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【リーダーインタビュー】苗加充彦様|不動産×学生で道を切り拓いた、業界のアイデアマンに学ぶ発想

苗加不動産

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界を牽引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。

今回お話を伺ったのは、石川県金沢市にて不動産仲介・管理業を営む「株式会社 苗加(のうか)不動産」の代表取締役社長、苗加充彦様です。弊社代表の鈴木より、苗加不動産ならではのユニークな経営方針や、その独創的なアイデアの生み出し方などをお聞きしました。

目次

学生×不動産に舵を切り、事業が大きく成長

Q. まずは自己紹介をお願いします。

株式会社苗加不動産の代表取締役社長を務め、当社の前身となる「苗加商事」を父親から受け継ぎ14年が経ちました。

私が苗加商事へ入社したのは19歳の頃。当時は家族経営の小さな不動産会社でしたが、近隣競合とのテリトリーが分かれていたこともあり、順調に事業を展開していました。

ところがしばらくして、全国展開のフランチャイズ企業がうちのエリアにも勢力を伸ばしてきました。「このままでは淘汰される」「当社だけの強みを持たなければ」と強い危機感を覚え、生き残る方法を必死で考えたのです。

そこで取り組み始めたのが、学生特化型のサービスです。たまたま当社の営業エリアには、金沢大学の学生入居者が沢山いましたので、「学生さんにとって一番の不動産会社になろう」と経営方針を定めました。

Q. そこには勝算があったのでしょうか?

そこには勝算があったのでしょうか?

正直「絶対にいける」という確信があったわけではありません。ただ、元々学生さんと接する機会が多かったぶん、やり方を大きく変える必要はなかったですね。まずは見せ方を“学生専門の不動産会社”に変え、サービスの比重を少し工夫するだけで良かったので、舵を切りやすかったです。

また、当時ちょうど金沢大学の移転が決まっていたため、移転に合わせて大学のすぐ近くに支店を出せました。移転のタイミングの良さに加えて、当社に対する学生さんの口コミが広まったことにより、学生入居者は順調に増えていきました。  

苗加不動産

さらに、私が社長に就任したタイミングでリブランディングを行ったのです。社名変更とともに、より親しみやすいロゴマークに変え、「日本一マメな不動産屋」という明確な理念を掲げ、より一層、学生入居者向けのサービスを充実させていきました。

例えば、金沢大学と学生居住エリアを結ぶ「無料シャトルバス」やリーズナブルな価格設定の「入居者専用のカフェ」ですね。このような取り組みの結果、一人暮らしをしている金沢大学の学生の7割が当社の管理物件にお住まいいただくまでになりました。

顧客開拓に繋がったシャトルバス事業。

Q. 無料シャトルバスサービスを始められたきっかけを教えてください。

Q. バスサービスを始められたきっかけを教えてください。 引用元:株式会社苗加不動産

ある雪の日、バス停で震えながら路線バスを待っている学生さん達を見かけまして。冬場はバスに乗る人が増え、定員オーバーでなかなか乗れません。「毎朝寒くて可哀想だな、我々に何かできないだろうか…」と考えた末、無料シャトルバスサービスを思いつきました。

現在、80人乗りバスを3台走らせており、毎日多くの学生入居者にご利用いただいています。当社入居者向けのサービスパック「マメックスメンバーズクラブ」の会員証「マメックスカード 」をご提示いただくことで、自由に乗れる仕組みです。

なお、元々路線バスが通っていなかったルートに走らせたので、シャトルバスの走行ルート周辺エリアの物件の需要が高まり空室がなくなったのはもちろん、家賃も上がりました。その結果、そのエリアに土地を持っていたオーナーさんは新たにアパートを建ててくださいましたし、他の管理会社から当社に鞍替えされるオーナーさんも続出したのです。管理先を当社に変えるだけで、入居者が無料シャトルバスを利用できるようになるわけですから。

元々は「学生さんが少しでも楽になるように」との思いで始めたサービスでしたが、結果的に経営面でもプラスになりました。

Q.ある意味、新たな「道」を開拓されたと。そのぶん実現までのハードルも高そうです。

無料送迎バスは大きな自家用車のような扱いなので、走らせること自体は特に規制がなく、許可も要らないのです。バス停は道路に置けないので、走行ルート上に物件を所有しているオーナーさんにお願いして、敷地内に置かせてもらっていますね。

ただ、コスト面のハードルは確かに高いといえます。バス自体の価格はもちろん、日々人件費もガソリン代もかかりますから。ですので、バス事業のマイナスを補えるように、大きな収益が期待できる「ガス事業」を同時に始めました。さらに、バスの車体全面に社名やロゴをペイントし、広告媒体としても活用しています。

なお、通学時間帯から外れる昼間は、金沢大学の2つのキャンパス間を走らせています。当社のバスを見かけた大学の先生から、「学生や教職員のキャンパス間の移動用にバスを出してもらえないか」とお声が掛かりまして。

当社の学生入居者以外の方々にも、ご利用いただけるようにしたことがきっかけになり、大学内に当社の「サービスカウンター」を無料で設置させていただきました。

Q.国立大学内に、企業のカウンターが設置されている。凄いことですよね。

Q.国立大学内に、企業のカウンターが設置されている。凄いことですよね。

大学内には生協があるのでもちろん“客付け”は行っていませんが、大変ありがたいですね。カウンターがあるだけで独自化を図れます。

カウンターには平日朝から夕方までスタッフを一名置き、鍵の紛失・設備修理の依頼などの“困りごと”を解決する場所として稼働させています。

専用カフェで、コミュニティ創りも促進。

Q. 入居者専用のカフェは、どのようなきっかけで作られたのですか?

学生さんは、カフェやファーストフード店で勉強することが多いそうです。しかし、店には他のお客様も大勢いますから、後ろめたい気持ちもあり落ち着いて勉強ができないと聞きまして。それならゆったり過ごせて勉強にも集中できる場所を提供しようと思い、「マメックスメンバーズクラブ」会員専用のカフェ「ビーンズ」を作りました。

ビーンズ

このカフェは、“自宅のリビングのようにくつろげる空間”となるよう、広さにも内装にもこだわっています。ちなみに今回取材・撮影していただいているこの場所がビーンズですね。豊富なフード・ドリンクメニューを揃えており、モーニングセットが170円~と値段もリーズナブルです。

ご入店時には「マメックスカード」を提示してもらうのですが、実はこのカード、以下のようにランクアップしていく仕組みです。

  • ホワイト…紹介なしで入居された場合
  • グリーン…紹介で入居された場合/友人1人を紹介した場合
  • ゴールド…グリーンカードを持っている方が、友人1人を紹介した場合

「ホワイトカード」の方は全メニュー有料ですが、「グリーンカード」になるとモーニングメニューが無料。そして「ゴールドカード」になると、ご自身+同伴者1名までモーニング以外も無料(ワンオーダー)になります。

Q. 朝食無料のサービスは、保護者様も安心ですね。

そうですね、大変お喜びいただいているようです。今はコロナ禍で営業時間を平日朝昼のみに短縮しているものの、平均でも1日70名、多い日は100名前後と、多くの学生入居者が利用されていますよ。

なお、このカフェでは新入生歓迎会・外国語講座・着付け教室などのさまざまなイベントも開催しています。多彩な出会いや学びの場を提供することで、学生生活を謳歌するお手伝いができればなと。

このようなイベントは、学生さんの声をもとに実現することも多いですね。実は、当社は定期的に学生団体との食事会を開催していまして。複数の学生団体を招待して団体同士で交流・親睦を図ってもらいつつ、「今、何に困っているのか」「どんなサービスやイベントがあれば嬉しいか」などの声を収集しています。

Q. そのほかには、どのような学生入居者向けサービスがあるのですか?

Q.お話をお聞きしていると、苗加様は我々「メディア」側の考え方に近いですよね。サービスも物も、“情報をやり取りする手段・媒体”の一つとして捉えていらっしゃる。

例えば、当社ではほぼ全ての管理物件が無料インターネット設備を備えています。学生さんにとって、必須ですからね。インターネット付き物件の数は、恐らく当社が日本一ではないでしょうか。

当社がインターネット付き物件を展開し始めたのは、10年以上前。まだインターネット付き物件が非常に珍しかった時代です。

まず自社で所有している物件すべてをインターネット付きにしてみたところ、家賃を少し上げても高い入居率が維持できるようになりました。そこでオーナーさんにご提案し、ほぼ全ての管理物件がインターネット付きになりました。なお、その入居率を見て他管理会社から当社に鞍替えされるオーナーさんも結構いらっしゃり、管理物件が拡大するきっかけにもなったのです。

入居者・オーナーアプリ×「マメックスカード」の可能性。

Q. ITで言うと、今後取り入れたいテックサービスはありますか?

最近話題の入居者・オーナーアプリには興味があります。例えば、「マメックスカード」をアプリと連携させたりアプリに置き換えたりしても面白いかもしれませんね。

実はこのカードには、いろいろな機能が付いていまして。バス・カフェご利用時のために個人情報と連携しているほか、まだ全物件ではないものの、部屋の鍵もこのカードで開けられます。さらに、カードの提示により地域の200を超える提携店舗で特典も受けられます。店舗のジャンルは、グルメ・美容・レジャーとさまざまです。

これらはまさに、アプリでできることかなぁと。

Q.特典利用におけるデータ分析などはされているのですか?

残念ながら、まだそこまでできていません。アプリを活用して、「どんな傾向の入居者さんが、どんな店で特典を利用しているか」などのデータを得られたら面白いですよね。また、シンプルに特典情報をアプリで通知するのもアリですし。

可能性が色々と広がりそうです。ただ、なかなか当社にぴったりのアプリを探すのが難しい。一から開発すると大きなコストが掛かりますから、どんなアプリをどのように取り入れるのか検討中です。

アイデアの“種”は、常に頭の中に。

Q.お話をお聞きしていると、苗加様は我々「メディア」側の考え方に近いですよね。サービスも物も、“情報をやり取りする手段・媒体”の一つとして捉えていらっしゃる。

Q. そのほかには、どのような学生入居者向けサービスがあるのですか?

そうですね。それで言うと、情報発信の仕方は結構重視しているかもしれません。

例えば、当社がリブランディングを行った時は「新たなロゴをどうすればいち早く、かつ安価で周知させられるか」を考え抜きまして。結果、抜群にユニークな看板をあちこちへ設置することにしました。

まずは交番の横に『「苗加」を「なえか」と呼んだ人、タイホします。』という看板を建てたところ、かなりの反響がありましたよ(笑)。そこから、湯桶温泉(ゆわくおんせん)の近くには『湯桶温泉まで うさぎとびであと8時間。』という看板を建てたり、兼六園の近くには『兼六園まで ほふく前進であと5分』と建てたり。

クリエイターの方と組んで看板一つひとつの文言を変え、“その場所でしか成り立たない看板”にしました。

「ふざけ過ぎだ」とあちこちからかなり怒られたものの(笑)、広告としては大成功でしたね。看板の写真を集めてSNSにアップしてくださる方々が現れ、テレビや新聞でも取り上げられるようになり。一気に新たなロゴが根付いたように思います。

Q. そのように斬新なアイデアは、どのように生まれているのですか?

「何か面白いことができないかな」というのは、四六時中考えています。ですから、ちょっとした“アイデアの種”のようなモノは常に頭の中に溜まっていて。何かのタイミングで種同士が組み合わさって、明確な形になるような感覚ですね。

当社には、クリエイティブチームやマーケティング担当などは特にいません。ただ、リブランディング時にお世話になったブランディング企業の担当者が、後に「苗加不動産の仕事は楽しいから」と当社へ転職してきてくれたんです。なので、彼との雑談から良いアイデアが誕生することも多いです。あとは、飲み会の席で社員から面白いアイデアが出てくることも。

このようにして良いアイデアが生まれたら、まずはスピード感をもって実行することを大事にしています。やってみてダメだったら、止めれば良い。あの時やっておけばよかった、という後悔はしたくありませんから。

Q.御社がビジネスの参考にされている企業はありますか?

沢山ありますね。いろいろな不動産会社さんから受けた刺激・得たヒントも、アイデアのもとになっています。コロナ禍以前は、2ヶ月に一度は全国各地へ視察に行っていました。

賃貸業界には、情報を共有し合う文化があります。近隣の競合には明かさない情報でも、県をまたぐと教えてくれることが多い。もちろん当社も、視察に来てくださった企業には有益な情報をしっかり共有しています。

なお、これは「日管協」の塩見会長もおっしゃっていましたが、賃貸業界は昔から都心よりも地方のほうが元気であるように感じています。元々需要が高く入居率をキープしやすい東京とは異なり、地方では何かしらの工夫をしないと生き残れない。そのぶん、斬新なアイデアや取り組みが多く生まれるのでしょうね。

特に、福岡の勢いは凄いですよ。最近でいうと、福岡の老舗大手「三好不動産」さんが“LGBT”の住まいに関する取り組みを進めておられ、非常に勉強になります。我々も、いち早く取り組まなければなぁと。

時代に先行する姿勢とマメな仕事で、生き残りを図る。

Q.金沢大学近辺から、今後商圏を拡げていくご予定はありますか?

Q.金沢大学近辺から、今後商圏を拡げていくご予定はありますか?

はい。昨年は金沢市から手を広げ、小松市・野々市市のほうにも支店を出しました。いずれも大学があり、学生さんが多く住んでいますから。ただ、これらのエリアで当社の強みである“学生特化型のサービス”を展開するには、まだまだシェアが足りません。ここからが勝負ですね。

学生特化型のサービスは、やはりある程度学生のシェアを確保できていることが大前提です。例えばシャトルバスやカフェを始めた時は、一人暮らしをしている金沢大学生のうち、すでに5割が当社の入居者でした。そうでないと、サービスとして成り立たないのです。

まずは地道にシェアを増やすことから取り組み、少しずつ拡げていこうと思っています。

Q.今後の展望をお聞かせください。

賃貸管理・仲介の商圏エリア拡充に加え、土地/建物の売買仲介事業も拡大していこうと考えています。

また、現在当社が力を入れている「食事付きの学生マンション」も今後さらに増やしていく予定です。このマンションでは、専属の調理人が作った栄養満点の朝食・夕食を、共用ラウンジにて提供しています。加えて、家具家電をあらかじめ設置しているほか、入居者同士が仲良くなれる“交流の場”があるのも特徴です。

実は、他県の国立大学付近にはこのような食事付きマンションが結構あるのですが、金沢大学の周辺だけなかったのです。そこで、他社に先を越されてしまう前に数年前から取り組み始めたのですが、現在ようやく形になってきました。

Q.バス事業からしても、御社は「不動産」にとどまらず金沢の「街づくり」をされているように感じます。

そうですね。当社は、CSRを非常に重視しておりまして。店舗のセミナールームを地域住民に無料開放したり、金沢大学と共同で「無料健康相談室」を運営したり…と、地域とともに発展成長していけるようさまざまな活動を行っています。

なお、不動産業界は今後二極化すると言われていますよね。エリアごとに大きな不動産会社がいくつか残り、あとは淘汰されてしまうと。そんな中で生き残り発展成長を続けるには、これからますます進むであろうDXに正面から向き合い、さらにDXに対応できるだけの資金力を蓄えることも必須です。さまざまなテックサービスの導入にもコストが掛かりますし、“オンラインの部屋探し”で優位に立つためには膨大なネット広告費が必要ですから。

そのためにも当社は、時代についていくのではなく“時代に先行する”姿勢で挑戦を続け、そして「マメ」に顧客満足を追求しながら、日々邁進していこうと思っています。

まとめ

「不動産会社」という枠組みを超えて、多くの大学生の暮らしを支え、街づくりに貢献している苗加不動産。新しいアイデアを次々と形にしていく同社の大胆なビジネスモデルから、不動産事業の魅力や面白さを再発見できそうです。
まとめ

インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真右)

本記事取材のインタビュイー様

株式会社苗加不動産 代表取締役社長 苗加 充彦氏 1989年、苗加商事入社。2008年、同社の社長に就任。社長就任後は学生向け賃貸に商圏を絞り、学生の居住エリアと金沢大学をつなぐ、入居者無料の「マメバス」の運行や、入居者を紹介すると朝食が無料になる「カフェ・ビーンズ」の営業など、ユニークな経営を展開。“マメな不動産屋”をスローガンに掲げ、労苦をいとわず、地元に密着した経営を続けている。
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