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【リーダーインタビュー】長田修様|管理業の使命は「入居者ファースト」を追求すること

不動産業界はどう変わり、どこへ進んでいくのか?高い視座から業界全体を見渡し、明確なビジョンで業界を牽引しているリーダーに今後の不動産業界が進むべき道を示してもらう企画「リーダーインタビュー」。

今回は京都、滋賀、大阪など関西エリアを中心に、2万5,000戸を超える管理物件を有する「株式会社 長栄」。近年では東海地方や東京にも進出を果たし、ますます右肩上がりの勢いを見せています。社長の長田修様は、この道40年という管理業界の第一人者。独自の管理システムや入居者サービスなどについて、GMO ReTech株式会社 代表取締役の鈴木がお話を伺いました。

目次

    年商120万円、ひとりで始めた管理業が7,000倍に。

    Q.会社を設立された経緯をお教えください。

    私は高校卒業後、松下電器に(現在のPanasonic)8年間勤めていました。うちは代々農家で土地を所有しており、空いた土地で駐車場運営をしていましたが、たまたまその土地が市街化調整区域に編入されたのです。そこで、どうせ税金を払うなら収益を出したいと思い、マンションを4棟建てました。

    ただ、当時は会社員と二足のわらじで「何年かは税金も減額されるし、駐車場の延長として土地の有効活用をしよう」くらいの気持ちでした。そんな時、ある会社の営業部長から「本格的に不動産をやってみないか」と言われ、30歳の時に起業しました。

     

    Q.マンションのオーナーから管理業になられたのですね。

    そうです。最初の3年間はひとりでやっていまして、1988年に「株式会社長栄」(以下、長栄)を設立しました。ある方から「物件を買ってくれないか」と言われ、それがターニングポイントになったのです。

    当時は近隣の住民に迷惑をかけるような入居者さんも多かった時代で、正直なところ管理面でお手上げだったようです。私は「それなら私がやりましょう」と思う性格なので、そこから本格的に自社物件の管理が始まりました。

    ちなみに、初年度の年商は120万円。今はグループ年商89億円ですから、約7,000倍になったわけですね。社員には「私は40年で7,000倍にしたから、次の40年でせめて1,000倍にしてくれ」と言って発破をかけています(笑)。

    管理センター「Bellevie」は、お客様ファーストを具現化したサービス。

    Q.御社独自の管理サービス「Bellevie」の内容をお教えください。

    京都の宇治市にあるベルヴィ宇治の外観▲京都の宇治市にある「ベルヴィ宇治

    「Bellevie(ベルヴィ)」は、長栄の管理物件にご入居されている方へ向けた、暮らしに関するコンシェルジュサービスです。

    市内18か所の管理センターに約160名のコンシェルジュが常駐し、何かあった時には夜中の2時や3時でも30分以内に駆け付けます。もちろん無料です。入居者からは「こんな時間に来てもらえた」と感謝してもらえますし、管理会社との信頼関係が生まれることで、家賃の滞納も起こらなくなります。

    そのほかに、修繕や引っ越し関係のお世話から、赤ちゃんが生まれた方へプレゼントなど、経費など度外視でサービスをしており、入居者様にはとても喜ばれています。

    Q.「Bellevie」を立ち上げたのは、どのような経緯からでしょうか。

    これは弊社の理念である「入居者ファースト」に基づいています。私たちは入居率120%をめざしており、「20%の待機者が出るようなサービスをしよう」と心がけています。

    一般的には家賃やエリアなどを基準にお部屋探しをされると思いますが、管理会社がどこであるかを入居の選択肢にしていただき、「長栄の物件に住みたい」と選んでいただけるような、サービスを提供していきたいと思っております。そのためには、どんなに経費がかかろうとも、管理センターもスタッフも削減できません。

    花火大会や宝くじ、ユニークな入居者向けイベントを開催。

    Q.「Bellevie」で実施している入居者イベントがあるとお聞きしました。

    弊社管理物件の入居者様は、「ベルヴィクラブ」にご入会いただいており、定期的に交流イベントを開催しています。

    入居者の方へ交流イベントとして、毎年行っているのが琵琶湖の花火大会。これは2,000名ほどご招待しています。また、太秦映画村や京都市水族館を貸し切り、それぞれ6,000名様をお招きしたり、京都の有名店で100名のお食事会など、かなり大規模にやっています。

    これらのイベントはもちろん参加無料です。いつも家賃を払っていただいている入居者様に、せめてもの感謝をこめて弊社からのプレゼントとして企画しています。

    Q.そのほかにも、長栄ならではのサービスはありますか?

    家電のレンタルやトランクルームなど、住まいに関する内容は幅広くご相談いただけます。また、6年以上住み続けていただいた入居者様には優良入居者証を進呈いたします。ですが、やはり一番のサービスは本来の業務である管理の徹底です。

    起業した30歳のころは2日に1回巡回していました。建物を外から見るだけでも細かい変化に気づくものです。お子さんが生まれた家は水道のメーター量が上がりますし、住人が無断で入れ替わっていることだってわかります。昔はたまにあったんですよ、契約だけ別人が行うケースが…。もちろん契約違反ですし、他の入居者様にも迷惑なので、徹底的にチェックしています。

    入居者ファーストで「回収率99.9%」、オーナーの利益に直結。

    Q.家賃の回収率99.9%、その理由はずばり何でしょう?

    やはり先ほども申し上げた「入居者ファースト」に尽きますね。日本は持ち家志向が強いですが、実際には大半が賃貸にお住まいです。弊社はそんな方々に「暮らしが楽しい」「家賃を払う価値がある」と思っていただけるサービスの提供に注力しており、回収率99.9%は満足度の証だと考えます。

    ごく稀に入金が滞る方もおられますが、忘れている方がほとんどですので、迅速に通知を行い回収します。これを地道にやるのが管理の仕事で、オーナー様は「放っておいても家賃は入る」と思われています。つまり、入居者ファーストはオーナー様の利益にも直結しているわけです。

    Q.自主管理との大きな違いはどのあたりでしょうか。

    我々は管理のプロフェッショナルであり、いかに収益をあげるかのノウハウを持っています。最も大きな違いとして数字に出ているのは入居率です。自主管理ですと、空室が出たり居住年数が短いケースが目立ちます。これは収益性を下げる大きな要因ですから、管理料を支払っても満室にした方が結果的にお得です。

    管理の仕事は理解されにくい業種ではありますが、弊社のお客様の中には「もっと管理費を上げていいよ」と言ってくださる方もおられます。逆に値下げ交渉には応じません。正当な価格で徹底したサービスを提供することが、結果的にお互いの利益になると確信しているからです。

    Q.社員に対して、徹底して教育していることはありますか?

    管理は不動産業務全体からすると片手間と思われていた時代がありましたが、弊社は稼働率や収益を上げてきた実績があります。ですから、社員には「決して安売りするな、信念とプライドを持て」と言っています。サービスにはそれに見合った手間賃が発生します。その価値を認めてくださるオーナー様と、長い信頼関係を築くことが大切です。

    ただし、オーナー様の利益のために入居者様に不便を強いるのは本末転倒ですよね。入居者様に喜んでいただけるサービスを、オーナー様のメリットにつなげるのが我々の仕事。そのためには「知恵を出す」ことが大事で、諦めずに頑張った人には道が開けます。これはくり返し社員に伝えている私の矜持(きょうじ)です。

     

    Q.海外研修なども行っていますよね。

    これまでに、100名ほどアメリカへ研修のため見送っています。アメリカでは家賃の回収という概念がなく、滞納すれば即退居、あとはセーフティーネットが面倒を見るスタイルです。日本は借地借家法があって、弱者救済がベースとなるため同様には考えられませんが、うちも留学生や外国の方が1,200~1,300名入居されているので、参考になる部分も多いんです。

    また、住民同士のコミュニケーションで入居率を上げる方法も、弊社の手法に通じるものがあります。アメリカではバーベキューパーティーが多いですね。近隣の交流により治安も向上しますし、何より日々の生活に楽しみが生まれます。

     

    Q.新型コロナの影響はどれくらいありましたか?

    昨年はやや落ち込みましたが、今年は持ち直しています。衣・食・住の中でも、住居は最も切り詰めにくいということもあり、都市周辺部のファミリータイプは98%ほどの入居率です。ただし、弊社は宿泊施設も運営しておりまして、そちらはクローズするよう指示しました。それから、ワンルームに関しては留学生の方が250名ほど国外で待機されていることもあり、大学と提携している物件は一時的に入居率が落ちています。

    新型コロナに関しては不測の事態ですので、仕方ない面もあります。逆に、社員には「こういうことも起こるのだ」という貴重な経験になったのではないでしょうか。もともと、何かあっても数年は経営を維持できる準備をしていましたし「また稼げばいい」と、どちらかというと楽観的に考えています。

    社員に「米9トン」を毎年配布。

    Q.長栄様は、社員に対する福利厚生にも力を入れておられるそうですね。

    福利厚生はいろいろやっていますが、長栄独自というとお米の配布でしょうか。2カ月に1回、お米を配っています。夫婦で10キロ、子ども一人につき5キロ。年間で9トンのお米を社員に配布しています。私の実家が農家だということもあるのですが、オーナー様には農家の方も多いので、そこから大量に買い付けます。こういう現物支給は、特に奥さま方に大変喜ばれています。

    私の考えとして、社員には楽しく働いてほしいという願いがあります。よく「会社のために頑張る」という方がいますが、私は社員には「自分のために働け」と言います。家族を守って幸福を得る、その手段としてあるのが仕事なのです。

     

    Q.昨年度は東京へ進出。全国へのエリア拡大は計画されていますか?

    ▲東京における初店舗である「ベルヴィ六本木」が入るビル

    東京への進出は、全国展開への足掛かりというよりも、東京のお客様が「京都で住居を探しているので、こちらへ支店を出して」というリクエストでスタートしました。担当者がやる気になっていたので、「3年間は赤字でも構わないので、精いっぱい頑張れと」言って送り出しました。

    エリアにはこだわりがなく、人の集まる都心部なら管理業は成り立つと考えています。特にこれからの時代は管理の需要が高まると予測しています。不動産は多少の波はあっても、値段が上がり続けています。それを活用して最大の収益を上げるためには、プロの管理が不可欠という認識が、きっと近いうちに一般化します。

    私は「人間トイレットペーパー」、社員の責任はすべて取ります。

    Q.長田様の人生哲学があれば、ぜひ教えていただきたいです。

    高校の頃は海外移住が夢で「日本は俺には狭すぎる!」と思っていました(笑)。しかしうちは農家で世襲制ですから、長男として「25歳で結婚、30歳で起業……」と、人生設計をきっちり行い、その通りに生きてきました。人間の一生なんてあっという間です。無計画に生きていたら何もしないうちに終わってしまう。だから計画性と実行力は大事です。

    ちなみに私の人生計画では、70歳まで生きれば十分と思っていましたので、もう余生です(現在72歳)。家族には資産ではなく、「徳」を残していきます。私が生きてきて人様に感謝された「行い」を、次の世代に引き継いでもらえたら幸せです。

     

    Q.社員の方とも、積極的にお話をされるそうですね。

    私は社員に何か問題があったとき「飯食いに行こう!」と誘います。お腹いっぱいになったら、本音で話しやすいですよね。基本的には、私は社員には「好きにやってみろと」言います。とことん考えて、必死に頑張って、それでもダメなら私の出番です。

    私は「人間トイレットペーパー」(笑)ですから、社員の尻拭いが仕事です。40年この仕事をやってきて、難儀な物件もたくさん経験して、身に着けた経験と知識があります。だから「安心してやるだけやってこい」と背中を押すんです。それが私流の社員との関わり方です。

    管理業法改正、プロフェッショナルである我々には大きなチャンス。

    Q.「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」について、意見をお聞かせください。

    私たち専門の管理業者にとっては、非常に喜ばしいことです。従来は看板さえ出せば、全く経験のない人でも管理業が営むことができましたが、2021年6月からは登録が必要になります。昨年は「かぼちゃの馬車事件」があり、不動産業に対する世間の不安が高まりました。しかし法整備されることで違法な業者が淘汰され、業界全体の底揚げにもなると期待しています。

    ただ、願わくば家賃滞納に対して、通知ではなく督促もできるようにして欲しいですね。常に時代に合わせた改正が必要だと考えます。

    Q.やはり管理業では、法律が重要になる場面が多いのでしょうか。

    ほとんどの入居者様はきちんとした方ですが、ごく一部トラブルになる方がおられるのも事実です。そのため、弊社では社内に弁護士を3名備えて、法に基づいた問題解決を実行しています。昔は外部の法律事務所に依頼していましたが、迅速かつスムーズに処理するには社内常駐が理想です。

    たしかに費用はかかります。でも極端な話、10万円の滞納に対し30万円かけて回収しても構わないと私は思っています。契約を交わした以上は守られるべきですし、放置すれば他の入居者様に申し訳が立ちません。長年築いてきた信用を守るためにも、法律の遵守は我々にとって不可欠です。

    パソコン無料配布、ドローン導入、DXへの歩みは始まっている。

    Q.御社ではどのように不動産テックやDXを導入されていますか。

    弊社では、来年すべてのオーナー様へ無料でパソコンを配布する予定です。弊社専用の回線を用いて約500台。営業や請求書をこれでやり取りすることで、業務フローの簡略化を目指す計画です。

    また、アイデア段階ですが、ドローンの導入も考えています。荷物の置き配が一般化して、ドローンで配達する日も遠くないと思います。さらには電気自動車が普及すれば、駐車場のシステムも対応が必要になるでしょう。そういう未来に対して、どう管理をアップデートしていくかが差別化につながります。明日に向かって研鑽努力(けんさんどりょく)、便利と快適を提供するのが私たちの使命です。

    まとめ

    豪放磊落なお人柄で、社員やオーナー様からも慕われる長田社長。社の掲げる「入居者ファースト」や管理システム「Bellevie」は、新時代の管理スタイルとして業界でも注目されています。

    DX化の進む未来においても、「株式会社長栄」ならではのアイデアが生まれることを期待しています。

    長栄様

    インタビュアー:GMO ReTech株式会社 代表取締役社長 鈴木明人(写真左)

    本記事取材のインタビュイー様

    長田 修 氏
    京都府伏見区出身。高校卒業後、松下電器(株)に8年間勤務。3年間の不動産・建築会社営業を経て1980年不動産管理業を起業。1988年「株式会社長栄」を設立、代表取締役就任。「日本賃貸住宅管理協会」支部長および協会理事、「全国賃貸住宅経営協会連合会」理事などを歴任。現在は「日本賃貸住宅管理協会」副会長。KBS京都ラジオにて「熱血!賃貸塾ちょうえぇやん」の塾長としてDJも務める。2020年国土交通大臣より第 32回住生活月間功労者表彰を受賞。

     

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