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【リーダーインタビュー】中島 敦様|仕事は「戦い」。生産効率を徹底追及する、攻めの事業戦略とは

中島-敦

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。  

今回お話いただいたのは、株式会社第一不動産の代表取締役社長であり、全国賃貸管理ビジネス協会の監事・南関東ブロック役員でもある、中島 敦様です。弊社代表の鈴木がインタビュアーとなり、徹底して生産効率を追求する同社のビジネスモデルや、今の中島社長を創り上げた出来事などについてお聞きしました。  

目次

    もともと継ぐ気はなかった家業。父親の言葉が、決断のきっかけに。

    大学卒業後は地元・静岡で全く別の道へ進んだそうですね。

    第一不動産のサイトのトップページ

    引用元:株式会社第一不動産

    現在私は株式会社第一不動産の代表取締役社長を務めています。弊社は「人住み、人笑う」という経営理念のもと、静岡を拠点に不動産売買・賃貸の仲介や不動産管理、不動産コンサルタント業などを展開しています。  

    私は、いわゆる2代目社長です。弊社を創業したのは、私の父。父は才覚があったのか、当初わずか3人だった従業員を約10年で150人にまで増やし、目覚ましい勢いで会社の業績を伸ばしました。一方で私は、父と「“息子だから継ぐ”というのはやめよう」と約束していたので、もともと会社を継ぐ気はなかったんです。  

    ですから、大学卒業後は地元のリース会社に就職し、全く別の道を歩んでいました。しばらく静岡で働いた後に東京支社へ移動となり、統括も任されるようになるなど、忙しいながらも大変充実した毎日でした。  

    どのような経緯で、会社を継がれることになったのですか?

    Q.どのような経緯で、会社を継がれることになったのですか?

    ある時、東京支社から東北支社への転勤を打診され、「このまま東北でエリアマネージャー等になり、仕事人生を終えるのだろうな。でも、本当にそれで良いのだろうか…」と疑問が湧いてきたのです。  

    ちょうど同時期に、たまたま静岡に帰省したところ、父が“マンション管理士”の資格取得に向けて勉強している姿を目撃しました。ボソッと、「この資格は合格率7%なんだよ。お前には取れないだろうなぁ」と呟かれまして。  

    この言葉には、カチンときました(笑)。仕事に迷いが生まれていたこともあり、とりあえずこの資格を取ってやろうと。資格試験まであと2ヶ月というタイミングでしたが、毎日深夜2時に起きて猛勉強した結果、何とか合格できました。この時点で私はマンション管理士に加えて宅地建物取引士(宅建)も取得しており、かつ経理や営業の経験もあったので、「マンション管理の仕事ができるじゃないか」と転職を決意したわけです。  

    その後はすぐに、都内の大手マンション管理会社に転職しました。翌年、帰省したところ、父から「ずっと人のために働いていて、何か楽しいのか?」と問われましてね。さらに、「資格があるんだから、静岡に戻ってきてもマンション管理はできるだろう」と。

    その時に初めて、「静岡に戻る手もあるのか…」と父の会社を継ぐことを考えたのです。今考えると、この流れは父の戦略だったのかもしれません。まんまと乗せられてしまったわけです(笑)。

    お父様の言葉が、人生のターニングポイントになったわけですね。

    そうですね。このように紆余曲折を経て、父の会社を継ぐことになりました。ですが、本当に大変だったのはここからです。父の会社に入り数年でリーマンショックが発生し、それと同時期に父が病気で亡くなってしまいまして。継いで早々、大きな試練に直面したのです。  

    「会社をなんとか存続させなくては」と腹を括り、大きな組織改革を断行しました。その過程で、社員も160人から50人に減りました。これは、もの凄いスピードで改革を進めざるを得なかった、つまり会社の在り方が急激に変わったことも大きな要因です。変革した第一不動産に適応できる社員だけが残ってくれた、ということですね。  

    徹底して「生産効率」を追求した、大胆な組織改革。

    具体的には、どんな改革をされたのでしょうか?

    Q. 具体的には、どんな改革をされたのでしょうか?

    まず、無駄な事業が多かったので、事業内容を整理して規模を縮小しました。とにかく“長く続く会社”にしたかったのです。

    もちろん事業だけではなく“人”へのアプローチも必要ですから、「会社に必要な人材か否か」を判断するために社員一人ひとりの「損益計算書」を毎月作り、その社員がもたらす利益を可視化させました。つまり、保険料等も含むその社員に“掛かったコスト”と、その社員が“稼ぎ出した金額”を見えるようにしたわけです。

    ただし、職種によっては“稼ぎ出した金額”を出すことが難しい。そこで、その社員が日々行っている業務もきっちり見るように心がけ、掛かっているコスト以上の仕事ができているのかを、判断していきました。

    もちろん、社員の成果や会社にもたらすメリットは、数値だけでは図りきれません。しかし、まずは可能な限り数値化しないと判断指標が曖昧になってしまいます。「何となく会社に貢献できそうだな」という感覚的な判断は、指標として正しくはありませんからね。この取り組みは今でも実施しています。

    とても興味深い施策です。 そのほかには、どんな改革をされたのですか?

    もともと人によってできる仕事は限られていることを認識していたので、生産効率を上げることに注力しました。「少ない人員で回せるかどうか」を軸に、すべてのオペレーションを考えたわけです。  

    また、少ない人員で回すには“人の考え方”がしっかりしていることが大前提。そこで、教育にもかなり力を入れました。新人教育だけではなく、古参社員の再教育も含めてです。再教育は決して簡単ではありませんが、新人教育だけをしても仕方ない。新人をまとめるのは彼らですからね。

    「少ない人員で回すオペレーション」の、具体的な事例をお聞かせください。

    「少ない人員で回すオペレーション」の、具体的な事例をお聞かせください。

    例えば、現在も行っているものとして、「重要事項説明(重説)」はすべて外注にしています。重説は売上に繋がる業務ではないため、社内でやるのは非常に非効率だと考えています。そのため、2年ほど前から弊社では一度も実施していません。

    外注先は、求人情報サイトを通して「IT重説ができる宅建資格保有者」の募集をかけ、約30人と雇用契約を結んでいます。実際のオペレーションとしては、以下のような流れです。

    1. 外注先に重説のスケジュールをメールで送る
    2. 対応可能な方がいれば、Googleカレンダーに名前を書き込んで共有してもらう
    3. 名前が書かれた方に資料を共有し、予定日に実施してもらう

    コールセンターなどの外注はよく聞きますが、IT重説の外注は珍しいですね。

    そうですね。IT重説のほか、夜間の問い合わせも外注しています。

    また、これは外注ではありませんが、効率化のために「夜間の接客はしない」というルールも全社員に守ってもらっています。残業しないとできない業務はさせません。残業するような無理な働き方は社員の負担になるだけですし、生産効率が良いとは言えませんから。

    特に繁忙期は、社員からすると頑張って売上を上げたくなる。時間を気にせず、とことん数字を追いたくなります。しかし、「そんなことしなくて良いよ」と伝えています。繁忙期だからといってガムシャラに燃え尽きるような働き方をせずとも、日々の仕事にきちんと取り組んでもらえれば良いのです。なので、弊社は2019年から残業は発生していません。  

    長期休暇もかなり多めに取っているほうだと思います。冬季休暇は12月25日から。夏季休暇を取る8月は、みんな10日間くらいしか働きませんよ。  

    従業員のITリテラシーを高め、スピーディーな作業効率化を実現。

    休むべき時は、全力で休むと。

    おっしゃるとおりです。あとは、生産効率を上げるツールも積極的に導入しています。例えば、RPA(業務を代行・自動化するロボット)も最大限活用しており、現在社内で約180プログラムは動いています。実は、弊社ではRPAのシステムを自分たちで作っているのです。

    RPAを作り始めたのは、3~4年ほど前。当初はIT人材を雇おうかとも考えましたが、IT人材は技術的なノウハウは持っていても、不動産の現場の知識はない。個人的には、IT人材に現場のことを隅々まで教え込む時間がもったいなく感じまして。それなら、不動産の現場をよく知っている人間に、システム技術を身に着けてもらえば良いじゃないかと。  

    そこで、マクロの組み方やプログラムの作り方を、ある程度社員にマスターしてもらいました。最初は全くシステムの知識がなかった社員が、今ではRPAをサクサクと作っています。  

    社員は、どのようにRPAをマスターされたのですか?

    Q.社員は、どのようにRPAをマスターされたのですか?

    インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真右)

    まずは「WinActor」「UiPath」あたりの有名なRPAツールを導入し、「RPAとはどんなモノか」を試してもらいました。そこから、各々勉強してもらって。正直なところ、RPAは難しいものではないですから、やる気さえあれば誰でもマスターできると思います。  

    もちろん、私自身もマクロは平気で組めますし、データベースも使えます。ですので、社員がプログラムを作り始めたら一緒に確認し、失敗しそうなときは修正をかけています。  

    例えば、社員がロングプログラムを作り始めようとしたら、ショートプログラムに変更してもらいますね。そのほうが、どこでエラーが起きたのか即座に把握できますので。簡単なショートプログラムを何個も繋げれば良い、と考えています。  

    そもそもRPAは、「膨大なプログラムを創るため」ではなく「手間を軽減するため」に作るわけですので、そこまで凝った本格的なプログラムを作る必要はないのです。

    社内でRPAを自在に作れたら、事務作業の効率化が一気に進みますね。

    そうですね、RPAを使い始めてから事務職の社員が行う業務はほぼなくなりました。例えば「Webサイトを確認し、その日空室になった物件の一覧を出す」などの作業は、全てRPAにやらせています。あとは、在庫確認もそうです。  

    このような単純作業に人手を割くのは、非常にムダ。人が行わなければならない仕事以外は、すべてプログラムに任せれば良いと思っています。これが、収益力を高める一つのカギですね。

    社内のIT化は、どなたが中心に推進されているのですか?

    IT担当も置いていますが、基本的には私です。「新たなテックサービスはとりあえずすべて取り入れる」というよりも、信用できると確信できたテックサービスを、その信用が揺らがないかぎり使い続けています。

    ただ、最新のテックサービスの情報はいち早く仕入れていますよ。例えば、どこかでITイベントが開催されるとなれば、必ず私自身が出向く。今年の夏もまた大規模なイベントが開かれるようなので、見て回る予定です。

    他社のITサービスを導入する際もRPAが活躍していますね。データ移行のためのプログラムを作り、スムーズな導入に役立てています。  

    中島社長は、現在のテック業界の現状をどう捉えていますか?

    中島社長は、現在のテック業界の現状をどう捉えていますか?

    現状については、“業界のスタンダード”がない状態のまま、いろいろなサービスが乱立してしまっているという印象を受けます。各企業が好きに作っているような感覚とでも言いましょうか。そういう状態ですから、まずは市場のニーズをしっかりと把握してスタンダードを創り上げる、もしくは力のあるテック企業ができる限り早くサービスをまとめるべきではないかな、と。

    そうでないと、ゴチャゴチャした状態のサービスを、恐らく大手不動産フランチャイズなどが独自理論で“自社にとって便利なシステム”にまとめ上げてしまいかねません。そうしたシステムが一般化してしまうのは良くないよなぁと思うのです。  

    アプローチ次第でエリアを超えられるのが、今のネット社会。

    この先、人口減に伴う「管理戸数の減少」が予想されていますが、何か対策は打たれているのでしょうか?

    もちろん手は打っています。特に静岡の人口は今後確実に減っていくでしょうから、減っても生き残れる・競合他社に勝てる勝負をしていけば良いのです。

    これまでの不動産業は、基本的にローカルゲームでした。しかしネット社会が到来し、現在は少しアプローチを工夫すれば、ローカルじゃない勝負ができる。賃貸業であっても、エリアを超えられるのです。   ネットの活用方法によっては、攻めの営業ではなく“待ちの営業”を行う仕組みも作れる。詳しくは企業秘密にさせていただきますが(笑)、面白いなあと感じます。

    この業界はレッドオーシャンだとよく言われますが、そんなことはありません。まだまだブルーオーシャン。攻められるポイントはたくさんあります。各社どう工夫するかが、カギだと思いますよ。

    経験が未来に繋がる。「一番大切なもの」だけを守りながら、前に進めば良い。

    中島社長は、本も何冊か出版されています。これは「組織改革」のご経験をもとに執筆されたのですか?

    そうですね。当時は経営者としての覚悟を試されるような場面に多く直面しましたから、そういった経験から得た教訓やノウハウなどについて執筆しています。

    問題社員を一掃する劇的!組織改革引用元:Amazon

    なお、これは本には書いていませんが…実は当時、組織改革と同時に”別の戦い”にも身を置いていまして。父は亡くなる前に会社の株を私には一切譲ることなく、大勢の人にばらまいてしまったのです。「自分は死ぬ思いでこの会社を作ったのだから、おまえも同じくらいの努力をして株を集めてみろ」「それができないなら、社長の器じゃない」と。

    バラバラに散らばった株を買い戻すのは、非常に大変でした。買い取り請求権も何もなかったので、何とかして譲ってもらう以外に手段がないわけです。相続問題も絡んでいたので、相続についても猛勉強しましたし、途方もない労力とお金をかけましたね。  

    それでも買い戻さなければ、会社が空中分解してしまう。自分の人生がかかっていましたから、あらゆる手を尽くして文字通り必死で回収しました。これまで生きてきた中で、最も苦しい時期だったと振り返ってみても思います。

    凄いお話です。私だったら、父親を怨むような気持ちにもなってしまいそうですが…。

    正直、「なぜこんなことをしなければならないのだ」と父を怨みました(笑)。しかし、人生とは短いもの。“怒り”だけで人生を終えたくはありません。ですから、怒りと悔しさをバネにして孤軍奮闘しました。

    でも、今振り返ると父の言った通りだったのかな、とも思います。あの出来事があったからこそ、経営者としての力量や心構えを自分自身に問えたのかなと。

    当時の苦労を身体が覚えているので、今も出社するときは「仕事に来る」というより、「戦いに来る」感覚です。

    お父様から継がれたとはいえ、創業社長に近いようなバックグラウンドをお持ちだったのですね。

    取材を受ける中島敦氏

    そう言えるかもしれません。実は、いわゆる“修羅場”を経験していることから、現在さまざまな業界の二代目社長や相続で困っている方からご連絡いただき、ご相談に乗らせていただく機会も多いのです。「どのように壁を乗り越えれば良いのか」「どう生きていけば良いのか」と。

    このような方々に多いのが、周囲との関係性も含めてさまざまな鎖にがんじがらめになってしまっているケースです。その場合にお伝えしているのが、「家族だけ守りながら戦えば良い」ということ。他は全部捨てる覚悟で、前に進めば良い。家族も守れないのに他のモノを守れるわけがないのだから、とお話しています。

    結局、「すべて成功させたい」と考えるから、バランスが取れず悩んでしまう。要は、冷静な優先順位付けができなくなってしまっているのですよね。まずは腹を括って「何を一番優先するか」を決めない限り、いつまでも解決しないように思います。

    心に響きます。このアドバイスは、さまざまなお立場の方に当てはまりますね。

    ありがとうございます。これは私自身、肝に銘じてきたことです。当時の苦労があったからこそ、このようにさまざまな方のご相談に乗らせていただく機会や、著書の出版・セミナー開催の機会をいただけています。

    また、RPAも最初はただ自社のために取り組み始めたわけですが、現在さまざまな企業様からRPAの研修・外注のご依頼などをいただいており、“つながり”が増えています。

    経験が新たなご縁を呼び寄せ、未来につながっている。人生とはつくづくわからないものだな、面白いなぁと日々感じています。

    まとめ

    苦労を力に変え、県内屈指のリーディングカンパニーを築き上げた中島社長。生産効率を徹底追求し、先進的かつ大胆な取り組みを続けてきた一方で、“地域密着型”の企業として入居者・オーナーへの細やかな配慮も欠かしません。その優れたバランス感覚こそが、「地域に愛され続ける企業」作りの秘訣だと言えるのではないでしょうか。

    まとめ

    インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真左)

     

    本記事取材のインタビュイー様

    中島 敦氏
    株式会社第一不動産 代表取締役社長
    昭和39年静岡県生まれ。
    2002年、第一不動産グループ入社。
    2005年、株式会社第一不動産 取締役就任。
    2010年、株式会社第一不動産、代表取締役に就任。
    少数精鋭の経営にシフトし、利益を4倍にした。
    自身の経営戦略を基にしたセミナーが大好評となっている。

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