不動産会社の業務効率化の手引き|効率化のポイントはノンコア業務の選定とアウトソーシング
いまだに人の手で行う業務が多い不動産業界では、管理業務や仲介業務を行う担当者を中心に、業務の効率化を求められることは多いでしょう。
旧態依然としていた不動産業界にも、コロナ禍の影響もあり、オンライン化や効率化の波が押し寄せてきています。
不動産会社は、どのように業務を効率化していくのがよいのか、具体的な業務に分けてご説明します。
不動産会社が抱える課題
“不動産会社の労働生産性が低い“といわれる理由として、紙媒体でのデータ管理が多く行われていることが挙げられます。
そのため、以下のような課題が挙げられます。
- 物件や顧客の情報管理が紙媒体で管理されており、スムーズにデータの連携ができていない
- 賃貸物件の入金確認作業を人力で行っているため、業務生産性の低さを生み出してしまっている
既存顧客との取引を考慮すれば、いきなりすべての業務を自社都合で効率化するのは困難です。
しかし、既存の業務体制をベースにしつつ、上記の課題を解決に導く方法はいくつかあります。
不動産会社で効率化できる業務
不動産会社で効率化できる業務には、主に以下の2つがあります。
- 不動産・賃貸管理業務
- 仲介業務
2つの業務の中でも、特に膨大な量の情報を処理する単純作業は、ITサービスやツールの導入によって、効率化できる可能性が高いと考えられます。
それぞれ、どのように効率化を進めればよいのかご説明します。
不動産・賃貸管理業務
賃貸管理業務で効率化できる代表的な業務には、以下の3つがあります。
- 家賃の回収や明細書の発行
- 不動産オーナーへの報告レポートの作成
- 契約書の作成などの法的な事務処理
いずれの作業も、毎月人力で確認を行ったり、一から作成していたりしては大変な手間がかかってしまいます。
こうした作業についても、システム化によって効率化できる可能性があります。
家賃の回収、明細書発行
家賃の回収と明細書の発行について、現在はさまざまな家賃回収システムが開発されています。
初期費用は様々ですが、銀行口座と連携して自動で入金を反映したり、入金確認後にボタン一つで入居費用の明細書や領収書を発行したりする機能などが付随しているサービスがあります。
こうした作業を人力で行おうとすると、銀行ごとの残高を確認したり、明細書の項目を手入力したりしなければならず、時間が取られ、ミスが起こる可能性がある、というデメリットがあります。
一方、ITシステムを導入すると、基本的なデータさえ入力しておけば、自動で各種の項目が連動して入力されるため、ミスのリスクが少なくて済むと言えるでしょう。
不動産オーナーへの報告レポート作成
不動産オーナーへの報告レポートの作成についても、同様に効率化が可能です。
不動産会社の従業員が報告レポートを作成する際、記入する項目や分量に差が出てきてしまうケースがあります。各社でテンプレートや記入項目を定めている場合もありますが、記入漏れや丁寧さの度合いなどによって、作成者の個人差が出やすいことも事実です。
報告書を自動で生成する仕組みを導入すれば、過不足なくレポートを作成することが可能です。
契約書作成などの事務処理
契約書などの書類作成時は、事務担当者のパソコン内に保存されているひな形を使うことがほとんどで、一から作成するケースは少ないでしょう。そのため、現状に大きな不便を感じることがないかもしれません。
しかしながら、ITシステムを使うと文書のバージョン履歴も管理できるうえ、契約書のデータをITシステム上に残して管理することができるようになります。
いつ誰に、何の契約書を送ったのかを一覧で確認できるため、契約時だけでなく更新時などの作業もスムーズになると言えるでしょう。
また、長期間の契約などで、契約者本人が亡くなってしまい、相続が発生した場合などでも、被相続人がスムーズに詳細を把握できる、というメリットも考えられます。
仲介業務
仲介業務で効率化できる代表的な業務には以下の3つがあります。
- 内見業務
- 売買不動産仲介営業
- 物件入力業務
それぞれ詳しくご説明していきます。
内見業務
まず、内見業務については、問い合わせ対応と内見の2つに分けられます。
問い合わせ対応では、内見希望者のデータをITシステムに入力、管理をすることで、似たような物件を推薦したり、今後申し込みから契約へと進んだりした場合の手続きがスムーズになります。
また、内見については、遠方の物件でも自宅から内見できるオンライン内見システムやVR内見システムなどがあります。部屋を360度見渡せるシステムなども生まれており、外出ができない中で、どうしても引っ越しの予定がある場合や、海外から帰任するための部屋を探したい、などといった場合を中心に活用されているようです。
売買不動産仲介営業
ITツールを導入すれば、売買不動産仲介営業の業務効率化も期待できます。
賃貸仲介と同様に顧客管理の業務工数を減らせるほか、類似物件のレコメンドメールや内見後のフォローメール送信に割くリソースの削減が可能です。
賃貸物件の仲介に比べて、不動産売買は見込み客の検討期間が長いため、システム化のメリットをより享受することができるといえます。
物件入力業務
物件の入力業務についても、ITツールを利用した業務効率化が可能です。
これまでは紙で出力されたデータをもとに入力する物件を選別し、希望の物件があった場合には、その物件の仲介会社や管理会社に電話をして空室か否かを確認、社内システム反映する、などといった物件管理を行ってきた不動産会社も多いことでしょう。
しかし、この方法では多くの作業時間がかかってしまいます。
また、いくつか支店がある不動産会社などでは、最新状況の反映にタイムラグが発生してしまうこともあります。
全社で一括したシステムが導入されていれば、一度入力した物件情報や空室情報などは、すぐに全社のシステム上で反映されるため非常に便利です。
不動産会社の業務効率化のポイント
業務を効率化していくにあたり、どのように現状の業務を分解して、ツールを導入していくべきなのでしょうか。
不動産会社の業務効率化のポイントとして、大きく以下の3つの流れで推進していくのがよいでしょう。
- コア業務とノンコア業務を分ける
- 業務フローを可視化する
- 業務効率化ツールを導入する
まずはコア業務(直接の利益を生む業務)と、ノンコア業務(コア業務を支援する事務作業や経理作業などの業務)を分類します。
そのあと業務フローを細かく分解し、どの部分に課題が残っているのか確認しつつ、業務効率化ツールを導入していくといった流れで業務効率化を進めていきます。
コア業務とノンコア業務を分ける
業務効率化を図る前に、なぜコア業務とノンコア業務に分ける必要があるのでしょうか。大きく分けて、理由は2つあります。
まず、ノンコア業務を効率化してコア業務に人材を集中させるためです。 不動産会社でいえば、営業が利益の稼ぎ頭。こちらに集中して時間を投下すべき、という考え方を指します。
ノンコア業務はコア業務に比べて定型作業が多く、作業者のストレスを溜める原因となっています。営業ならば営業行為だけに集中させたほうが、結果的に利益も最大化できるのではないか、という訳です。
ノンコア業務をRPAで自動化する
ノンコア業務については、RPAで自動化することができます。 RPAとは「Robotic Process Automation」の略で、システムによる自動化のことを指しています。
RPAは、以下の3種類に大別できます。
- クラウド型:Webブラウザにアクセスして利用
- オンプレミス型:自社サーバー上にソフトウェアをインストールして利用
- デスクトップ型:特定のパソコンにソフトウェアをインストールして利用
ノンコア業務の一部だけをツールで自動化したい場合は、導入費用が安く抑えられるクラウドやインストール型がおすすめです。
全ての作業を一括して自動化したい場合や、セキュリティをより重視したいなどといった場合には、全従業員のPCにインストールさせるデスクトップ型も選択肢の一つとして適しているといえそうです。
ノンコア業務をアウトソーシングする
経理や給与計算、事務といったノンコア業務に関しては、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)でアウトソーシングしてしまうこともできます。
社外のリソースを借りて業務を処理することで、自社でノンコア業務を担当する人材を抱える必要がないため、社会保険料などの節約にもつながります。
景気動向や繁忙期や閑散期などの季節ごとの変化に伴い、発注量をコントロールしやすく、売上に連動して経費を効率よくかけられるというメリットもあります。
業務フローを可視化する
業務効率化のポイントとして、業務フローを可視化することがおすすめです。
- 業務手順を細分化し、人が行う業務とシステムが行う業務の分担を明らかにする
- 市販のシステムが対象とする自動化の業務範囲を明らかにする
システム化を進めていくにあたり、一度に業務全体を変えるのではなく、部分的に見直し、置き換えていくことが重要です。
例えば入居者とのトラブルに関する報告や、対面でどうしても説明したほうがよい内容に関しては、人力で対応したほうがうまくいく業務もあります。
こうした業務以外を外注したり、自動化したりするためには、まず業務全体の流れを明確にし、アウトソーシングに適した業務かそうではない業務なのかを切り分ける必要があるのです。
業務効率化ツールを導入する
切り出すことのできる業務を把握したら、業務効率化に特化したツールの導入を検討してみましょう。
業務を効率化する3つのツールの機能や特徴を紹介します。
- オーナーアプリ
- オーナーアプリは、物件のオーナーにアプリをインストールしてもらうことで、管理会社の基幹システムと連動し物件オーナーに対する家賃集金の状況報告や、PM(ソフト面の業務)・BM(ハード面の業務)の費用報告などを自動で行えるシステムです。
- これにより、月次の報告書を紙面で作成する手間や、郵送する手間も省けます。
- バーチャル口座
- バーチャル口座を利用することで、家賃集金をする際に、契約ごとに分かれた専用の銀行口座を作成することができます。
- これにより、部屋ごとに家賃が正しく入金がされているかどうかを自動的に判断できるようになるのです。
- また、家賃が未入金の場合にはアプリを通じて督促することができるモノもあります。
- オンライン内見ツール
- オンライン内見ツールを使うことで、入居希望者などに対して、建物の部屋の中の様子をオンラインで見てもらうことができます。
- これにより、担当者が入居希望者と時間を調整して見学に同行する必要がなくなり、入居希望者も自分のペースで物件を内見することができるようになります。
- 自動物件入力ツール
- これまで自社サイトや広告出稿用サイトなどのシステムに手入力していた不動産の物件情報を、不動産仲介業者向けのシステムなどから入力できるツールです。
- 一度、物件情報を登録しておけば、複数のシステムに一括して登録することができるサービスもあります。
- 誤った情報が不動産情報サイトなどへ出稿されてしまうと、掲載停止にもなりかねません。自動物件入力ツールを使うことで、そのリスクを減らすことができるのです。
- これにより、担当者が入居希望者と時間を調整して見学に同行する必要がなくなり、入居希望者も自分のペースで物件を内見することができるようになります。
まとめ
これまでは紙書類やFAXでのやり取り、対面での内見や契約が当たり前だった不動産業界に、コロナ禍をきっかけとした変化が訪れつつあります。
これを機に、皆さんの不動産会社でもぜひ、検討を導入されてみてはいかがでしょうか。