アパートの経営をして相続税対策をするメリットや注意点を解説!
親から資産を譲り受けるときなどに、避けて通れないのが「相続税」です。
相続税は資産を現金で受け取ろうが、不動産のような『モノ』で受け取ろうが、納税の際は現金で支払わなくてはなりません。
そのため、アパートのように不動産を相続する際は、現金自体を相続するわけではないので、持ち合わせている現金の出費を抑えるためにも税金対策はしっかり覚えておきたいものです。
当記事には、『アパートを相続して経営すると相続税に対するメリットがあるのか?』という点に触れつつ、相続でお悩みの方が適切な判断ができるようにアパートの相続について解説します。
- 1アパート経営は相続税対策に効果があるのか
- 1現金と不動産の課税評価額の違い
- 1評価額が高い物件は相続税対策にならない
- 1どのくらい相続税の節税ができるのか
- 2アパート経営による相続税対策のメリット
- 2所有地の有効活用
- 2家賃収入を得られる
- 2マンションよりも経営のリスクが低い
- 2借入金は債務控除が適用
- 3アパート経営による相続税対策のデメリットと注意点
- 3維持費や修繕費がかかる
- 3空室による収入減少
- 3処分・売却などの自由度が低い
- 3地震・火事などの災害リスク
- 4相続税対策にアパート経営をするか迷ったときのポイント
- 4相続税の基礎控除の確認
- 4相続財産がどのくらいあるかを確認
- 4失敗の可能性も理解する
- 4アパート経営以外の節税方法も知る
- 5 まとめ
アパート経営は相続税対策に効果があるのか
▲写真はイメージです。
資産を相続する場合、不動産という形で相続すれば税金対策に大きな効果が見込めます。不動産が相続税対策になる理由は、不動産に対する資産価値の評価が現金と比べて低くなるからです。
具体的には、不動産の評価額は現金に比べて2~4割ほど低く評価されることがほとんどなので、低く評価される分それに対する税金も必然的に低くなります。
ただし、低く評価されているとしても不動産として相続した場合、税金の支払いは現金なので現時点での現金の持ち合わせと相談して不動産で相続するのか、現金にして相続するのかを検討することが必要です。
現金と不動産の課税評価額の違い
基本的に、現金を相続する場合、その現金に対する評価額は『100%』になります。(100万円の現金を相続した場合、100万円の評価額は100%で100万円)
それに対して、不動産で相続した場合、不動産に対する評価額は『60~80%』と、現金よりも低い額で評価されるという優遇処置があるので、相続税を節税することができます。
また、不動産の評価額が『60~80%』と曖昧に表記したのは、【宅地】と【家屋】では税金の計算方法が異なるのでそれぞれ別に計算をする必要があるからです。
【宅地と家屋の相続税について】
宅地 | 路線価、又は倍率方式(固定資産税評価額)をもとに算出する。路線価は基本的にその時の土地の時価(地価公示価格)の80%と決められている。
路線価で評価ができない場合は、固定資産税評価額の70%と決められている。 |
家屋 | 固定資産税の評価額をもとに算出する。基本的には時価の70%と決められている。 |
評価額が高い物件は相続税対策にならない
土地と家屋の評価額は100%ではなく一定の割合で引かれることから、不動産の相続は現金よりも税金対策として非常に有効な手段といえます。
しかし、例外としてこれから将来の相続時のためにアパートを購入して、相続対策をしようとしている方は購入金額に注意する必要があります。
基本的に、評価額が購入時の金額を上回ることはほとんどありませんが、駅チカや開発地区だと、まれに購入時よりも地価が爆上げしてしまい上回ってしまうことがあります。
そうなると、相続税対策のはずが結果として購入時の金額より支払う税金の方が高くなってしまい、結果的に赤字になるといった本末転倒な事態に陥る可能性があります。
したがって、将来的に評価額が上がってしまう可能性がないかのチェックだけはしておいた方がいいでしょう。
どのくらい相続税の節税ができるのか
具体的にどのくらい節税ができるのかというと、その時の家屋の状態・土地の価格にもよりますが、一般的に評価額は建築時の費用の60%程度になるとされているので、評価額が40%ほど落ちた状態の相続税で済ませることができます。
また、アパートを賃貸として運営している場合は、満室の状態であれば借家権割合が一律30%と定められているので評価額をそこからさらに抑えることが可能です。
加えて、もしアパートを建てる土地が200㎡までであれば、小規模宅地等の特例(※)が適用されて、評価額が50%も減少します。
(※)小規模宅地等の特例については、国税庁のホームページをご確認ください。
実際に特例まで活用できた場合、評価額を約60~80%減少させることができるので、それに合わせて減少した分、相続税の節税をすることが可能です。
アパート経営による相続税対策のメリット
不動産を相続するといっても、アパートであったり、居住用住宅であったりと様々な種類があります。
そのなかでも、収益物件として活用しているアパートを相続する場合は、他の不動産と比較しても相続時のメリットが大きいです。
【アパート経営による相続税対策のメリット】
- 所有地の有効活用ができる
- 家賃収入を得られる
- マンションよりも経営リスクが低い
- 借入金は債務控除が適用される
所有地の有効活用
土地をすでに所有をしている場合、更地の状態で相続してしまうと、現金と同じでその時期の地価が100%評価額として計算されてしまいます。そうなると節税対策の取りようがないので、そのままの相続税の金額に従うしかありません。
しかし、土地にアパートを立てて経営すれば、相続時に宅地・家屋の両方とも評価額が減少するので、節税対策としては非常に有効な手段です。また、アパートを経営していれば建設費用や維持費などは経費として計上できるので、その点でも節税対策が可能です。
家賃収入を得られる
アパートを経営していれば、すべて空室という状態でない限りは家賃収入を得ることができます。
そのため、相続時にかかった税金のことを含めても、十分回収できる利回りを見込めるので、長い目で見れば収益を得られることもメリットです。
また、アパート経営をしていれば光熱費や減価償却費を経費として計上できるので、収益を得ながら節税対策が可能です。
マンションよりも経営のリスクが低い
マンションと比較した場合、一番差が生まれるのは建設費用です。
例えば、50坪の土地にアパート・マンションを建設する場合の概算は、アパートで約5,000万円、マンション(3階建て)で約1億1,400万円です。そのため、建設時の費用を償却するにはマンションの方が長くかかってしまうリスクがあります。さらに、マンションの部屋数の方が多い分、空き家になるリスクが高いので、比較的アパートの方がリスクが低いと言えます。
アパート以上に建設費用を払って、相続税を加味しても将来的に償却できる見込みで運営ができるのであればマンションでも十分メリットがありますが、そうでない場合はアパートで節税対策をしつつの運営を検討した方がいいかもしれません。
借入金は債務控除が適用
相続時に借入金がある場合は、残額をそのまま相続税評価額からマイナスすることができます。
つまり、相続時にアパートの相続評価額が5,000万円で、借入金の残額が4,500万円あった場合は、5,000万円から4,500万円を引いた額の500万円が相続税を算出するための相続評価額となります。
【借入金の残額があった場合の相続評価額】
相続評価額=相続時の不動産の評価額 - 借入金
以上のことから、借入金は相続時に税金対策として大きな役割を果たすことがお分かりいただけるかと思います。
アパート経営による相続税対策のデメリットと注意点
当然ですが、アパート経営も相続税対策においてデメリットが存在します。少しでも出費を減らすために活用しているアパート経営も、維持費や空室のせいで余計な出費がかさんでしまっては本末転倒です。
そうならないためにも、アパート経営をする上でのデメリットを理解して、リスクを最小限に抑えることで安定したお金の循環を維持できるようにしましょう。
【アパート経営による相続対策のデメリット】
- 維持費や修繕費がかかる
- 空室による収入減少
- 処分・売却などの自由度が低い
- 地震・火事などの災害リスク
災害のような想定外の事態にも対応できるように、あらかじめデメリットを理解しておくことは非常に重要です。
維持費や修繕費がかかる
アパートに限らず不動産全般に言えることではありますが、築年数が5年・10年と経つにつれてあちこちと不具合が発生しはじめます。
こういった不具合に対する修繕費などは、基本的にアパートを経営している側(オーナー)が負担する必要があるので、長い目でみて維持費と修繕費は確保しておくことはマストです。
こういった維持費や修繕費は、経費で計上できますが、それでも税金の控除ができるだけで出費であることに変わりないので、アパート経営が順調に進んでいないと痛い出費になってしまいます。
空室による収入減少
不動産収入における1番の利点は、賃貸による家賃収入です。それが、空室により減少してしまうと維持費・修繕費を賄うための現金が確保できなくなってしまいます。
「まさか、自分の物件が空室で苦しむことなんてあるわけない」と考えていると、急に空室が増えてきた時に対応が遅れてしまうので、保険として空室ができた際に「まずはどうするか」を決めておくのが、いざというときに慌てずに済みます。
また、アパートの経営をする人も近年増えてきている一方で、少子高齢化が進んだことで賃貸物件の空室率も上昇しており、人口が多い東京でさえも空室率13%前後を推移しています。
つまり、東京では約10件に1件の空室がある状況となっているので、地方などで経営している場合はなおさら、どのように入居率を100%に近い状態を維持できるか検討することが必須といえるでしょう。
処分・売却などの自由度が低い
相続税対策としてアパート経営をしている場合、基本的に所在が開発地区などではない限りは物件の相続評価額は年々減少していく傾向にあります。
評価額の高い物件であれば入居率も高くなる傾向があるので家賃収入も上がる分、買い手が見つかりやすいです。しかし、その逆で評価額が低いと買い手が見つかりにくく売却がスムーズにできない可能性もあるため注意が必要です。
不動産屋に相談すれば、見積もりが出てすぐに売却へと行動を移せますが、一般の人に売却をするのに比べて、手数料などが引かれるため割安な売却価格で売却をすることになってしまうでしょう。
また、処分をするにしても処分費用が別途かかるため、出費はさけられません。不動産は簡単にぽんぽん売り買いできるようなものではないことを念頭に置いて経営をしていくことが大事です。
地震・火事などの災害リスク
日本でアパート経営をする以上、地震や家事などの災害と向き合う必要があります。
基本的に日本は耐震性・耐火性に優れた建物を作る技術に長けてはいますが、それでも想定外の大規模な地震などに耐えられる保証がありません。もし、災害で半壊・全壊になってしまった場合、大規模な修繕費・建築費が必要になってしまいます。
もちろん、火災保険に加入していれば修繕費を賄うことはできますが、修繕をしている間は入居者が仮住まいをする必要が出てきて、その間は家賃収入を請求することができなくなってしまうリスクを想定しなくてはなりません。
相続税対策にアパート経営をするか迷ったときのポイント
相続税対策をしようと思い立った時に、実際のところアパート経営は安い買い物ではないのでそれなりの決断が必要になります。
そんな時は、相続時に参考になるポイントをおさえておけば、本当にアパートを購入すべきかの判断がしやすくなります。
【相続税対策を検討している時に注目すべきポイント】
- 相続税の基礎控除額と相続財産のバランス
- 失敗することも見越した上で購入ができるか
- アパート経営以外の節税方法も調べたか
まずは以上の3つを確認することで、アパート経営という決断をするべきか適切な判断ができます。
正しい情報をおさえて、自分の状況を加味した上でアパート経営は検討してください。
相続税の基礎控除の確認
相続時に最低限押さえておきたい知識として、『基礎控除』があります。
基礎控除とは相続税対策を検討するのであれば、必ず活用しなければならない仕組みなので確認しておきましょう。
【相続税の基礎控除額計算方法】
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例えば、法定相続人が3人で相続財産が5,000万円だった場合は以下のように計算します。
相続税対象金額=5,000万円―3,000万円+(600万円×3)=200万円
この計算を元に、相続時にどのくらいの税金がかかるのかを計算することで、相続税対策としてアパートを経営するべきかどうかの判断をすることができます。
もし、上記の計算のように200万円が課税対象の金額だとした場合、現金をアパートにすることで評価額を落として相続財産を5,000万円から4,800万円まで減額することができれば、課税対象の金額がゼロになるので相続税をゼロにすることが可能です。
相続財産がどのくらいあるかを確認
相続時、相続した財産が基礎控除額を下回っていれば相続税を支払う必要はありません。
【相続税が掛からない計算式】
相続した財産<相続税の基礎控除額
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
これが成立する場合は相続税が一切かからないので、相続税対策のためだけにアパートを購入して経営を検討しているのであれば、無理に購入する必要はないでしょう。また、相続財産が基礎控除額を下回っている場合は、相続税の申告も不要です。
注意点として、自身の知らない財産を相続してしまっていて、それらを計算しなかった結果、後から請求がきてしまうことも考えられるので相続財産の見落としには充分気をつけてください。
過去3年以内に贈与された財産までは、相続財産としてみなされるので、生前贈与などがなかったか確認をしておきましょう。
失敗の可能性も理解する
相続税対策では失敗してしまうことももちろんあります。具体的には、「絶対にこんな場所にアパートを建てたところで誰も住まないだろ…」と思われているような土地にアパートを建ててしまうことです。
単純に、相続税対策という視点だけで見れば、現金を不動産に変えているので評価額も落ちて、請求される税金の金額は下がっているので税金対策にはなっています。
しかし、長い目で見るとそもそも誰も住まないような土地にアパートを建てて対策したところで、その後の収益性を見込めないので、気づけば赤字続きで結果として税金で多作した金額よりも余計な出費をしてしまったなんてこともありえます。
お金を節約するための相続税対策なのに、対策以上のお金を払ってしまった…。なんてことにならないように細心の注意を払いつつ相続税対策をすることが必要です。
アパート経営以外の節税方法も知る
税金大国である日本では、いかに税金を減らすかがお金を減らさないための重要なポイントだと考えられています。
もちろんアパート経営も税金対策の一つではありますが、そのほかにも知っておいて損はない税金対策がいくつもあるので確認してみてください。
【アパート経営以外の節税対策】
- 単純に不動産を購入する
アパート経営にこだわらずとも、不動産を購入するだけで相続評価額は現金より低くなるので、対策するという意味では十分効果が見込める対策の一つです。マイホームを検討している人にはおすすめの対策です。
- 生前贈与
生前贈与とは、生きている間に子や孫に財産を与えることで、年間110万円までは税金がかかりません。そのため、あらかじめ財産を贈与すると決めてからは毎年少しずつ贈与していくと税金がかからずに相続できます。
- 郊外から都心に引っ越す
路線価が高くない郊外から、路線価の高い都心部へ引っ越すことで、小規模宅地等の特例を生かして相続税を節税できます。
いかにして現金を不動産にしたり、早い段階で贈与してしまったりするかが、余計な税金をかけないためには重要なアクションとなってきます。
まとめ
アパート経営をすることは現金で相続するよりも、税金対策として大きな効果を発揮します。
しかし、節税になるからといって無闇にアパートを購入してはいけません。なぜなら、節税で余計な出費が減ったとしても、その後アパートで収益が見込めず赤字が続いては、総合的にみて損をしてしまう可能性が高くなるからです。
相続の際は、はじめに本当にアパート経営をする必要があるのかどうかを様々な節税方法と見比べて検討してください。
そして、最終的にただ相続するよりは、対策をすることで余計な出費が抑えられてお得であると判断できた場合のみアパート購入をすることをおすすめします。