高額な家賃ながらも外国人入居者を増やしている企業もあります。オーナー様が成功するための意識改革も、我々の重要な仕事ですね。
専門チームを設け、外国人留学生や労働者のための住環境を整えています。我々が担当するオーナー様の多くは地主系で、昔ながらの発想を持つ傾向にありますが、弊社が間に入ることで安心していただけます。やはり、サブリース事業者の大きな役割でしょう。私も留学経験があるのでよく分かりますが、外国人を受け入れるという点で日本は遅れていて、人口減少の中にもかかわらず日本人相手のビジネスしか考えられずにいます。
外国人の受け入れに成功するためのヒントを教えてください。
“いい外国人”を早く集めることでしょう。「類は友を呼ぶ」で、質の低い留学生や労働者は、同じようなレベルの仲間をその物件に招く可能性があります。真面目で勤勉な人が、同様に意識の高い友人や知人を集めてくれれば、それが最も有効なセキュリティになるのではないでしょうか。
さらに、組織的なサブリースを展開しているのは、日本ぐらいでしょう。この仕組みを、今まさに人口が増え続けている国に導入し、運営するのも良さそうです。海外に投資している日本企業からも大きな信頼を得られる気がします。
また外国企業の日本への誘致も、人の流れを変えることにつながります。雇用が生まれれば人も流入してくるので、地方自治体を巻き込んで街づくりまで考えるのです。
こうしたジョイントも管理業の面白みでしょう。建物を扱うだけで終わらず、実際に物流業にも進出した会社もあります。提案力と人を集めるノウハウを持ち、自社さえ良ければという発想から抜け出せれば、将来が見えてきます。
物件を建てて20年も30年も運営していくのか、あるいはすぐに販売して次の新しいものを追いかけるのか、という違いですね。何十年も住みたいと思えるような建物を提供するデベロッパーは今後も存続し、そうでない会社は淘汰される気がします。
まとめ
新卒で不動産業界の流れに身を置き、組織の強靭化に尽力する中村様。提案にあった「街づくりまでも視野に入れたサブリース」が浸透することで、不動産業界のさらなる発展が期待できるでしょう。
本記事取材のインタビュイー様
中村 和彦 氏
大学を卒業後、殖産住宅株式会社に入社。その後28歳の時に休職し、コンストラクション・マネジメントのマスターコースを取得するため、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)に留学。帰国後、殖産住宅に戻ると不動産事業本部に配属され、各地の駅前の再開発や分譲地の造成を担当。その後、殖産住宅の管理業務を担う「株式会社サン・ステップ」に異動、その後大手不動産会社へ。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 副会長。サブリース事業者協議会 会長。