不動産テックによる不動産管理会社の業務効率化とは
今、多くの業界でIT化による業界革新が進んでおり、不動産業界でも不動産とテクノロジーを掛け合わせた「不動産テック」が進んでいます。不動産仲介業を営む中小企業経営者の高齢化や賃貸管理業務のシステム化の遅れなどが問題となっているなか、IT技術と不動産業務の融合・革新を目指した「管理業務支援」分野は今後の成長性が高い領域です。
本記事では、不動産テックの導入によって不動産管理会社でどのような業務効率化が図れるか、メリットと注意点も解説します。
不動産管理会社で効率化できる業務とは?
不動産管理会社の日常業務のうち、「不動産テック」で効率化できる業務は、以下が挙げられます。
- 入金の照合作業
- 入居者・不動産オーナーへの連絡業務
- 内見業務
入金の照合作業
家賃入金の照合作業は、口座自動振替、口座振込、現金持参、一部入金や預かり金からの振替など、多彩な入金処理を必要とするため、毎月多くの時間と手間がかかります。水道・電気・ガス代などの変動費も物件ごとに請求書を作成し、月次送金とともに処理をする業務もあるのです。
これらの業務を不動産テックでシステム化することで、物件・部屋ごとで異なる契約形態や入居者の契約内容を一元化して運用できます。 家賃や契約金の入金確認・引当・未入金の一覧作成など、多くの作業の効率化を図れるのです。
これまでは、毎日通帳の記帳をしてExcelの一覧に転記し、契約者と振込人名義が異なる場合や同一名義の場合には、都度電話などで確認作業をしてきました。 しかし、不動産テックの導入で、何月分の家賃の引き当てに該当するのか、何月度分からどのくらい滞納しているのかなどがすぐに確認できるようになります。また、督促状などの印刷も可能になるため、担当者は督促業務や他の業務に時間をかけることができます。
月次報告書や年間収支報告書もワンクリックで作成できるため、不動産オーナーとの関係性の強化や毎月の資料作成時間の短縮、その作業のための人件費削減にも繋がるのです。
入居者・不動産オーナーへの連絡業務
入居者やオーナーへの連絡は、担当者の仕事のなかで多くの時間を割かれる業務です。この業務で問題となるのが以下の2つです。
- 更新契約の管理と処理
- 設備点検の通知や修繕・クレーム対応の進捗管理
【更新契約の管理と処理】
これまで多くの管理会社は、更新予定の入居者管理をExcelで行い、入居者からの更新案内書・更新契約書・精算書などをそれぞれWordやExcelで作成していました。そのため、データの漏れや記載間違いが多く、入居者からのクレームに繋がっていました。 これらをシステム化することで、以下の作業を漏れなくスピーディーにおこなうことができます。
- 更新予定者一覧の作成
- 更新通知書の作成
- 更新契約書の作成
- 更新清算書の作成
【設備点検の通知や修繕・クレーム対応の進捗管理】
消防設備点検や修繕工事を行う場合、入居者へ在宅日時をヒアリングしなければならない場合があります。入居者と確認が取れた履歴や工事の発注の有無が一元管理されていないと、担当者の不在時には状況がつかめず、事務所に残されたスタッフは確認作業に追われます。 また、入居者からのクレームは時系列で対応履歴を残しておかないと、問題が大きくなってしまいます。
これらをシステム化し、以下の内容を物件・部屋ごとに保管することで、入居者やオーナーからの急な問い合わせにも即座に対応できるのです。
- 点検履歴
- 修繕履歴
- 対応履歴
- 対応前後の現場写真
- 見積書
- 工事進捗
内見業務
鍵の所在やキーボックスの解除番号、どの仲介会社や工事業者にいつまで鍵を貸しているかなどの情報を、それぞれExcelシートでアナログに管理していることが多くあります。
これらの情報をシステム化し、物件・部屋情報と紐付け一元管理することで、不動産仲介会社や工事業者から問い合わせがあった際に、誰でも即座に調べることが可能です。定期的におこなう必要のある鍵の所在や本数の確認作業に要する時間を大幅に短縮できるのです。
また、不動産管理会社には、毎日数十件から多い時で100件以上も仲介会社からの「物件確認」の電話が入ります。そのたびに、都度業務を中断して応対をするため、通常業務がなかなか進まないという声をよく耳にします。
しかし、最近は物件確認の電話に自動応答するサービスが続々と登場しています。このようなサービスを導入することで、物件確認による電話対応が大幅に減るため、スタッフは本来の業務に集中できるようになるのです。
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不動産テックで業務を効率化させるメリット
日々の業務を「不動産テック」で効率化させるメリットには、以下が挙げられます。
- 情報の属人化が防げる
- 物件・資産情報を見える化できる
- 蓄積されたデータによるオーナーへの提案機会の創出
情報の属人化が防げる
不動産管理会社の多くは中小企業規模での経営が多く、少人数で運営しているため、情報が属人化するケースが多くあります。
個々の物件担当者が膨大な情報を抱えて日々の業務をこなすため、担当者の不在時に問い合わせがあった場合、残されたスタッフは担当者に連絡をとり、内容を確認せざるを得なくなります。 退職者が出た際には、「入居者との複雑なクレーム対応」「物件ごとにあるイレギュラーな経理上の処理」「物件の修理や工事の細かな情報」などを記録していないと、引き継ぎに苦労します。
しかし、不動産テックを導入してシステム化することで、時系列で入力された履歴などの情報を、社内で共有できるように。そのため、担当者が不在でも他のスタッフが対応できます。また、退職者が出た際も、個人の記憶に頼ることなく、スムーズで確実な引き継ぎをおこなえるのです。
物件・資産情報を見える化できる
物件や資産情報を「見える化」することは、社内での情報共有、営業戦略を練るための会議、不動産オーナーへの提案などをしていく上で便利なデータベースとなります。
これまでのExcelなどによる管理では、店舗・部署間での物件在庫状況や契約・退去情報の共有がタイムリーに把握できませんでした。しかし、システム化して情報を一元化することで、日々の予実管理や報告業務も容易になります。
また、システムによっては「タスク管理」「アラート機能」もあるため、担当部署のマネージャーは「業務の見える化」によって部署内のヒューマンエラーを防ぐことも可能です。
蓄積されたデータによるオーナーへの提案機会の創出
仲介部門のシステムと連携させることで、指定した期間の反響数の経過や、エリア別・路線別・価格帯別などの条件での反響数を抽出できるようになります。このデータを仲介部門だけでなく、管理部門も利用することで、数字に基づいたより高度な工事提案が可能となるのです。
これまでは不動産オーナーに対して、ベテラン社員が経験や感覚に基づいて工事や仲介の提案をしてきました。この蓄積されたデータを利用すれば、経験の浅い社員でも「数字に基づいた根拠のある提案」ができるようになります。
業務効率化に踏み切る際の注意点
「不動産テック」による業務効率化にはメリットが多いですが、導入に踏み切る際には以下への注意が必要です。
- 導入に費用と工数がかかる
- 入居者・オーナーの理解が得られないことがある
- さまざまなシステム・ソフトを連携させる必要がある
導入に費用と工数がかかる
社内でシステム化を希望する声が高くなって「導入」することになっても、不動産テックの導入にはある程度の費用と工数がかかります。導入費用は、初期費用で数万円~数十万円、加えて月額費用で数万円程かかるのが相場です。
また、導入する際には「システム利用のための社内研修」「現在のデータをシステムに入力」する作業が発生します。そのため、業界の繁忙期といわれる春先の時期を避ける、システムに慣れるまでは今までのやり方との並行稼働業務をおこなうなど、時間の確保や人数の動員が必要です。
入居者・オーナーの理解が得られないことがある
現在、スマートフォンの普及率は非常に高いです。しかし、業務効率化のため入居者や不動産オーナーとのやり取りに「入居者アプリ」を導入しても、入居者や不動産オーナーに賛同されないことがあるでしょう。 理由は、スマートフォンを持っていない、持っていてもアプリは利用しない、または利用したくない、操作の仕方がわからないので電話連絡かメールを希望する入居者や不動産オーナーが一定数いるからです。
最近は、実在する銀行の仮想支店を作ることで、ユーザーごとに個別の口座番号を割り当てるサービスである「バーチャル口座」を利用する会社も増えてきています。バーチャル講座は、管理会社が入金の消込作業をすることがなく、振込者を特定できる事業者側のメリットがあります。
しかし、入居者に割り当てる口座の支店名が変わった名前のため、入居者が不信感を抱き、問い合わせや苦情を言ってくるデメリットもあります。
さまざまなシステム・ソフトを連携させる必要がある
これらのシステムは単体で利用するのではなく、さまざまなシステムやソフトと連携してはじめて真の効果を発揮します。 現在連携可能なものとしては、ネットバンキングや会計ソフト、仲介業務に直結した「ポータルサイトへの物件掲載」「業者間物件流通サービス」「仲介業務システム」などがあります。今後は「WEB入居申込サービス」「家賃保証会社」と連携させる動きも出てきています。
導入すると業務効率は大幅にアップしますが、これらのシステム・ソフトと連携させるには資金だけでなく、手間や時間も多くかかります。
まとめ
これまでの不動産業界は、従来の商慣習等による影響で長年デジタル化や業務の効率化に苦戦してきました。
今後、「不動産テック」によってオーナーとの情報共有化や業務の効率化が進んでいくことにより、情報がオープンで業務効率のよい、オーナー・管理会社双方に利益をもたらす仕組みが構築されていくこととなるでしょう。