【リーダーインタビュー】川口圭介様|他にはないサービスで「よりよい住まいづくり」を実現
不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか? 高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界をけん引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。今回お話を伺ったのは、熊本の不動産業界をリードする株式会社明和不動産の親会社である、ミリーヴ株式会社 代表取締役社長、川口圭介様です。斬新なアイデアで不動産業界に次々と新風を吹き込む川口社長に、これまで手がけられた事業や独自サービスについて、GMO ReTech株式会社 代表取締役の鈴木がお話を伺いました。
- 1大学6年目、突然の決断を迫られ相続を決意。
- 1Q.不動産業を始められたきっかけをお教えください。
- 1Q.最初は別の会社にお勤めだったそうですね。
- 2グループ会社を回って、事業の立て直しからスタート。
- 2Q.自社に入られて、最初のころの業務はどういうものでしたか?
- 2Q.ご自身で手がけられた事業の代表例をお教えください。
- 3他の会社がやっていないサービスで差別化を図りたい。
- 3Q.他社にはない、独自のユニークなサービスをやっておられるそうですね。
- 3Q.そういうアイデアは、社長ご自身が考えられるのですか?
- 4兄と弟、エリアでなく仲介と管理で相続事業を分割。
- 4Q.川口社長がMILIVE代表、弟さんが明和不動産社長。これはどういう経緯で決まったのですか?
- 5入居者のためのクーポンブックが一般の方にも大好評
- 5Q.入居者向けのお得なサービスも、いろいろあると聞いています。
- 5Q.入居者様に喜んでいただくことが、オーナー様へのメリットになるのは理想的ですね。
- 6反対もあったが、緻密な計画で結果的に大成功
- 6Q.アイデアマンの川口社長ですが、時には反対にあうこともあるんじゃないでしょうか。
- 6Q.厚さ2㎝くらい、かなりボリュームがありますね。具体的にはどんな差別化をされたのですか。
- 6Q.そのほかにも、反対を押し切って成功した事業はありますか?
- 7時代にマッチした「Cakel賃貸」でオンライン契約を推進。
- 7Q.昨今はさまざまな業種でITが導入されていますが、御社ではどのようにDX化を進めておられますか?
- 7Q.オーナー様に対しては、何か特別なサービスや工夫をされていますか?
- 8まとめ
- 9本記事取材のインタビュイー様
大学6年目、突然の決断を迫られ相続を決意。
Q.不動産業を始められたきっかけをお教えください。
父親が明和不動産の創業者だったので、その跡を継いだ形です。と言っても、決心をしたのは大学卒業の間際です。実は、大学時代の私は遊んでばかりで、大学には6年在学しました。しかしある日、突然父が「家業を継ぐのか、継がないのか」と決断を迫ってきたのです。
勢いに圧倒され、とっさに「やります」と答えたら「何がなんでも今年卒業しろ、できなかったら大学をやめろ」と言われまして、そこから頑張って単位を取って何とか卒業にこぎつけました。それがこの世界に入ったきっかけです。
Q.最初は別の会社にお勤めだったそうですね。
大学卒業後に福岡市に本社を置く、株式会社三好不動産に入社しました。福岡市の西部、姪浜(めいのはま)にある賃貸店舗に所属し、2年間賃貸の営業を学ばせていただきました。
周囲の協力もあって一定の実績を出すことができ、「店長にならないか」と言っていただけたのですが、その矢先に実家から「一旦ここらで区切りをつけて、家業に本腰を入れるように」と帰還命令が出て熊本に帰りました。それが2004年のことで、社長に就任したのはさらにその10年後です。
グループ会社を回って、事業の立て直しからスタート。
Q.自社に入られて、最初のころの業務はどういうものでしたか?
入社後は、投資用不動産の売買部門を皮切りに、雑貨販売、システム部門、経営戦略室、法人仲介、フィットネス会社、広告会社、通信会社など、いろいろな会社・部門を回りました。多くは当時の明和不動産グループ子会社の事業で、単体ではほとんどが赤字の状態でした。そこに本社の仕事を振り分けることで強引に黒字にしていたのですが、将来自分が社長に就いたとき、このやり方では厳しいんじゃないかと思ったのが正直なところです。
そこで、グループ会社が自力で本業を黒字にもっていくにはどうすればいいのかと、改善点を探るために各社を回ったわけです。事業立て直しの目的と同時に、今までの父のやり方を自分の方針にシフトしていくステップでもありました。私は損を出して存続させるくらいなら、グループ会社を整理した方が効率化できるという考えです。結果的に、当時のグループ会社は合併や社名変更もありましたが、おかげさまで現在も事業を継続しています。
引用元:株式会社明和不動産
Q.ご自身で手がけられた事業の代表例をお教えください。
初期の大仕事のひとつに、「マンスリーマンションの入居者募集」がありました。現在の所在地に本社ビルを建設したのが、2006年のことです。オフィスの上にマンスリーマンションが5フロア、計82室あるのですが、7月1日入居開始なのにその時点で当時の担当部署がしっかりと募集をしていないということが発覚しまして……(苦笑)。そこで私がその事業の責任者として就き、一から改善に努めていきました。
何しろ社運を賭けた大事業ですから、やるしかない。1週間くらいマンスリーの部屋に泊まり込んで、住み心地のチェックや問題点の洗い出し、改善をしながら利用促進のため全力で取り組みました。 対策の一つとして、対象物件の情報をまとめた冊子を制作し駅やバスなど公共交通機関の待合所等に置いてもらいました。それが運よく大手企業の目に留まり、従業員利用として一気に多くの契約をいただけました。そうして少しずつ実績を積み上げていきました。
他の会社がやっていないサービスで差別化を図りたい。
Q.他社にはない、独自のユニークなサービスをやっておられるそうですね。
株式会社メイワ・リーベルのVIPサービスは特にユニークだと自負しています。ご紹介を受けた方だけに提供するVIP待遇でのお部屋探しです。物件案内の際も明和不動産では国産のコンパクトカーが中心ですが、こちらはレクサスをご用意。お客様にはかなり好評で、満足していただていると思います。
また、直接いただくリクエストに基づいてお部屋を探すので、物件情報登録の手間や広告費などが省けて、弊社にとってもメリットがあります。さらに、効率化した分をVIP対応費用に循環させることにより、サービスの質を保つことにも成功しています。
Q.そういうアイデアは、社長ご自身が考えられるのですか?
すべてではないですが、主に私自身で考えています。私は「他でやっていないことをやりたい」という気持ちが強く、前例がないことでも、お客様に喜んでもらえることならと、積極的に進めています。きっと、お客様の満足度をもっと上げたいという想いが、アイデアにつながっているのではないでしょうか。
ちなみに、ミリーヴグループを統括する「MILIVE(ミリーヴ)株式会社」は、「MIRAI=未来」と「LIVE=住まい」を組み合わせた造語で、「よりよい住まいづくり」を企業理念としています。
兄と弟、エリアでなく仲介と管理で相続事業を分割。
Q.川口社長がMILIVE代表、弟さんが明和不動産社長。これはどういう経緯で決まったのですか?
うちは私と弟の二人兄弟なので、父は後でもめごとが起こらないようにと、私に熊本エリアの事業、それ以外を弟に相続させようと考えていました。
しかし、私はそれには反対でした。「同じ土俵に立たせるから揉めるのであって、事業で分けた方がいい」というのが反対した理由です。エリアで分ければ、不況の際は相手のエリアに進出しないといけなくなります。しかし、仲介と管理というように事業で分ければ争わなくて済むし、私がホールディングス代表になれば、グループ事業全般を統括していくことができる、と考えたんです。
そう伝えたら、父が「じゃあ弟には何も残らないだろう」と言うので、グループの核であり最も知名度がある、明和不動産の社長に弟を据えました。ですから、現在、ホールディングスのMILIVE代表が私で、明和不動産は弟の川口英之介が代表取締役社長となっています。父の事業を受け継ぐにあたり、こうした社内のシステムも私が作り込んでいったものの一つです。
入居者のためのクーポンブックが一般の方にも大好評
Q.入居者向けのお得なサービスも、いろいろあると聞いています。
▲お得なクーポンアプリ「もっトク」
入居者様へのサービスは多岐にわたって行っていますが、中でも「もっトク 」というクーポンアプリは特に好評です。誰でもお店で割引が受けられるサービスで、50%オフなど特典の大きいクーポンは課金制になっています。しかし、明和不動産管理の管理物件に入居されている入居者様は専用のIDとパスワードを入れていただくことで、課金なしで全ての特典を利用可能です。掲載店側にとっても広告費が無料で新規顧客を獲得できますから、入居者様と店舗の双方にメリットがある大好評のサービスとなっています。
実はこのスマートフォン用のアプリ、最初は冊子でした。もともと入居者様に無料で進呈するために作った冊子でしたが、クーポンブックとして書店で販売したところ、相当な数が売れたんです。一冊980円で合計10万円以上の割引が受けられるので、その点が人気を呼んだのだと思います。
現在はアプリのみの運用になり、入居者様だけの特典も用意しています。「このサービスがあるからこの物件に住み続けます」と言ってくださる方も多く、結果的に空室期間が減りオーナー様のメリットにもなっています。
Q.入居者様に喜んでいただくことが、オーナー様へのメリットになるのは理想的ですね。
まさにそれが、私たちの目指す「よりよい住まいづくり」のビジョンなんです。明和の管理物件の入居者様なら、さまざまなサービスが受けられ、日々お得に生活できる。オーナー様にとっては、継続的に入居してもらうことで空室期間が最低限に抑えられるので収益が安定する。掲載しているお店も広告費をかける必要がなくなるし、弊社にとっても飲食店などの店舗とつながることで移転の際などに店舗仲介などの依頼が入る。
どうやったら快適に長く住んでもらえるかという事を突き詰めた結果の、全方位メリットです。誰も損しないなら、どんどんやるべきだと考えています。
反対もあったが、緻密な計画で結果的に大成功
Q.アイデアマンの川口社長ですが、時には反対にあうこともあるんじゃないでしょうか。
アイデアを却下されることは、しょっちゅうです(笑)。しかし、反対意見を説得して成功にこぎつけた事例も少なくありません。 引用元:株式会社明和不動産
例えば、入居者様に配布しているフードデリバリーサービスの冊子「おうちごはん」。これは3年前から提案し続けては却下され、ようやく開始したサービスです。昨年8月から着手したのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大で需要が激増し、現在は154店掲載、料理の数は2,000種類以上(2021年5月末現在)。配達無料キャンペーンを実施した月は、利用者が一気に4,000人まで増えました。
このサービスが実現できたのは、飲食店の呼び込みビジネスを行っている方との出会いがきっかけでした。コロナの影響とキャッチ禁止条例により余剰人員が出た呼び込み会社が、飲食店と組んでデリバリーを計画していたのです。しかし、集客方法がわからず困っておられました。
そこで、入居者様という潜在顧客を持っているけれど配達員がいない弊社が「一緒にやりませんか」と名乗りを上げたのです。ただし、宅配サービスの大手であるUber Eatsと競合しますので、弊社ならではの差別化を図りました。
Q.厚さ2㎝くらい、かなりボリュームがありますね。具体的にはどんな差別化をされたのですか。
大手が掲載していないローカル店に的を絞りました。基本的にローカル店は小規模な経営が多く、大手の細かい規約や運用ルールに対応していくのは大変です。その点「おうちごはん」は口頭でもOKなほど手続きが簡単にしました。実際に、飲食店とはLINEで申込書や掲載写真のやり取りをしています。ローカル店を応援することで地域貢献ができますし、入居者様には他にはないメニューを楽しんでもらえるので、非常に喜んでいただいています。
また、飲食店の知り合いが増えることは、弊社の利益にもつながります。店舗の仲介や従業員の方の部屋探しが「おうちごはん」の運営スタート以来、とても増えました。
確かに冊子制作には手間がかかりますが、私も休日にスマートフォンで作業したりして対応しています。また、コツコツ下書きを溜めてインスタグラムで1日1店舗1メニューずつアップしていたら、4,000人くらいフォロワーが増えましたよ(笑)。
Q.そのほかにも、反対を押し切って成功した事業はありますか?
熊本で最も通行量の多い、下通アーケードに大型スクリーンを出したときは大反対されました。何しろ当時は音の出る大型スクリーンが熊本にはなく、費用も4,000万円と高額でした。「失敗したら自己負担しろ」とまで言われたほど…。実は、建築した自社ビルの利回りが合わなかったので、なんとか壁面を利用して収益を発生させたかったんです。難関はいろいろとありましたが全て解決させ、結果的に13年間黒字をキープしています。
成功した理由は、徹底した損益分岐点の割り出しです。大手の広告代理店に高率のマージンを提示し、その代わり黒字が出る枠数を買い上げてもらいました。それを超えた分は純利益となり、ビルの賃料収入となります。また、自社CMや仲介した店のオープン告知、地域活性化にも無料で広告利用できます。ですが同じことをして失敗した会社さんもありました。成功するには、十分な根回しが必要です。私は思い付きで行動するように見られがちなのですが、実は慎重に勝算を見極めてから動いていますね。
時代にマッチした「Cakel賃貸」でオンライン契約を推進。
Q.昨今はさまざまな業種でITが導入されていますが、御社ではどのようにDX化を進めておられますか?
引用元:ミリーヴ株式会社
不動産業界は電子契約が進みにくい分野だと言われていますが、弊社は来店から契約までオンラインで完了する「Cakel(カケル)賃貸」を推進しています。また、契約手続きだけでなく、案内も遠隔での対応が可能です。社員に配布している社用スマートフォンを利用し「ビデオ通話で物件案内できるのでは」というアイデアから、実際やってみたらこれがかなり好評でした。
特にコロナ禍になってからは需要が高まり、今は多くの方が申し込みや契約などもオンラインでご利用いただいております。現在は、月極駐車場を完全オンラインにて契約ができるように進めています。省人化、効率化でメリットも大きいので、今後はますますオンラインでのやり取りが増えるのではないでしょうか。
Q.オーナー様に対しては、何か特別なサービスや工夫をされていますか?
オーナー様にとって何よりのサービスは、空室を作らないことだと考えます。数年前より開発を進めてきたオーナー様専用のアプリを昨年の8月にリリースし、所有する物件を可視化できるようにしました。
オーナー様の中には空室が続いてお困りの方もおられます。まずは状況を知っていただき、埋まらない理由を理解していただくことが大事です。その上で、入居者様のニーズに応じた企画が収益につながることを納得していただきます。
例として、最近では最大6ヶ月分の賃料と共益費が半額、仲介手数料も無料の「住み替え応援キャンペーン」を実施しています。これは、もともと3カ月フリーレントの割引率を半分に、期間を倍に延長したキャンペーンです。やはり、入居者様にとっては6ヶ月のほうがインパクトは大きいですよね。どこにでもあるサービスではなく、入居者様に興味を持っていただき、オーナー様の収益を生み出す、そんなサービスを徹底的に作り上げていきたいと日々考えて動いています。
まとめ
地震や豪雨で甚大な被害を受けた熊本ですが、川口社長には「不動産を通じて熊本を盛り上げ、活気を取り戻したい」という想いがあります。独創的で元気なアイデアが、熊本の地域活性化に向けて、大いに役立つことを期待します。
本記事取材のインタビュイー様
ミリーヴ株式会社 代表取締役社長
1977年7月26日生まれ。熊本学園大学卒業後、株式会社三好不動産(福岡市)を経て2004年株式会社明和不動産に入社、翌年取締役に就任。2014年代表取締役就任。2016年グループ会社をホールディングス化し、親会社であるミリーヴ株式会社代表取締役に就任。趣味は国内・海外の美味しいもの巡り。全国賃貸管理ビジネス協会理事。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事/熊本県支部長。