お問い合わせ
取材記事Interview

【リーダーインタビュー】高橋 幸一郎様|人口減少による不動産価値の下落を防ぐ「鍵」は外国人。入居可能な物件の開拓を通じて滞在、就労、結婚、定住までサポートしたい。

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。

今回お話を伺ったのは、株式会社KACHIAL(カチアル)の代表取締役社長である高橋 幸一郎様です。日本の人口減少が深刻な問題となる中、外国人を招いて観光、生活、就業の機会を提供することが解決につながると考える高橋様に、現在の取り組みや今後のビジョン、そして不動産DXにおける課題などについてお話しいただきました。

目次

38歳で介護業界から不動産業界へ。「民泊」という言葉が無かった時代に、貸す人・借りる人のマッチングを開始。

初めに、不動産業界に飛び込まれた経緯や理由をお聞かせください。

大学卒業後、新卒で大手外資系ITコンサルティング会社に入り、高齢者介護施設の立ち上げなどを経験しました。その後は医療系コンサルタント企業を経て2006年に29歳で独立し、計9カ所の高齢者介護施設を運営していました。

それから9年が過ぎた頃、突然父に呼び出されました。「不動産を勉強するように!私が経営する会社のグループに『株式会社ハウジング恒産(現KACHIAL)』という企業があるから、副社長として就任しなさい!」と、何とも強引な提案(指示?)でしたね。

当時の私は38歳。「この年齢で全く経験の無い業界に携わり、新たに勉強する機会は万人には与えられないかもしれない……、面白そうだ」と、しばらく考えることにしました。やがて父に「自身で経営している会社もあるので毎日は顔を出せませんが、よろしいですか?」と確認し、了承を得て、週1回の管理職会議に出席することから関わり始めました。

最初の頃は会議に出ても商習慣どころか、業界用語さえ分かりませんでした。「このままでは私のバリューを出せないだろう」と感じて、仕事の合間に週1日のペースで専門学校に通い、宅建の資格を取りました。

そんな中、私は築20年の中古賃貸物件を15戸保有していたこともあり、ある「空室対策のリノベーションセミナー」に出席しました。その講師と仲良くなり、ひょんなことから「私が師と仰ぐ方の勉強会に、一緒に行きませんか?」と誘われ、参加したのが「Airbnb(エアビーアンドビー)を活用した1泊単位での物件の貸し方」でした。

Airbnbといえば「所有する物件を貸したい人」と、旅先などで「物件を借りて滞在したい人」をつなげる世界最大級のバケーションレンタルサービスです。後に「民泊」と呼ばれる仕組みですね。当時は駆け出しの手法だったので強く惹かれました。

その頃の当社は、オーナー様からマスターリースした物件を一般消費者などに転貸する、いわゆるサブリース(一括借り上げ)を主要ビジネスとしていました。さっそく管理職会議で「Airbnbを使って物件を活用しませんか?」と提案したところ、無事に受け入れられ、テストランからスタートすることになりました。ここから私の本格的な不動産キャリアが始まります。

従業員が毎日「価値ある」と口にする職場。不動産オーナーや入居者に対する「プラットフォーマー」を目指して。

2020年に社名を「株式会社ハウジング恒産」から「株式会社KACHIAL」に変更されました。どのような思いを込められたのですか?

前提として「当社はハウジング産業にこだわらなくてもいいだろう」との考えがありました。また「KACHIAL」は「世の中に対して『価値ある』存在でいたい。その思いを共有できるチームであろう」という、目標や期待を込めて付けました。

背景には、私が新卒で入った外資系ITコンサル会社での経験があります。ここでは常日頃からチーム内で、あいさつ代わりに「高橋君、バリュー出してる?」といった声掛けが行われていました。

その影響で私は「バリューって価値のこと?バリューを出すって何?今の自分はバリューを出せているの?クライアントやチームから期待されるバリューは出せていないよね!一刻も早く『高橋君はバリューあるね!』と言われたい……」と、葛藤する毎日を過ごしました。もはやトラウマですよね(笑)。

しかしこの経験や葛藤が、新たなスタートを切る新会社の新社名を検討するのに役立ちました。「高橋君、バリュー出してる?」が「今の自分はバリューを出している!」になり「バリューって価値があること?」が「カチアル??」を想起させたのでしょうね。

そしてブランディング会社に40程度の社名候補を挙げてもらい、最終段階まで残った7つに対して全社員にアンケートを実施しました。しかし私は、どうしても「カチアル」という韻(いん)が頭から離れませんでした。結局、自分の意見を通してしまいましたね(汗)。

社名は、どの社員も毎日のように発します。つまり当社では、電話口での応答や自己紹介において、あるいは見積書や契約書などの書面でも、必ず「KACHIAL(価値ある)」という言葉が登場することになるのです。

私は古風な一面もあり「言霊(ことだま)」の力を信じています。初めは何となく仕事をしている社員も、常に「価値ある〇〇です」と口にすることで「価値を出すこと」を意識できるチームにしたかったのです。

新型コロナウイルスおよび物価高や原材料費高騰の影響でビジネスに変化が求められる中、強く意識されていることは何ですか?

仕事」と「作業」を明確に分け、生産性を上げていくことです。両者の違いは「付加価値」にあり、前者は高く、後者は低いと考えられます。

また、生産性の向上は2つの側面を持ち合わせます。「より低いコストでサービスを作る」と「それをより高く売る」ですね。こうして競争力の高いチームが形成されていくと思っています。

いずれの業界でも競争力の源泉は「人」です。優秀な人財をリクルートし、能力を発揮し続けてもらうには、それぞれに適した舞台が必要です。魅力ある待遇やホワイトな就業環境だけでなく、ワクワクする仕事内容やリスペクトできる仲間や上司も一因となるでしょう。

しかし、不動産賃貸管理業界は元来、24時間365日体制で入居者様のより良い生活をサポートするという「大義名分」の下で、つまらない仕事に、長い時間をかけて、低い待遇で取り組むのが当たり前でした。

そんな業界に、将来有望な人財が大志や夢を抱き、門を叩いてくれるわけがありませんよね。だからこそ「どの会社も人手不足で大変になるだろう」との発想に至った次第です。今の時代、コールセンターや業務アウトソース受託会社などが数多く存在するので「だったら、その逆をいけばいい」と考えています。そのためにDXや外部リソースを効率的に組み合わせ、ベストプラクティスの実践を目指しているのです。

貴社では不動産の収益最大化に向けてリノベーション事業を展開し、既存物件の価値を高めています。実際にオーナー様からも同様のニーズが多いのでしょうか?

時代の移ろいと共に、当然ながら入居者様が望む居住空間も変化します。ニーズやウォンツ、ライクに合致した物件であれば市場競争力が生じ、強気の家賃設定が可能でしょう。対して20年前から変わらない間取りや設備、デザインでは家賃下落を免れません。

だからこそ私たちは、オーナー様から物件所在地における市場の求めに合った部屋作りを期待されているのです。さらに、完成後の収益力にも満足いただけているのだと認識しています。

なお、リノベーションに投じた費用は「引き上げることができたプラスアルファの家賃」で適切な利回りが期待できます。そのため「物件に投資しても損をする」とは考えにくいのです。

既存サービスのブラッシュアップや新サービスの構想があればお聞かせください。

私たちは入居者様やオーナー様への「プラットフォーマー」であろうとしています。賃貸物件に住まう方々に喜ばれるサービスは数年単位で変化するため、だからこそ、その在り方に合わせた改善や追加があるべきだと考えています。

また、入居者様から求められるサービスは要求が増え、レベルが高まり、一方でオーナー様が個人で対応できる領域はどんどん狭まっています。私たちのようなプロフェッショナルに対してフィーを支払うほうが、経済合理性も高いですよね。

その中で当社は、世帯主様の勤務先や年収、同居者様の年齢などの他、自動車、バイク、自転車、ペットの有無を含め、入居各世帯の詳細情報を有しています。従って各種保険の販売や、ライフステージごとの有用なサービスを提案できる立ち位置にあり、このアドバンテージをしっかりと活用していくつもりです。

そのためのCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)は確実に構築していきたいですね。

日本の人口減少を憂い、外国人のための物件紹介を本格化。受け入れに賛同するパートナーを募集中。

貴社が提供している「Mooovin(ムービン)」とは、どんなサービスでしょうか?

日本に住みたいと思っている外国の方々が、海外にいながらもオンラインで「外国人が入居できる賃貸物件」を探し、申し込み、契約できるサービスです。物件の検索からクレジットカードによる決済までを一気通貫で提供しています。

痒い所に手が届く画期的なサービスですが、どのように着想を得て立ち上げられたのでしょうか?

かねてから「外国人が入居可能な物件をデータベース上で探しても、なかなか見つからない」と困ってしまっていたことが1つ目の背景です。

もともと当社では、外国人留学生向けに賃貸仲介事業を手掛けていました。しかし、国籍を理由に入居を断られるケースが非常に多く、許可してくれる物件を探そうにも、管理会社に一軒ずつ電話するしかありませんでした。結果として、日本人の物件を探すのに比べて5~10倍の手間がかかっていましたね。

そもそも昔は外国人向け物件の分母が小さく「住める」という時点で価値が高かったです。分かりやすく言うと、以前は何かを買うのに都市部へ出向いていましたが、現在はEC(電子商取引)や物流が発達して人里離れた場所でもすぐ手に入りますよね。賃貸物件も同様で、従来は外国人向け物件を探してくれる業者を知っておく必要がありましたが、今はメディアにアクセスすれば物件の概要が分かるようになりました。

2つ目は、こうしたサービスに対するニーズを感じ取れたことです。私は15年にわたり介護の世界にいて、業界では当時からベトナム人を中心に、数多くの技能実習生を受け入れてきました。ある日、その頃の部下から連絡があり「来月にもベトナムから実習生が来るのに、まだ住む家が見つかっていないので助けてほしい」と依頼され「このような困り事は他にもあるはず。解決をサポートしたい」と思い付きました。ちなみにこの時「全国の高齢者介護施設でも同様のニーズがあるだろう」との確信も得ましたね。

3つ目は、日本全国で発生している空き家問題です。2008年をピークに人口が減少していく中で、住宅の供給過多が予測されています。そのための解決策の一つが「外国人を積極的に受け入れていく」ではないでしょうか。ますます深刻化する「働き手不足」という社会課題に対しても、外国人との共存・共栄は必要不可欠です。賃貸不動産管理に携わる私たちこそ、その一翼を担うべきだと考えています。

最後に、サービス実現のポイントとなる「『Mooovin』に物件を掲載してくれる会社へのアプローチ」が可能だと判断できた点も後押しになりましたね。

このプロジェクトに、わずか数社が賛同しただけでは、大きな社会課題の解決には程遠いです。しかし、当社も所属する「全国賃貸管理ビジネス協会」のネットワークを活用できることが分かりましたね。会員企業は約1,900社で、物件掲載の鍵となる賃貸管理会社にも十分にアピールできると判断したため、サービスの実現を目指すことに決めました。

海外の方が日本で部屋を借りる際のハードルをどのようにお考えですか?

まず日本では、外国人に対する古くからの偏見や拒否感があります。

日本は世界的にもまれな「植民地化」を経験していない国家であり、単一民族による単一言語と単一文化という歴史的特徴を持っています。そのため、日常生活において外国人との触れ合いが少なく、どうしても彼らに対する偏見や拒否感が強くなりがちです。例えばニュースでも、日本人と外国人が同程度の事件を起こした場合、後者は大事(おおごと)として報道される傾向にあります。「やっぱり外国人だから……」とマスメディアがあおることで「彼らは危険だ」という誤った偏見へと、誘導されている気がします。冷静になれば「外国人=危険ではない」と理解できるのに、感情的には同様に捉えることが難しくなっているのです。

また、日本は道徳教育が非常に進んでいるため「細かいことを伝えなくても分かるよね」という、暗黙の了解が存在します。「言葉にしなくても常識的にこうでしょ」とコミュニケーションを端折る文化があり、実際にトラブルの元にもなっていますよね。

例えば「夜間は静かに生活する」や「ゴミは分別する」などは日本特有かもしれません。それを理解できない外国人に「入居してほしくない」という気持ちも分かりますが、それをサポートすべきは管理会社ではないでしょうか。プロとして近隣住民との融和を創出する「役割」を、これまでも、そして今後も果たしていく必要があると感じています。

加えて、賃貸借契約において「連帯保証人」を必要とする日本の商習慣が、障害になっているのも事実です。この点はトレンドとして、家賃債務保証会社がサービス対象を外国人にも広げているため、少しずつ改善すると期待しています。

「Mooovin」をローンチするにあたり、障壁などはございましたか?

ビジネスプランニングの段階では、必要な機能として「電子契約」「ビデオミーティング」「オンラインでクレジット決済できる家賃保証」などが挙がりました。そのため約10社によるコンソーシアム(複数企業が共同で1つのサービスを取引すること)を作りましたが、メンバーが定期的に集まり、方向性を調整するのが大変でしたね。

幸いにも各自の思いが一致していたので早期の実現に至りましたが、自社だけで提供するサービスではないので、こうした部分が困難でした。

とはいえ結果として「GMOサイン」や「GMOペイメントゲートウェイ」を紹介してもらった他、家賃保証会社、保険会社、システム会社、ブランディング会社などが「高橋さん、これいいね!」とプロジェクトに賛同し、参画してくれています。

実際に運営されてみて、ご苦労はいかがでしょうか?

物件掲載会社への営業活動を通じ、システムの使い勝手の改善や、想定していなかった領域までカバーする必要が生じました。各社のニーズを集めながら、毎週のようにミーティングを重ねて開発の優先度を決めたり、社内のコーダーやプログラマーのスケジュールを調整して進めたりするのが大変でしたね。

新たなシステム開発や追加コストなどが発生するのも、プレッシャーではありますが「世の中をより良くしていくには必要なことだ」と割り切って臨んでいます。

コロナも落ち着きを見せ、海外から観光やビジネスで訪日される方も増えています。これらの層を取り込むために「Mooovin」も短期貸しやマンスリーでの物件斡旋などを考えていらっしゃいますか?

古くからの文化と安全な先進国としての環境が両立する日本は、世界的にも神秘的かつ魅力的な観光大国です。長期休暇(バカンス)の取得が一般的である国々からの訪日客は、ホテルではなく「日本人と同じ通常の生活環境」で中長期の滞在を希望するのは自然な流れですね。

当然ながら「Mooovin」も、そのようなウォンツに応えていくことが使命の一つだと考えています。

外国人に物件を貸すことに抵抗を感じるオーナー様もいる中、物件数を増やすにあたり困難なことはございますか?

先に述べた通り、日本人オーナー様の中に偏見や先入観があることは理解しています。関連するどのような商品やサービスでも、初めは受け入れてもらいにくいでしょう。現代では人工知能(AI)や自動運転など最新のテクノロジーがその一例かもしれません。

しかし、新しいサービスや商品にまずは触れていただき、丁寧な説明や資料、実体験を通じて安全・安心を感じていただくことが、初めの一歩になると考えています。外国人に物件を貸すのも同様です。私たち管理会社が「しっかり仕事をするのでご安心ください。課題に対しても必ず責任を持ち、解決するまで対応します!」と胸を張れるサービスを作っていくことが、オーナー様からの期待だと認識しています。

また、トラブル対応として入居者様と管理会社の間に、24時間対応の多言語型コールセンターが介在しています。現在は電話のみですが、いずれ同様の機能を持つアプリも開発し、チャットなども可能にしてコミュニケーションの幅を広げていきたいですね。

新サービスの実装など「Mooovin」における今後の展望を教えてください。

過去2年間は事業の構想やシステム開発に専念し、現在は実地でのテストを兼ねて本番に臨んでいます。また、プレスリリースの効果もあり、さまざまな企業から問い合わせが来ていますね。

なお、マンスリーや家具付き賃貸物件の掲載は、次のステージで対応していく予定です。「Mooovin」のビジネス目標の一つとして「日本の空き家問題を解決する有効な手段となる!」があるので、その実現のために「外国人に定住してもらうための環境構築」が求められていると感じています。

実際に私たちは、中国の江蘇省にある蘇州大学と業務提携し、現地の学生が日本の教育機関で学ぶためのお手伝いを始めました。また、この窓口になるためのNPO法人を設立しています。

中国は中東やアフリカなどにODA(政府開発援助)で経済的支援を行いながら、労働力も提供していますよね。つまり中国人労働者は世界中どこにでも行けるわけですが、わが子に教育を受けさせるにはヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなどを選んでいます。そして「アジアの中では、日本で学ばせたい」と考えているのです。

加えて2025年の大阪万博に向けて各種事業が進む中、当社も一石投じようと「留学生支援コンソーシアム大阪」に参画しました。産学官がチームを組み、より多くの外国人留学生を受け入れようとする取り組みで、さらに日本の教育機関を卒業した後は就職先を斡旋し、国内に定住してもらうことを目指しています。

同じく、技能実習生の中で最も多く来日しているのはベトナム人です。彼らが日本を好きになり、定住して働き続けてもらうために、安心して暮らせる環境を作るのも私たちの大切な役割ですね。

日本には製造業やサービス業など、外国人が活躍できる多くの産業があり、彼らを国内に呼び込むための施策やサービスに長けた人財が求められています。ここに外国人が介入すれば効果が高まりますよね。誰もが人生を歩むにあたり「仕事」が必要なので、そのフォローも私たちが果たすべき役割だと感じています。

私にとって「Mooovin」は10年規模のプロジェクトです。ファーストステップとして外国人対応が可能な管理会社にアプローチして住環境を整え、次のステージで仕事を斡旋し、その先には日本人との結婚をサポートしたいです。すると広い意味で民族が融合していくことになり、危機的な人口減少に直面した日本が生き残る、唯一の道になる気がします。あとはオーナー様がどの管理会社とタッグを組むのか、ここが重要なポイントになるでしょうね。

※「Mooovin」では、外国人入居者様の受け入れをお考えの不動産管理会社様を募集中です。詳しくは公式ホームページまで。

不動産業界は、新3Kのままでは衰退する。待遇と職場環境を変え、顧客との接点や情報を活用できる企業だけが生き残る。

現在の不動産マーケットを全体的にどう捉えていらっしゃいますか?

売買はやや過熱感が大きく、特に賃貸不動産ではコロナ禍によって生活の在り方が大きく変化しましたね。通勤の利便性よりも在宅ワークのしやすさが、重視されるようになりました。インターネットやDXによって情報公開が進み、ようやくスピーディに物事が進む段階に入った気がします。

不動産賃貸管理業務ではアナログが主流かと思われますが、不動産業界全体ではようやくDXが進み始めました。業界のテック化やデジタル化について、課題も含めていかがお考えですか?

人間はDXという文化を取り入れて味方につけるべきであり、そこから新たなビジネスチャンスを生み出すと思います。アナログでペーパー(紙)主体の業務フローが長らく当たり前でしたが、デジタルを活用することでこれらが改善できるばかりでなく「私たちの『在り方』に進化をもたらす」と期待しています。

課題は、社内外のステークホルダー(利害関係者)と共に着実に一歩ずつ進めていく丁寧さと、スピード感の両立をどう叶えるか、くらいでしょうか。

売買、賃貸、投資など不動産に関わる業務は多岐にわたります。それぞれの業態において、課題解決のために越えなければいけない障壁とはどのようなものかお聞かせください。

▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人

所管する法律、実際の商習慣、全てのステークホルダーによる理解と受け入れでしょうか。

現代のITインフラ環境においては、対面での本人確認や物理的な書面交付など、関係者を守るための規制が、逆に足かせとなることが増えてきました。ようやく2022年から「IT重説」が法的に解禁されたことは、非常に画期的でしょう。何でもかんでもとはいきませんが、やはり適切な規制緩和は必要ですね。お客様や各事業者も、少しずつこの流れに対応できるようになっています。

不動産業界で難しいのは、数多くのステークホルダーが取引に関わり、経済活動を行っていることです。誰か一人、どこか一社だけが前に進んでいても周りが追い付けません。強いて言えば「歩調を合わせなければならない」ということが、一番大きな課題かもしれませんね。

収益最大化を含む不動産管理の課題と、打破するための方策をお聞かせください。

これまで不動産管理会社は「賃貸物件の入居者募集」「入居後のサポート」「建物管理」「各種手続き」といったサービスを提供してきました。私の経験から、高齢者介護施設に比べると“まし”ですが「帰れない」「厳しい」「給料が安い」の新3Kと呼ばれる労働集約型産業です。いくらでも人材を採用できた時代には絶望的な問題になりませんでしたが、ここ数年は「人が採れない。大変だ」とよく耳にします。

DXが進んでも、どうしても人が介在しなければならない仕事が多いことが理由ですが、まずは勤務地に縛られないオペレーションを築くことが、打開策の一つになり得ると考えています。

例えば地方のアウトソーシング会社に一部業務を委託し、従業員が在宅でも働ける体制を構築すれば「新規採用が困難なエリアにおける一手」となるでしょう。首都圏よりも地方のほうが人財を採用しやすく、人件費の面からもコストパフォーマンスが高いはずです。

また、現場でなければできない仕事と、そうでない仕事を定義することです。Face to Faceでのみ顧客満足度を上げられる生産性の高い仕事や、アウトソース先に指示を出してマネジメントする仕事に集中すれば労働集約型産業を脱却できると考えています。私もそこに向けてチームをリードしています。

不動産業界の発展のために、全体で取り組むべきことや方向性に関するお考えを聞かせください。

重要なのは「より生産性を高めていくこと」と「世界に開かれた日本の不動産業界を健全に牽引していくこと」だと考えています。

まず「生産性の向上」ですが、やはり日本の人口は減少の一途をたどり、今後は加速度的に進みます。「2050年には6000万人を下回る」という説もあるほどなのです。結果として労働人口も減り、やがて業界の垣根を超えた労働力の奪い合いが発生します。この状況に際して、新3Kの特徴を持ち、不人気業界の一つである不動産業界は勝てないと考えています。他の人気業界に人材を取られてしまいますよね。

すると従業員の引退や退職による人員減少に対し、同一人数によるチーム体制を補うことができなくなります。もともと10人で取り組んでいた仕事を8人で対応しなければならなくなった時、当然ながら残業が増えて就業環境が悪化しますよね。そしてさらなる退職を生み出し、負のスパイラルに陥ることになります。

これを防ぐには、チームのメンバーが減少しても就業環境を悪化させない仕組みが必要です。まさに「生産性を高める」ですね。だからDXの推進やアウトソーシングの活用で良い環境を生み出していくことが求められているのです。さらに賃金を引き上げ、より魅力ある就業先となることで、勝ち残るための採用競争力は獲得できると思います。

もう一つの「世界に開かれた不動産業界を作る」とは「海外の投資家や入居者にきちんと対応できる私たちでいましょう!」ということです。

この先、国内の日本人の減少により、賃貸物件に住むお客様も減っていきます。すると、国内の賃貸物件は空室が増えて収益性が下がり、結果として不動産の経済的価値も下落します。当然ながらモノやサービスの価値は、需要と供給のバランスによって成り立ちますよね。需要が下がり、供給量が同じであれば、価格に相当する「家賃」が下降していくのは当たり前です。家賃が下がれば不動産の価値、売買価格も落ちていくので、これは不動産業界だけの話ではなく、日本の国家的課題なのです。

最悪のシナリオが現実にならないよう、入居の需要を増やすために外国人を積極的に受け入れ、国内の賃貸物件に住んでもらうことが必須だと考えます。そして、こうした物件を日本人だけでなく外国人投資家も保有し、適切な収益を得てもらうことで世界に開かれた不動産市場を目指すのです。これこそ、日本の不動産業界を守るために必要なアクションではないでしょうか。

今後の不動産業界を見据え、消費者に対する不動産DXのあるべき姿をいかがお考えですか?

私たちが持つ、入居者様やオーナー様との接点や情報が「金の卵」であることにようやく気付き始めました。営業マンの一人一人が個別に対応していくのもプロではありますが、それを「組織的に」実施していく仕組みが必要であり、達成した会社が生き残ると感じています。

従業員の採用基準は「勤勉で向上心を持っている方」。社会の役に立っていると自負できる職場であるために。

他社とは違った教育方法や採用があれば教えてください。

特段、他社と異なる方法を選んでいません。等級制度や昇格の基準を明確化しているものの、同様の取り組みを行っている会社はたくさんあるとは思います。

しかし1点、採用に関して「勤勉で向上心を持っている方」を選ぶようにしています。何事に対しても這い上がろうとする向上心は大切で、そこに勤勉さを求めますね。当社は、口八丁手八丁で楽して売上を作り、早く金持ちになりたい、という方には向いていません。

まずは最低限の必要資格として宅建があり、さらに賃貸不動産経営管理士、ファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルティングマスターなど、この業界にはより上流の仕事に挑むために必要な知識があり、これらを得るための道が用意されています。

一つ一つ着実に学び、得た知見をお客様へのサービス提供に役立てていくことが「真の価値」だと考えているので、その価値観を共有できる人に入社してほしいですね。

社員やアルバイトの方々と一緒に働く上で、大切にしていることは何ですか?

「いい職場であること」ですね。単に仕事が楽だったり、福利厚生が充実していたり、ではなく「やりがいを感じられ、自身の存在が世の中の役に立っていると自負できる職場」という意味です。“やっつけ仕事”や代わりの利く仕事であれば熱意も芽生えないでしょう。だからこそ社員やアルバイトの未来を見据えた、今の仕事を提供できる会社でありたいです。

今後も社会にとって「価値あるもの」であり続ける。無限の可能性を秘めた不動産業界の魅力を発信し、輝く未来を創りたい。

個人またはKACHIALとして、今後のビジョンや思いをお聞かせください。

不動産業界にとどまることなく、私たちの存在が社会の役に立てるよう「価値あるもの」でありたいです。

現在、当社は「プラットフォーマー」として人々の生活、家族、仕事をはじめ人生の各シーンに関われる場所にいます。そのポジションを正しく活用し、皆さんに貢献できるチーム、会社であり続けたいと願っています。すでにいくつもの構想はありますが、現時点で話すのは時期尚早ですね。

今後の不動産業界の状況を見通した上で、チャレンジしたいことはございますか?

不動産業界が無限の可能性を秘めた魅力ある世界」であることを多くの方々に知っていただき、この業界で働く皆さんがより輝ける未来を創ることが、今の私の生きがいになっています。

まとめ

▲インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真左)

人口減少による不動産業界の衰退を防ごうと、外国人の定住や就労に活路を見いだす高橋社長。コロナが落ち着き、世界中から観光立国・日本が注目される中「Mooovin」もますます盛り上がることでしょう。

本記事取材のインタビュイー様

株式会社KACHIAL 代表取締役社長。
高橋 幸一郎 氏

国内高校1年修了後、単身渡米マサチューセッツ州 Cushing Academy入学。同州Bentley universityにてManagement専攻、卒業。帰国後、アクセンチュア株式会社へ入社、主に国内外金融機関のコンサルティングに携わり社会人としての基礎を学ぶ。その後、親族創業のメディカル・ケア・サービス株式会社全国展開に参画。医院開業コンサルタントを経て、2006年にルミナス株式会社創業。
スタッフ100名強にて首都圏に認知症高齢者介護施設を8ヵ所運営。2017年ヘルスケアファンドに法人売却。2015年より株式会社ハウジング恒産 取締役副社長を兼務。インバウンド事業スタートアップ、推進を行う。2017年7月同社代表取締役就任。2020年6月1日「株式会社KACHIAL」へ社名変更。

CONTACT

GMO ReTechでは、賃貸運営を楽にする
をミッションにしております。
賃貸業務でのDX(デジタルトランスフォーメーション)に関して
お気軽にご相談下さい。

お問い合わせはこちらから
キーワードKeywords
キーワードKeywords
無料でWeb相談
無料ダウンロード