<16コツ目>残置物は捨てるもの、忘れもの、譲るものの3つに分ける
前回は解約に関連する現場の業務にうち、原状回復を中心に解約の前半部分について考えてみました。
今回は解約に関連する現場業務の後半について考えたいと思います。
残置物
前回のコラムで解約点検について考えましたが、その際、退去した入居者の品物が残されている場合があります。
この取り扱いについては、大きく3つに分けられます。
つまり、捨てるもの、忘れ物、(退去者から貸主に)譲るものの3つとなります。
明確に捨てても良さそうなものは別として、忘れ物なのか譲りたいものなのかが不明な場合は、こちらで判断してしまうとトラブルの元となるため、退去者に確認を実施する事が必要です。
①廃棄
賃貸借契約ではお部屋の退去の際、すべての荷物は搬出しなければならない事になっていると思いますので、捨てるものが残っていた場合は基本的に退去者の費用負担となります。
生ごみ等の臭いを放つものは、処分してもほとんどトラブルはありませんが、それ以外のものは、退去者との明確な合意がなければ、着払いで引っ越し先に送付する事をお勧めします。
②忘れ物
こちらは上記同様、着払いで引っ越し先へ送付する事になるため、特に問題は無いかと思います。
③譲渡
退去者から残置物の譲渡の申し出があっても引き受けない事を原則とすることをお勧めします。有償はもちろん無償譲渡でも同様です。
理由として
・譲り受けた時点から譲り受けたものの管理責任が生じるため、それを次の入居者に標準設備として賃貸して、その入居者の通常使用の中で故障や破損が生じた場合、修復費用は貸主が負う事になるからです。
・譲り受けたものが、次の入居者の募集業務で多くの入居者に受け入れられるものであればいいですが、いくら高価なものでもそれが特殊なものである場合、次の募集の障害となってしまう場合があります。
・譲り受けたものが他の居室に無く、その部屋だけにある場合、部屋の募集業務でミスが生じやすくなり、トラブルの原因となる可能性があります。
以上がその理由となりますが、一つだけお勧めしたい方法があります。
それは、譲り受けた残置物を次の入居者に無償譲渡(プレゼント)してしまう方法です。
これにより、その物品の管理責任を負う必要がなくなり、今後の部屋の募集業務でのミスもなくなります。
ただし、この方法が可能な条件は以下の通りです。
・次の募集業務で多くの入居者に受け入れられるものであること
・部屋と一体化していない(もともと独立している家電製品等や、簡単に分離できる照明器具のような)もの
④不明
難しいのが上記3点の判断がつかないものとなります。
夜逃げされてしまったり、入居者本人が死亡し、関係者に連絡が付かなかったりしたケースです。
この場合は、賃貸管理会社、あるいはオーナー様が、それまで居住していた入居者の所有物(他人物)を勝手に処分出来ない事から、顧問弁護士等にご相談の上、しかるべき手続きを踏む方法が良いと思います。
時間はかかりますが、民事上の損害賠償請求や刑事上の器物損壊罪等に問われる可能性があることを考えると勝手な処分はリスクが高すぎると思います。
鍵
①退去者の鍵の受領
賃貸管理会社は一般に入居者の入れ替えの際、シリンダー交換を行っているため、退去者から受領した鍵は処分する事になりますが、業務上はいったんお預かりする必要があります。
この鍵は退去立ち合い時に受領すれば問題はありませんが、賃貸管理会社によっては立ち合いの無いケースも多いため、受け渡し方法は賃貸管理会社によって、いくつかあるようです。
②シリンダー交換
シリンダー交換も賃貸管理会社によって、そのタイミングや交換する当事者も様々なケースがあるようです。
タイミングと言うのは、退去者の明け渡し後、リフォーム工事業者の出入りや、賃貸仲介会社の内見(案内)や広告用の写真撮りのための出入りが必要となるため、これらの出入りの際の鍵の取り扱いをどうするかによって、各社、シリンダー交換のタイミングが異なると言う事です。
交換する当事者も賃貸管理会社の社員が自ら交換するケースもあれば、鍵屋さんに依頼して交換してもらったり、場合によってはリフォーム工事業者が交換するケースもあります。
いずれにしても、事故が起きては大変なので、信用のできる方に依頼する必要があります。
③仮の鍵
上記②のリフォーム工事業者や賃貸仲介会社の出入りのため、いったん仮の鍵を設置したり、キーボックスを設置してその中に部屋の鍵を入れる賃貸管理会社も多くあります。
仮の方法でそれなりにセキュリティを保ちながら利便性にも対応する方法です。
ところが昨今、空室の悪用(特殊詐欺関連や密輸関連)が増加している事から、各社は対応に苦労しています。
募集の担当部署との連携
退去により空いた部屋はすみやかに募集をして、次の入居者に入ってもらうのが、賃貸住宅の運用上は重要な要素になります。
このため、解約業務を担当する部署は、募集業務を担当する部署との連携が必要になります。
①設備チェック
これは退去者が出たあと、意図的かどうかは別にして、その部屋の設備が退去者が運んで行ってしまっていないかや、その前の居住中にその設備を別の設備に交換していないかを確認するものです。
以前、実際にあったケースでは衣類乾燥機が標準設備になっている部屋で貸主借主が合意の上、利用していないので撤去していたケースがありました。
こういった事は必ず次の募集広告に反映しなければ、トラブルとなりますので、設備のチェックは重要な作業の一つです。
②写真撮影
入退去の際はいくつかの目的で写真を撮るケースがあります。
・退去者との確認
・リフォーム完了確認
・オーナー様への報告
・募集広告
これをそれぞれ別の担当者が撮影していたのでは、業務が非効率になります。
かと言って、退去者との確認のための写真と、募集広告のための写真では内容やアングルが大きく異なります。
これらをいかに効率的に進めるのかは、解約と募集の担当部署の連携次第です。
③内見セッティング
賃貸管理会社にもよりますが、リフォーム工事完了後、内覧の際、案内でより良いイメージを持っていただくため、部屋を内覧用にセッティングするケースがあります。
具体的にはお部屋の設備・仕様についての説明やサービスのチラシを置いたり、スリッパやお手拭きや靴ベラ、お花や芳香剤等を置いたり等、様々です。
ダンボール製の家具を置いて、レイアウトのイメージを作ったり、モデルルームのように本格的なものまであります。
これらの作業を募集の担当部署だけで行うのか、解約の担当部署も協力して行うのかと言う事で連携の度合いが異なってきます。
④無償譲渡
上記の残置物のところでご説明した譲渡物だけでなく、販売促進(お部屋を早く成約する)のため、例えば駅から遠い物件で自転車をプレゼントするようなケースがあります。
こういったケースにおいて、上記と同様に募集と解約の両部署の連携をどうするのかを取り決めます。
⑤先行募集
こちらは違った視点になりますが、退去者の退去前に「空き予定」として、先行募集する場合です。
確実に業務を進めるためには、退去者の明け渡し後、リフォーム工事を実施し、その後に工事完了確認をしてから募集を開始するのが間違いないと思いますが、その分、空室になる期間が長くなってしまいます。
オーナー様は賃貸住宅を所有経営しているので、空室期間の長短が生命線です。
これを1日でも短くする事が賃貸管理会社の使命でもあります。
このため、退去者の退去前に「空き予定」として、先行募集する訳です。
これは賃貸管理会社すべてが実施している訳ではありません。
賃貸管理会社は一般的に多くの原状回復工事を同時に進めている事から、次の入居者の申し込み時期によって、リフォーム工事期間をコントロールする事が可能になります。
これを利用する事で多少リスクはありますが、「空き予定」物件として解約予定の部屋を募集する訳です。
ただ、これには解約と募集の両部署の連携が非常に重要になります。
まとめ
今回は入居者の解約後に生じた残置物の取り扱い、シリンダー交換や鍵の取り扱い、そして募集の担当部署との連携についてご紹介いたしました。
賃貸管理会社は日常的に大小に関わらずリスクを引き受けながら、多くの業務を効率的に流すための工夫を行っています。
すべてを定型化すれば簡単ですが、サービス業としての柔軟性も重要です。
奥の深い仕事でもあり、最新の考え方も業務に取り入れなければなりません。
矛盾に満ちており、ストレスの溜まりやすい業種かもしれませんが、その分、やりがいのある仕事だと思っています。
以上