重説に追加された「水害ハザードマップ」についての書き方と説明方法
2020年8月に『水害ハザードマップの説明が義務化』されたことはご存じですか? 水害と言うと、2021年8月の記録的大雨も記憶に新しいかと思います。
2019年の台風19号などで日本各地が大きな被害を受けたこともあり、水害ハザードマップの重要性は高くなっています。しかし、どう説明すればいいのか分からなケースもあるはずです。
そこで、当記事を通して具体的な水害ハザードマップに関する説明方法を知り、説明をすることで契約に大きな影響が出るのかどうか確認してみてください。
- 1重要事項説明時に水害ハザードマップの説明が義務化
- 1重要事項説明(重説)とは
- 1宅地建物取引業法(宅建業法)の改正内容
- 1説明義務化の背景
- 2水害ハザードマップとは
- 2洪水ハザードマップ
- 2雨水出水(内水)ハザードマップ
- 2高潮ハザードマップ
- 3重説に必要な水害ハザードマップの調べ方
- 3市町村配布の最新の水害ハザードマップを入手
- 3水害ハザードマップで対象物件や避難所の位置を確認
- 4重説での水害ハザードマップについての説明方法
- 4記載例①水害ハザードマップを市町村等が作成している場合
- 4記載例②水害ハザードマップを市町村等が作成していない場合
- 4記載例③建物の所在地が浸水想定区域に指定されていない場合
- 5水害リスクの説明義務によって今後の不動産取引に影響はあるか
- 6まとめ
重要事項説明時に水害ハザードマップの説明が義務化
近年、台風や大雨などにより日本各地で大規模な水災害が多くなった状況で、不動産を決める条件の中に水害のリスクを加える方が増えてきています。
このような背景もあり、2020年8月に国土交通省は『水害ハザードマップの説明の義務化』を施行しました。
そのため不動産のオーナーは重要事項説明の時に、不動産の法律に詳しくない一般の方のために水害ハザードマップの説明が必要になりました。
不動産オーナーからしたら業務が増えて大変なうえに、水害ハザードマップをきっかけに「契約を断られたら不安」と感じる方もいらっしゃるかと思います。
とはいえ、法律で定められた決まりなので、まずは義務化された背景と重要事項説明について知り、なぜ説明義務が必要なのかを確認してみてください。
重要事項説明(重説)とは
重要事項説明とは、宅地建物取引業者が売買・賃貸契約の際に、買主・借主に対して契約に関する重要な事項を『宅地建物取引業法の第35条』に基づいて説明することです。
また、重要事項説明の際に買主・借主に対して交付する書面のことを『重要事項説明書』と呼びます。
基本的に、買主・借主は契約する物件に関する重要な情報を持ち合わせていないことがほとんどなので、買主・借主が情報不足による思わぬ損害を受けないようにオーナー(貸主)や管理会社側が説明しなくてはなりません。
さらに、説明するにあたり、重要事項の内容をすべて書面に記載し、宅地建物取引士の記名を押印したうえで『重要事項説明書』として買主・借主に渡さなくてはなりません。
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宅地建物取引業法(宅建業法)の改正内容
水害ハザードマップの説明義務化については、宅地建物取引業法(宅建業法)の改正によって一部改正されました。
宅建業法の改正内容については、大きく分けて2点の内容を把握することで改正の詳細を理解できます。
【宅地建物取引業法施行規則】
宅建業法において、買主・借主側に不測の損害が生じることを防ぐために重要事項説明をすることを義務としていますが、このたび、重要事項説明の項目に『水防法』に基づいて作成された水害ハザードマップにおける契約物件の所在地を追加することが決定。
【宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(ガイドライン)】
上記にあわせて、具体的な説明方法などを明確化するために以下の内容を追加します。
- 水防法に基づき作成された『水害ハザードマップ』を提示し、マップ内における所在地を示すこと
- 水害ハザードマップは、各市町村が提供する情報を印刷したもので、入手可能な最新版を使うこと
- ハザードマップ上に記載された避難所は、住宅の所在地と併せて説明をするのが望ましい
- 対象物件が浸水想定区域内に該当しないと説明したとして、買主・借主側が『水害リスクのない地域である』と勘違いされないように配慮すること
説明義務化の背景
水害ハザードマップの説明を義務化した背景は、義務化を公表した国土交通省が以下のとおり説明しています。
【水害ハザードマップの説明を義務化した背景】
近年、大規模水災害の頻発により甚大な被害が生じており、不動産取引時においても、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要な要素となっているところです。
そのため、宅地建物取引業者が不動産取引時に、ハザードマップを提示し、取引の対象となる物件の位置等について情報提供するよう、昨年7月に不動産関連団体を通じて協力を依頼してきたところですが、今般、重要事項説明の対象項目として追加し、不動産取引時にハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することを義務化することといたしました。
引用:国土交通省
つまり、近年多発してきている大規模な台風や豪雨により、水災害が増えてきていることを理由に、説明の義務化が決められたのです。
水害ハザードマップとは
水害ハザードマップは、地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報(避難場所など)を、その地域の住民たちに提供する手段として扱われるマップです。
基本的に水害ハザードマップは、以下の水害を対象にして作成されています。
- 洪水
- 内水
- 高潮
- 津波
ちなみに、『水害ハザードマップ』というハザードマップ(地図化したもの)は存在しませんので注意してください。あくまでも以下の3つの水害に関するハザードマップを総称したものが水害ハザードマップと呼ばれています。
- 洪水ハザードマップ
- 雨水出水(内水)ハザードマップ
- 高潮ハザードマップ
それぞれ、水害の内容が違うので物件の所在に合わせて、特にどのハザードマップを強く説明するか判断をしたうえで、契約者に説明してください。
洪水ハザードマップ
洪水ハザードマップとは、大雨によって河川が増水して、堤防が決壊するなどの氾濫が発生した場合に、浸水が想定される範囲と、避難場所を提示したハザードマップです。
基本的に以下の条件が満たされていないと、正式な『洪水ハザードマップ』とは言えないので確認しておいてください。
- 浸水想定区域が記載されている
- 避難情報が記載されている
- 市区町村長が主体となり作成されている
つまり、個人的に作成した洪水ハザードマップは正式なものと言えないので注意が必要です。
以下が実際に、神奈川県川崎市で公表されている洪水ハザードマップです。
引用:川崎市ホームページ
また地域によっては洪水ハザードマップと併せて説明書も入っていたりします。
雨水出水(内水)ハザードマップ
雨水出水(内水)ハザードマップとは、大雨の時に下水管や水路からの浸水が想定される範囲と、その程度を示したものです。
雨水出水ハザードマップは洪水ハザードマップと似ている点はありますが、洪水ハザードマップの場合『川からの氾濫によっておこる水害に対するマップ』であるのに対して、雨水出水ハザードマップは『下水管などの容量オーバーによりマンホールなどから水があふれることで発生する水害』のことを示しています。
ちなみに、ゲリラ豪雨や局地的な大雨によって下水管の容量オーバーは発生することが多いです。
以下は、実際に神奈川県川崎市で公表されている内水ハザードマップになります。
引用:川崎市ホームページ
高潮ハザードマップ
高潮ハザードマップは、高潮により浸水が想定される範囲とその浸水の程度を示したハザードマップです。
ちなみに、高潮とは台風や発達した低気圧により高波やうねりが発生して、海面の高さがいつもより以上に高くなる現象のことを言います。
基本的に、高潮ハザードマップは海沿いの高潮の影響を受ける範囲にしか公表されていないので、内陸側では作成されていないことがほとんどです。
以下は横浜市神奈川区の高潮ハザードマップです。
引用:横浜市ホームページ
事前の対策という観点から、こちらの記事も参考にしてみてください。
関連記事:賃貸アパート・マンション管理で防犯対策を行うべき理由とおすすめの対策方法を紹介
重説に必要な水害ハザードマップの調べ方
重要事項説明に必要なハザードマップは、基本的に個別で入手する必要があります。
また、地域によっては高潮ハザードマップなどを必要としないこともあるので、契約する物件の所在地に合わせて説明する優先度を選定することをおすすめします。
基本的に、すべての水害ハザードマップは各自治体のホームページで入手することができます。この時に注意しておきたいことは、最新版が公表されているにもかかわらず、一度入手したものを何年も使い続けてはいけない点です。
水害は地域の人たちの命に関わる災害の一つなので、中途半端な情報を提示し続けて、万が一の際に役に立たない情報を与えていたとなると、深刻な問題になりかねません。
そうならないためにも、最新版が公表されていないか定期的に確認するようにしましょう。
市町村配布の最新の水害ハザードマップを入手
基本的に最新の水害ハザードマップは、各市町村のホームページで最新版を入手することができます。
例えば横浜市の水害ハザードマップを入手したい場合は、ホームページの右上にある検索ツールを使うと調べることができます(横浜市のハザードマップを参考)。
もしくは、宅地建物取引業者向けに掲載されている重要説明事項に関する部分から洪水・内水・高潮の好きなハザードマップを調べることができます。
市区町村のホームページに掲載されている情報は全て最新情報のものです。赤枠部分の更新情報を確認すればいつ更新されたのか調べることができます。
ちなみに、直接各市町村のホームページを検索しなくとも、『ハザードマップポータルサイト』というサイトから水害以外も含めた各市町村のハザードマップを検索することができますので、機会があれば確認してみてください。
水害ハザードマップで対象物件や避難所の位置を確認
水害ハザードマップで対象物件や避難場所の位置を確認するときは、『対象物件』と『避難所』で調べ方を変えて確認することをおすすめします。
【対象物件・避難場所を調べる際に利用するもの】
- 対象物件を調べたい場合→ハザードマップポータルサイト
- 避難所を調べたい場合→地方自治体が公表しているハザードマップ
実際にそれぞれ以下の解説を参考にして確認してもらうと、調べ方を変えたほうがいい理由がお分かりいただけます。
【対象物件を調べたい場合】
ハザードマップポータルサイトを活用すれば、サイト上で実際に対象の住所を打ち込んで調べることができます。
そして、ハザードマップポータルサイトでは災害の種類別に対象地区かどうかを調べることができるので、視覚的にも対象物件が災害の危険性があるのかどうか調べることが可能です。
【対象地域の避難場所を調べたい場合】
対象地域の避難場所は、各市町村が公表しているハザードマップを活用するとわかりやすいです。
ハザードマップには、避難場所一覧がナンバリングされており、実際に地図上に割り振られた数字の位置で、避難場所を確認できます。
以上のように、何を調べたいのかで使うツールを分けると効率的に調べることができます。
重説での水害ハザードマップについての説明方法
では、実際に重要事項説明で水害ハザードについて説明する際は、どんな点に気をつけて説明をすべきなのでしょうか?
基本事項として、重要事項説明において水害ハザードマップの説明をする際は、国土交通省が提示する『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(ガイドライン)について』を参考にする必要があります。
ガイドラインによると、水害ハザードマップについて説明するときは、水防法に基づき作成された水害ハザードマップを提示し、対象とする物件の大体の位置を示しながら説明をしなくてはならない、としています。
つまり、特別に自身で何かを作成して買主・借主へ説明をする必要は無く、既に作成されている各市町村のホームページで入手できる資料のみを利用して説明をすれば良いのです。
では具体的にどんな内容を説明すべきなのか知り、それを説明するための注意点を以下で確認してみてください。
記載例①水害ハザードマップを市町村等が作成している場合
水害ハザードマップが市町村等において作成されている場合は以下のように記載します。
各市町村におけるハザードマップで1項目だけ無い(高潮ハザードマップだけ作成されていないなど)場合は、その部分のみ『無』にチェックを入れて、下段の『水害ハザードマップにおける宅地建物の所在地』の枠内に高潮のハザードマップが無い旨を記載すればOKです。(無い場合の記載例は次の項目でも解説しています)
記載例②水害ハザードマップを市町村等が作成していない場合
水害ハザードマップが市町村等において作成されていない場合は以下のように記載します。
もし、1項目だけ『有』の場合は、『記載例①水害ハザードマップを市町村等が作成している場合』で解説したやり方に沿って記載すれば問題ありません。
記載例③建物の所在地が浸水想定区域に指定されていない場合
水害ハザードマップ上において、対象となる宅地建物の所在地が浸水想定区域に指定されていない場合は以下のように記載します。
必ず注意しなくてはいけない点が一つあります。それは、『水害ハザードマップに記載された浸水想定区域内に該当しない=水害の心配は無い』と誤認されないようにすることです。
命に関わる内容なので『全く心配がない』と言い切らないようにすることが大事になってきます。
水害リスクの説明義務によって今後の不動産取引に影響はあるか
まず大前提としておきたいのは、『水害リスクの説明義務化』は買主・借主のために義務化されたということです。その点を踏まえた上で不動産取引に大きな影響が出てくるのかを確認してみましょう。
基本的に、重説は契約前に説明を行わなければならないので、もし水害ハザードマップの説明をして「不安なので契約を検討します」と言われても止めることはできません。したがって、不動産取引において水害ハザードマップの説明の義務化は大きくはないにしろ影響はあります。
なので、不動産屋側としてはいかに水害に対する心配を与えないで説明できるかがポイントです。例えば、以下のような説明ができると安心してもらうことができるかもしれません。
- 浸水想定区域だとしても近くに避難所があることを提示し、万が一のことがあっても命の危険がないことを説明
- 浸水想定区域だとしても過去に何度もあった大型台風の時に浸水はしなかったと説明
こういった説明をすることで、基本的な生活において過度な心配は必要ないことを提示できます。(嘘は絶対についてはいけません)
説明することは避けられない以上、貸主・借主の心配に寄り添って、不安を拭う努力をする必要があるでしょう。
まとめ
近年、大型台風や記録的大雨による水害の被害は増えてきています。そのような背景もあり、水害に対する防災意識は高まりつつあります。
そこで国土交通省は不動産業界に対して、『水害ハザードマップに関する内容』を重要事項説明に追加することを決定しました。
水害ハザードマップは各地方自治体ごとに発行されているので、それをも基に国土交通省が提示する『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』に沿って説明するようにしましょう。
もちろん水害の恐れがある地域もそうでない地域も、備えあれば憂いなしでいざという時のために、避難場所を知っておくことや家族との緊急連絡手段など事前の準備が大切ですね。入居者アプリのようなコミュニケーションツールがあれば、万一災害が発生した場合でも、不動産管理会社は安否の確認を素早く行えるかもしれません。ぜひこちらの資料(無料)もご用意しましたので、参考にしてみてください。
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