退去時の原状回復費用の相場|負担の目安や具体例、トラブル対策も解説。
借りていた部屋を退去する際、借りたときと同じ状態に戻すことを『原状回復』と言います。原状回復では、一般的な生活で発生する汚れやキズに関する負担は請求されないものの、故意もしくは通常の生活で生まれないような汚れ・キズに対しては借主に請求が発生します。原状回復にかかる費用の負担額については貸主と借主の間で度々トラブルになりやすいので、相場感をしっかり把握しておくことをおすすめします。
当記事では、原状回復にかかる費用例とそれらに対するトラブルを起こさないための対策を解説します。退去をスムーズに進めるためにも把握しておきましょう。
- 1原状回復とは
- 2原状回復費用の相場
- 2アパート・マンションの原状回復費用の相場
- 2オフィス・店舗の原状回復費用の相場
- 3【部位別】原状回復費用の相場
- 4原状回復ガイドラインとは
- 5借主が負担すべき原状回復の範囲
- 6借主が負担すべき原状回復の具体例
- 6タバコのヤニ汚れや臭い、焦げ跡
- 6 ボードの張り替えが必要なほどのくぎやネジ穴
- 6 結露を放置したことによるカビやシミ
- 6 借主の不注意による雨の吹き込みなどによる色落ち
- 6 クロスの傷や落書き
- 6 借主の清掃が行き届かず派生した水回りの水垢、カビなど
- 6ドア、障子、網戸の傷や破損
- 6フローリング、畳、カーペットの傷や汚れ
- 7 貸主が負担すべき原状回復の範囲と具体例
- 7家電の裏の壁に付いた黒いシミ・電気ヤケ
- 7日照など自然現象によるフローリング・畳・壁紙の日焼け
- 7家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- 7下地ボードの張り替えが必要ない程度の画鋲やピンの穴
- 7ハウスクリーニング
- 8原状回復費用をめぐる借主と貸主のトラブルの例
- 8通常損耗や経年劣化など原状回復への認識違い
- 8借主の故意や過失の立証が難しい
- 8特約に関するトラブル
- 9原状回復費用でトラブルを起こさないための対策
- 9原状回復ガイドラインへの理解を深める
- 9特約の取り決めにおいて相互理解を深める
- 9入居・退去時の立会いチェックシートを作成
- 10原状回復費用を抑えるには借主への注意喚起やコミュニケーションが必要
- 11借主との良好な関係をキープする不動産テック
- 12まとめ
- 13この記事のポイント
原状回復とは
原状回復とは、賃貸借物件を退去する際に借主(入居者)が入居時の状態に戻すことをいいます。原状回復は借主が行う義務です。
借りた物件は借りたときの状態で返却するのが基本とされていますが、物件を入居時と全く同じ状態に戻すことは実際のところ不可能に近いでしょう。なぜなら、物件は時間の経過とともに劣化・損耗して、入居前と同じ状態で返却するのは物理的に難しいからです。
したがって、賃貸物件の場合、常識の範囲内で普通に使っていても損耗するもの(通常損耗)や、時間とともに劣化するもの(経年劣化)については借主に原状回復義務はないとされています。
関連記事:原状回復特約とは|特約を機能させるために必要な3つの要項と4つの基準
原状回復費用の相場
原状回復にかかる費用のほとんどはハウスクリーニング代です。ハウスクリーニング代の相場は部屋の間取りや広さによって変わるので、以下で紹介する条件別の費用相場を参考にしてください。
また、追加費用として汚れ具合、破損具合でさらに費用が増える可能性もあるため、もし業者にハウスクリーニングを依頼することになった場合は料金プランを問い合わせるようにしましょう。不動産会社がハウスクリーニングを代わりに手配してくれる場合、負担割合等は賃貸契約を結ぶ際に渡される契約書に詳細が書いてあるので自身で確認、もしくは問い合わせましょう。
アパート・マンションの原状回復費用の相場
居住用として借りていたアパート・マンションの原状回復にかかる費用は、居住年数・間取りで変わります。もちろん、同じ1LDKでも40㎡と50㎡では差が生まれてきますが、概ね相場と言われる費用を掴んでおけば目安としてかかる費用を予測することはできます。
また居住年数においては、約6~8年住むと建物自体が経年劣化によって破損したり汚れたりするので、長く済めば済むほど経年劣化も加味されて退去費用が少なくなる傾向があります。
【間取り別原状回復費用(目安)】
間取り | ハウスクリーニング費用 |
---|---|
1R・1K | 15,000~30,000円 |
1DK・1LDK | 20,000~40,000円 |
2DK・2LDK | 30,000~50,000円 |
3DK・3LDK | 50,000~80,000円 |
4DK・4LDK | 70,000円~ |
【居住年数別(目安)】
居住年数 | 原状回復費用 |
---|---|
~3年 | 約50,000円 |
4~6年 | 約60,000円 |
7~9年 | 約90,000円 |
10年以上 | 約110,000円 |
これらはあくまで、最低でもかかるとされる費用です。年数が増えるほど経年劣化と認められる部分が多くなりますが、経年劣化と認められない部分の汚れ・破損の度合いが大きくなるので、修繕にかかる費用が結局上乗せされて高くなってしまうこともあります。
任せる会社によっては何十万円といった費用を請求してくる場合もあるので、請求額が適切かどうか国民生活センターや消費者センターに相談するなどして、受け入れていい金額かどうか判断できるようにしておくことが大切です。
オフィス・店舗の原状回復費用の相場
居住用で借りているアパート・マンションと違って、オフィスとして借りている物件の原状回復費用は坪単価で計算されます。ビルの立地やグレードなどによって大きく費用は変わりますが、概ねオフィスの規模によって以下のような相場になると想定されます。
【規模別原状回復費用(目安)】
規模 | 原状回復費用(1坪あたり) |
---|---|
小規模オフィス(10坪未満) | 約20,000円 |
中規模オフィス(10~50坪) | 約30,000~50,000円 |
大規模オフィス(51坪以上) | 約100,000~200,000円 |
入居時にオフィスの景観を整えるために内装を変えたり、設備を変更したりした場合は廃棄にかかる費用なども追加でかかる可能性が高いので、表の金額以上にかかることを想定しなくてはいけません。
【部位別】原状回復費用の相場
原状回復を行う具体的な部位は以下の通りです。
- 壁のクロス張り替え
- 床・クッションフロア張り替え
- 水垢のカビのクリーニング
- キッチンの汚れのクリーニング
- 畳の表替え
- ドア鍵の交換
- 網戸張り替え
- ハウスクリーニング
部位別の原状回復費用の相場は概ね決められていますが、補修などに使う部材が入居当初と同じものではない場合もあるので、入居時に予測される原状回復費用と差が生まれる可能性は把握しておく必要があります。以下は部位別でまとめた原状回復費用です。
範囲 | 部位 | 単位 | 原状回復費用 |
壁 | 壁クロス | 1㎡あたり | 1,000~1,500円 ※グレードが低いクロス:750~800円 ※廃材処理代(別途):500~2,000円 |
床・クッションフロア | フローリング | 1畳あたり | 20,000~60,000円 |
カーペット・タイルカーペット | 8,000~15,000円 | ||
クッションフロア | 1,000~6,000円 | ||
水回り(水垢・カビ) | トイレ | 1回あたり | 7,000~15,000円 |
洗面所 | 7,000~10,000円 | ||
浴室 | 10,000~20,000円 | ||
キッチン | 10,000~25,000円 | ||
キッチン回り | レンジフード | 1回あたり | 15,000~20,000円 |
シンク回り | 15,000~20,000円 | ||
排水管薬剤洗浄 | 5,000~15,000円 | ||
キッチン全体 | 30,000~50,000円 | ||
畳 | 裏返し | 1畳あたり | 4,000円 |
表替え | 5,000円 | ||
新調 | 10,000~35,000円 | ||
ドア | 通常の鍵交換 | 1鍵あたり | 15,000円 |
オートロック付きの鍵交換 | 20,000~35,000円 | ||
網戸 | 網戸の張り替え | 1枚あたり | 2,000~5,000円 |
ハウスクリーニング | 換気扇・レンジフード | 1回あたり | 15,000円~ |
ガスコンロ・グリル | 10,000円~ | ||
エアコンクリーニング | 10,000円~ | ||
浴室クリーニング | 15,000円~ | ||
フローリングワックス | 1,000円/㎡ | ||
ベランダ清掃 | 15,000円~ |
原状回復ガイドラインとは
原状回復ガイドライン(正式名称は『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』)とは、賃貸住宅の退去時における原状回復に関するトラブルを未然に防ぐことを目的として策定されたガイドラインのことを言います。
ガイドラインが公表される以前は、原状回復費用の捉え方をめぐり多数のトラブルがありました。また、借主と貸主との間で、どこからどこまでが借主負担にあたるのか、その範囲は双方において見解の相違がありました。これらの動向を受け、国交省は『原状回復ガイドライン』を策定に至ったのです。
ガイドラインでは過去の裁判事例などを集約し、以下で示す範囲について明確に取りまとめています。
- 原状回復の定義
- 通常の使用の定義
- 経過年数の考慮
- 施行単位の範囲
ガイドラインに法的な拘束力はありませんが、これがあることによって借主の不利を軽減させることに繋がります。
参考:国土交通省|「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
借主が負担すべき原状回復の範囲
原状回復ガイドラインでは、原状回復について『原状回復とは、借主の居住、使用方法により発生した建物価値の減少のうち、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』と定義しています。
つまり、借主が負担すべき原状回復は以下のよう状況の場合であると考えられます。
- 故意
- 過失
- 善管注意義務違反 (善管注意義務:借りたものを適切に管理・保存して貸主に返す義務)
- 通常の使用方法に反する使用
通常の使用方法で生じた損耗は原状回復の範囲にあたらず、不注意により生じた損耗のみ負担しなくてはなりません。もし、特約の記載もなく正当な範囲外の請求をされた場合は、まず国民生活センターや消費者センターに相談にしましょう。
借主が負担すべき原状回復の具体例
原状回復ガイドラインの定義に基づいて、借主が負担すべきとされる原状回復は具体的に以下のような場合が当てはまります。
- タバコのヤニ汚れや臭い、焦げ跡
- ボードの張り替えが必要なほどの釘やネジ穴
- 借主の不注意による雨の吹込みなどによる色落ち
- クロスの傷や落書き
- 借主の清掃が行き届かず派生した水回りの水垢、カビなど
- ドア、障子、網戸の傷や破損
- フローリング、畳、カーペットの傷や汚れ
以上のことから、原状回復の費用を抑えるためには日頃から、過度な傷や汚れを付けないように意識することが大切であることがお分かりいただけるかと思います。『ベランダでタバコを吸う』『フローリングが傷つかないようにワックスを定期的に塗る』など、少しの意識が原状回復費用に大きく影響を及ぼすので、最後に後悔したくない方は意識しておくことをおすすめします。
タバコのヤニ汚れや臭い、焦げ跡
部屋の中でタバコを吸うと、ヤニによる汚れや臭いが壁に移ったり、誤ってタバコの灰を床に落として焦げ跡を付けてしまう恐れがあります。この場合は明らかな故意による損耗なので借主の負担です。
タバコによって損耗したカーペットやクロス、設備機器などはクリーニングする必要がありますが、クリーニングで対処できないほどの酷い損耗であれば、全面的に新しいものに取り換えなくてはいけません。そうなると、費用が高額になる可能性があります。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P22) |
ボードの張り替えが必要なほどのくぎやネジ穴
壁にくぎやネジによる穴を空けてしまった場合、通常の使用範囲を超えた使い方であるとみなされるため、原状回復は借主の負担です。くぎやネジは壁の表面に貼付しているクロスを突き破り、下地にあたる石膏ボードという部材まで貫通することが考えられるため、通常の使い方を越えた使用方法と捉えられます。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P22) |
結露を放置したことによるカビやシミ
結露を放置するとカビやシミの原因になります。カビやシミは日頃から掃除や手入れをしていれば防げるものです。しかし、その掃除・処理を怠れば、借主による原状回復義務と判断されてしまいます。結露の発生は建物の構造的な問題も考えられますが、部屋の使い方による部分の方が大きいので、しっかり対策しておくことが望まれます。また、カビやシミが壁や床の下地まで腐食する事態にもなりかねません。この場合、原状回復費用も割高となるため注意が必要です。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P22) |
借主の不注意による雨の吹き込みなどによる色落ち
雨が屋内に入るとフローリングや畳の色落ち、変色につながります。雨による建物や設備の劣化は自然現象と考えられます。しかし、戸締りを注意すれば防げたはずの損耗であれば、借主の責任です。
ガイドラインに基づくと、このような事例の場合は借主の『善管注意義務』の違反とされます。善管注意義務の『善管』とは『善良な管理者』を短くした言葉で、借主を指します。つまり、常識的に要求される程度の注意を払って生活しなければいけないという意味です。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P21) |
クロスの傷や落書き
ペットによるクロスのひっかき傷や子どもの落書きは通常の損耗とは認められません。ペットによる傷や子どもの落書きは買主や親がしつけることで防げますし、後始末次第では被害を抑えることが出来ることから故意による損耗と認識されてしまいます。
また、ペット飼育が認められない賃貸物件で飼育した場合、定められた目的の使い方に違反する『用法違反義務』とみなされ、借主へのさらなる負担が発生する可能性があります。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P24) |
借主の清掃が行き届かず派生した水回りの水垢、カビなど
清掃が行き届かずに水回りの水垢やカビなどが発生した場合、善管注意義務として借主に責任があるとみなされ故意の損耗として認識されます。水垢やカビはその都度掃除していれば防げるので、借主が本来すべきことを怠らずに日頃からきちんと掃除することが大切です。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P25) |
ドア、障子、網戸の傷や破損
ドアや障子、網戸といった建具の傷や破損も故意や過失、善管注意義務の違反であれば、借主が原状回復義務を負うことになります。ただし、賃貸借契約によっては、障子や網戸は故意でなく、経年劣化や自然損耗であっても借主の原状回復義務になるケースもあります。障子や網戸は電球と同様に賃貸借契約書において損耗品の扱いとなっていることが多いからです。このようなケースを『特約』として賃貸借契約の内容に盛り込む貸主もいます。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P27) |
フローリング、畳、カーペットの傷や汚れ
フローリングや畳、カーペットなどの傷や汚れは借主の日常的な手入れで防げる範囲とされているため、発生したものは原状回復義務が発生します。飲み物をこぼして汚れること自体は通常生活の一部として考えられていますが、それらはすぐに手入れをすれば綺麗に処理することが出来るものとされています。
また、引っ越し作業等で発生した床の傷なども通常生活の傷ではないので、業者に依頼をする場合は注意してもらうように言っておく必要があるでしょう。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P21) |
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P21) |
貸主が負担すべき原状回復の範囲と具体例
貸主が負担すべき原状回復の範囲を知っておけば、どの部分の汚れや傷までを負担すべきなのか把握しやすくなります。詳細は以下の通りです。
【原状回復義務が発生する範囲】
- 通常の住み方で発生するもの
- 建物の構造により発生するもの
- 自然災害により発生するもの
- 次の入居者確保のために行うもの
続いて、原状回復義務が発生する事象の具体例となります。
【具体例】
- 家電の裏の壁に付いた黒いシミ・電気ヤケ
- 日照など自然現象によるフローリング・畳・壁紙の日焼け
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- 下地ボードの張り替えが必要ない程度の画鋲(がびょう)やピンの穴
- ハウスクリーニング
貸主の原状回復範囲は、経年劣化と通常消耗した設備について負担すべきとされています。負担範囲を貸主と借主の間で明確にしておくことで、貸主は安心して貸し出すことが出来ますし、借主が意識的に傷や汚れを付けないようにしてくれる期待が見込めます。
家電の裏の壁に付いた黒いシミ・電気ヤケ
家電や家具などを配置すると背後の壁が黒ズミや電気ヤケで汚れます。黒ズミや電気ヤケも通常の暮らしの中で発生する汚れなので、貸主の原状回復義務と考えられます。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P22) |
日照など自然現象によるフローリング・畳・壁紙の日焼け
フローリングや畳、壁紙は外からの日差しに当たると変色します。日差しによる変色は自然現象によるものなので、貸主の原状回復義務となります。また、建物の構造上で日差しを避けることができずに日焼けしてしまうケースも同様です。
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家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
家具の設置により床やカーペットに設置跡がつくことは通常の生活であれば考え得る汚れなので通常の損耗として認識されます。ただし、家具の転倒や移動による床や壁への傷は故意の損耗として処理するので借主は注意が必要です。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P21) |
下地ボードの張り替えが必要ない程度の画鋲やピンの穴
下地のボードの張り替えが不要な程度の画鋲の穴は、通常の暮らしで発生する損耗なので貸主が負担します。ただし、カレンダーなどを取り付ける際に画びょうなどではなく釘やネジを使って深く穴をあけた場合は借主の負担となる可能性が高いです。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P23) |
ハウスクリーニング
ハウスクリーニングは、次の入居者を受け入れるために必ず行います。次の入居者を確保するためにも必要な貸主の業務の一つなので、貸主自らが負担して原状回復をしなくてはいけません。
引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(P25) |
原状回復費用をめぐる借主と貸主のトラブルの例
原状回復費用をめぐる借主と貸主のトラブルはよく発生します。具体的なトラブル内容は以下の通りです。
- 通常損耗や経年劣化など原状回復への認識違い
- 借主の故意や過失の立証が難しい
- 特約に関するトラブル
借主と貸主の間で原状回復についての話し合いや情報共有されていないと様々なトラブルを引き起こします。原状回復に関するトラブルは、悪化して裁判に発展する可能性もあるので、双方がしっかり自分事と捉えて原状回復について考えることが重要です。
通常損耗や経年劣化など原状回復への認識違い
借主と貸主の通常損耗や経年劣化の認識違いについて、借主は『通常損耗』と認識していても、貸主は『故意・過失』と認識し、双方の見解が一致しないことが多々あります。このような場合、借主側は「原状回復費用は払わない」と主張をしてトラブルに発展するケースが多いです。
通常消耗や経年劣化についてはガイドラインに記載されていますが、ガイドラインはあくまでも法的拘束力がないため、どの部分をどのくらい請求するといった判断は貸主の考え方次第です。そのため借主と認識に相違が出てしまい、請求の時になると借主側から予想より高すぎる金額が提示されてトラブルの要因になってしまいます。
借主の故意や過失の立証が難しい
貸主が借主に対し、故意や過失でできた損耗であると立証するには、証拠の提示が必要です。もし原状回復のためのチェックをしている時に、コーヒーをこぼした汚れやフローリングに傷があった場合、これらは借主のミスによって発生した損耗なので原状回復費用として請求できます。
しかし、借主が「この傷と汚れは入居した当初からついていたのですが…」と異議を唱えてきた場合、その傷や汚れを借主が付けたという証拠がないと正当な請求ができなくなります。こういった事態を防ぐためにも、入居前の物件の状態をしっかり把握して、退去時に揉めないように周到に準備しておくことが貸主側には求められます。
特約に関するトラブル
特約とは契約内容とは別の『特別な契約』のことです。賃貸借契約の特約とは、通常であれば貸主の原状回復範囲(経年劣化・通常消耗)を借主に負担させるケースを指します。
【特約で借主に原状回復費用を請求する場合の例】
- 退去後のクリーニング費用の負担
- 障子やふすまの張り替え費用の負担
- エアコンクリーニング費用の負担
上記以外にもさまざまなケースがありますが、この『特約』によって高額な原状回復費用を請求する貸主もいます。借主としては予想外の高額請求に納得がいかないため、トラブルに発展することも稀にあります。
原状回復費用でトラブルを起こさないための対策
原状回復費用のことでトラブルを起こさないためには、お互いの認識をすり合わせるだけでなく、原状回復自体についての知識を借主側にもしっかり理解してもらう必要があります。これらを実現するには以下の取り組みを進める事を推奨します。
【トラブルを起こさないための対策】
- 原状回復ガイドラインへの理解を深める
- 特約の取り決めにおいて相互理解を深める
- 入居・退去時の立会いチェックシートを作成
双方の原状回復に対する理解を高め、取り決めに対する内容をしっかりと知っておいてもらえるように説明することが貸主側には求められます。さらに、立ち合いチェックシートをうまく使うことでトラブルリスクを減らし、正当な請求をスムーズに実施できるようにしましょう。
原状回復ガイドラインへの理解を深める
原状回復ガイドラインは、原状回復費用の負担範囲における具体的ルールが決められています。借主と貸主の双方が理解を深めておけばトラブルを防ぐことにつながるでしょう。しかし、ガイドラインは法的拘束力がないためきちんと読んでいない貸主もいます。それにより、原状回復費用を求めたり、契約時の説明不足が原因でトラブルになってしまったりといったケースもあります。
原状回復の費用負担のトラブルは絶えず頻繁に起こっています。トラブルは双方にとって決して良いものではありません。そのため、ガイドラインの理解が何よりも真っ先に行うべきですね。原状回復ガイドラインについて詳しく解説している記事もありますので、チェックしてみてください。
関連記事:原状回復によるトラブルを防ぐには?入退去時に注意すべき点と揉めないためのポイント
特約の取り決めにおいて相互理解を深める
賃貸借契約における特約の内容は、借主が経年劣化や通常消耗分も全負担する項目を入れることが認められています。しかし、そういった特約は借主によっては受け入れられないこともあるので、入居が確定する前に事前に説明責任を果たして理解をしてもらう必要があります。
逆に説明した証拠を残しておけば、退去時に揉めるリスクを減らすことが出来ます。円滑に退去を進めてもらうためにも、必要な説明等は確実に行って、記録として残すようにしましょう。
入居・退去時の立会いチェックシートを作成
原状回復をめぐるトラブルは、入居時と退去時の損耗部分の確認が不十分であることが多いです。そのため、入居時にきちんと損耗箇所や発生時期を記録しておかないと、退去時にトラブルのもとになります。
そこでトラブルを未然に防ぐために、立ち合いチェックシートが役立ちます。チェックシートには部屋の損耗箇所について詳細に記しておきます。このチェックシートを作成する際は借主と貸主双方が立ち会いの上で十分に確認する必要があります。なお、損耗箇所については、より分かりやすくするために写真撮影しておくとグッドです。
原状回復費用を抑えるには借主への注意喚起やコミュニケーションが必要
貸主が常日頃から注意喚起を行うことで、借主に意識的に部屋を保全するように促します。部屋の状態が維持されれば貸主としてもストレスが無く貸し出すことが出来るので、借主との良好な関係を築きやすいです。良好な関係が築ければ、部屋に何らかの問題があっても、貸主に相談がしやすくなって問題に対する解決がスムーズに図れます。
トラブルが発生してしまう一番の要因は、借主と貸主のお互いの理解が不足している点にあります。まずは、日頃からコミュニケーションをとることで気軽に話せる距離間をつくる意識を持ちましょう。
借主との良好な関係をキープする不動産テック
借主と貸主の間では様々なトラブルが生じます。それらを解決する手段として不動産テックの活用があります。不動産テックとは、テクノロジーの力を借りて不動産業界の課題や商習慣を変えようとする取り組みのことです。
借主と貸主が不動産テックを通じてつながることで、スムーズな連携が図れます。例えば夜間に借主が部屋の設備に不具合が起きても、アプリなどを使えば時間帯を気にせず、すぐに連絡を入れることができるでしょう。
不動産テックを上手く活用していくことで、円滑なコミュニケーションを築き、トラブルを未然に防ぐことができる可能性を秘めています。
まとめ
原状回復は退去時に借主が家を入居時の状態に戻すことをいいます。原状回復において、借主が故意に傷つけた部分や特約で指定された部分の負担は借主が負担をするのが一般的です。しかし、負担する部分の判断は単純ではないので、貸主と借主の間でトラブルになることもあります。
こういったトラブルを防ぐために『原状回復ガイドライン』というのがあり、貸主はガイドラインに沿って原状回復を実施することで借主と揉める可能性を軽減させることができます。
しかし、ガイドラインに沿って実施したにもかかわらず、不当であるとクレームをつけてくるケースもあります。クレームに発展すると訴訟にまで至る可能性があるので、できれば避けたいですね。訴訟にまで至らないようにするには貸主と借主の関係性を良好に保つことが重要なので、日頃からタイミングが合えば意識的にコミュニケーションを増やしていきましょう。
また、良好な関係性を築くには不動産テックの活用がカギを握ります。直接会ってコミュニケーションが取りづらい時代だからこそ、気軽に連絡が取れる「GMO賃貸DX」のようなアプリを検討してみてはいかがでしょうか?
この記事のポイント
- 原状回復の費用の相場は、住居と店舗の違い、間取り、広さなどで異なる
原状回復をする物件がアパートやマンションなのか、またはオフィスや店舗なのかによって内容が変わってくることに伴って費用も変わってきます。他にも広くなるほど、居住年数が増えるほど、費用は高くなってくるので、部屋の部位別の相場も確認しながら調べてみましょう。
- 借と貸主が負担すべき原状回復は国交省のガイドラインで決まっている
タバコのヤニ汚れや、臭い結露を放置したことによるカビやシミ、クロスの傷や落書きなど借主が負担するべき原状回復の部位は、日頃の掃除やメンテナンスで補えることも多いです。また、貸主が負担するべき原状回復の部位は、電気ヤケや家具設置によるへこみなど、生活の中で生じてしまう部分です。この違いを理解しておくと良いでしょう。
- 原状回復費用でトラブルを起こさないためには、ガイドラインを踏まえた上で明文化すること
原状復帰費用をめぐってのトラブルは多く、記事でも事例を紹介しています。双方が原状復帰のガイドラインへの理解を深めたうえで、入居時と退去時の立会いチェックシートを活用したり、お互い納得の上特約に明記したりすることで、トラブルを回避できます。